大判例

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東京高等裁判所 昭和58年(ネ)776号 判決

一 当裁判所も控訴人の本訴請求は理由がなくこれを棄却すべきものと判断する。その理由は、次のとおり、訂正、削除、付加するほかは、原判決の理由欄記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

1 原判決二一枚目表七行目「三2(二)1」を「三2(二)(1)」に訂正する。

2 原判決一八枚目裏四行目ないし六行目の「上辺はその中央部が直線状で、左右両翼において端部に向つてやや湾曲下降し、下辺は直線状で、」を「上辺及び下辺がいずれも直線状で、」に訂正する。

3 原判決二二枚目表四行目の「隠れて見えず、」の次に「電話器の使用時に短時間見えるにすぎないから、」を付加し、同八行目の「断定できないし、」から同一〇行目の「わけであるから」までを削り、この部分に「断定できず、また、需要者が購入に際し商品をパツクの中から取出して吟味することも充分あり得るから、」と付加する。

4 原判決二二枚目裏二行目から二三枚目表五行目までを削り、この部分に次のとおり加える。

「控訴人は、また、本件登録意匠と被控訴人意匠とを間接対比観察すれば、前認定の両意匠の差異点は差異点でなくなり、両意匠は互に類似するものとなる旨の主張をする。

しかしながら、弁論の全趣旨によれば、本件登録意匠は、規格化された電話器の送受話器の把持部を被うカバーに係るものであると認められるところ、そのようなカバーの形状は、送受話器の構造及び形状からして、円筒形を適宜の長さに切断した形状で、上面を被う部分は長く、下面を被う部分においては短く、円筒形の切口は切断の仕方によつて扇形、円形、橢円形、卵形等の形状とならざるを得ないものであること、及び当審における被控訴会社代表者本人訊問の結果によつてその成立を認め得る乙第三号証の一ないし三、第四号証、第五号証の一ないし四、第六号証ないし第八号証の各一ないし三、第九号証、当審における証人中村美智子の証言によつてその成立を認め得る乙第一五号証の一、二、第一六号証の一ないし五、第一七号証の一、二、検乙第一号証、当審における証人中村美智子、同被控訴会社代表者本人訊問の結果を綜合して認められる、本件意匠の登録出願前、平面の形状が長方形状で両短辺が半円形であり、その短辺部にブレードによる縁飾りを施した送受話器カバーが公知であつたことを考えると、本件登録意匠と被控訴人意匠との前認定の相違点はこれを過少評価して、その相違にもかかわらずなお両意匠は類似するものとすべきものではない。」

二 よつて、控訴人の本訴請求は、その余の点を判断するまでもなく理由がなく、これを棄却した原判決は相当であるから、本件控訴は理由がないものとして棄却する。

〔編註その一〕 本件における当事者の主張は左のとおりである。

当事者双方の主張は、次のとおり、付加するほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、ここにこれを引用する。

一 控訴人の補充した主張

1 本件登録意匠の対象たる電話送受話器カバーは室内装飾品であるから、その意匠のうち最も人目をひく重要な部分は、販売時にも、使用時にも、ほとんど人目に触れることのない底面の形状及び模様ではなくて、平常人目によく触れる平面の形状及び模様である。その形状は、両短辺が半円形を呈する長方形状であり、その模様は半円形部がブレードで縁飾りされているものである。かかる平面の形状及び模様が本件意匠の最も特徴的な部分である。

すなわち、電話送受話器カバーは、それが単独で売られることはないのであつて、必ず電話器本体カバー、電話器マツトと一緒にパツクされて小売店に陳列される。その場合、購入者に見えるのは送受話器カバーの平面部のみであつて、底面部は下に隠れて見えない。

また、電話送受話器カバーが家庭、事務所等において電話送受話器の把手に装着された場合にも、その底面部は下に隠れて見えず、見えるのはその平面部である。たまたま電話器の使用時に送受話器の把手を手で取上げた場合も、掌中に握られた把手の裏側に指の間から見えるにすぎず、しかも、それは電話器を使用する短時間の間だけである。

2 意匠の類否を判断するに当つては、間接対比観察によるべきで、直接対比観察によつて判断するのは誤りである。

底面の形状についていえば、たしかに、本件登録意匠と被控訴人製品の意匠を並べて見ると(直接対比観察)、後者の両側の円みがやや細長く、前者の両側の円みとの差異を看取できるが、別々に観察した場合(間接対比観察)には、両者の間に蛤とか卵とか形容した言葉の差異ほどの違いを看取することはできない。

平面の形状についても、本件登録意匠と被控訴人製品の意匠を直接並べて比べれば、後者の短辺の円みの方が前者のそれより幾分円弧が深くてとがつたように見えるという差異が認められるとしても、別々に観察した場合には、その円みに差異を認めることはできない。

二 被控訴人の補充した主張

1 本件登録意匠の対象である電話送受話器カバーなるものは、一枚のレザーシート様の材料で、送受話器の握りの部分(一種の筒状体)を包むだけのものであるから、わざわざどこを要部と認定しなければ、他の意匠と対比ができないというものではない。全体的に観察してその類否を決すれば充分である。

仮に、本件登録意匠につき、被控訴人製品の意匠との対比のため要部なるものを認定する必要があるとしても、その表面部(平面図)のみをもつて要部とし、底面部が要部たることを否定するのは、失当である。

控訴人は、送受話器カバーが、電話器本体カバー、電話器マツトとともにパツクされて小売店に陳列される場合、購入者に見えるのは、送受話器カバーの平面部のみで、底面部は下に隠れて見えないと主張するが、取引者にしろ消費者にしろ、パツクされた状態でのみ商品を見、中を確かめないでこれを取扱つたり、購入したりする者はいない。必ず中味の商品をパツクから取り出して詳細に観察するであろう。しかして、送受話器カバーをパツクより取り出して観察するときは、送受話器カバーの底面部も極めて自然に観察者の眼に触れることになる。

控訴人はまた、送受話器カバーが家庭、事務所等において送受話器の把手に装着された場合にも、その底面部は下に隠れて見えず、見えるのはその平面部であつて、底面部は電話の使用時には掌中において指の間から見えるが、それは電話使用時の短時間だけであると主張するが、いやしくも、送受話器カバーの底面部が、電話使用時において、看者の眼に触れる(しかも使用時には、その部分が最も眼に触れやすい。)以上、それが電話不使用時に比して時間的に短いという理由をもつてしては、底面部の要部性を否定することはできない。

なお、平面の形状が長方形状で両短辺が半円形であり、その短辺部にブレードによる縁飾りを施した送受話器カバーは、本件登録意匠の登録出願前すでに公知であつた。したがつて、たとえ平面部のみをとつて比較するにしても、本件登録意匠の範囲は、これを限定的に解すべきものである。

2 意匠の類否の判断に当つての観察方法は、商標の類否の判断が離隔的観察によるのと異つて、対比観察によるものとする見解が確立している。しかも、その対比観察は、「肉眼によつて、物品の外観を直接並べて観察する」

ものとされているのである。

右の対比観察の方法として、直接対比観察と間接対比観察なるものがいわれることがある。しかし、「間接対比観察」なる観念は、論者によつて同一ではなく、かついささか理解しがたいところがある。

控訴人は、意匠の類否を判断するに当つては、間接対比観察によるべきで、直接対比観察によつて判断するのは誤つていると主張するが、その趣旨は結局において不明である。意匠の類否判断に当つての正しい観察方法は、両意匠を直接並べて肉眼により比較観察する以外になく、この観察方法による場合、本件登録意匠と被控訴人製品の意匠との間には、明白な差異が認められる。

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