東京高等裁判所 昭和58年(行ケ)192号 判決
一 請求の原因一ないし三の事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、審決を取り消すべき事由の存否について検討する。
1 成立に争いのない甲第二、第三、第一六号証によれば、本願発明は、「二面分の原稿載置面を持ち両面複写に極めて有効で便利な操作性を有する電子写真複写装置を提供することを目的とするもの」(本願発明の願書に添附した明細書第二頁第一四行ないし第一六行及び昭和五八年三月一六日付け手続補正書6(4))であり、前示本願発明の要旨のとおりの構成を採ることにより、「二面分の原稿載置面上の二原稿を別々に複写することができるので、転写紙の両面に複写できることはもちろん、転写紙の片面にのみ複写することもできる。また立体物の二面はもちろん本等の左右頁面をも交換することなく原稿載置面にのせたままで複写できる。」(前記当初明細書第一九頁第二〇行ないし第二〇頁第八行及び前記手続補正書6(13))という作用効果を奏するものであることが認められる。
そして、成立に争いのない甲第一三号証及び口頭弁論の全趣旨によれば、引用例には、「転写紙の表裏に異なる画像を記録する両面複写機において、例えば連続した頁のごとき連続した情報の多数のフレーム(第二頁右欄第八行ないし第一二行)を有するマイクロフイルムをリール14、15によりセツトし、右フレームの一つを露光走査して感光体上に静電潜像を形成した後現像し、次いで次のフレームを同一の露光装置で露光走査して感光体上に異なる静電潜像を形成した後現像することによつて転写紙の表裏へ右フレームの一つ及び次のフレームの画像に対応する画像を記録することを特徴とした電子写真装置」(別紙図面(二)参照)が記載されていることが認められる。
2 そこで、本願発明と引用例記載の発明とを対比すると、まず、複写の対象となるオリジナルは、本願発明においては原稿台に載置された原稿であり、引用例記載の発明においてはリールにセツトされたマイクロフイルムであつて、両発明は、オリジナルの形態及びその設置状態を異にしている。
しかしながら、前掲甲第一三号証によれば、引用例には、機械は、例えば、一冊の本の連続した頁のマイクロ複写のごとく、その上に一連の像が並列関係で予め記録されているマイクロフイルム10のリールのフレームから拡大された原寸の複写を作るように配列して示されている、しかしながら、その他の露光資料で置換することが企図されている、例えば原寸の原シートから、例えばアイヒラーの米国特許第二九四五四三四号明細書に記載されている方法で複写を作るために光学系(装置)が使用される、この場合には、理解されるごとく原紙の左の余白が複写シートの頂として再生されるような方法で動作中に操作者がすべての原紙を次々に露光複写盤上へ置くことが必要である旨(発明の詳細な説明の項の第四欄第八行ないし第二〇行)記載されていることが認められ、右認定事実によれば、引用例には、オリジナルとして、マイクロフイルムに代えて原寸大のシートを用いることができる電子写真複写装置も示されているものと認められるのみならず、光学装置の分野において、オリジナルをマイクロフイルムとするもの、原稿台に載置された原稿とするもののいずれもが広く用いられていること(この点は当裁判所に顕著な事実である。)からすると、電子写真複写装置において、オリジナルを、引用例記載の発明におけるようなリールにセツトされたマイクロフイルム若しくは原寸大のオリジナルシートに代えて、本願発明のように原稿台に載置された原稿とすること自体は、単に慣用手段を置き換えたものといつてよく、当業者にとつて困難なことではないものと認めるのが相当である。
次に、本願発明と引用例記載の発明とは、転写紙の表裏両面に記録される連続した情報のオリジナルが、本願発明では、二枚一組の原稿として、二分された同一平面上にある第一面と第二面とを有する原稿台へそれぞれ載置されるものであるのに対し、引用例記載の発明では、マイクロフイルム中の連続したフレームとして設置されている点で相違しているところ、被告は、ポジフイルム等の原画に光を透過させてスクリーン上に画像を拡大、形成させるスライドプロジエクターにおいて、原稿に相当する原画を二こま交代方式のポジフイルム支持具に支持して順次一こまずつを光学回路に導入し、その間他の一こまは光学回路から外しておくようにした方式のもの、多数こまを連続的に光学回路に導入するようにした方式のもののいずれもが、本願発明出願前周知であつて、しかも相互に置換しうるものであることを根拠として、引用例記載の発明におけるような連続式のオリジナル導入方式を、本願発明のように、二枚一組の原稿が、二分された同一平面上にある第一面と第二面とを有する原稿台へ、同一露光装置により第一段階では第一面が、第二段階では第二面が順次露光走査されることを予定してそれぞれ載置されているものとすることは、当業者にとつて何ら困難なことではない旨主張する。
被告主張にかかる右各方式のスライドプロジエクターが本願発明出願前周知のものであつたことは原告も認めるところであり、二こま交代方式のスライドプロジエクターは、光学回路に導入すべきものを二枚一組にして支持具に支持させている点で、二枚一組の原稿を原稿台に載置する本願発明の電子写真複写装置と、また、多数こまを連続的に光学回路に導入するようにした方式のスライドプロジエクターは、並列関係にある一連の像の継起を記録したポジフイルム等の原画を設置する点において、同じ像の継起を記録したマイクロフイルムを設置する引用例記載の発明とそれぞれ右に記述した限度で技術的思想を共通にしているところがあるということができる。
しかしながら、転写紙の表裏両面に異なる画像を自動的に記録する電子写真複写装置において、コピー(複写を了した転写紙)の表裏関係に誤りを生ずることなく複写を行うためには、複写の対象となつている原稿が転写紙の表裏いずれの面に複写されるか、あるいはされているかを知ることが極めて重要であることはいうまでもないが、原稿を一枚ずつ原稿台に載置して転写紙の両面に複写する方式によつては、複写の対象である原稿が転写紙の表裏いずれの面に複写されるか、あるいはされているかを正確に認識できない場合の生ずることは明らかであり、右の点を解決し、表裏関係に誤りを生ずることなく複写を行わせるためには、別途相応の手段を講ずる必要がある。
そして、前掲甲第二、第三、第一六号証によれば、本願発明は、二分された同一平面上に第一面と第二面とを有する原稿台を設け、二枚一組の原稿をこれに載置し、同一の露光装置により、第一面に載置された原稿を転写紙の表面に、第二面に載置された原稿を転写紙の裏面にそれぞれ複写するよう構成したものであり、右のような構成を採ることによつて、原稿台に載置された原稿とそれが複写された場合のコピーの表裏との関係を明確に知ることができ、表裏関係に誤りを生ずることなく複写を行わせるようにしたものであることが認められる。
すなわち、本願発明において、原稿台は、単に原稿を載置させるというだけではなく、原稿が転写紙の表裏いずれの面に複写されるか、あるいはされているかを認識させる役割を担わされているものである。
前記二こま交代方式のスライドプロジエクターの支持具は、二枚一組のポジフイルム等原画を支持するにすぎないのであつて、本願発明の原稿台が有する右のような技術的意義を有しないことは明らかであり、右方式のスライドプロジエクターが周知であるからといつて、このことを根拠として、引用例記載の発明におけるような連続式のオリジナル導入方式を、本願発明のように二枚一組の原稿が二分された同一平面上にある第一面と第二面とを有する原稿台へそれぞれ載置されているものとすることは、当業者にとつて何ら困難なことではない旨の被告の前記主張は理由がないものといわざるをえない。
それゆえ、「オリジナルとしてのマイクロフイルム中の連続した情報の二フレーム」を原稿台へ載置した原稿に「置き換えをする際、本願発明のように二分された同一平面上にある第一面と第二面とを有する原稿台へそれぞれ載置されているものとすることは、当業者が容易になしえた程度のものである。」旨の審決の認定、判断は誤つているものといわざるをえない。
3 前記のとおり、本願発明にかかる電子写真複写装置においては、二面分の原稿台上に対応した二枚一組の原稿を載置することができ、表裏関係に誤りを生ずることなく、転写紙の表裏両面に複写をすることができるばかりではなく、本等の左右各頁を転写紙の表裏両面に複写する場合、原稿台上に本等を拡げたまま、すなわち片側頁を複写するごとに本等を持ち上げ、原稿台上で移動させることなく、複写を行うことができるものであつて、本願発明のこれらの作用効果は、前記構成を採用したことによる格別のものであつて、引用例記載の発明や前記周知技術から予測しうるものではないものというべきである。
被告は、複写作業を行う者が、予定した原稿の供給順序を間違えない限り、本願発明にかかる複写機、引用例記載の複写機のいずれにおいても、コピーにおける表裏関係に誤りは生じないのであるから、表裏関係に誤りを生じさせないということは本願発明の特有の効果であるとはいえない旨主張するが、前記のとおり、本願発明においては、複写機自体に右誤りを生じさせないような手段が講ぜられているのに対し、引用例記載の発明においては、転写紙とその表裏に転写されるべきフイルムとの対応関係を明確にするためフイルムを二枚一組にして、一方のフイルムの画像が転写紙の表面に、他方のそれが同じ転写紙の裏面に転写されるという技術的思想そのものが示されていないのであるから、被告の右主張が理由のないことは明らかである。
したがつて、本願発明と引用例記載の発明との構成の差異により格別の効果も生じない旨の審決の認定、判断も誤りというべきである。
以上のとおりであつて、本願発明は、引用例記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとした審決の認定、判断は誤つており、審決は、違法として取消しを免れない。
三 よつて、審決の取消しを求める原告の本訴請求は理由があるから、これを認容することとする。
〔編註その一〕 本願発明の要旨は左のとおりである。
転写紙の表裏に異なる画像を記録する両面複写機において、
二分された同一平面上にある第一面と第二面とを有する原稿台へそれぞれ複写される原稿を載置し、
上記原稿台の第一面を露光装置で露光走査して感光体上に静電潜像を形成した後現像し、次いで原稿台の第二面を同一の露光装置で露光走査して感光体上に異なる静電潜像を形成した後現像することによつて
転写紙の表裏へ上記原稿台の第一面及び第二面に載置された原稿画像に対応する画像を記録することを特徴とした電子写真装置。
(別紙図面(一)参照)
〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。
別紙図面(一)
<省略>