東京高等裁判所 昭和58年(行ケ)161号 判決
【事実】
第一 原告訴訟代理人らは、主文同旨の判決を求め、請求の原因として、次の一ないし四のとおり述べた。
一 特許庁における手続の経緯
原告は、昭和四七年六月七日、名称を「流体を排出する容器に用いるバルブ」とする発明につき、一九七一年六月七日にアメリカ合衆国においてした特許出願に基づく優先権を主張して特許出願(昭和四七年特許願第五六七八七号。以下「原出願」という。)をし、続いて昭和五〇年四月二一日、原出願からの分割出願として、名称を「容融金属の流れを制御する摺動ゲート閉鎖機構」とする発明(以下「本願発明」という。)につき、右と同じ優先権を主張して特許出願(昭和五〇年特許願第四八五五〇号)をし、昭和五二年六月二一日出願公告(昭和五二年特許出願公告第二二九〇〇号)をされたが、特許異議の申立てがあり、昭和五四年九月二六日拒絶査定があつたので、昭和五五年二月四日審判を請求し、昭和五五年審判第一五一四号事件として審理された結果、昭和五八年二月七日、「本件審判の請求は成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)があり、その謄本は同年五月九日原告に送達された。なお、出訴期間として三か月を附加された。
二 本願発明の要旨
A 耐火頂板を収容しており、
B この頂板に設けた開口が容器の注入開口と重なり合つている前記容器の注入開口を通る溶融金属の流れを制御する摺動ゲート閉鎖機構であつて、
C この機構が耐火ゲート・プレートを有し、このプレートが前記頂板に接触して前記頂板の開口のまわりの密封する領域に沿つて制御位置へ摺動可能であり、前記制御位置において選択されたゲート・プレートの開口又は開口のない部分が前記頂板の開口と重なり合つたとき、液体金属の流れをそれぞれ許容し又は停止させるようになつており、
D 更に、前記ゲート・プレートを収容しかつ支持している構造体と、
E 圧縮されると弾発力を前記ゲート・プレートに作用させるように前記構造体に配設されたばね装置とを有するものにおいて、
F 前記構造体の一方の側に間隔を置いて固着された複数個のブラケットを有し、これらのブラケットのそれぞれには前記容器に固定されたピン(28)が嵌まり込んでいる長孔(35')が形成されており、この長孔の長手方向の軸線は、前記ゲート・プレートの上面が前記頂板の下面とほぼ平行になつたときには、該下面に対してほぼ垂直になるようになつており、
G また、前記容器に取付けたラッチ装置があつて、この装置を前記構造体の他方の側に固着した部材に係合させたりこの係合を解除したりすることができ、係合させると前記ゲート・プレートの上面と前記頂板の下面とが前記両面の間にある間隔を置いて向かい合う状態に保持され、上記の係合を解除すると前記の状態が解除されるようになつており、
H 更にまた、前記構造体がラッチされているときに前記ピンを前記ブラケットの長孔に沿つて摺動させて前記ばね装置の弾力に抗して前記ゲート・プレートを前記頂板に接近させて密着させ、更にこの密着状態を維持する装置があり、
I 前記の密着状態を解除し更にラッチを解除して前記構造体を開いた位置に揺動させると、前記ゲート・プレートと前記頂板とに接近できるようになつていることを特徴とする摺動ゲート閉鎖機構。
三 本件審決の理由の要点
1 原出願、原出願からの分割出願としての本願発明の特許出願の手続の経緯は、前記一の項記載のとおりであり、本願発明の要旨は、同二の項記載のとおりである。
2 これに対し、審判手続において通知された拒絶理由は、本願発明は、原出願の特許請求の範囲2の項に記載された発明(以下「原出願2項の発明」という。)と実質的に同一の発明と認められるので、特許法第三九条第一項の規定により、特許を受けることができない、というものである。
しかして、原出願2項の発明の要旨は、次のとおりである。
a 容器の外部に開口するように作業ノズルを廓定する装置と、
b 前記作業ノズルの開口を包囲する第一の耐火面を廓定する容器に固定した装置と、
c 第二の耐火面があり更に内部に注入開口を有する摺動部材と、
d この摺動部材を収容して担持するキャリアと、
e このキャリアを支持するように容器に固定されたフレームとを備えており、
f 前記キャリアは前記フレームの中で往復動することができ、前記フレームには前記二つの耐火面を互いに向き合つて摺動する関係に維持するように前記キャリアと協働する案内装置があり、
g 更に、前記キャリア内に配設されて前記摺動部材とともに往復動し、該摺動部材の耐火物に弾発力を作用させる複数個の弾性装置を備えており、これらの弾性装置は、前記摺動部材が前記作業ノズルに対していかなる位置関係にあつても該摺動部材の耐火物の縁と該作業ノズルとの中間にあつて該作業ノズルの開口を包囲するような位置に配設されており、該弾性装置のうちの少なくとも一つは運動の通路に沿つて前記注入開口の実質的に前方に、また、該弾性装置のうちの少なくとも一つは前記注入開口の実質的に後方に配置されており、それにより前記摺動部材にある第二の耐火面を変形させて前記作業ノズルの開口を包囲する第一の耐火面の形状に一致させるようになつている、流体を排出する容器に用いるバルブにおいて、
h 前記バルブが容器の注入開口に隣接して容器にヒンジ連結された支持体を有し、
i 容器に取付けた掛けがねが前記支持体を摺動ゲートを支持する作動位置に釈放可能に保持するようになつており、
j 前記支持体には、該支持体が作動位置にあるとき容器の注入開口と整合する耐火ノズルを備えた底部があり、
k 掛けがねをはずして前記支持体を開口位置へ揺動させると、摺動ゲートと耐火ノズルとに接近できるようになつている、流体を排出する容器に用いるバルブ。
3 そこで、本願発明と原出願2項の発明を比較、検討する。
(一) 本願発明の構成要件は、以下のとおり、表現上の差はあるものの、実施例を通して比較した場合実質的にすべて原出願2項の発明の構成要件に含まれている。
(1) 本願発明の構成要件Aは、原出願2項の発明の構成要件bに実質的に記載されており、同様に、Bはb、kに、Dはd、eに、Eはgに、Iはkにそれぞれ実質的に記載されている。
(2) 本願発明の構成要件Cは、原出願2項の発明の構成要件b、c、f、kに実質的に含まれる。
(3) 本願発明の構成要件Fの実施例は原出願2項の発明の構成要件hの実施例と同一であり、同様に、Gの実施例はiの実施例と、Hの実施例はjの実施例とそれぞれ同一である。
(二) また、原出願2項の発明の構成要件は、以下のとおり、すべて本願発明の構成要件中に実施例として含まれている。
(1) 原出願2項の発明の構成要件のうち、次の①ないし⑦の点以外は、明らかに本願発明の構成要件中に含まれている。
① 作業ノズル4
②静止頂板9が第一の耐火面を有する点
③摺動ゲート12が第二の耐火面を有する点
④ キャリア14
⑤ 耐火ノズル22
⑥構成要件f
⑦構成要件g中の「これらの負荷パッド15(弾性装置)は前記摺動ゲート12(摺動部材)が・・・・溶融金属(流体)を排出する容器Vに用いる摺動ゲート・バルブ5(バルブ)」
(2) 右①、④、⑤の点は、いずれも本願発明の作用効果に格別の影響を及ぼすものではない、周知の技術である。
(3) ②、③の点は、本願発明の静止頂板9、摺動ゲート12にも内在している。
(4) ⑥の点は、本願発明の構成要件Cに、⑦の点は、本願発明の構成要件Eに、それぞれ実施例として内在している。
(三) 構成要件AないしIを組合わせた点と構成要件aないしkを組合わせた点にも、格別の特徴の差は見出せない。
(四) そして、両者は、溶融金属の洩れを防止し、かつ、静止頂板9及び摺動ゲート・プレート12の交換を容易にするという同じ目的を有するものであり、作用効果についても、実施例に基づく具体的な構成が同一である以上、当然同一である。
(五) 以上によれば、本願発明と原出願2項の発明は、同一の目的を有し、実質的に同一の構成をとり、かつ、作用効果も同一であるので、同一の発明である。
4 したがつて、本願発明の特許出願は、特許法第四四条第一項の規定に基づく原出願からの適法な分割出願とは認められないから、出願日の遡及は認められず、同法第三九条第一項の規定により、特許を受けることができない。
四 本件審決を取消すべき事由
本件審決は、「本願発明と原出願2項の発明は、‥‥同一の発明である。」としたうえで、「本願発明の特許出願は、特許法第四四条第一項の規定に基づく原出願からの適法な分割出願とは認められないから、出願日の遡及は認められず、同法第三九条第一項の規定により、特許を受けることができない。」としたものであるが、原告は、原出願について、昭和五二年七月一三日に特許権の設定登録(特許第八六九三七九号)がされた後、昭和五八年六月一五日、願書添附の明細書の、「特許請求の範囲2の項を削除し、これに伴つて、発明の詳細な説明中の原出願2項の発明に関する記載(第五頁第一九行ないし第六頁第三行、第二一頁第一九行第二二頁第一行、昭和五一年六月一七日付手続補正書(5)項によつて挿入した事項)を削除し又は訂正する。」ことについて訂正審判を請求し、昭和五八年審判第一二五四八号事件として審理された結果、昭和五九年八月二日、「願書添附の明細書を請求のとおり訂正することを認める。」旨の審決があり、同年九月一九日にその謄本が原告に送達され、確定した。
したがつて、原出願は、当初から、特許請求の範囲2の項の記載のない明細書により特許出願がされたものとみなされる結果、本件審決は、原出願に係る発明の要旨の認定を誤つたことに帰するものであり、この誤りが本件審決の結論に影響を及ぼすべきことは明らかであるから、本件審決は、違法として取消しを免れない。
第二 被告指定代理人らは、請求原因事実はすべて認める、と述べた。
【理由】
一請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、同二(本願発明の要旨)及び同三(本件審決の理由の要点)の名事実は、当事者間に争いがない。
二そこで、請求の原因四の本件審決を取消すべき事由の有無について判断するに、請求の原因四前段の事実は、当事者間に、争いがなく、右事実によれば、原出願は、前記訂正審判の審決の確定により、その出願の当初から、特許請求の範囲2の項の記載(原出願2項の発明)のない明細書により特許出願がされたものとみなされるから、本件審決は、原出願に係る発明の要旨の認定を認り、その結果、誤つて、本願発明の特許出願の先願とはならない原出願をもつて、本願発明の特許出願の先願に当たると判断し、特許法第三九条第一項の規定により、本願発明の特許出願を拒絶すべきものとしたことに帰し、違法のものであり、右認定及び判断の誤りが本件審決の結論に影響を及ぼすべきことは明らかである。
(荒木秀一 竹田稔 水野武)