東京高等裁判所 昭和58年(ネ)2027号 判決 1984年2月28日
控訴人 渡辺木綿子
右法定代理人親権者父 渡辺二
同母 渡辺三枝子
<ほか二名>
右控訴人ら訴訟代理人弁護士 飯田秀郷
同 岩出誠
被控訴人 国
右代表者法務大臣 住栄作
右指定代理人 遠藤きみ
<ほか三名>
被控訴人 新宿区
右代表者区長 山本克忠
右指定代理人 山下一雄
<ほか二名>
主文
本件各控訴をいずれも棄却する。
控訴費用は、控訴人らの負担とする。
事実
控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人らは各自控訴人渡辺木綿子に対し金三〇〇万円、同渡辺二に対し金一〇〇万円、同渡辺三枝子に対し金一〇〇万円及びこれらに対する昭和五七年六月四日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人らは、いずれも控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の主張並びに証拠の関係は、次のとおり付加、訂正するほか、原判決の事実摘示と同一であるので、これを引用する。
一 主張
(控訴人)
1 控訴人木綿子は、昭和五〇年二月一〇日出生し、父である控訴人二が同月二一日新宿区長に対し、その出生の届出をしたのであるから、手続が順調に進めば、数日後には入籍されるべきものであったのに、昭和五六年一二月七日まで約六年半の長きにわたり未入籍のままで放置されたのであるから、そこに不利益があり、損害が発生していることは明らかである。確かに、戸籍実務では、本人、その法定代理人又は届出人から入籍の遅延事由の補記方の申出があったときは、出生届を受理した市区町村長からの届書送付未着につき入籍の記載が遅延した旨を戸籍に記載することになっているが、仮にこのような補記がなされたとしても、控訴人木綿子につき、六年半もの間入籍がされなかったという状態は戸籍上に残り不利益を消すことはできない。
2 慰藉料請求権が精神的損害に対するものであるとされるのは、損害評価の一つの法律的技術にすぎないのであるから、被害者の苦痛感受能力の有無や不利益状態の認識の有無にかかわらず、慰藉料請求は認められるべきである。
(被控訴人ら)
右主張はすべて争う。
二 証拠《省略》
理由
一 当裁判所は、当審における証拠調べの結果を考慮に入れても、控訴人らの本訴請求はいずれも理由がないと判断するものであるが、その理由は、次のとおり付加、訂正するほか、原判決の理由説示と同一であるので、これを引用する。
1 《証拠付加省略》
2 第一四丁裏七行目の「右事実」の前に「1」を加え、同行の「原告木綿子」から第一五丁裏四行目の「認められない。」までを「本件出生届出書が新宿区役所住民課により東京都文書交換便で文京区長に発送されたにかかわらず、これが文京区長に到達しなかったことが果して新宿区長の過失によるものであるかどうかは明らかではないけれども、このことにつき被控訴人国の戸籍事務の処理に遺漏が存したことは否定できず、その結果、控訴人木綿子は、昭和五六年一二月七日まで未入籍のままとなっていた。」に改める。
3 第一五丁裏五行目の「原告二」の前に「しかしながら」を加える。
4 第一七丁表八行目の「認められる。」の次に、行を変えて次のとおり加える。
「たしかに、出生の届出が届出期間内になされているのに、戸籍事務処理の遺漏から約六年半の長きに亘り戸籍への記載がなされなかったことは、軽視できないことではあるけれども、控訴人二、同三枝子は昭和五六年一二月これを発見するまでは、当然戸籍への記載がなされていると確信しており、又控訴人木綿子も幼少であったため、戸籍への記載が脱漏していた間に特段の精神的苦痛は感じておらなかったのみならず、控訴人木綿子については、先に認定したとおり、控訴人二が右脱漏の事実を知り、直ちに所定の手続をした結果、控訴人木綿子が昭和五〇年二月一〇日東京都文京区で出生し、同月二一日父が届出した事実を明記した入籍がなされているのであり、その入籍の日が届出の日より六年半以上経過していることについては、控訴人らの申出により入籍の遅延事由を戸籍に補記することができるのであるから、これにより治癒されるものというべき不利益以上の精神的損害を控訴人らが被ったものと認めることはできない。」
二 以上によれば、控訴人らの本件控訴はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条、第九三条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 横山長 裁判官 野﨑幸雄 浅野正樹)