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東京高等裁判所 昭和58年(ネ)2411号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【説明】

本判決は、最高二小判昭58.9.16(本誌五〇九号一一六頁)によつて破棄差戻となつた事件の差戻後の控訴審判決である。差戻前の控訴審判決(本誌四七九号九七頁)は不動産所有者が仮登記権利者に対し金員支払義務を負う旨の裁判外の和解が成立したことを否定したが、上記上告審判決は右判断につき審理不尽、理由不備の違法があるとして事件を差し戻したので、その結果を紹介する。

【判旨】

一控訴人と被控訴人ほか六名との間の当庁昭和五二年(ネ)第二一四七号所有権移転請求権仮登記抹消登記手続等請求控訴事件の昭和五四年一一月九日午前一一時の和解期日において原判決添付別紙記載のとおりの条項の裁判上の和解が成立したことは、当事者間に争いがない。

二右裁判上の和解は、(一)控訴人が被控訴人側に対して一定の期日までに所定の金員を支払うのと引換えに、被控訴人側が控訴人に対し、本件各土地についてなされている所有権移転請求権仮登記等の抹消登記手続をすること、(二)控訴人が右金員を所定の期日までに支払わなかったときは、その支払いをすることによつて右各登記の抹消を求める権利を失うこと及び(三)控訴人はその余の請求を放棄することの三点を内容としたものであつて、控訴人の右金員の支払いについて債務名義となる条項が設けられていないことは明らかである。

しかしながら、不動産についての登記抹消請求事件等において、所有者から係争登記の権利者に対し一定の金員を支払うのと引換えに、右登記の抹消登記手続をする旨の裁判上の和解をする一方、右和解成立の前提として、あるいは右和解内容を補充するため、裁判外で、右所有者が係争登記の権利者に対し、右登記抹消の条件とされている一定の金員につき支払義務を負う趣旨の合意をすることは、決してありえないことではなく、また、そのような合意が許されないとする実定法上の根拠もないから、裁判上の和解の条項に右所有者の金員支払義務が債務名義として明記されていないからといつて、直ちに右合意の成立を否定し、あるいは右合意が裁判上の和解によつて変更されたと解することはできない。

三そこで、本件の事実関係についてみるに、<証拠>を総合すれば、次の事実を認めることができる。

(一) 前記所有権移転請求権仮登記抹消登記手続請求訴訟の第一審で敗訴した控訴人は、その控訴審において、被控訴人側に和解金として三二〇〇万円ないし三五〇〇万円程度を支払つても係争土地を取り戻して売却した方が経済的に得策であると判断して、本件裁判上の和解に応じたものである。

(二) 右和解のための話合いにおいて、当事者双方は、控訴人の支払う和解金総額と係争土地全部とをそれぞれ一体のものとして考え、控訴人が右和解金全額を間違いなく支払うことを約束するのと対応して、被控訴人側が係争の登記全部を間違いなく抹消することを約束し、これを双方が履行することによつて紛争の全面的かつ終局的な解決を図ることを了解していた。

(三) 裁判所における本件和解調書作成の席上においても、右の点についてなんら異論はなく、控訴人の訴訟代理人として和解交渉に当たつてきた田中豊恵弁護士も、控訴人が和解条項で定められた金額につき支払義務を負うものと認識していた。

(四) 本件和解条項の第一項は、控訴人が山崎昭子に対し昭和五五年四月末日までに三〇〇万円を支払うのと引換えに、原判決添付第三物件目録記載の土地についての登記の抹消手続をするものとし、同第二項は、控訴人が港企業株式会社に対し右同日までに五〇〇万円を支払うのと引換えに、同第二物件目録記載の土地についての登記の抹消手続をするものとし、同第三項は、控訴人が被控訴人に対し右同日までに二五〇〇万円を支払うのと引換えに、同第一物件目録記載の土地についての登記の抹消手続をするものとし、更に同第四項は、控訴人が右翌日までに右金員の支払いができなかつたときは、港企業株式会社及び被控訴人に対する支払額を一〇〇万円ずつ増額し、同年九月末日までに山崎昭子に三〇〇万円、港企業株式会社に六〇〇万円、被控訴人に二六〇〇万円を支払うのと引換えに、前各項の登記抹消手続を行うものとする旨を定めているが、このようにそれぞれの金額の支払いに対応して係争土地が分けられたのは、関係当事者及び土地の数が多く複雑であつたことや、控訴人の方で係争土地を早く売却しやすいようにしてやる必要があつたことなどから、便宜上右のように割り付けたものであつて、各項ごとに支払金額と係争土地の価額とが対応しているわけではなく、したがつて、その履行は全部を一括して同時に行うというのが当事者の考えであつた。

(五) 本件裁判上の和解の成立後、昭和五五年四月中旬ごろ、控訴人が右和解条項第一、二項の八〇〇万円のみを持参して、前記第二及び第三物件目録記載の土地についての係争登記の抹消を求め、これに対し、被控訴人側では、一部のみの履行に応じることに難色を示したが、控訴人において残金全部を間違いなく支払う旨言明したので、結局右の抹消に応じた。

(六) 控訴人は、同年一〇月ごろに至り、被控訴人に対して支払う二六〇〇万円の調達がつかないので前記第一物件目録記載の土地についての登記抹消の権利を放棄する旨を被控訴人側に通知してきた。

以上のとおり認めることができ、これに反する証拠はない(前掲甲第四号証の一及び四に右(五)の登記抹消に応じた土地が第一及び第二物件目録記載の土地と表示されているのは誤記と認められる。)。

以上の認定事実に徴すれば、控訴人と被控訴人との間においては、本件裁判上の和解を成立させるにあたり、和解条項所定の金員を支払つて係争登記を抹消するか否かを、控訴人の自由な選択にかからせるというようなことは少しも念頭になかつたものであり、右和解内容を実現するための前提として、控訴人が被控訴人に対し昭和五五年四月末日までに二五〇〇万円を支払い、もし同日までに支払いをすることができなかつたときは、違約金一〇〇万円を加えた二六〇〇万円を同年九月末日までに支払うという裁判外の合意が成立したものと認めるのが相当である。右支払いにつき和解調書上に債務名義となる条項が記載されていないからといつて、右合意の成立を否定し、あるいはこれが変更されたとすべきでないことは前記のとおりである。

控訴人は、右裁判外の合意が本件和解条項第五項によつて変更されたと主張するが、同項は、所定の期日の経過後は控訴人の方から所定の金員を支払つて係争登記の抹消を請求することができない旨を定めたものであつて、被控訴人側から進んで右裁判外の合意に基づき所定の金員の支払いを請求する場合のことについてはなんら触れているものではない。被控訴人が右裁判外の合意の履行を求めている以上、係争登記の抹消についても、右合意の趣旨に従つて解決すれば足りるのであり、右第五項の定めが有効に存在することをもつて合意の解消を推認する根拠とすることはできない。

(中島恒 佐藤繁 塩谷雄)

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