東京高等裁判所 昭和58年(行ケ)188号 判決
一 原告主張の請求の原因一ないし三の各事実(特許庁における手続の経緯、本願発明の要旨及び審決の理由の要点)については、当事者間に争いがない。
二 そこで、審決取消事由の存否について検討する。
1 原告主張の審決取消事由<1>について
成立に争いのない甲第二号証によれば、引用例には、その記載にかかる傘入れが、外箱の中に四個の室を設け、その中に多数の傘を吊すようになつており、この傘入れは停車場、デパート等大衆の集散する場所に設置して使用するものである旨記載されていることが認められるところ、右記載よりみれば、右傘入れは、使用場所によつては一個に限らず多数使用されるであろうことを推認するに難くない。
したがつて、本願発明と引用例との対比にあたり、傘を本願発明における物品とみた上、引用例に多数の物品収納室をもつ箱体が開示されているとした審決の認定に誤りはなく、また、これと同じ理由により、引用例の傘入れは物品を保管する多数の収納室をもつ箱体であるともいうことができるから、右審決取消事由<1>は理由がない。
2 同審決取消事由<2>について
前記甲第二号証によれば、引用例記載の傘入れは、その開閉扉ごとに広告文字と果物又は人物を描いた広告板を任意に取替えられるように挿入掛止自在にしているものであることが認められるから、その利用者は、室の中に傘を出し入れする際、広告板によつて傘を入れた室の扉を識別できることが明らかである。
原告は、この点につき、引用例記載の傘入れは、その内部に傘掛止用具を列設し、この用具に利用者と傘を一致させる預札番号を附しているので、引用例は、この番号によつて傘を個別に識別するものである旨主張するが、前記のように、利用者は最初に扉の広告板によりどの室に傘を入れたか識別できるので、この点において本願発明と引用例記載のものは一致しており、預札番号で傘そのものを識別することは、引用例記載のものが、一つの室に多数の傘を収納する構成となつているために、さらに別の識別手段を設けたというにすぎないものであつて、本願発明との対比においては、直接関係のないことである。
したがつて、審決が「引用例は傘入れの扉表面を広告表示の媒体として利用して宣伝効果を挙げるとともに、好ましくは扉ごとに異なる文字、絵柄の広告を表示して利用者が物品収納室を個別に識別するのを容易にするという目的、構成、効果を開示している。」旨認定した点に誤りはなく、右審決取消事由<2>は理由がない。
3 同審決取消事由<3>について
原告は、本願発明においては、コインロツカーの任意の表面に大きく広告を表示することにより、特定群発見のための目安になり、また、個々のロツカー正面、例えば扉表面に表示されている広告は使用中の特定ロツカーを見つけるための顕著な目標となる旨主張するが、特定群発見のための目安となるにはロツカー群ごとに大きな広告を表示しなければならず、また、個々のロツカーを識別するにはロツカーごとに広告を異ならせなければならないことはいうまでもないところ、前記本願発明の要旨によれば、本願発明においてはロツカーの適宜個所に広告を表示させることは限定されているが、それ以上に広告の表示個所や表示方法の限定はないことが明らかであるから、前記のような特定の表示によらなければ得られない原告主張の右効果を本願発明の作用効果とみることはできず、したがつて、右審決取消事由<3>も失当といわなければならない。
なお、原告の主張する宣伝広告の効果については、引用例記載の傘入れにおいても同様にこれを奏することができることは、前記甲第二号証により認められる引用例記載のものの構成から明らかであるから、右効果を、本願発明による格別の効果として引用例記載のものとの対比判断に影響を及ぼすものとすることはできない。
以上のとおりで、原告主張の審決取消事由はいずれも理由がなく、審決にはこれを取り消すべき違法はないというべきである。
三 よつて、審決の取消を求める原告の本訴請求を失当として棄却することとする。
〔編註〕 本願発明の要旨は左のとおりである。
コインロツカーの表面殊に扉の表面、または扉の裏面或はロツカー内部の任意の部位に、広告を表示した広告表示コインロツカー。