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東京高等裁判所 昭和58年(う)382号 判決 1983年6月06日

主文

本件控訴を棄却する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人関内壮一郎名義の控訴趣意書記載のとおりであるから、これを引用する。

所論は、要するに、原判決の量刑は、刑の執行を猶予しなかった点で、重過ぎて不当である、というのである。

そこで、調査すると、本件は、被告人が第一アルコールの影響(呼気一リットルにつき〇・六八ミリグラム)により正常な運転ができないおそれのある状態にあるのに、敢えて普通乗用自動車を運転した業務上の過失によりその運転を継続中、まず的確なブレーキ操作ができず、信号停止中のタクシーに自車を追突させ、その運転者及び乗客一名に、次にその約五分後的確なハンドル操作ができず、通行人に自車を衝突させ、同人にそれぞれ約七日間から約三週間までの治療を要する原判示各傷害を負わせ、第二右酒酔い状態で右自動車を運転し、第三右第一の最初の人身事故の後逃走し、所定の救護等の措置及び事故報告をしなかったという酩酊運転、轢き逃げを伴った悪質な事案であること、本件の運転は、友人宅二軒で連続して飲酒した後の高度の酩酊状態においてした極めて危険なものであるばかりでなく、最初の事故直後赤信号の交差点に侵入して逃走し、その逃走中に次の事故を起すなど甚だ無謀であったこと、右酒酔い運転の距離が約一・八キロメートルに及び長いこと、本件運転の動機に斟酌すべき事情がないことに徴すれば、交通秩序を軽視する態度の顕著な被告人の刑事責任は重いといわなければならない。そうすると、被告人が犯行時に少年であったこと、本件各傷害の程度が軽いこと、各被害者との間に保険金の範囲内で示談が成立していること、被告人には交通反則歴はあるものの前科がないこと、被告人の家庭には同情すべき事情があり、被告人がその支柱の立場にいること、被告人が反省していることその他所論の指摘する諸事情を十分考慮しても、本件が刑の執行猶予を相当とする案件であるとは認め難く、被告人を懲役五月以上八月以下の実刑に処した原判決の量刑が重過ぎて不当であるとはいえないから、論旨は理由がない(なお、所論は、原判決が原審における訴訟費用を被告人に負担させたのは、被告人の貧しい経済状態を看過するもので、不当である、というけれども、本件は、前叙のとおり本案に対する上訴は理由がない場合(刑訴法一八五条後段及び最髙裁昭和三一年一二月一三日第一小法廷判決、刑集一〇巻一二号一六三三頁参照)であるのみならず、被告人は、もし貧困のため訴訟費用を納付することができないときは、刑訴法五〇〇条によりその執行の免除の申立をすることができるのであり、同法一八一条一項但書は、被告人が貧困であることが明らかであるときは、手続を簡略化するため、同項本文で裁判所の義務とされている訴訟費用負担の裁判をしないでおくことができる旨を規定したに過ぎないから、原判決が同項但書を適用しなかったからといって、それが不当であるとはいえないと解すべきである。)。

よって、刑訴法三九六条により本件控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 海老原震一 裁判官 杉山英巳 新田誠志)

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