東京高等裁判所 昭和58年(ネ)303号 判決
2 右当事者間に争いのない事実と≪証拠≫によれば、訴外五光商事株式会社(以下「五光商事」という。)は、本件各土地をその所有者である訴外保田兌一及び同保田トキ(以下「訴外人ら」という。)から取得してその所有権を被控訴人に対し移転することができなかったこと、本件売買契約締結に際し、本件各土地の所有者である訴外人らが同席しておらず、かつ、同訴外人らの印鑑証明書もなかったことから、被控訴人は、五光商事において訴外人らの所有地についての本件売買契約を確実に履行しうるか否かについて危惧の念を抱き、契約締結を躊躇し、再三これを断念しようとしたのに対し、仲介人である控訴人の代表者鳥居博也は、その点につき格別五光商事ないし訴外人らを調査することもなく契約締結を急ぎ、慢然被控訴人に対し、五光商事と訴外人らとが不動産の管理及び売買取引に関し深いかかわりがあると説明したうえ、五光商事が本件各土地を訴外人らから取得してその所有権を被控訴人に対し移転することは確実であり心配ない旨言明し、強く契約を促したため、被控訴人もこれを信用して本件売買契約を締結し、手付金六〇〇万円を小切手で支払うに至ったものであること、しかるに、本件売買契約成立直後、五光商事と訴外人らとの間に代金支払等をめぐり紛議を生じた結果、同月八日、訴外人らが本件各土地を金子工務店に対し売り渡してしまったため、五光商事は、本件売買契約を履行することが不能となり、かつ、同社は、その後、念書を被控訴人に交付しただけで売買については何の処理もせず、右六〇〇万円を費消してしまい、現在所在不明であることが認められ、≪証拠≫も右認定を左右せず、他にこれに反する証拠はない。
3 以上の事実によれば、被控訴人は、五光商事に交付した手付金相当の六〇〇万円の損害を受けたというべく、控訴人代表者は、被控訴人に対し、仲介人としての信義に反し、五光商事が訴外人らから本件各土地を取得し被控訴人に対し本件売買契約を履行することは確実である旨をことさら強調して契約締結を促し、被控訴人は、これを信用して本件売買契約を締結するに至ったのであり、しかも前記訴外人らと五光商事との間の本件各土地の売買の結末及び五光商事の行動に照らすと、五光商事は不誠意な業者であり、本件売買契約履行については控訴人代表者としても疑問をいだくべきであるのに、前記のように調査もせずに五光商事において本件売買契約を履行する旨の前記言明をしているのであって、この点において控訴人代表者にその職務を行うにつき少なくとも過失があったというべきであるから、控訴人は、被控訴人に対し、不法行為責任として、被控訴人に生じた損害を賠償すべき義務があるといわなければならない。
(小堀 時岡 山崎)