大判例

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東京高等裁判所 昭和58年(ネ)2246号 判決

一 控訴人が亡福原五郎の妻、被控訴人真及び同昌子がその子であり、それぞれ五郎の相続人の地位にあること、亡五郎は、昭和五五年五月二六日死亡したが、その生前昭和四二年二月に結核、成人病等の予防事業などを目的とする財団法人厚生会(以下「厚生会」という。)を設立しその理事長に就任したこと、<中略>亡五郎が死亡した当時、厚生会には退職金支給規程ないし死亡功労金支給規程は存在しなかったが、厚生会は同人の死亡後同人に対する死亡退職金(以下「本件退職金」という。)として二〇〇〇万円を支給する旨の決定をし、その後控訴人に対し右二〇〇〇万円の支払をしたことは、いずれも当事者間に争いがない。<中略>

二 しかるところ、被控訴人らは、本件退職金を控訴人が受領したことにつき、右退職金は相続人全員に支給されたものであり、控訴人は相続人三名の代表として受領したものにすぎない、と主張するのに対し、控訴人は、控訴人自身に支給されたものである旨主張するので、右の点につき検討を進める。

1 前掲≪証拠≫には、本件退職金は亡五郎の配偶者である福原ふみ(控訴人)に対して支給する旨の決議をした、との記載があるから、本件退職金は、厚生会に何ら退職金に関する規定がなかったという前判示の事情のもとでは、特段の事情のない限り、亡五郎の相続財産として相続人の代表者としての控訴人に支給決定がされたのではなく、字義どおり相続という立場を離れて、亡五郎の配偶者であった控訴人個人に対して支給されたものと認めるのが相当である。したがって、以下右特段の事情の有無について検討する。

この点につき、(1)≪証拠≫によれば、本件退職金については、厚生会委嘱の税理士本図専蔵により、また被控訴人らにより他の相続財産と共に相続人三名においてみなし相続をしたものとして相続税の課税処理がされていること、(2)前掲≪書証等の証拠≫によれば、本件退職金はその支払に当たり、控訴人名義の預金口座ではあるが、「福原ふみ相続口」なる特別の口座に振り込まれていること、(3)≪証拠≫によれば、控訴代理人は、被控訴人らが控訴人を相手方として申し立てた遺産分割調停事件につき相手方代理人として提出した昭和五六年六月一六日付準備書面において、厚生会から支払われた本件退職金は、現在控訴人において保管中である旨控訴人と被控訴人らの三名に支給されたものであることを自認するような陳述をしていることが認められる。

しかしながら、(1)については、税理士ないし利害関係人による税務処理いかんによって直ちに本件退職金の性格が決定されるものでないことはいうまでもないところ、一般に、死亡退職金の法的性質については従来から争いがあって、これに関する見解として、亡五郎の死亡による相続税の申告期限である昭和五五年一一月頃には、死亡退職金は相続財産に属するとの見解も有力であったのであり(この点に関し、支給の第一順位を内縁を含む配偶者と明定する退職手当に関する規定がある場合に、その受給権は相続財産に属さず、配偶者である妻固有の権利であるとの最高裁判決が言渡されたのは同年一一月二七日のことであり、当時最高裁がその見解をとることがいまだ周知されていなかったことは当裁判所に顕著である。)、証人本図専蔵の証言に徴すれば、同人は、当時税理士として基本的にかかる見解を前提とし、しかも、申告の当時はまだ厚生会における退職金支給の件は内定の段階にあって、常務理事の佐藤毅から支給金額のみを知らされ、何人に支給されるものであるかは確知しないまま、税務上の処理をし、その後も必ずしも厚生会から右の点につき正確な告知を受けていなかったことが認められるから、本図税理士による税務上の処理いかんは、前記認定を覆えすに足りる特段の事情となりえず、また、被控訴人らが自ら相続ないしみなし相続を受けたものとして申告したことも事柄の性質上、特段の事情となしえないことは同断である。次に、(3)については、≪証拠≫によれば、右調停事件の相手方代理人である控訴代理人は、前記準備書面提出の翌月である昭和五六年七月二三日付準備書面をもって直ちに、本件退職金は控訴人個人に対して支給されたものである旨の主張をしているから、前記準備書面に用いられた「保管中」なる文字を字義どおりに解するのは相当でない。そしてまた、この事実と≪証拠≫並びに弁論の全趣旨によれば、前記(2)のように、本件退職金が昭和五六年三月一六日に厚生会により福原ふみ相続口に振り込まれたのも、当時すでに本件退職金と厚生会から支払われるべき同会中央医療技術専門学校用地になっている土地の地代との帰すうが控訴人と被控訴人間で争いとなっていたところから、厚生会及び控訴人において独断専行を避け、ひとまず右相続口なる口座に振込みを受けたものと認めることができるのであるから、(3)の保管中なる文言も右処理の趣旨に添うものということができ、(2)、(3)の事実もまた前記特段の事情とするに足りず、更にまた、証人本図専蔵の証言によれば、同人のした税務処理については、なお本件退職金が控訴人のみのみなし相続財産であるとの修正申告はされていないことが認らめれるが、本件退職金の帰すうにつき本件で係争中であることを考慮すれば、むしろ当然であって、これまた前記認定を覆えす特段の事情とはなりえないというべきである。そして他にも右特段の事情を認めるに足りる証拠はない。

2 のみならず、本件退職金が亡五郎の生前における厚生会に尽した功労に対する報償の性質を含むことは当事者間に争いがないが、≪証拠≫によれば、厚生会の理事会において退職金支給の相手方を亡五郎の配偶者である控訴人と決議したのは、控訴人が亡五郎の生前同人の厚生会の運営その他を物心両面にわたり支えた内助の功に報いるためであり、その形式として東京都職員退職手当に関する条例、同施行規則等において配偶者が第一順位とされていることに倣った結果であることが認められるから、厚生会の理事会の意思が控訴人個人に対して退職金を支給する趣旨であったことはむしろ明確であるといわなければならない。

(吉井 岡山 河本)

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