東京高等裁判所 昭和58年(行ケ)106号 判決
1 請求の原因1ないし3の事実は当事者間に争いがない。
2 そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。
(一) 成立に争いのない甲第二号証及び第三号証によれば、本願発明は頭部太径のステツプル(頭部太径のステツプルが本願発明の出願前周知であつたことは、当事者間に争いがない。)の打込機に関するものであつて、「従来のステツプル打込機にあつて、打出筒に連通させてその側方に突出させているステツプルの収納庫を、これが狭い部分での打込作業の邪魔にならないよう打出筒の先端方向とは反対の方向へ湾曲させて打込機の本体に沿わせていたものは、………自体の頭部に絶縁体を装着してその頭部が大きくなつているステツプルを入れる場合には、上記の湾曲部においては互いに隣り合うステツプルの脚先相互が広がつた状態になつてそれらの嵩ばりが大きなものとなつてしまい、収納庫に収納できるステツプルの数が非常に少なくなつてしまう欠点がある」(本願発明の明細書第三頁第一行ないし第一四行)ので、「本発明は、上述の欠点を除くようにしたもので、収納庫に上記のようなステツプルを入れる場合でもこれを密な状態に入れることができて、たくさんのステツプルが入れられるようにしたステツプル打込機を提供しようとするもの」(同頁第一五行ないし第一九行)であつて、この目的を達成するために特許請求の範囲記載の構成、特に、「収納庫は打出筒との連通部分に近い部分から打出筒の先端方向に向けて湾曲させ」、「上記収納庫内には、夫々頭部に太径の絶縁体が付設されている複数並列のステツプルを、ステツプルにおける細径の脚部が夫々湾曲部の内周壁側に位置し、かつ絶縁体を付設した太径の頭部が湾曲部の外周壁側に位置する状態で収納し」との構成を必須の要件としたものであることが認められる。
これに対し、成立に争いのない甲第四号証によれば、引用例記載の打込機は、数多く配列結合する止留釘1(本願発明のステツプル)を順次供給しうるようにした収容筐4(本願発明の収納庫)を、機本体3内に連通させ、その連通部分から断面半円弧状にして(湾曲させて)設けたものであつて、この収容筐4には、止留釘1の脚部が収容筐4の外周壁側に位置し、頭部がその内周壁側に位置する状態で止留釘結合体が収納されているが、この止留釘1は、「止留釘1は第7図に示す如くコ字状に形成し、左右両端を尖らせる。連結帯2は可撓性絶縁物質で次の様にこしらえる。即ちコ字状の跨り片2´を多数直線状に並列させ、隣接せる各跨り片2´……の両側部を互に一体に連続させて構成する。そしてこの各跨り片2´……の脚部2´´、2´´にその上部から上記止留釘1の両先端部を突き挿す。そしてこの連結帯2を円弧状に折り曲げ、各止留釘1……の基杆部を互に円弧状に重合、隣接させる。すると多数の止留釘1……が放射状に配列結合せる止留釘結合体aが得られる。」(引用例公報第一欄第二八行ないし第二欄第一行)との記載及び別紙図面(二)第7図に示されているように、脚部に絶縁体を付設して結果的に脚部を太径にしたもの(以下「脚部太径のステツプル」という。)であり、この止留釘1の結合体を移送して収容筐4から機本体3内に順次押し出しうるように構成されていることが認められ、このような脚部太径のステツプルも本願発明の出願前よく知られていた事項ということができる。
ところで、引用例記載の打込機のように、断面半円弧状(湾曲状)の収納庫に両端方向でそれぞれ巾の異なる同一物品を多数収納し、これらを庫内の半円弧状案内に跨がせて重合状態で移送させる時、物品の巾広側を収納庫の外周壁側に、巾狭側を内周壁側に向けて跨がせる方がこれと逆方向に向けて跨がせるよりも、庫内の空き空間が少なく、かつ物品の充填率が高いことは当然のこととして理解できるところであり、またこのように収納する時は、重合した前後の物品の接触する部分が多くなり、収納庫の半径方向(放射方向)に向いて物品が揃い、移送時案内の円弧の接線方向押圧力に対して物品の押圧力を受ける面が直角に保持され易く、物品の移送が無理なく円滑に行われることも技術常識の範囲を出るものではない。
そして、前述の両端方向でそれぞれ巾の異なる物品の範疇に属する頭部太径のステツプル又は脚部太径のステツプル(これらが本願発明の出願前周知の事項であつたことは前述のとおりである。)を断面半円弧状等の湾曲した収納庫に多数収納して円滑に移送させるためにも、ステツプルの太径(巾広)側を収納庫の外周壁側に、細径(巾狭)側を内周壁側に向けて位置させて収容しなければならないのであつて、本願発明の対象とする頭部太径のステツプルにあつては、頭部が収納庫の外周壁側に、脚部がその内周壁側に位置するように収納し、この逆に、引用例記載の打込機の対象とする脚部太径のステツプルにあつては、頭部が収納庫の内周壁側に、脚部がその外周壁側に位置するように収容することは、当然のことであり、またこれらのステツプルが収納庫から打出筒に送入される時、ステツプルの脚部が打出筒の先端方向(下方向)に向くように送入されなければならないことも技術上自ら要請されるところであるから、ステツプルの頭部が収納庫の外周壁側に向いている本願発明にあつては下方から上方に向つてステツプルを移送しうるよう収納庫を打出筒との連通部分から打出筒の先端方向に向けて湾曲させる(この場合、収納庫の開口部は打出筒の全長の途中に位置する。)構成をとり、これに対し、ステツプルの頭部がその内周壁側を向いている引用例記載の打込機にあつては、上方から下方に向つてステツプルを移送しうるよう収容筐を機本体との連通部分に近い部分から機本体の上方に向けて湾曲させる(この場合、収容筐の開口部は機本体の先端に近接して位置する。)構成をとることも、当業者が当然採用する技術的手段である。
したがつて、本願発明が採用した「収納庫は打出筒との連通部分に近い部分から打出筒の先端方向に向けて湾曲させ」、「上記収納庫内には、夫々頭部に太径の絶縁体が付設されている複数並列のステツプルを、ステツプルにおける細径の脚部が夫々湾曲部の内周壁側に位置し、かつ絶縁体を付設した太径の頭部が湾曲部の外周壁側に位置する状態で収納し」との構成は、従来例のステツプル打込機において頭部太径のステツプルを対象とする時は、当業者が当然採用する技術的手段にすぎないというべきである。
原告は、引用例のコ字状の跨り片2´は、脚部相互の整形の必要性から脚部相互間に大きな空間を保持させるため設けられたものであり、本願発明とは技術的思想を異にする旨主張する。
しかしながら、引用例のコ字状の跨り片2´が脚部相互の整形の必要性から設けられたものであるとしても、前掲甲第四号証によれば、引用例記載の打込機において、止留釘1を収容筐4内で上方から下方に送る場合、止留釘1の脚部が機本体3の先端方向(下方向)に向くよう送入しなければならないため止留釘1の脚部が収容筐4内において外周壁側に向くことになり、このように脚部を外周壁側に向けると脚部が頭部より太径でなければ止留釘1を円滑に移送できなくなるので、脚部に跨り片2´を付設することによつて太径にしたものと認められ、結局、止留釘1の脚部に跨り片2´を設けることは、実質的に脚部に太径部を作ることを意味するから、引用例には、本願発明と同じく、湾曲した収納庫内に収容したステツプルを円滑に移送するためには、太径部を収納庫の外周壁側に、細径部をその内周壁側に位置させて収容させなければならないという技術的思想が開示されているというべきであつて、原告の右主張は理由がない。
(二) 原告は、本願発明は、引用例記載の打込機に比較して、原告主張の構成上の相違により、頭部太径のステツプルを約倍量収納できるものであり、かつステツプルの太径頭部は収納庫の外周壁に案内されて軽快に前進するという優れた作用効果を奏するものである旨主張する。
しかしながら、本願発明における原告主張の構成は、従来例のステツプル打込機において、頭部太径のステツプルを対象とする時に、当業者が当然採用する技術的手段にすぎないことは、前述のとおりであるから、その作用効果も、本願発明における構成を採用することにより通常予測できる範囲のものにすぎないことは明らかである。
(三) 以上のとおりであるから、本願発明は、引用例におけるように、湾曲した収納庫に多数のステツプルをその太径側を収納庫の外周壁側に、細径側を収納庫の内周壁側に向けて収納し、これらのステツプルを収納庫から連通部分を介して打出筒内に移送させる技術的手段が開示されている場合において、このステツプル打込機に、周知の頭部太径のステツプルを適用するに際し、当業者が必要に応じ当然採用すべき技術的手段を採用することにより想到することができたものというべきである。
審決は、本願発明においては、ステツプルが頭部に太径の絶縁体を付設しているのに対し、引用例記載の打込機においては、ステツプルが頭部に太径の絶縁体を付設していない点を相違点(2)とし、その相違点に基づき本願発明が進歩性を有するかどうかを審理するに当たり、「このステツプルと本願の発明の打込機との構成上の関連性は認められない。」と判断している。しかし、その意味は必ずしも明瞭でないのみならず、ステツプルの頭部が太径であることとこのステツプルを頭部が収納庫の外周壁側に、脚部がその内周壁側に位置するように収納庫内に収納し、これを下方から上方へ移送する等の構成とは全く関連性がないとした趣旨であるとすれば、右関連性につき前記(一)において説示したところに照らし措辞妥当とはいえないが、審決は、結局、本願発明は、引用例に記載された事項及び周知の事項から当業者が容易に発明できたものとしているのであり、その判断は結論において誤りはない以上、審決には原告主張の違法があるとすることはできない。
3 よつて、審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求は失当としてこれを棄却する。
〔編註その一〕 本願発明の要旨は左のとおりである。
ステツプルを一個宛打ち出し得るようにした打出筒の途中には、打出筒内にステツプルを順次供給し得るようにしたステツプル収納庫を連通させ、さらに上記打出筒には、供給されたステツプルを打出筒の先端から打出し得るようにした打込片を上記打出筒の先端に向けて進退自在に備えるステツプル打込機において、上記収納庫は打出筒の側方へ突出状に設けると共に、該収納庫は打出筒との連通部分に近い部分から打出筒の先端方向へ向けて湾曲させ、上記収納庫内には、夫々頭部に太径の絶縁体が付設されている複数並列のステツプルを、ステツプルにおける細径の脚部が夫々湾曲部の内周壁側に位置し、かつ絶縁体を付設した太径の頭部が湾曲部の外周壁側に位置する状態で収納し、更に上記収納庫内には、収納庫内にある上記複数のステツプルを上記打出筒との連通部分に向け付勢してその連通部分から打出筒内に順次押出し得るようにした押片を備えさせたことを特徴とする頭部に太径の絶縁体が付設されているステツプルの打込機。
(別紙図面(一)参照)
〔編註その二〕 本件に関る図面は左のとおりである。
別紙
(一)
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