大判例

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東京高等裁判所 昭和58年(う)1612号 判決

1 所論は,原判決が,法令の適用の項で,「判示第4の1の商業帳簿不正記載の所為と破産財産隠匿の所為は,1個の行為で数個の罪名に触れる場合であるので,刑法54条1項前段,10条により一罪として犯情の重い破産財産隠匿の罪の刑で処断。」としている点について,仮装経理処理と準備書面提出行為とは2個の行為であるから,牽連犯に該ることはあつても,観念的競合に該るということはありえず,右は法令の適用を誤つたものであるというのである。

しかしながら,原判決は,「仮装の帳簿処理により,日本コーポ(株)の経理上本件南日吉土地が破産財団に属さないような状況を作出した上,訴訟代理人弁護士に右経理処理に沿う同土地の帰属を詳述し,同弁護士らをして事実に反する準備書面を提出させた一行為を,本件土地の権利関係を不明にし,破産債権者からの追求を困難ならしめ,債権者全体に絶対的不利益を及ぼすところの一連の行為として捉えて,破産法374条1号所定の破産財団に属する財産を隠匿する罪にあたるとし,このうち仮装経理処理の部分は同条3号の商業帳簿不正記載の罪にも該るとしているのであつて,仮装経理処理が同条3号に該り,準備書面提出行為のみが同条1号に該るとしているわけではないことは,原判決の判文自体からして明らかであるから,所論は原判決を曲解ないし誤解してなされたものというべく,採用のかぎりではない。

……中略……

2 所論は,本件各所為(注・虚偽の賃借権設定請求権仮登記,同抵当権設定請求権仮登記をなした行為。)によつてはいまだ破産財団の負担を虚偽に増加するという結果が生じていないから,本件所為は破産法374条2号の罪の予備にとどまるというべく,これを同条同号に問擬したうえ公正証書原本不実記載との観念的競合とした原判決には,法令適用の誤りがあるというのである。しかしながら,本件所為が同条同号の「破産財団の負担を虚偽に増加する」という構成要件に該当することは明らかであつて,いまだその予備段階にとどまつているとする所論は,同条の罪がいわゆる危険犯であることを看過しているものといわなければならない。

なお,弁護人らは,破産財団の負担を虚偽に増加させたというためには,その数額内容を明らかにし,予備行為との因果関係を明らかにすべきであるとも主張している。右主張は,その趣旨必ずしも明瞭ではないけれども,同条2号の罪については,いわゆる実害の発生を要するとし,実行行為と実害との因果関係と実害の具体的内容を明らかにすべきであると主張するにあると解せられる。しかしながら,右主張もまた同条2号違反の罪が危険犯であつて実害犯ではないことを看過しているといわざるをえないのであり,採用のかぎりではない。

弁護人のその余の主張につき按ずるまでもなく,原判決のこの点に関する法令の適用には何らの誤りもないことは明らかである。論旨は理由がない。……中略……

3 所論は,訴提起(注・破産財団に帰属する不動産に対する売買に因る所有権移転登記手続請求訴訟)は単に権利関係を主張した書面を裁判所に提出する行為にすぎないのであつて,これによつて権利変動が生ずるわけではないから,本件所為は破産法374条1号の「隠匿」にはあたらないし,そもそもこのような訴提起をもつて犯罪とすることは,国民に与えられた裁判を受ける権利を侵害するものであるから,原判決には法令適用の誤りがあるというのである。

しかしながら,被告人が,インターナシヨナル・ビルデイング(株)が高輪土地について権利を有しないことを知りながら,同会社の利益を図る目的をもつて,(株)福入にこれを売却し,あたかも同会社に真実の権利が存するかの如き外観を作出した上,同会社をして所有権移転登記手続請求等の訴訟を提起させたことは,訴提起に藉口して破産者日本建物(株)帰属の本件土地に対する権利を積極的に争い,真実の権利関係の発見を困難ならしめるもので,破産債権者全体に絶対的不利益を及ぼす隠匿行為にあたることは明らかであつて,所論の権利変動云々の主張も,やはり同条1号違反の罪が危険犯であつて実害犯ではないことを看過し,ないしはことさら無視するものといわなければならない。また,原判決は正当な訴提起,訴訟活動を同条同号の構成要件にあたるとしているわけではないのであるから,憲法の保障する国民の裁判を受ける権利がこれによつて害されることとなるべき筋合いは全くない。

なお,弁護人らは,訴を取下げているのであるから中止未遂であるというのであるが,前記のとおり,本件は,被告人がインターナシヨナル・ビルディング(株)に何らの権利がないのに破産財団帰属の財産を(株)福入に売却した上,同会社をして訴を提起せしめた行為をもつて破産財団財産の隠匿行為が成立するのであつて,訴の取下は事後行為であり,右犯罪の成否には関係ないのであり,右主張も採用できない。

弁護人らのその余の主張につき按ずるまでもなく,原判決のこの点に関する法令の適用に誤りのないことは明らかであり,論旨は理由がない。

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