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東京高等裁判所 昭和58年(う)407号 判決 1983年6月27日

裁判所書記官

斉藤茂雄

本店所在地

東京都荒川区西日暮里二丁目一二番三号

東洋総業株式会社

右代表者代表取締役

柴崎芳男

右の者に対する法人税法違反被告事件について、昭和五八年一月二六日東京地方裁判所が言い渡した判決に対し、弁護人から控訴の申立てがあったので、当裁判所は、検察官小林幹男出席のうえ審理をし、次のとおり判決する。

主文

本件控訴を棄却する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人高瀬研治名義の控訴趣意書に、これに対する答弁は、検察官小林幹男名義の答弁書にそれぞれ記載されているとおりであるから、これらを引用するが、所論は、要するに、被告会社を罰金一二〇〇万円に処した原判決の量刑が重過ぎて不当である、というのである。

そこで、記録を調査して検討するに、本件は、被告会社における二事業年度の逋脱に関する事案であるところに、その実際所得の合計額が一億一八七一万〇七七一円もあったのに、昭和五三年九月から翌五四年八月までの事業年度分につき、所得金額と納付すべき法人税額が全くない旨を、また、同年九月から翌五五年八月までの事業年度分につき、所得金額が七三万四八八八円で、これに対する法人税額が二〇万五五〇〇円である旨を記載した内容虚偽の各確定申告書を提出し、その結果、法人税額合計四五五九万八一〇〇円を不正に免れたというものであって、その逋税率が九九・五五パーセントと極めて高いこと、「厳撰日本要人録」と題する興信録の編集、印刷、発行等の事業を営んでいる被告会社において、売上げが順調に伸び、多額の営業利益を計上し得るようになるや、もともと納税意識の希薄な被告会社の代表者柴崎芳男が、関連会社の設立資金等を得るため、経理担当者らに命じ、長期間に亘り、興信録の企画編集収入、掲載料収入等の売上計上を除外させたばかりでなく、決算期にも交際費や福利更生費などの架空経費を計上させる一方、その発覚を防止すべく、売上除外額に見合う損金をも除外させ、更に興信録の販売を担当していた関連子会社五社にも売上計上を除外させるなどして、右各会社と被告会社間の取引が実際よりも少ないように見せ掛けたものであって、その犯行態様が極めて巧妙、悪質であるうえ、計画的な犯行であること、被告会社は、本件発覚後、本件を含めた三事業年度分の法人税につき、修正申告をしたものの、約三〇〇万円の法人税を納付したのみで、そのほとんどが納付されていないことに徴すると、被告会社の刑事責任は重いといわなければならない。したがって、被告会社において、公認会計士の指導を受けながら、帳簿組織を確立し、経理の改善を図るとともに、未納税額を早期に納付すべく、それなりに努力していること、国税当局が本件法人税の滞納処分として、被告会社の株式会社東洋財商に対する約一億円相当の貸金債権を差押えているので、同会社の資力に応じてある程度本件法人税を徴収できる可能性があること、その他所論指摘の事情を十分斟酌しても、原判決の量刑(逋脱額の約二六パーセントにあたる罰金)が重過ぎて不当であるとは認められない。論旨は理由がない。

よって刑訴法三九六条により本件控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 海老原震一 裁判官 和田保 裁判官 新田誠志)

○控訴趣意書

法人税法違反 被告人 東洋総業株式会社

(右代表者代表取締役 柴崎芳男)

右の者に対する頭書被告事件についての控訴の趣意は左記のとおりである。

昭和五八年四月一五日

右弁護人

弁護士 高瀬研治

東京高等裁判所

第一刑事部 御中

本件脱税事件については被告会社にとって量刑上更に酌量されるべき左記事由がある。

本件脱税事件は被告会社代表者柴崎芳男(原審被告人)が被告会社及び、その傘下にある子会社四社他を利用し被告会社及び右子会社の売上除外等の方法により所得額を過少に計算し脱税したものとされており、証拠上右事実は認められるのであるが、被告会社及び右子会社、並びに右柴崎及び子会社の代表者との間に以下述べるごとき事情が存在する。

右柴崎は昭和五三年五月以降被告会社及び子会社を設立し出版業等を営んできたのであるが事業発展には幹部社員が各自経営者的感覚となって事業の発展のために努力しなければならないと考え事業の発展と共に右子会社を逐次設立し幹部社員を右会社の代表者として独立させこれを経営させた。

右のごとき状態で事業全体は順調に発展をとげたが、今回被告会社並びに右柴崎が脱税事件の被疑者として国税局から摘発を受けるや、被告会社と子会社即ち右柴崎と子会社の代表者との間が円滑に行かない状態も発生するようになった。

右柴崎が子会社を設立し幹部社員をその代表者として独立経営に当らせたのは、そうすることによって事業全体を一層発展させる目的であり又その結果業績も向上した。

そして各子会社自体資産を蓄積するようになり営業上の独立性も強くなったが、そのような状態となったところで、今回の国税局の脱税の摘発が行われた。

ところが、本来各子会社設立の目的は、被告会社及び子会社全体の発展と相互扶助にあったのにもかかわらず各子会社の代表者は、被告会社と右子会社が脱税犯として同罪となること及び子会社自身多額の法人税の更正が行われることをおそれ子会社の被告会社からの独立性を強く主張するようになり被告会社即ち右柴崎の指示に従わないようになった。

そして、査察調査の段階から、子会社の行った脱税行為の責任も全て被告会社のものと主張するようになったが、被告会社代表者の柴崎はグループ全体の存続のため右主張を敢て甘受し、被告会社と同人が本件脱税の責任の全てを負うこととした。

右の事実は、被告会社並びに右柴崎が、本件脱税事件の総括的な責任者であるから当然の帰結とも云いうるのであるが、一人被告会社並びに右柴崎が責任を負うことによって被告会社にとって非常な経営上の障害が発生してきたのである。

例えば、被告会社は、本件脱税による利得金を含め約一億五六〇万円を子会社である株式会社東洋財商に貸付けているであるが、本件摘発により被告会社が資金的に非常に窮迫したため右東洋財商の代表者高田祐市に対し右一億五六〇万円の返済を求めたのであるが、同人は右金員の返済を拒否している。

被告会社と右子会社との関係が本来の円滑な関係にあれば、子会社の代表者は、被告会社の指示に直ちに従うのであるが、本件脱税事件により前記のごとき子会社の反発を招き被告会社は、子会社から当然受けるべき貸金の返済も受けられず資金的に窮迫し倒産状態に陥っているのである。

右窮状は被告会社が自から招いたものであるとは云いながら、しかし、本件全体を検討すると、右子会社が行なった売上除外等の脱税行為と、その結果である利得を全て被告会社に帰属するものとして被告会社が自から行なった脱税行為と併わせて子会社の責任をも全て一身に引き受けた事実が認められる。

被告会社としては被告会社を中心とするグループ全体の結束と利益を図るため被告会社のみが全責任を負うこととしたのであるが、しかし本件調査開始後から前記のごとく子会社の独立性の主張と行動が強くなり現在ではグループとしての存在価値も薄くなってしまった。

そこで、被告会社としては法律上の責任は一社で負うことはやむを得ないとしても現在、被告会社と子会社とがグループとしてまとまらず子会社が独立性を主張しているのであるからやはり実質的経済的責任は本件脱税による利益を現実に取得している子会社が負うべきものであり、その分被告会社は責任を免かれるべきであると考える。

そこで、原審判決は情状を酌量し被告会社を罰金一二〇〇万円に処したのであるが、更に前述のごとき実態を考慮して、被告会社に残存する利得の額相当の罰金を課されるよう希望するものである。

本件脱税による利得を現実に把握している右東洋財商については税金の徴収の面で、被告会社の右東洋財商に対する資金返還請求権を国税局が被告会社に対する法人税を請求債権として差押えておりこの点から東洋財商の本件による利得は消滅することとなっている。

又被告会社代表者の柴崎は、被告会社の窮状を打開し、右会社を存続させ、罰金の納付納税を遂行しようと努力を重ね安易に被告会社の経営を放棄する態度は全く見られない。

以上の点を綜合して、被告会社の罰金をなお減軽し、被告会社の再起を可能にし、将来納税の実績を上げさせるのが、法人税法違反の合目的的な妥当な処罰方法であると考えるものである。

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