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東京高等裁判所 昭和58年(ネ)203号 判決 1983年11月10日

控訴人 甲野春子

右訴訟代理人弁護士 鈴木勝紀

被控訴人 甲野花子

右訴訟代理人弁護士 内田喜夫

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一  控訴代理人は「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも、被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

二  当事者双方の主張は、次に付加するほか、原判決事実摘示「第二 当事者の主張」欄に記載のとおりである(ただし、控訴人と被控訴人との関係に限る。)から、これを引用する。

(被控訴人の陳述)

原判決中、被控訴人と亡甲野太郎(以下「亡太郎」という。)との離婚が無効であると確認した部分はすでに確定しているので、控訴人と亡太郎との婚姻は論理必然的に重婚関係となり、右婚姻は取消しを免れない。したがって、控訴人の本件控訴は理由がない。

(控訴人の陳述)

原判決中、被控訴人と亡太郎との離婚が無効であることを確認した部分は、未だ確定しておらず、被控訴人の主張は失当である。即ち、原審においては、被控訴人と亡太郎との離婚無効確認訴訟及び亡太郎と控訴人との婚姻取消訴訟が共同訴訟として審理の対象となっていたところ、右両訴訟は表裏一体の関係にあって、控訴人としては、被控訴人と亡太郎との離婚無効確認訴訟の結果に重大な利害関係を有するものであり、かつ、控訴人が共同訴訟の一方である婚姻取消訴訟の被告となっている以上、参加の申出をするまでもなく、控訴人には訴訟上当然に離婚無効確認訴訟の被告の地位にある亡太郎の訴訟承継人たる検察官の参加人としての立場が認められているものというべきである。ところで、控訴人が原判決の全部について控訴を提起したものであることは、本件控訴状に記載した控訴の趣旨から明らかであり、それ故、原判決中、被控訴人と亡太郎との離婚が無効であることを確認した部分については、たとえ控訴状の当事者の表示に亡太郎の訴訟承継人たる検察官を掲記しなかったとしても、控訴人がその参加人たる地位において、控訴したものとみるべきであって、右部分は未だ確定していない。

三 《証拠関係省略》

理由

一  《証拠省略》によれば、亡太郎と被控訴人は昭和一三年五月一八日婚姻の届出をした夫婦であったが、昭和五四年三月一四日協議離婚の届出がなされたことにより、亡太郎と控訴人は、同年同月三〇日婚姻の届出をして夫婦となったことが認められる。

二  ところで、本件記録によると、次の事実が認められ、これに反する証拠はない。

1  被控訴人は、右協議離婚の届出は被控訴人の意思に基づかないから無効であり、したがって亡太郎と控訴人の婚姻は重婚に当たるとして、昭和五六年二月二三日当時生存中の亡太郎を被告として離婚無効確認を、また亡太郎と控訴人を共同被告として両人間の婚姻の取消しを、それぞれ求めて併合のうえ訴えを提起した。

2  亡太郎は、昭和五六年二月二五日死亡したので、右離婚無効確認訴訟における被告の地位は、新潟地方検察庁高田支部検察官がこれを承継し、右婚姻取消訴訟の被告は控訴人だけとなった。

3  原審・新潟地方裁判所高田支部は、昭和五七年一二月二三日、右訴訟につき「1・昭和五四年三月一四日付新潟県中頸城郡大潟町長に対する届出による原告と、亡甲野太郎との離婚は無効であることを確認する。2・昭和五四年三月三〇日付新潟県中頸城郡柿崎町長に対する届出による亡甲野太郎と被告甲野との婚姻を取消す。3・訴訟費用はこれを二分し、その一を国庫の、その一を被告甲野春子の各負担とする。」との判決を言い渡し、その判決正本は、いずれも昭和五七年一二月二四日右検察官と控訴人の訴訟代理人に送達された。

4  控訴人は、右敗訴判決を不服とし同月二七日被控訴人を相手方として控訴したが、検察官は右敗訴判決に対し控訴しなかった。

三  以上の事実によれば、原判決中、被控訴人と亡太郎との離婚が無効であることを確認した部分は、昭和五七年一月七日の経過により確定し、その効力は第三者に対しても及ぶことになったものというべきである(人訴法一八条一項)。そうすると、亡太郎と控訴人との婚姻の届出がされた昭和五四年三月三〇日当時、亡太郎はなお被控訴人と婚姻関係にあったわけであるから、亡太郎と控訴人との婚姻は、重ねて婚姻したものとなって、取消しを免れないところである。

これに対して、控訴人は、原判決の離婚無効確認の部分は未だ確定していないと主張する(当審における「控訴人の陳述」参照。)。所論のとおり被控訴人と控訴人を当事者とする本件婚姻取消訴訟の当否は、亡太郎と被控訴人間の協議離婚の効力如何にかかっており、婚姻取消訴訟における被告の地位にあった控訴人としては、併合審理されている被控訴人と検察官を当事者とする離婚無効確認訴訟の結果につき法律上の利害関係を有するのであるから、控訴人が亡太郎の訴訟承継人たる検察官を補助するため離婚無効確認訴訟に補助参加する利益と資格のあることはいうまでもないところである。したがって、控訴人において右離婚無効確認訴訟における敗訴判決に不服であるときは、敗訴当事者たる検察官を補助するため補助参加の申出をしたうえ、該判決に対して控訴することができるのである。しかるに、控訴人が右離婚無効確認訴訟につき補助参加の申出をしていないことは、記録上明らかである。控訴人は、共同訴訟人たる控訴人には、右離婚無効確認訴訟につき参加の申出をするまでもなく、訴訟上当然に参加人としての立場が認められるべきである旨主張するが、かかる見解は、訴訟関係を不明確にするものであって、とうてい採用することができない(なお、本件両訴訟は便宜併合審理されているにすぎず、両者の間にいわゆる必要的共同訴訟の観念を容れる余地がないことはもとよりである。)。したがって、控訴人の原判決に対する控訴は、自身が当事者である婚姻取消訴訟に対する判決についてされたにとどまるのであるから、その控訴によって、被控訴人と検察官を当事者とする離婚無効確認訴訟に対する判決についても参加人として控訴したものとみるべきだとする控訴人の主張は、理由がない。

四  以上の次第であるから、被控訴人の控訴人に対する婚姻取消請求を認容した原判決は結論において相当であり、本件控訴は理由がない。

よって、本件控訴を棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岡垣學 裁判官 大塚一郎 川﨑和夫)

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