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東京高等裁判所 昭和58年(行ケ)119号 判決

1 請求の原因1ないし3の事実は、当事者間に争いがない。

2 そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。

(一) 本願発明は、両へりを折り返した弾性金属ケーブルから成る層を含むブレーカにおいて折り返されたケーブルの折り曲げ点の近く、又は折り曲げ点そのものにおいて多数の破断が生じるのを除き、又は減少させることを目的とし、右折り曲げ点における破断は、撚り方向S状のケーブルを用いてケーブルの傾斜方向Z状の層を作る場合、この層を折り返すと、折り曲げ点においてケーブルが過度にねじられる結果になることが原因するのであつて、撚り方向S状のケーブルを用いてケーブルの傾斜方向S状の層を作り又は撚り方向Z状のケーブルを用いてケーブルの傾斜方向Z状の層を作るならば、この層を折り返すと、折り曲げ点の近くでケーブルのねじれが戻り、ケーブルの破断が防止ないし減少されるという知見に基づき、「折り返されたブレーカ層ならびにこの層を構成する前記弾性金属ケーブルを互いに同一型(S型またはZ型)であるようにした」ものであることは、当事者間に争いがない。

そして、成立に争いのない甲第二号証によれば、本願明細書の発明の詳細な説明中には、「ケーブルまたは撚線のそれぞれ撚線または線の見える部分が、これを見る観察者に対して、大文字S(またはZ)の中央部と同一方向の傾斜を有する場合に、そのケーブルまたは撚線をS字状(またはZ字状)と言う。(中略)層を構成するケーブルが、これを見る観察者に対して、大文字S(またはZ)の中心部と同一方向の傾斜を有する場合、その層をS状(またはZ状)と言う。折り返された層の場合には、タイヤの軸線に最も近い部分におけるケーブルの方向、または層のへりの折り返す前のケーブルの方向を考慮する。」(本願発明の特許公報第二欄第三一行ないし第三欄第八行)と記載されていることが認められるから、前記「折り返されたブレーカ層ならびにこの層を構成する前記弾性金属ケーブルは互いに同一型」とは、両へりを上方に(タイヤ軸心から見て外側に)折り返された層を構成するケーブルの、層のへりを折り返す前の傾斜方向と、この層を構成するケーブルの撚り方向とが同一型であることを意味するものである。

以上によれば、当該構成が前記目的を達成するための技術的手段として、本願発明の必須の構成要件をなすものであることは明らかである。

(二) ところで、成立に争いのない甲第三号証によれば、引用例記載の発明は、本願出願人と同一の出願人に係る空気入りタイヤの改良に関するものであり、引用例には、異なつた要因がどのようにしてタイヤのコーナリングパワーに影響するかを示す実施例の一つとして、「実施例3 頂上強化のコードの弾性係数の影響」に、「(a)Fig5及び6の型のタイヤはそのへり22及び23が狭い外側の層24の上に折り返された広い内側頂上層21を含み(中略)これらのタイヤは次のごとき差異を示す。」としてタイヤⅦとⅧの各層別の各コードの規格等を挙げており、その中に、「タイヤⅦ頂上層21 Steel 3(1+6)0.12mm」と記載されていること(第五欄第三四行ないし第五一行)が認められ、右記載に基づいて別紙図面(二)Fig5及び6を検討すると、引用例には、タイヤ外皮において、放射方向カーカスとトレツド間に、折り返しのない、スチールケーブルから成る層24と、この層24を抱え込むように両へり22、23を上方(外方)に折り返した、三本の線を撚り合せて作られたスチールケーブルから成る層21とから構成されたブレーカであつて、この層21は右上り平行斜線をもつて描かれた複数のケーブルで構成され、かつ右ケーブル内にもそれぞれ右上りの平行斜線が描かれたものが開示されていることが明らかである。

引用例のFig5及び6に描かれた層21を構成する複数のケーブルの右上り平行斜線がケーブルの傾斜方向を示すものであることは当事者間に争いがない(したがつて、引用例に開示されたブレーカは、Z状層を上方に折り返したものである。)が、原告は、右ケーブル内に描かれた右上り平行斜線は、撚り方向を示すものではない旨主張するので、この点について検討すると、前掲甲第三号証によれば、引用例には、ケーブル内の平行斜線がケーブルの撚り方向を示すものであるとの記載はなく、また、成立に争いのない甲第五号証ないし第七号証によれば、引用例記載の発明の第一国出願(フランス国特許第一、四七三、〇二九号)及び右第一国出願に基づいて優先権を主張した日本国特許出願(昭和四一年特許願第七八四〇三号、特許出願公告昭五一―一七七六一号)及びドイツ連邦共和国特許出願(同国特許第一六八〇四二一号)に係る特許明細書等に徴しても、引用例の前記ケーブル内に描かれた平行斜線がケーブルの撚り方向を示すものであることを裏付ける記載はないことが認められる。

したがつて、引用例の前記ケーブル内に描かれた平行斜線がどのような技術的意味を有するかについては、タイヤ外皮におけるブレーカ層を構成するケーブルを図面により示す場合の通常の技術常識に従つて判断するのが相当であるところ、引用例記載の発明の出願当時、複数の線を撚り合せたケーブルにS撚りとZ撚りの二種類が存したことは当事者間に争いがなく。その撚り方向を図示する場合には、S型(S状)については左上り、Z型(Z状)については右上りの平行斜線をもつて描くのが通常の表示方法であることは技術常識上明らかであるから、引用例のFig5及び6に描かれた層21を構成するケーブル内の右上り平行斜線はケーブルの撚り方向がZ型(Z状)であることを示すものというべきである。

このことは、引用例記載の発明の特許出願人と同一の出願人(したがつて、本願出願人とも同一の出願人となる。)の発明に係るフランス特許第一、四二七、八八六号明細書の記載内容からも裏付けられる。すなわち、前掲甲第二号証によれば、本願発明の明細書の発明の詳細な説明中に、「実際上、タイヤの製造に用いられている弾性金属ケーブルはS型である。本発明に先立つて、カーカスの上に最初に置かれるブレーカ層としてZ状層を用いることが行なわれていた。これはフランス特許第一四二七八八六号の第2図に示されている場合である。」(第三欄第一八行ないし第二四行)として、右フランス特許第一、四二七、八八六号を先行技術として引照し、該特許発明のケーブルの撚り方向はS型であるとしていることが認められ、更に、成立に争いのない甲第四号証によれば、右フランス特許明細書のFig1(ブレーカを有するタイヤの横断面図)及びFig2(Fig1に記載されたブレーカの展開平面図)には、タイヤ外皮において、放射方向カーカスとトレツド間に、折り返しのない、ケーブル(実施例としてスチールケーブルを含む。)から成る層8と、この層8を抱え込むように両へり7´、7´を上方(外方)に折り返した、ケーブルから成る層7とから構成されたブレーカが記載され、右ケーブルは、層7中でZ状に配置されているのに対し、ケーブル内には左上りの平行斜線が描かれていることが認められ、ここに図示されたものは撚り方向S型のケーブルであることは原告も否定できないところであろう。そして、引用例のFig5及び6に記載されたものの構成は、ケーブル内の斜線方向が異なる点を除いて、右フランス特許明細書記載のものと格別異なるところがなく、同一出願人が両発明の明細書においてブレーカ層及びこの層内のケーブルにつき略同様な表示方法を採りながら、ケーブル内の斜線方向についてのみ異なる表示をしているのは、たまたまそうしたというのではなく、そこに有意の差異を示したものとみることができるのであり、したがつて、引用例の前記ケーブル内に描かれた平行斜線はZ状のケーブルの撚り方向を示すものとみるのが相当である。

したがつて、引用例のFig5及び6に描かれた層21は、その技術的意義は暫く措き(後述の(三)において判断する。)、両へり22、23を上方に折り返した、Z型(Z状)のケーブルで構成されたZ状層であり、この構成は、前掲甲第二号証によれば、本願明細書の発明の詳細な説明中に、実施例として開示され、別紙図面(一)Fig2Z、Fig3Zに図示されている、へりを上方に折り返した、Z型(Z状)のケーブルで構成されたZ状層と全く同一の構成を示すものというべきである。

(三) 原告は、引用例のFig5及び6に描かれたケーブル内の平行斜線がケーブルの撚り方向を示すものであるとしても、引用例には、右ケーブルの撚り方向と層を構成するケーブルの傾斜方向との相関関係については何ら示唆するところがないから、当業者は引用例記載の発明に基づいて、本願発明における「折り返されたブレーカ層ならびにこの層を構成する前記弾性金属ケーブルは互いに同一型(S型またはZ型)であるようにした」という技術的思想に想到することは容易になしうるところではない旨主張する。

前掲甲第三号証によれば、引用例には、ケーブルの撚り方向とケーブルの傾斜方向との相関関係については明示的な記載はないことが認められる。

しかしながら、一般にS型(S状)のケーブルをS状に(Z型((Z状))のケーブルであればZ状に)配置して、このケーブルを上方に折り曲げると折り曲げ点のケーブルのねじれが戻り、下方に折り曲げるとねじれが強まることは当然の理であり、ケーブルに関係する技術分野に属する者であれば技術常識にすぎないというべきである。そして、ケーブルがその撚りが強まる方向、すなわち過度にねじられる方向に折り曲げられると、ケーブルを構成する鋼線の内部応力が増大し破断し易くなり、逆にねじれが戻る方向に折り曲げられるときは破断し難くなることも当業者が技術常識に基づいて容易に理解できるところである。

そして、引用例には、Z型(Z状)のケーブルをZ状層にして上方に折り返えしたブレーカが開示されていることは、前述のとおりであり、このものは本願発明における折り返されたブレーカ層ならびにこの層を構成するケーブルを互いに同一型としたものと差異がないから、当然に折り曲げ点の近くでケーブルのねじれが戻り、ケーブルの破断力と弾性が増大するという本願発明の効果と同一の効果を奏しうるものである。

してみると、前述した技術常識を考慮したとき、引用例には、ブレーカ層を構成するケーブルの撚り方向と傾斜方向を同一型(S型またはZ型)とする本願発明の技術的思想が明記こそされていないが、当業者が容易に想到しうるように示唆されているというべきである。

四 以上のとおりであるから、本願発明は引用例記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとした審決の判断は正当であつて、審決には原告の主張する違法の点は存しない。

3 よつて、審決の違法を理由に審決の取消を求める原告の本訴請求は失当として棄却する。

〔編註その一〕 本願発明の要旨は左のとおりである。

放射方向カーカスとブレーカとを含み、ブレーカは弾性金属ケーブルから成る少なくとも一枚の折り返された層を含むようにしたタイヤ外皮において、前記の折り返されたブレーカ層ならびにこの層を構成する前記弾性金属ケーブルは互いに同一型(S型またはZ型)であるようにしたタイヤ外皮。

(別紙図面(一)参照)

〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。

別紙図面(一)

<省略>

別紙図面(二)

<省略>

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