東京高等裁判所 昭和58年(ラ)334号 決定 1983年8月24日
抗告人 株式会社 昭林
主文
本件抗告を棄却する。
理由
一 本件抗告の趣旨及び理由は、別紙執行抗告状の「抗告の趣旨」「抗告の理由」に記載のとおりであるが、その理由の要旨は、抗告人は債務者兼売却物件所有者であるが、債権者日本海貿易株式会社との取引契約は本件競売申立以前に終了し、かつ、右契約に基づく債権も本件競売申立以前に相殺によつて消滅していたのであるから、本件根抵当権の被担保債権は存在せず、原決定には民事執行法七一条一号の事由があるのでその取消しを求めるというのである。
二 しかし、担保権の実行としての競売手続においては、被担保債権の不存在ないし消滅、担保権の不存在ないし消滅を理由とする債務者の不服申立は民事執行法一八二条の規定に基づく不動産競売開始決定に対する執行異議によるべきものであり、競売事件の迅速処理を目的として制定された同法の立法趣旨に照らせば、売却許可決定後にこれに対して競売開始決定以前に被担保債権、担保権が消滅したことを主張して執行抗告の申立をすることは許されないものと解するのが相当である。
三 したがつて、本件競売申立以前に被担保債権が消滅した旨の本件抗告の理由は、民事執行法七一条一号にあたるものではなく、主張自体失当であるというべきであある。
四 よつて、本件抗告は理由がないから棄却することとし、主文のとおり決定する。
(裁判官 森綱郎 片岡安夫 小林克已)
執行抗告状
東京都中央区日本橋本石町三丁目四番
抗告人 株式会社 昭林
代表者代表取締役 林昭宏
東京都港区芝大門一丁目四番四号
ノア芝大門四〇七号
抗告人代理人 弁護士 藤巻克平
宇都宮地方裁判所大田原支部昭和五五年(ケ)第一五〇号不動産競売事件につき、同裁判所が昭和五八年六月七日に言渡した売却許可決定に対し、執行抗告をする。
抗告の趣旨
原決定を取消し、日本海貿易株式会社に対する売却を不許可とする裁判を求める。
抗告の理由
1 抗告人は、目的不動産の所有者である。
2 本件競売手続は、昭和四六年七月一〇日設定の根抵当権(以下本件根抵当権という)の実行としてなされているものであるが、以下に記するとおり本件根抵当権の被担保債権は、既に全額消滅しており、従つて執行裁判所は、競売手続を開始しまたは続行すべきではない。
3(1) 申立債権者である日本海貿易株式会社(以下債権者という)と申立債務者である抗告人とは、昭和四五年一〇月一日付を以て、債権者を売主、抗告人を買主とするソ連邦産木材の継続的売買に関する「継続的商取引契約」(疏第 号証-以下本件取引契約という)を締結し、締結の頃以降本件取引契約に基づきソ連邦産木材(以下ソ連材という)の継続的売買取引を行って来た。
(2) 債権者は、昭和五一年度においては、本件取引契約及びこれに付帯する合意(昭和五一年一月二〇日頃合意成立)に基づいて、抗告人に対し、一年間に一〇万立方メートルのソ連材を引渡すべき義務を負つていた。
因みに、東京地方裁判所昭和五三年(ワ)第三四四四号事件の判決(昭和五八年二月二八日言渡)は、この点に関し、別紙のように判示している。同判決にある原告とは東洋産業株式会社、被告とは債権者、訴外会社とは抗告人を指している。
(3) 然るに債権者は、正当な理由なく、抗告人に対し、同年一月中に二、六九八・一〇九立方メートル、二月中に七、八四二・四五四立方メートルの引渡をしたのみで、その余の八九、四五九・四三七立方メートルの引渡をせず(債務不履行)、ために抗告人は、少くとも一、一六七、九一〇、三五八円の損害を蒙つた。
(4) そこで抗告人は、上記の損害賠償金を自働債権とし、抗告人が負担していた約束手形金債務(原因関係は本件取引契約に基づく売買代金債務その他)七七九、〇二二、四三六円を受働債権として、東京地方裁判所昭和五四年(ワ)第一三〇一号事件の訴状を以て、対当額にて相殺する旨の意思表示をなし、同意思表示は、昭和五四年三月二六日債権者に到達した。
よつて、抗告人の債権者に対する債務は、一切消滅しており、本件根抵当権の被担保債権は、存在しない(尚、債権者は、昭和五一年六月に約束手形を取立に回して抗告人を倒産させ、本件取引契約を継続する意思のないことを行動で表明している)。
(5) 尚、目的不動産について、上記東京地方裁判所昭和五四年(ワ)第一三〇一号事件の訴提起に伴い、本件根抵当権の抹消予告登記がなされている。
4 尚、追つて抗告の理由の補充書並びに追加疏明書類を提出する予定である。
5 以上の次第で、抗告の趣旨掲記の裁判を求める。
添付書類
一 資格証明書 一通
二 委任状 一通
昭和五八年六月一四日
抗告人代理人
弁護士 藤巻克平
東京高等裁判所
民事部 御中