大判例

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東京高等裁判所 昭和58年(う)1093号 判決

以下被告人のアリバイの主張について付言する。所論は,原判示第三の二の昭和57年3月22日から24日までの間は,被告人において金策のため群馬県伊勢崎市に赴いていたのであるから,その間原判示サウナ「フインランド」から被害者方に架電することは事実上不可能であって,被告人は以上の各罪につき無罪であるというのである。

しかしながら,確かに所論に添う当審証人石崎恵子の証言,被告人の当審公判廷における供述並びに借用証2通(当裁判所昭和58年押第347号の7,8)は存在するが,当審における事実取調の結果の全部,特に当審証人加藤弘美の証言,東京拘置所長作成の昭和58年11月29日付捜査関係事項照会に対する回答書(殊に発信者かとうひろみの同年9月28日欄,受信者加藤弘美の同月29日欄,10月19日欄,発信者深道辰雄の10月20日欄,発信者石崎恵子の同月同日欄等参照),押収してある小説「街道をゆく」8巻1冊(前同号の11)などを総合すると,被告人において同年9月下旬頃東京拘置所内で貸主石崎宛の借用証書2通を作成し,これをいわゆる宅下げ予定の図書(前同号の11)の表紙内側部分に巧みに忍ばせ,加藤弘美方に宅下げし,同女をして石崎恵子のもとに届けさせ,さらに右加藤に対し「(石崎)恵子宛に電話して下さい。借用証見つかったと云う手紙俺の方と弁護士の方に至急くれる様に。借用証はあく迄探していて見つかったものです(送ったと云う事ではありません。念の為)」という趣旨の手紙を10月19日付で発信するなど,巧妙な証拠の隠滅工作,偽証工作を行っていることが認められるのであり,また,被告人は当審公判廷において,(昭和57年)3月24日の晩伊勢崎市から帰京し,夜新宿で同行の友人と別れ,川崎市に戻り原判示のサウナ「フインランド」に行った旨供述しているが,安藤博人の検察官に対する供述調書(原審記録第3冊399丁以下)によれば,その同じ日(但し時刻は不明)被告人において2,3人の男を伴って川崎市内の百貨店に立ち入り,陳列してある腕時計を物色しているところを店員に目撃されていることが認められ,これらの事実に,原判決が説示しているような本件金員の費消状況,被告人が石崎靖二及び海老沢一也の両名から借用して来たという合計金250万円についてはその使用状況が全く不分明であることなどの諸事情,さらには他の関係人の各供述をも合わせ考えると,前掲石崎証人及び被告人の各供述はたやすく信用することができず,前掲借用証2通の存在も何ら被告人のアリバイを証明するに足るものではないといわなければならない。

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