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東京高等裁判所 昭和58年(行ケ)199号 判決

一 請求の原因一ないし三及び四1、2の事実は、当事者間に争いがない。

二 そこで、原告主張の審決取消事由について検討する。

1 請求の原因四3について

原告は、引用例の開示技術は未完成のもので到底実用性のあるメツキ技術ではないと主張する。

しかし、本願発明が引用例の開示するところに基づいて容易に推考できたものかどうかを判断するに当たつて、引用例の開示技術が実用的に完成されたものかどうかは直接に関係があるものではない。しかも、成立に争いのない甲第四号証によれば、引用例は、写真のPD法とメツキ法を結合した新しいアデイテイブ写真造成法の開発を報告した論文であつて、その技術の内容を詳細に説明し、その応用例を挙げて実際に効果があることを示しているものであつて、原告の指摘するCu2+利用の場合を含め、十分に実用的な技術を開示しているものと認められる。もつとも、同号証によれば、引用例中には、「我々自身のTiO2にもとずく光メツキ法の研究は、まだ完成していない。」(同号証訳文一〇頁下から三・二行)との記載があることが認められるが、これはその理論的研究がさらに進められるべきことを意味していることは引用例の記載全体に照らし明らかであつて、右の認定を覆えすものではない。

原告の右主張は採用に値しない。

2 請求の原因四4について

(一) 引用例に請求の原因四2において示される方法が開示されていることは、当事者間に争いがない。

右事実と前掲甲第四号証により認められる引用例の記載、特に、PD―R光メツキ法を説明した部分のうちの「我々は合成接着剤中の極めて小さいTiO2粒子(〇・〇三~〇・五μm)の分散物を調整し、これらの分散物を絶縁性基板上に薄層として適用した。化学放射線(三六五nm)への露光の結果、この方法で作られた感光コーテイングは、Pd2+、Pt2+、Au+、Ag+およびCu2+のような金属イオンを還元して金属潜像を形成することが出来る。この潜像は、化学還元メツキによつて電導性の金属パターンに増幅され得る。」(同号証訳文一〇頁一〇ないし一七行)、「C2法では高感度材料を露光前にCu(Ⅱ)塩の稀水溶液で処理する。乾燥および化学放射線への露光ののち、水洗によつて、銅潜像の形成が完了する。この潜像は、無電解銅メツキによつて電導性パターンにまで増幅される。」(同一一頁二一ないし二四行)との記載によれば、引用例の方法においては、輻射還元工程の前に、絶縁基板上にTiO2粒子含有接着剤を塗布し、その塗布表面を酸化処理してTiO2粒子を接着剤層の表面に露出させ、その上面をCu(Ⅱ)塩の稀水溶液で処理しCu(Ⅱ)塩の層を形成させるものであり、次に、輻射還元工程として、化学放射線を照射し、Cu(Ⅱ)塩の金属イオンCu2+を感光還元剤であるTiO2粒子の働きにより還元して金属潜像を形成し、この潜像を無電解銅メツキによつて電導性パターンに増幅するものであることが認められる。すなわち、右の銅(Ⅱ)塩は感光性還元剤であるTiO2粒子の働きにより輻射還元される金属塩であることが明らかである。

一方、本願発明の要旨が請求の原因二において(イ)ないし(ニ)に項分けして示された特許請求の範囲に記載のとおりであり、(イ)の構成のうちの「非導電性金属核を形成させること」が「非導電性金属核の層を形成させること」と解すべきことは、当事者間に争いがない。

右事実と成立に争いのない甲第二、第三号証により認められる本願明細書の発明の詳細な説明の項の「本発明では、基材と基材上の層とからなる新規な製品を提供するものであり、この層は銅、ニツケル、コバルト、鉄の塩及びこれらの混合物から選ばれる金属塩あるいは金属塩組成物からなり、熱、光、電子ビーム、X線のような輻射エネルギー、加熱物体との直接接触などのような熱エネルギーあるいは化学的還元剤への露出などで、非導電性で、かつ基材との接触で無電解金属析出溶液から無電解金属を析出させるのに触媒作用を有する金属核の層に転換されるものである。」(甲第二号証三欄四一行ないし四欄六行)、「本文に使用する触媒性金属は元素周期表のⅧおよびIB族の四周期;鉄、コバルト、ニツケルおよび銅から選択される。触媒性金属、たとえば溶液状態の還元可能な塩ないしは還元可能な塩組成物を基材に適用し、そして次に輻射エネルギー、たとえば熱、紫外線のような光、電子ビーム、X線および類似物、加熱物体と直接接触させるような熱エネルギーを適用することによつて、あるいは化学的還元剤で処理することによつて、基材の表面上で還元する。多原価であれば、還元可能な塩は全ての酸化状態で存在でき、たとえば銅(Ⅰ)および銅(Ⅱ)、鉄(Ⅱ)および鉄(Ⅲ)イオンの両方が使用できる。」(甲第二号証五欄四〇行ないし六欄九行)との記載によれば、本願発明の(イ)の構成の「化学的、熱的あるいは輻射還元で無電解金属の受け容れに触媒性を示す非導電性金属核(の層)を形成させることのできる金属塩」とは、化学的、熱的あるいは輻射還元のいずれかで還元可能な金属塩を意味することが認められる。そして、本願発明では、このような金属塩のうち、「銅、ニツケル、コバルト、鉄の塩及びそれらの混合物からなる群から選ばれる金属の塩」を用いるものであることを(ニ)の構成により規定しているものと認められる。

そうとすると、前叙のとおりTiO2粒子の働きにより輻射還元される引用例の方法における銅(Ⅱ)塩が本願発明の金属塩に相当することが明らかである。

(二) 原告は、本願発明の(イ)の構成の「金属塩の溶液」とは、それ自体で輻射還元機能を持つ金属塩組成物溶液でなければならず、この溶液は感光性還元剤、副還元剤などを含むことができるが、あくまでこれらも金属塩と同一の溶液中に含まれるものであると主張する。

そして、前掲甲第二、第三号証によれば、本願明細書の発明の詳細な説明の項の輻射還元の方法についての「着手する他の手段では、水、あるいはアルコール、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルオキシドおよび類似物のような有機溶媒を用いた、金属塩組成物、たとえば蟻酸銅(Ⅱ)、および感光性還元剤、副還元剤、および任意の表面活性剤(表面を湿潤することが困難な場合)の溶液を、基材上にコーテイングして、乾燥し、そして紫外線輻射に露出して、金属状核の非導電性層を形成させる。適切な感光性還元剤は、芳香族ジアゾ化合物、鉄(Ⅲ)塩類、たとえば修酸鉄(Ⅲ)、硫酸鉄(Ⅲ)アンモニウム、二クロム酸塩類、たとえば二クロム酸アンモニウム、アントラキノンジスルホン酸あるいはその塩類、……副還元剤の中には、ポリヒドロキシアルコール、たとえばグリセロール、エチレングリコール……およびゼラチンのような化合物がある。」(甲第二号証七欄三四行ないし八欄一七行)との記載及び輻射還元の方法の実施例である実施例二二ないし二七、三二ないし三五及び三八の記載によれば、原告主張のとおり、金属塩と感光性還元剤及び副還元剤を同一の溶液中に含ませていることが認められ、その意味で、右金属塩の溶液はそれ自体で還元機能を持つ金属塩の溶液ということができる。

しかしながら、前示本願明細書の発明の詳細な説明の項の記載によれば、本願発明において化学的還元の方法をとる場合については、「着手するさらに他の手段では、表面活性剤を含有し、またグリセリンのような副還元剤を含有する、水あるいは非水溶液、たとえば水、ジメチルホルムアミド……メタノールおよび類似物中の還元可能な金属塩組成物、たとえば蟻酸銅(Ⅱ)、グルコン酸銅(Ⅱ)、酢酸銅(Ⅱ)、塩化銅(Ⅱ)、……あるいは硫酸鉄(Ⅱ)を基材上に浸漬コーテイングして、乾燥し、そして化学的還元剤……を含む水あるいは非水溶媒、たとえば水あるいはメタノールに、約一分間ないし二分間、あるいは還元した金属状核の形成が完了するまで、露出させる。」(甲第二号証九欄二ないし一九行)、「より詳細には、上記化学的還元の方法において、必要であれば基材を浄化し、そして後述の方法で表面を粗くする。基材を次に、記述する金属塩溶液中に、短時間、たとえば一分間~五分間浸漬コーテイングし、そして乾燥させる。……乾燥金属塩の層をのせた基材を次に、記述する種類の化学的還元溶液中に、約一分間~二分間、あるいは基材が殆んど暗色になるまで浸漬する。これは、金属塩が遊離金属核、たとえば銅に還元されたことを示す。」(同九欄二〇ないし三六行)と説明されているとおり、また、化学的還元の場合の実施例である実施例八ないし一七、二一、三六、四八に示されているとおり、絶縁基板上に金属塩の溶液を塗布し、これを乾燥させて右金属塩の層を形成させる工程とこれを化学的還元剤の溶液に浸漬し右金属塩を還元させる工程とは別の工程としており、前者の工程における金属塩の溶液中に化学的還元剤は含まれていないことが明らかである。すなわち、右金属塩の溶液には化学的還元剤が含有されていないから、この溶液そのものは、輻射還元の場合に見たような意味でのそれ自体が還元機能を持つものということはできない。

そして、本願発明の(イ)の構成は、右の輻射還元と化学的還元の場合に熱的還元の場合を含め、これらを通じて、「化学的、熱的あるいは輻射還元で無電解金属の受け容れに触媒性を示す非導電性金属核(の層)を形成させることのできる金属塩の溶液」と規定しているのであるから、この「金属塩の溶液」の意味を原告主張のように還元剤を含むことを必須とすると解することは到底できないといわなければならない。すなわち、右「金属塩の溶液」とは、右(一)で述べた範囲の「金属塩」を含有する「溶液」であれば足りると解すべきである。

そうとすると、引用例の方法における銅(Ⅱ)塩の稀水溶液が本願発明の「金属塩の溶液」に該当することは明らかであり、審決のこの点の判断に原告主張の誤りはない。

(三) 原告は、また、輻射還元の工程を行う前に、引用例の方法では三工程を要するに対し、本願発明では一工程で足りるとの差異があり、その結果実用的作用効果においても格段の相違があると主張する。

しかしながら、前示本願発明の要旨によれば、本願発明においては、還元工程の前に、前叙の金属塩の溶液で絶縁性基材を処理することのみを要件とし、還元剤をどの工程で用いるか、また、接着剤属を設けるか否か等を要件としていないことが明らかである。したがつて、引用例の方法におけるように、絶縁性基材上に感光性還元剤を含有させた接着剤層を塗布し、次いで、その表面を酸化処理して還元剤を露出させ、その上で、さらにその表面に金属塩の溶液を適用することは、本願発明の一実施態様として含まれるものと解すべきであるから、引用例の方法と本願発明の方法の間に原告主張のような工程の差異、この差異に基づく作用効果の相違を認めることはできない。

3 以上のとおり、原告主張の審決取消事由はいずれも理由がなく、その他審決にこれを取り消すに足りる違法の点は見当らない。

三 よつて、原告の本訴請求を失当として棄却する。

〔編註〕 本願発明の特許請求の範囲は左のとおりである。

(イ) 化学的、熱的あるいは輻射還元で無電解金属の受け容れに触媒性を示す非導電性金属核を形成させることのできる金属塩の溶液を用いて絶縁性基材を処理し、

(ロ) 上記金属塩を化学的、熱的あるいは輻射還元のいずれかで還元して、上記基材の表面上に上記非導電性の金属核の層を形成させ、

(ハ) そしてその後、上記層の触媒性表面を選択的に金属化してプリント回路を形成させることから成るものであり、

(ニ) 上記金属塩が銅、ニツケル、コバルト、鉄の塩及びそれらの混合物からなる群から選ばれる金属の塩であることを特徴とするプリント回路板製造法。

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