大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和58年(ネ)713号 判決

ところで、被控訴人らが有限会社黒部ハウジング(以下「黒部」という。)に対し本件書類を交付した行為が黒部に本件不動産の所有権移転登記申請の代理権を授与したものでないことは前認定のとおりであるが、右行為が外形上本件不動産の所有権移転登記申請の代理権の授与を表示したとみられ、民法第一〇九条、第一一〇条の規定を類推適用する余地があるかどうかを検討する。

前記のとおり金融業者である控訴人は、株式会社立山ハウジング(以下「立山」という。)が本件不動産を自己名義としたうえ、直ちに抵当権を設定し、金員を借用する意図を有していたことを知っていたものであり、控訴人において関係書類を点検すれば、本件不動産は黒部が売りに出している物件であること、被控訴人らと立山又は黒部との間に売買契約書が存在しないことを容易に知ることができ、立山の代理権限につき当然疑念を持ってしかるべきであるうえ、控訴人は現場調査を行っているのであるから、被控訴人らに直接代理権の有無を確認することは容易であったというべきである。

このように代理行為の相手方が金融業者で、当該代理行為により経済上の利益を受ける者が代理人自身であり、しかも代理権についての調査が容易である場合には、たとえ代理人と称する者が本人の白紙委任状、印鑑証明書及び取引の目的とする不動産の登記済権利証を所持しているときでも、相手方は代理権の有無につきさらに確認手段をとるべき義務を負うものというべく、その調査を怠たり、その者に代理権があると信じても、そのように信じたことに過失があるというべきである。

そうだとすれば、被控訴人らは本件書類の交付により黒部に対し本件不動産の所有権移転登記申請の代理権の授与を表示したとしても、控訴人において立山がその代理人と信じたことには過失があるというべきであり、また、右に説示したところによれば民法第一一〇条所定の正当事由があるとはいえない。したがって、同法第一〇九条、第一一〇条を適用ないし類推適用すべき場合にはあたらないというべきである。

(吉野 時岡 山崎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!