東京高等裁判所 昭和58年(ネ)2620号 判決
当裁判所も控訴人の本訴請求を失当とするものであり、その理由は、後記のとおり附加、訂正するほか原判決理由記載のとおりであるから、これを引用する。
一 原判決二九枚目表末行の「被告も」から同裏一行目の「ところである。」までを「、右特許請求の範囲の記載と被控訴人各装置の構成を示すものであることに争いのない原判決別紙目録第一及び第二の記載を対比すれば明らかである。」と訂正する。
二 原判決三四枚目裏五、六行目の「説明書記載のとおりの効果」を「説明書記載のとおり流体貨物の漏れ分を減少させる効果」と、同七行目の「5(一)(1)ないし(9)」を「5(一)(1)ないし(11)」と訂正する。
三 原判決三五枚目表一〇行目から同裏七行目までを次のとおりに訂正する。
「(6)の指摘は、被控訴人各装置は漏れ分を検査ないし排出するときだけに限つて排出室に加圧し、それ以外のときは排出室に加圧しないでも十分使用することができるというものであるが、被控訴人各装置を利用して液体貨物を積込、運搬、積降する全過程を通じて右排出室の加圧の要否を考えるに、前記(1)、(2)及び後記(9)における控訴人の主張その他弁論の全趣旨により認められるように、ポンプの不作動時にはメカニカルシールを通しての漏れ分はほとんど無く、漏れが最も生じ易いのはポンプの稼働時であるところ、この事実と前記4に認定した事実を合わせ考えれば、被控訴人各装置は、右認定のとおりの圧力関係を保持するという構成をとることにより、ポンプ稼働時における流体貨物の漏れ分を減少させる効果をあげることを主たる目的とするものと認めることができる。そうすると、控訴人主張のように排出室に加圧しない状態にして使用することは、特に流体貨物の積降時すなわちポンプの稼働時において、ことさらに被控訴人各装置の右効果を排除する方法で、より劣る効果をあげるにすぎないものとしての使用をするものであり、これを被控訴人各装置の本来の使用方法とみることはできないのである。そして、後に控訴人の主張(11)について判示するとおり、控訴人が右(11)において主張するところは、被控訴人各装置が液体貨物の積降時に排出室に圧力をかけないで使用されている事実を認める根拠とするに足りず、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。してみると、控訴人の右(6)の指摘もまた、理由のないものといわなければならない。」
四 原判決三六枚目裏七行目の後に次行以下として次のとおり附加し、同八行目の「(9)」を「(10)」と訂正する。
「(9)の指摘は、要するに、被控訴人各装置において、流体貨物の積降のためのポンプの稼働時には、メカニカルシールにかかる流体貨物の圧力は、メカニカルシールの回転による遠心力とフラツシングによる圧力が加わつて、排出室内の圧力より高くなつているものであり、本件発明における「流体貨物の圧力」に対比すべき被控訴人各装置における流体貨物の圧力とは、右遠心力等の加わつたものと考えるべきであるというものである。しかしながら、前記甲第二号証によれば、本件発明の明細書には、前記三2(一)における被控訴人の主張に挙示されているとおりの記載があることが認められ、右各記載によれば、本件発明の前記請求の原因3(一)(6)(イ)の構成要件における「流体貨物の圧力」は、被控訴人主張のとおり、「静的流体圧力」を意味するものであり、しかも、その圧力は、これと排出室の圧力との差のみによつて流体貨物が排出室側に漏れるように作用するものであると認めることができる。
これに対し、前記遠心力及びフラツシングによる圧力が、右「静的流体圧力」にあたるものでないことは明らかである。すなわち、原判決別紙目録第一及び第二の第3図及び第6図に示された被控訴人各装置におけるメカニカルシールの構造を、成立に争いのない甲第一四、一五号証の記載と弁論の全趣旨とに照らして考えれば、これらのメカニカルシールにおいて、遠心力の作用を受けることになる二つのシール面によつて画定される室内に存在する流体貨物は、ポンプ装置の不動作中は均一な圧力で存在するが、その稼働中はその室内に均一な圧力として存在しているのではなくて、その外側方(排出室に面している側)の圧力は高く、内側方(軸に近い側)の圧力は低くなつており、外側方の高い圧力が排出室の圧力より高くなると流体貨物の放出が起こる一方で内側方の低い圧力が残余の流体貨物からの供給を促進するという一種のポンプ作用が生じ、放出と供給とが釣り合うと、メカニカルシールに定常的な流体貨物の流れが生じて、強制された流れとして潤滑、冷却に資するものであることを推認するに難くない。このような流れは、右のようなポンプ作用が加えられた結果生ずる流れであつて、それは設計上の難易の関係で排出室に放出されているにすぎないとみるのが相当であり、本件発明の前記(6)の(イ)の構成要件における排出室の圧力が流体貨物の静的流体圧力より低くされたために生ずるような漏れとしての流れではなく、したがつて、右遠心力により生じたポンプ作用による力を本件発明における「流体貨物の圧力」にあたるものとみることはできないのである。また、フラツシングによる圧力については、控訴人の主張する右フラツシングの構成自体により、それが静的流体圧力である右「流体貨物の圧力」にあたらないことは明らかである。」
五 原判決三七枚目裏三行目の後に次行以下として、次のとおり附加し、同四、五行目の「5(一)(1)ないし(3)、(5)ないし(7)」を「5(一)(1)ないし(3)、(5)及び(7)」と訂正する。
「控訴人は、(11)として、昭広丸に設置された二台の被控訴人第二装置について二回に亘り調査した結果、被控訴人第二装置が排出室11を含む地帯に加圧しないで使用されている事実が明らかになつた旨主張する。そして、成立に争いのない甲第一六号証によれば、公証人が右昭広丸に赴いて実験した際、同船に設置された被控訴人第二装置のエキゾーストトラツプ(それが原判決別紙目録第二におけるスロツプタンクにあたるものであることは明らかである。)の下端の排出口に取り付けたゴム風船は、止め弁14にあたる二つの弁及び圧力管に通ずる弁を順次開放しても、膨脹する等の異変を示すことなく、また、右開放に伴つて、排出口から気体の漏れる「シユー」という音も全く聞こえなかつたことが認められる。しかしながら、通常の使用態様においてはエキゾーストトラツプ(スロツプタンク)の下端に設置された排出口は分離された液体が排出されるもので、気体は上方の導管に導入されるものであることが明らかであるから、右のような事実が認められるからといつて、直ちに排出室11及びこれに通ずる空間に大気圧を超える圧力がかかつていなかつたと断定できるかどうかについては、必ずしも疑問がないわけではない。
仮に排出音が聞こえなかつたこと等から、右実験時に排出室11内等の圧力が大気圧に等しかつたと認められるとしても、このことから、直ちに被控訴人第二装置が、排出室11に圧力をかけずに、換言すれば本件発明におけると同じ圧力関係の下で、使用された事実があるとすることはできないのである。なぜならば、右昭広丸が、その積載流体貨物の荷揚げには通常エンジンルームの隣のポンプルームにあるカーゴポンプを用い、特別の場合のために一部のタンクに被控訴人第二装置を設置してあり、これは、キシレン、アルコール等荷揚げに安全を要する場合に使用するものであり、右実験時には、積荷はやし油であつて被控訴人第二装置は使用されない場合であつたことは、当事者間に争いがなく、したがつて、仮に右実験時に、排出室11内の圧力が大気圧に等しく、圧力関係が本件発明におけると同様となつていたとしても、そのままの状態で被控訴人第二装置が稼働することはなく、前示のとおり流体貨物が漏れるおそれのあるポンプの稼働中に右圧力関係により漏れ分を除去し本件発明と同一の効果をあげたものではないからである。
また、右甲第一六号証によれば、同船の機関長が、同船の被控訴人第二装置は年二、三回使用することはあるが前記各弁を操作したことは全くない旨を述べたことが認められるが、控訴人も請求の原因5(一)(6)で自認するとおり、被控訴人第二装置を使用する場合には、少なくとも漏れ分除去のために排出室11及びこれに通じる空間内に圧力をかける必要があるのであるから、被控訴人第二装置を使用したが右の圧力をかけたことはないというに帰する同人の右陳述は必ずしも正確なものとはいえない。したがつて、これをもつて被控訴人第二装置が排出室11に圧力をかけずに使用されたとの事実を認定するに足りるものとみることはできず、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。
右に関連して、控訴人は、同船に設置された被控訴人第二装置は、これをポンプとして使用しないときでも、駆動媒質が導入され流体貨物が積載されることによつて直ちに発生する汚染の可能性を本件発明と同一の構成によつて防止しているものであるから、本件発明と同一の構成を具えている旨主張する。しかしながら、前記本件発明の特許請求の範囲には、「船の流体貨物のなかに設けて、これを送るためのポンプ装置において」「前記地帯は前記駆動媒質および流体貨物の圧力よりも低圧であつて」と記載されており、このことと前記甲第二号証によれば、本件発明はポンプ装置を流体貨物の荷揚げ等に使用する場合の「地帯」の圧力構成を要件とするものと認めるのが相当である。しかるに、前叙のとおり、同船に設置された被控訴人第二装置は積載流体貨物であるやし油の荷揚げに使用されていないのであるから、仮に控訴人主張のとおり、右装置が本件発明と同一の圧力構成により汚染の可能性を防止しているとしても、これによつて被控訴人第二装置の構成が本件発明の構成と同一であるとはいえない。したがつて、控訴人の右主張は採用できない。
控訴人は、また、排出室11に圧縮空気を封入するように指示した取扱説明書を交付してあつても侵害の責任を免れることはできない旨主張するが、前示のとおり、本件発明と同一の圧力関係の下で被控訴人第二装置をポンプとして使用したことを認めるに足りる証拠のない以上、右主張の理由がないことはいうまでもないところである。」
六 原判決三八枚目表九行目の「このような」から同三九枚目表八行目の「失当である。」までを、次のとおりに訂正する。
「前記4で認定したとおり、本件発明が圧力の関係で漏れ分を減少させることは考慮せず、もつぱら漏れ分を排出室を含む地帯に集めて排除する作用効果を有するにすぎないのに対し、被控訴人各装置は排出室内の圧力を流体貨物の静圧より高くすることにより流体貨物の漏れ分そのものを減少させる作用効果を生じさせている。また、前記5で認定したとおり、被控訴人各装置は、駆動媒質の流体貨物内への侵入を防止するため排出室の底部に漏出液を受け止めるに足りる窪みを設けている。したがつて、被控訴人各装置が、なんらの作用効果も伴わないのに、もつぱら権利侵害の責任を免れるために、本件発明の構成要件の一部を置換したものということはできないから、控訴人の右主張も採用できない。」したがつて、本件控訴は理由がないからこれを棄却する。