東京高等裁判所 昭和58年(行ケ)203号 判決
一 請求の原因一ないし三の事実は当事者間に争いがない。
二 そこで、原告主張の審決取消事由について検討する。
1 取消事由1について
(一) 成立に争いのない甲第二、第五号証(本願発明の明細書・図面)によると、本願発明における車両台枠とは、車両本体が装着されるべき連結・緩衝装置を備えた鉄道車両の基台(フレーム、別紙図面(一)において1で表示されたもの)であることが認められ、また当事者間に争いのない本願発明の特許請求の範囲によると、端部台枠及び残部台枠については、右特許請求の範囲1の発明では構成上何らの限定がなく、同2の発明では端部台枠が残部台枠より若干幅狭に形成される以外に各台枠がそれぞれ別個固有の構成を有することが要件とされていないのであるから、結局本願発明における端部台枠、残部台枠とは、端部車両本体と残部車両本体とが右車両台枠に装着される場合に右各車両本体に対応する車両台枠の各部分に過ぎないものであることが認められる。
このような意味における車両台枠は、鉄道車両において不可欠なものであることは明らかなところ、成立に争いのない甲第三号証(第一引用例)によると、第一引用例のものは、車体本体(別紙図面(二)において1と表示されたもの)に便所、化粧室等の車室を形成するものであり、車体本体は、その大部分を占める客室、通路を設置すべき部分と便所、化粧室を設置すべき部分とからなり、これら客室、通路、便所、化粧室を右車体本体のそれぞれに対応する部分に形成し、その結果鉄道車両を完成させるものであることが認められる。
そうすると、本願発明における車両台枠は、第一引用例における車体本体に相当するものであることが認められ、従つて、第一引用例には車両台枠の一端部を端部台枠となし、その他の大部分を占める部分を残部台枠となすとの事項が記載されているということができる。
よつて、審決の第一引用例に関するこの点の認定には誤りがない。
(二) 前掲甲第三号証によると、第一引用例には便所用及び化粧室用の各三つのブロツク(仕切5、6、内張11、12、外板15、16)の組立について、「車室を仕切る為の仕切、車室内張、外板を夫々独立に構成し、之等遂次車体に固定して車室を形成する」(一欄二一ないし二三行)、「之等(仕切、内張、外板)を組立てるには先ず仕切5、6を車体本体1の空間に入れ枠縁4に当てボルト、溶接等の手段により固定し、その次に内張11、12を当てて固定し、最後に外板15、16を嵌める。この外板は仕切5、6内張11、12を共に囲み外板の周縁は車体本体1に固定され、又下縁は本車体1の床18周辺に形成された段部20に嵌め込み固定し完成する。」(二欄九ないし一六行)と記載されており、この記載からすると、便所用及び化粧室用の三つのブロツクのうち、仕切5、6及び内張11、12は枠縁4を介して車体本体1に機械結合され、また外板15、16は、車体本体1に直接機械結合されていることが認められる。そして、第一引用例における車体本体1が本願発明における車両台枠に相当するものであることは前述のとおりであるから、結局第一引用例には、ユニツト製作された各ブロツクを端部台枠に機械結合するとの事項が記載されているものと認められる。
よつて、審決の第一引用例に関するこの点の認定にも誤りがない。
(三) 以上のとおりであるから、原告の取消事由1の主張は採用できない。
2 取消事由2について
(一) 第一引用例のものは、前認定のとおり便所及び化粧室を構成するそれぞれ三つのブロツクを別個に製造しておき、これを順次車体本体に取付けて車両を完成するものであるところ、前掲甲第三号証によると、このような製造方法の目的、効果について第一引用例には、「従来便所、化粧室等の車室は車体を構成するときにその中に組入れて行くので車体内の狭い空間で作業せねばならず作業が困難で長時間を要していた。本発明によれば車室を構成部毎にブロツクとして之を組込むようにしたので各ブロツクは外部で別個に製造しておき之を簡単な作業で車体に取付けることができ能率が向上する。」と記載されており、また右各ブロツクは、例えば外板15には窓17が設置されるなど複数の部材から構成されたものが図示されている(別紙図面(二)参照)から、これら各ブロツクはそれぞれユニツト製作されたものであることが認められる。そして成立に争いのない乙第一ないし第三号証によると、鉄道車両において機能上独立した車室部分を、その他の部分と別個にユニツト製作し、これを車両台枠ないし車体本体に取付けて固定し、車両を完成する技術は本願の出願時において周知であつたことが認められる。
そうしてみると、原告が主張する本願発明の目的すなわち組立作業を広い空間で容易に行い、取付け作業を簡単に行うなど生産上の利点のほか用途変更や破損した場合の取替えが容易であるなど互換性の利点をも考慮の上第一引用例に記載された車両の製造方法すなわち車室(便所、化粧室)を構成する各三つのブロツクを別個にユニツト製作してこれを順次車体本体に取付けて独立した機能を有する車室を形成して車両を完成させる方法に代えて、機能上独立した車室を別個にユニツト製作しこれを車両台枠に取付けて車両を完成することは、当業者において容易になしうることであると認められる。
(二)(1) 原告は、本願発明と第一引用例のものとは発明の目的が異なり、技術思想を異にする旨主張する。しかし、ユニツト製作をする目的は、組立てや取付け作業を容易にするなど生産上の利点のほか原告の主張する互換性を高めることにもあることは当然のことである。第一引用例におけるユニツト化された各ブロツクも、その範囲において互換性を有することは明らかであり、互換性を高めるとの点は、本願発明の端部車両本体に特有のものではない。
(2) 原告は、本願発明における端部車両本体のように単に車両の一部分に過ぎないものをユニツト製作する技術は従来存在しなかつたことを前提として審決の相違点(一)の判断が誤つている旨主張する。しかし鉄道車両において、その一部分である機能上独立した車室部分をその他の部分と別個にユニツト製作し、これを車両台枠ないし車体本体に取付けて固定し車両を完成する技術が本願出願当時周知であつたことは前認定のとおりであるから、原告の右主張はその前提を欠くものである。
(3) 原告はまた第一引用例における各ブロツクと車体本体との結合及び本願発明における端部車両本体の基枠と端部台枠との結合との間には、審決が認定した相違点のほかに顕著な差異がある旨主張する。しかし、本願発明における車両台枠が第一引用例における車体本体に相当するものであることは前記認定のとおりであり、前掲の本願発明の特許請求の範囲によれば、本願発明では端部車両本体の基枠を端部台枠に機械結合することが要件でありそれ以上の限定はない。そして第一引用例のものにおける各ブロツクの車体本体への結合の態様は1(二)に認定のとおりである。そうしてみると、本願発明と第一引用例のものとの右各結合関係には審決の認定した相違点以外に実質的差異がない。
(三) 以上のとおりであるから、原告の取消事由2の主張も採用できない。
3 取消事由3について
本願発明の特許請求の範囲には、基枠について「端部車両本体の基枠を前記端部台枠に(被覆するようにして)機械結合し、」とあるのみで、基枠そのものの構成については特段の限定がない。また前掲甲第二、第五号証によると、本願明細書の発明の詳細な説明の項には、端部車両本体を運転室とする実施例において、基枠12は運転室本体10の底部に形成され、この上にこれと一体の構体部分を組立てて運転室本体10をユニツト製作するとの趣旨の記載(三欄九行ないし一六行)及び「この発明で機械結合とは運転室部本体10等端部車両本体の基枠12と運転室側台枠2等端部台枠とをボルト・ナツトあるいはリペツト締結する意味である。」(三欄二八行ないし三一行)との記載が認められる。このことからすると本願発明における基枠は、端部車両本体の下端部にあつて端部車両本体を端部台枠にボルト・ナツト等により機械結合するための結合部材である。
一方成立に争いのない甲第四号証によると、第二引用例には、前部機関室2、中央部機関室3、後部機関室4に分割された機関室及び運転室5によつて車両本体を構成する鉄道車両(内燃機関車)において、右機関室の側壁の下端部には外向きフランジ部が形成され、このフランジ部をボルトによつて台枠6上に締着固定する例が記載されていることが認められる(別紙図面(三)参照)。このことからすると第二引用例における右フランジ部分は、機関室の下端部にあつて機関室を台枠にボルト・ナツト等により機械結合するための結合部材であるということができる。
そうしてみると、本願発明における基枠と第二引用例における外向きフランジとは、共に車両本体を構成する車室の下端部にあつて、右車室部分を台枠に結合する部材として同一の機能を有するものであることは明らかである。したがつて、本願発明と第一引用例との相違点(二)における本願発明の構成は、第二引用例に記載された右技術に基づいて当業者が容易に想到できたものであることが認められる。
そうすると、審決の相違点(二)に対する判断も結論において誤りがなく、原告の取消事由3の主張も採用できない。
三 以上のとおりであるから、原告の本訴請求を失当として棄却することとする。
〔編註〕 本願発明の特許請求の範囲は左のとおりである。
1 連結緩衝装置を取付けた車両台枠の一端部を端部台枠となし、その他の大部分を占める部分を残部台枠となし、車両台枠に装着される車体本体を機能上各個独立した複雑な部品の集合体を構成する端部車両本体とその他の大部分を占める部分であつて比較的簡単な部品の集合体を構成する残部車両本体とに分断し、前記残部台枠に上記残部車両本体を装着したものを構体部分として、この構体部分と前記端部車両本体とを予めそれぞれ別個独立にユニツト製作し、しかしてユニツト製作された端部車両本体の基枠を前記端部台枠に機械結合し、かつ上記端部車両本体と前記残部車両本体とを互いに水密機械結合するようにしたことを特徴とする鉄道車両の製造方法。
2 連結緩衝装置を取付けた車両台枠の一端部を若干幅狭に形成してこれを端部台枠となし、その他の大部分を占める部分を残部台枠となし、車両台枠に装着される車両本体を機能上各個独立した複雑な部品の集合体を構成する端部車両本体とその他の大部分を占める部分であつて比較的簡単な部品の集合体を構成する残部車両本体とに分断し、前記残部台枠に上記残部車両本体を装着したものを構体部分として、この構体部分と前記端部車両本体とを予めそれぞれ別個独立にユニツト製作し、しかしてユニツト製作された端部車両本体の基枠を前記端部台枠に被覆するようにして機械結合し、かつ上記端部車両本体と前記残部車両本体とを互いに水密機械結合するようにしたことを特徴とする鉄道車両の製造方法。