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東京高等裁判所 昭和58年(ネ)1181号 判決

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は、控訴人らの負担とする。

事実

第一  当事者の求める裁判

一  控訴人ら

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人は、控訴人大室信幸に対し金一三万七五〇〇円、控訴人濱惠二に対し金一六万八六七四円、控訴人大山正敏に対し金二二万二二五四円、控訴人本多和夫に対し金一六万〇〇七三円、控訴人矢野英之に対し金一七万一九四七円及び右各金員に対する昭和五六年六月一一日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

4  仮執行の宣言

二  被控訴人

1  主文同旨

2  仮執行免脱の宣言

第二  当事者の主張

一  請求の原因

1  被控訴人は、科学機器、医科機器、教育機器等の製造、販売、輸出入等を目的とする会社であり、控訴人大室は昭和四六年四月、同濱は昭和四七年四月、同大山は昭和三六年三月、同本多は昭和四六年四月、同矢野は昭和四二年三月いずれも被控訴人に雇用されて勤務を続けていた者であつて、いずれも被控訴人の従業員で組織する訴外ヤマト科学労働組合(以下単に「訴外組合」という。)の組合員である。

2  被控訴人と訴外組合とは、昭和五六年五月二〇日昭和五四年度上期(夏季)一時金(賞与)の支給につき左記の内容の協定(以下「本件労働協約」という。)を締結した。

(1) 一時金の額は、(2)の「算出基礎額」に、2.2か月、(3)の「勤怠率」、(4)の「査定」をそれぞれ乗じた額とする。

(2) 「算出基礎額」は、(6)の「基本給」に(6)の「役付手当」又は「身分手当」を加算したものとする。

(3) 「勤怠率」は、総稼働日数に対する実労働日数の割合を意味する。

(4) 「査定」は、全社員の平均を一〇〇として、七五ないし一二五の間の一一段階で考課する。

(5) 支給日は計算終了後とする。

(6) 「基本給」は、昭和五四年四月から改定された新基本給を基準とし、「役付手当」又は「身分手当」は、同年三月支給の手当を基準とする。

3  控訴人矢野は昭和五四年六月二二日、その余の控訴人らは同月一四日いずれも被控訴人から懲戒解雇されたものであるが、昭和五四年度夏季一時金の支給対象期間は昭和五三年一〇月一日から昭和五四年三月三一日までであり、控訴人らはいずれも右支給対象期間中現実に労務を提供していたものであつて、その間の「勤怠率」は原判決別表の勤怠率欄記載のとおりである。

4  被控訴人における一時金は、労働者がその支給対象期間中に提供した労務に対する賃金としての性格を有するものであり、控訴人らは前項記載のとおり右一時金支給対象期間中に労務の提供を行つているから本件労働協約の定める支給対象者に含まれるものであり、被控訴人は控訴人らに対し、控訴人らが支給対象期間中労務の提供をした割合に応じて一時金を支給すべきであつて、控訴人らに支給されるべき昭和五四年度夏季一時金の額は、本件労働協約に基づき算定された原判決別表記載のとおりである(被控訴人と訴外組合とは、昭和五六年五月二〇日昭和五四年度の昇給について合意をしたので、同年四月時点で被控訴人に在籍していた控訴人らの賃金も当然原判決別表のとおり昇給されたものであり、査定は一律平均値とするべきである)。

5  よつて、控訴人らは、被控訴人に対し、本件労働協約に基づき、控訴の趣旨記載の各一時金及び右各金員に対する計算終了の日の後である昭和五六年六月一一日から支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求の原因に対する被控訴人の認否及び主張<以下、省略>

理由

一被控訴人が科学機器、医科機器、教育機器等の製造、販売輸出入等を目的とする会社であり、控訴人らがその主張の時に被控訴人に雇用されて勤務を続けていた者であつて、被控訴人の従業員で組織する訴外組合の組合員であること、被控訴人と訴外組合との間において昭和五六年五月二〇日昭和五四年度夏季一時金の支給につき、(1)一時金の額は、「算出基礎額」に、2.2か月、「勤怠率」、「査定」をそれぞれ乗じた額とする、(2)「算出基礎額」は、「基本給」に「役付手当」又は「身分手当」を加算したものとする、(3)「勤怠率」は、総稼働日数に対する実労働日数の割合を意味する、(4)「査定」は、全社員の平均を一〇〇として七五ないし一二五の間の一一段階で考課する。(5)支給日は計算終了後とする、(6)「基本給」は、昭和五四年四月から改定された新基本給を基準とし、「役付手当」又は「身分手当」は、同年三月支給の手当を基準とするとの内容の本件労働協約が締結されたこと、控訴人矢野は昭和五四年六月二二日、その余の控訴人らは同月一四日いずれも懲戒解雇されたものであること、昭和五四年度夏季一時金の支給対象期間は昭和五三年一〇月一日から昭和五四年三月三一日までであり、控訴人らは、いずれも右の期間中現実に労務を提供し、その間の勤怠率が原判決別表の勤怠率欄記載のとおりであること、被控訴人と訴外組合とが昭和五六年五月二〇日昭和五四年度の昇給について合意をしたこと、以上の事実はいずれも当事者間に争いがない。

二控訴人らは、本件労働協約に基づき本件労働協約で定められた一時金請求権を有する旨主張するので、この点につき判断する。

1  <証拠>を総合すると、次の事実が認められる。

(一)  被控訴人における一時金の支給に関する就業規則の規定は、給与規定の第二四条に「定期賞与及び臨時給与は、支給の都度、細部を決めて支給する。」との定めがあるだけで、右のほかには一切規定がないが、被控訴人においては、毎年、前年一〇月一日から当年三月末日までを対象期間とする夏季一時金を六月ころに、当年四月一日から九月末日までを対象期間とする冬季(下期)一時金を一二月ころに支給するのを通例としていた。

(二)  被控訴人における一時金の支給は、被控訴人が支給の都度細部を定めて支給してきたが、その従業員をもつて組織する訴外ヤマト科学労働組合(控訴人らは同組合と訴外組合とは同一である旨主張し、被控訴人は右の訴外ヤマト科学労働組合を「従前のヤマト労組」と呼び、同組合から分裂して新たに結成されたのが控訴人ら所属の訴外組合である旨主張するが、その点はさておき、以下、便宜上「旧ヤマト労組」という。)が結成された昭和四九年四月以降は、一時金支給の都度、旧ヤマト労組との協定により細部を定めて従業員に一時金を支給し、訴外組合ほか一の複数組合が存在するようになつた昭和五二年九月ころ以降は、一時金支給の都度各組合との協定により細部を定めて従業員に一時金の支給をしてきた。

(三)  したがつて、被控訴人と右各組合間で協定された各期の一時金の支給に関する細部の定めも一定せず、一時金の算定方法は、旧ヤマト労組と被控訴人間の昭和四九年度夏季一時金に関する協定においては、基本給と役付手当の合算額に逆算月数(組合員平均三〇万円の総原資を、基本給と役付手当の合算額、勤怠率、査定を各乗じたもので除したもの)、勤怠率、査定(平均を一〇〇とし、九〇から一一〇の五段階とする)をそれぞれ乗じたものとされ、昭和五〇年度冬季一時金に関する協定においては、算出基礎額(基本給に役付手当又は身分手当を合算したもの、以下同じ)に一か月、勤怠率、査定(九〇から一一〇までの五段階)をそれぞれ乗じたものとされている。また、訴外組合と被控訴人間の昭和五二年度冬季一時金に関する協定においては算出基礎額に2.5か月、勤怠率、査定(平均を一〇〇とし、七五から一二五までの一一段階とする、以下同じ)をそれぞれ乗じたものとされ、昭和五三年度夏季一時金に関する協定においては算出基礎額に1.8か月、勤怠率、査定をそれぞれ乗じたものとされ、同年度冬季一時金に関する協定においては算出基礎額に2.7か月、勤怠率、査定をそれぞれ乗じたものとされている。そして、訴外組合と被控訴人間においては、本件労働協約の締結と同一機会に、昭和五四年度冬季、昭和五五年度夏季及び冬季の各一時金についての協約もされたが、その算定方法は、昭和五四年度冬季一時金については算出基礎額に3.0か月、勤怠率、査定を乗じたもの、昭和五五年度夏季一時金については算出基礎額に2.1か月、勤怠率、査定を生じたもの、同年度冬季一時金については算出基礎額に3.1か月、勤怠率、査定を乗じたものとされている。

(四)  被控訴人においては、従前一時金の支給対象期間の一部しか勤務しない者に対しては、支給日に在籍しない限り一時金を支給しなかつたが、昭和四九年度夏季一時金から対象期間の中途退職者にも一時金の支給をするようになり、右該当者のある場合には、その旨を所属組合との協定書中に明記するのを通例としていた。

(五)  被控訴人においては、旧ヤマト労組が結成された昭和四九年四月前には、一時金の支給対象期間の全部につき在籍したか一部しか在籍しなかつたかを問わず、支給日以前に懲戒解雇された者には、およそ一時金の支給がされたことはなかつた。そして、旧ヤマト労組結成後被控訴人から懲戒解雇された例は控訴人らを除き三例あるが、そのうちの一例(以下「①例」という。)は、昭和五〇年七月一二日に懲戒解雇された者につき、昭和四九年一〇月一日から昭和五〇年三月三一日までを対象期間とする昭和五〇年度夏季一時金を解雇後の同年七月一五日に支給しており(同年四月一日から同年九月三〇日までを対象期間とする同年度冬季一時金は、対象期間中一部在籍したにもかかわらず、全く支給されていない。)、他の二例においては、昭和五四年六月二二日に懲戒解雇された者につき、昭和五三年一〇月一日から昭和五四年三月三一日までを対象期間とする昭和五四年度夏季一時金は支給されなかつた(同年四月一日から同年九月三〇日までを対象期間とする同年度冬季一時金も、対象期間中一部在籍したにもかかわらず、支給されていない。)。そして、被控訴人が右①例につき昭和五〇年夏季一時金の支給をしたのは、懲戒解雇の日(同年七月一二日)の直前(同年同月九日)に一時金の一括銀行振込の手続を完了してしまつたからであり、特に既払分の返還を求めることまではしなかつたという事情によるものであつた。

(六)  昭和四九年六月一三日当時、旧ヤマト労組の執行委員長は控訴人矢野で、その余の控訴人らはいずれも同組合の組合役員(執行委員)であつたが、同組合は、夏季一時金の団体交渉において、被控訴人から「定年、会社都合の退職及び自己都合の退職者に対し勤怠率にて平常通り一時金を支給する。懲戒解雇者に対しては支給しない。」との回答を受け、これに対し、何らの留保を付することもなく「会社側回答に妥協する。」と答え、その旨を同日付の組合ニュースに明記した。

(七)  その後控訴人らが懲戒解雇されるまでの間、被控訴人と旧ヤマト労組及び訴外組合間で懲戒解雇者に対する一時金の支給、不支給につき協定書が作成されたことはなく、また右の点を明確に意識して書かれた組合ニュースも存在しない。

(八)  また、本件労働協約の締結に至る過程において、被控訴人と訴外組合間で控訴人ら懲戒解雇者に対する昭和五四年度夏季一時金の支給が問題とされたことは一度もなく、したがつて、本件労働協約中には右の一時金の支給についての記載は全くない。

以上の事実が認められ、右認定に反する控訴人大室信幸の本人尋問の結果は、前掲各証拠に照らしてたやすく措信することができず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

2 ところで、使用者から労働者に支払われる一時金ないし賞与という名目の給付の性質は必ずしも一律ではなく、褒賞的な性質のものから賃金的な性質のものまで各種のものがあるのであつて、それがいかなる性質かは、当該一時金ないし賞与の支給について労働契約、就業規則又は労働協約によつて定められているのかどうか、定められているとしてどのように定められているのか、あるいはその支給についての取扱ないし慣行等を具体的に検討してこれを決定すべきものである。

前記1認定の事実によれば、被控訴人においては、一時金(賞与)の支給に関しては、給与規定の第二四条に「定期賞与及び臨時給与は、支給の都度、細部を決めて支給する。」との定めがあるだけで、右のほかには一切就業規則による定めはなく(労働契約により個別に定められ又は労働協約で一般的に定められたことを認めるに足る証拠もない。)、右給与規定の定めにより支給の都度、昭和四八年以前は被控訴人が単独で、昭和四九年四月以降は組合との協定により細部を定めて従業員に一時金の支給をしてきたものであつて、右給与規定の定めが極めて抽象的なものにすぎないこと、その細目は被控訴人単独又は組合との協定により定められ、しかもその定められる内容も一時金ないし賞与の金額及びその算出基準のみならず中途退職者に支給するかどうかの支給者の範囲にまで及んでいることに照らすと、被控訴人における一時金ないし賞与は、就業規則等の規定により支給条件が明確に定められ、労務を提供すればその対価として具体的な請求権が発生する賃金とは性格を異にするものであり、所属組合と被控訴人との間において金額、算出基準、支給者の範囲等支給についての具体的な協定がされ(又は従業員と被控訴人との間で合意がされ)その細目が定められない限り、具体的な請求権として発生しないものと解するのが相当である。

そこで、本件労働協約が細目の定めとして控訴人ら懲戒解雇者を一時金の支給対象者に含めることを定める趣旨であつたかどうかについて判断する。前記争いのない事実及び1認定の事実によると、従前被控訴人において一時金ないし賞与の支給対象者として問題となつたのは支給対象期間の一部しか在籍していなかつた者で支給日に在籍していない者及び支給日以前に懲戒解雇され支給日に在籍していなかつた者であることに照らすと、少くとも支給対象期間の全部につき在籍しかつ支給日に在籍する者については当然に支給されることが前提となつていたものであり、もとより本件労働協約もその趣旨で定められていたものと解されるのであるが、懲戒解雇者に対しては、従前支給対象期間の全部につき在籍したか一部しか在籍しなかつたかを問わず、一時金の支給がされたことはなく、そのただ一つの例外(前記①例)においても、懲戒解雇の直前に一時金の一括銀行振込手続を完了してしまつたので、特にその返還までは求めなかつたという特殊事情によるものであり、旧ヤマト労組及び訴外組合との間において、中途(任意)退職者に一時金の支給がされる場合にはその旨が協定書中に明記されているのに、懲戒解雇者に対する一時金の支給、不支給について触れた協定書(本件労働協約を含む。)、組合ニュース(後記のものを除く。)は一切なく、かえつて、控訴人ら全員が所属していた旧ヤマト労組発行の組合ニュースにおいて、任意退職者と懲戒解雇者を区別したうえで、懲戒解雇者には一時金を支給しないことを承認する旨の記載がなされており、また、本件労働協約締結に至る過程において、訴外組合と被控訴人との間で控訴人ら懲戒解雇者に対する昭和五四年度夏季一時金が問題とされたことは一度もなかつたというのであつて、これらの点に照らせば、控訴人ら懲戒解雇者は本件労働協約によつて定められた昭和五四年度夏季一時金の支給対象者には含まれていないというべきである。なお、控訴人らは、当時の確立された労働慣行は、期末退職者であると、懲戒解雇であるとを問わず、支給対象期間中に在籍した部分がありさえすれば、その割合に応じて一時金を支給するというもので、協定書中に中途退職者の扱いについての記載がされたのは、右確立された労働慣行を注意的に明らかにしたものにすぎない旨主張するが、協定書の文意を合理的に解釈する限りそのような主張は到底肯認することができない。

3  そうすると、本件労働協約に基づく控訴人らの請求は、その余の点につき検討するまでもなく理由がなく、これを棄却すべきである。

四よつて、これと同旨の原判決は正当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条、第九三条第一項の各規定を適用して、主文のとおり判決する。

(香川保一 越山安久 村上敬一)

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