東京高等裁判所 昭和58年(行ケ)164号 判決
原告 山田薫 外一名
被告 山梨県選挙管理委員会
〔抄 録〕
二 ところで、一般に投票の効力を判定するに当たっては、公職選挙法第六七条後段の規定の趣旨に鑑み、投票の記載自体から選挙人が何びとに投票したのかその意思を明認できる限り、あたう限りその投票を有効とすべきものである。そして、候補者制度を採る現行の公職選挙法による選挙制度の下においては、多数の選挙人の中には故意又は無知により候補者以外の者の氏名等を投票に記載する者もないとはいえないけれども、およそ、選挙人は、適法かつ有効な投票をしようとする意思で投票の記載をするものと推定すべきであるから、選挙人は、候補者に投票する意思をもって投票の記載をしたものと推定すべきである。また、選挙人が候補者の氏名を自署する投票方式が採られている限りは、誤記、脱字その他不明確な記載の投票が生じることは避け難いところであるから、このような不明確な記載の投票についても、右にみたような趣旨から、その記載が候補者の氏名と一致しないものであつても、その記載の全体的考察により当該選挙人の意思がいかなる候補者に投票したものであるかを判断しうる以上、これを有効投票として選挙人の意思を尊重すべきである。したがって、投票の記載が候補者の氏名と一致又は近似すると同時に、それが候補者でない実在の人物の氏名と一致又は近似するという場合にあっても、選挙人が右実在の人物が当該選挙の候補者ではないことを知りながらあえてその氏名を記載したと推認するに足りる格別の事情又は選挙人がその人物が当該選挙に立候補したものと誤認して投票したと推認するに足りる格別の事情が認められるのでない限り、その投票は、投票の記載と一致し又は近似する当該選挙の候補者に投票する意思でなされたものと推定すべきである。
以上のような観点に立って、本件係争票の効力について判断すると、先ず、本件係争票中、「小宮」との記載のある二票については、右投票の記載は、参加人の姓の「小宮山」の記載の三文字中の最初の二文字と一致し、音感においても「こみやま」と「こみや」とは著しく近似するうえ、原本の存在及び≪証拠≫によれば、大泉村に居住する小宮姓の実在人二人は、いずれも知名度は決して高くはなかった女性であることが窺われるのであって、右各投票をした選挙人が故意又は無知により候補者ではない右の者らの姓を記載したものと推定すべき一般的情況はなんら見られないから、右の選挙人は、参加人の姓を記載しようとして、そのうちの「山」の一文字を脱落したものと推定するのが相当であり、右各投票は、いずれも参加人に対する有効投票というべきである(候補者の姓のみを記載した投票を有効と解すべきことは、いうまでもない。)。
次に、本件係争票中の「小宮山福一」票二票、「小宮山福二」票及び「こみやまふくじ」票各一票については、確かに右各投票の記載は、参加人の長兄又は次兄の氏名と完全に一致しているうえ、同人らは本件選挙に際して参加人のための選挙運動に従事していたというのであり、しかも、前記の争いのない同人らの地位、経歴等及び≪証拠≫によれば、同人らは大泉村においてはその氏名が一般に広く知られていたことが認められる。しかしながら、他方では、≪証拠≫によれば、参加人も、同村においてはその長兄及び次兄に劣らず知名度が高く、やがて村長に立候補するものと目されていたこと、本件選挙は、選挙人が三、〇〇〇人にも満たない比較的小規模なものであり、原告山田薫と参加人の二人のみがその立候補の届出をし、右両候補者の間では激しい選挙運動が展開されていたことが認められるのであり、これらの事情に鑑みると、前記のような事実のみをもっては、未だ右各投票は、選挙人が故意又は無知により候補者ではない参加人の長兄又は次兄の氏名を記載したものであると推認するには足り無いものというべきであって、右各投票は、いずれも参加人の氏名を記載する意思にありながら、その一部を誤記したものと推定すべく、参加人に対する有効投票と解するのが相当である。
以上によれば、参加人の得票数は、一、二七二票となり、仮に別紙記載の投票が原告山田薫に対する有効投票であると解することができるとしても、原告山田薫の得票数は一、二六八票にしか達しないから、いずれにしても参加人が最多得票者ではないということはできず、本件選挙における参加人の当選を無効とすることはできない。
(香川 越山 村上)