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東京高等裁判所 昭和58年(行ケ)204号 判決

(争いのない事実)

一 本件に関する特許庁における手続の経緯、本願発明の要旨及び本件審決理由の要点が原告主張のとおりであることは、当事者間に争いのないところである。

(本件審決を取り消すべき事由の有無について)

二 本件審決は、以下に説示するとおり、本願発明と第一引用例記載のものとの対比判断を誤り、ひいて、本願発明は、第一引用例及び第二引用例記載の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとの誤つた結論を導いたものであり、違法として取り消されるべきである。

前記争いのない本願発明の要旨に成立に争いのない甲第二号証の三及び第三号証ないし第五号証(本願発明の特許願書添付の図面及び手続補正書)を総合すれば、本願発明は、活性炭素のような堆積性又は流動性の接触材料(濾過材料)を用いて、特に放射性物質を含有する廃気ガス流又は空気流の浄化を目的とする濾過装置で、廃気が移動床を形成する濾過材料を貫流するようになつており、濾過材料のための供給孔と引抜き孔とが設けられ、そして、この両孔の間で濾過材料が重力により連続的に又は不連続的に送給されるように貫通的に通流し得る一つの濾過室より構成されたものに関する発明であるところ、従来のこの種の装置においては濾過床を細分しても濾過材料の利用度が最良値に達せず、また、運転中濾過材料の補充が行われれば、濾過材料内に漏洩箇所又は空所を生じ、そのため汚染の伝染を起こす等の欠陥があつたところ、本願発明は、この欠陥を克服し、濾過材料の可能な能力を完全に汲み取ること等を目的ないし課題とし、前示本願発明の要旨(特許請求の範囲第一項に同じ。)のとおりの構成を採用したもので、その構成上の特徴は、冒頭に記載の濾過装置において、濾過室が鋼板ケーシングより成り、濾過材料の供給方向に対して交差し、かつ、格子、多孔鋼板又はフイルタによつて覆われている少なくとも三個の開口を介して気密に取り付けられた流入室、流出室及び方向変換室と連通し、右開口のうちの少なくとも二個の開口が濾過室の一方の片側に互いに上下の関係に、そして少なくとも一個の開口は濾過室の他方の片側に配置され、この場合、前記上下に配置された開口の下側(流入室)の開口の上稜と上側(流出室)の開口の下稜とが上下に特定の間隔、すなわち、濾過装置の下方から上方へ流れる被処理気体の主流と部分流とが濾過室内の濾過材料内で同一の滞留時間を持ち得るような間隔で配置されていることにあり、右構成により濾過材料の完全な利用が可能となるほか、この種濾過装置において、しばしば必要とする固有の監視装置の密閉の問題が生じないという作用効果を奏することを認めることができる。

他方、第一引用例に本件審決認定のとおりの内容の記載があり、第一引用例記載のものの塔内の気体誘導板と粒状固体層とで仕切られた空間が塔下部より順に本願発明の流入室、方向変換室及び流出室に該当し、第一引用例記載のものの「メツシユバスケツト」が本願発明の「濾過室」に対応すること、また、第一引用例記載のものの「粒状固体」、「塔内に送り込まれる気体」及び「接触装置」が本願発明の「濾過材料」、「濾過されるべきガス又は空気」及び「濾過装置」にほかならないことは、原告の認めるところである。

叙上認定したところに基づき本願発明と第一引用例記載のものとを対比するに、本願発明がその発明の課題解決のための手段として、濾過室の一方の片側に互いに上下に特定の間隔を置いて少なくとも二個の開口を配置し、これにより、被処理気体の部分流と主流とが濾過材料内で同一の滞留時間を持ち得るようにするという前叙の技術的構成を採用しているのに対し、第一引用例記載の装置がこの点の構成を欠くことは明らかであるから、両者はこの点において技術的思想を異にするものといわざるを得ない。この点に関し、被告は、本願発明の濾過装置と第一引用例記載の接触装置は、いずれも、その装置の下方から流入する被処理気体が直立した状態の濾過室(メツシユバスケツト)内の濾過材料(接触材料たる粒状固体)の層と直交しながら通過上昇するよう構成されている点において実質的な差異がなく、被処理気体の流れについても両者の間に差異がない旨主張するが、第一引用例の前示記載内容に成立に争いのない甲第六号証(第一引用例)を総合すれば、第一引用例記載の濾過装置においては、その構造(別紙図面(二)参照)に照らし、被処理気体の供給量及び供給速度ないし吸引量及び吸引速度、濾過材料の粒径及び充填割合等の変動によつては、気体誘導板を介して濾過材料の最短経路を通る部分気体流が生ずることを避け得ないものと推認され、これを排除するための技術的構成ないし技術的思想については何らの開示も示唆するところもないことが認められるから、被告の右主張は採用することができない。更に、被告は、被処理気体を濾過材料で吸着処理する場合、処理の効率化を図るために被処理気体流を濾過材料と可能な限り均等に接触させることが望ましいこと、及びそのために流入室の開口と流出室のそれとを間隔を置いて設けることがいずれも優先日前に周知である旨主張し、この点に関し乙第二号証(特開昭四八―一六〇九八号公開特許公報)を挙示するが、成立に争いのない乙第二号証によれば、同公報記載のものは、放射性核分裂ガス及び放射化ガスを処理する前置吸着器及び主吸着器を用いた廃ガス処理方法及び装置に関するものであるが、右公報記載の前置吸着器においては、ガス流は一つの流れであつて、この流れから分岐して別の流れを経由する部分流は存在せず、また、主吸着器においても、被処理ガスと吸着物質とをできる限り多く接触させるために長いガス流路をとるよう構成されているが、吸着物質層を流れるガス流の流れは一つであつて、部分流が存在するものでないことが認められるから、右乙号証は、被告主張の事実を立証するに足りる証拠ということはできず、他にこの点が周知であつたことを認めしめるに足りる証拠はない。したがつて、被告の叙上主張も採用するに由ない。

そうすると、本願発明と第一引用例とは、前説示の点において、その技術的構成、したがつてまた、それに基づく作用効果を異にし、その相違は単なる設計変更をもつて論じ得ないものというべきであるから、本件審決は、右相違点についての判断を誤つたものというべく、右判断の誤りが本件審決の結論に影響を及ぼすことは、その余の点について判断を加えるまでもなく、明らかである。

(結語)

三 以上のとおりであるから、本件審決を違法としてその取消しを求める原告の本訴請求は、理由があるものということができる。よつて、これを認容することとする。

〔編註その一〕 本願発明の要旨は左のとおりである。

濾過室として用いられる直立した状態の鋼板ケーシングの上側には堆積性又は流動性の濾過材料の填充管端部がその下側には排除管端部が取付けられているような、放射性物質を含有する廃気などのガス流又は空気流を浄化するための濾過装置において、濾過室(1、18)の内室が、濾過材料(2)の供給方向に対して交差しておりしかも格子、多孔鋼板又はフイルタ(12、13、14)で覆われている少くとも三個の開口(8、9、10、24、25、26、27)を介して、濾過されるべきガス流又は空気流の流入、流出及び方向変換用の固くフランジ止めされた室(3、4、5、17、19、20、23)と連通されており、その際前記開口のうちの少くとも二個の開口は濾過室の一方の片側に互に上下の関係で配置されそして少くとも一個の開口は濾過室の他方の片側に配置され、この上下に配置された開口(8、9)の下方には流入室(3)が上方には流出室(4)が気密に取付けられ、濾過室の他方の片側に配置された開口(10)にはガス流又は空気流をほぼ一八〇度方向変換するための方向変換室(5)が気密に取付けられ、並びに開口(8)の上稜と開口(9)の下稜とが濾過材料(2)の最短経路を通流する部分空気流が濾過材料内で主空気流と同一の滞留時間を持つように離れて保たれていることを特徴とするガス流又は空気流を浄化する濾過装置。(別紙図面(一)参照)

〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。

別紙図面(一)

<省略>

<省略>

別紙図面(二)

<省略>

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