東京高等裁判所 昭和58年(行ケ)212号 判決
一 請求の原因一の事実は当事者間に争いがなく、本願発明の要旨が審決の理由の要点(一)に記載されたとおりの構成を有する保健具にあることは原告も認めてこれを争わないところである。もつとも、原告は、「病人を寝かせたままで使用できる持運びが至便の保健具」であることをも本願発明の要旨である旨主張し(別添準備書面(1)頁一行目から同頁下から四行目まで)、成立に争いのない甲第三号証によると、原告が昭和五三年三月一四日付で全文を補正した明細書の特許請求の範囲にも、「病人を寝かせたままで、身体を蒸す様に加湿したり、水分の蒸発と乾燥に役立つ温風の発生と、洗身も出来る事を併せ持ちました持運びが至便の保健具」と記載されていることが認められるが、病人を寝かせたままで使用できること、持運びが至便であることは、物の発明である本願発明の目的あるいは効果に関することがらであつて、発明の構成に関する事項とは認められないから、本願発明の要旨は、右審決の認定するとおりであると認められる。(なお、原告が本願発明の要旨と題して別添準備書面(1)頁下から三行目から(2)頁一二行目までに主張するところが発明の構成に関する事項でないことは明らかである。)
二 成立に争いのない甲第四号証によれば、本願出願前に頒布された引用例に、審決の理由の要点(二)記載のとおりの構成を有する蒸気美容兼治療器が示されていることが認められ、この引用例のものと本願発明の保健具を対比すると、審決の理由の要点(三)記載のとおりの一致点と相違点<1><2><3>があることが認められる。
三 原告は、別添準備書面(3)頁一行目から(7)頁下から五行目までにおいて、右相違点<1>についての審決の判断(審決の理由の要点(四)(1))を争い、種々主張しているが、その立論の前提として、本願発明において、蒸気や温風が発生する部と人が入る袋状のものとは切断面積の大きい筒状のダクト型のもので結合されており、蒸気発生器はタンク式のものでなく上部開放の貯水式のものであり、温風発生は電気ヒーターと送風機の連動である旨主張している(別添準備書面(6)頁四行目から一一行目)。しかしながら、前記本願発明の要旨に照らし、右主張は本願発明の要旨外の構成に基づく主張であることが明らかであり、このように要旨外の構成に基づいて引用例との対比をしても無意味といわざるを得ず、したがつて、相違点<1>についての原告の右主張は、その余について判断するまでもなく失当である。
原告は、別添準備書面(7)頁下から四行目から(9)頁一行目までにおいて、前記相違点<2><3>についての審決の判断(審決の理由の要点(四)(2))を争つているが、引用例のものと本願発明における前記一致点を踏まえて右相違点をみれば、引用例から温風送り及び汚水溜めの機能を付加した構成の保健具を考え出す程度のことは当業者ならば容易に想到しうるとの審決の判断に違法とするに足りる誤りがあるとは認められず、原告の主張は採用できない。
原告は別添準備書面(9)頁二行目から(11)頁末行目までにおいて、審決の理由の要点(四)(3)記載の審決の判断を争つて、本願発明は美容も兼ねた引用例とは違い、寝たきりの病人を対象とし、そのための配慮を尽したものであるとの趣旨の主張をするが、前掲甲第四号証によれば、引用例においても、病弱者や歩行困難な者を対象としていることが明らかであり、引用例の構成からみて、介助者が引用例の器具を用いて寝たきりの病人に蒸気浴を受けさせることの妨げになるような点があるとは認められないから、適用の対象が異るとの原告主張は採用できず、また、適用の対象が異ることによつて生ずる構成上の差異として原告の主張するところは、結局、前記の相違点に帰着するものであり、この点についての審決の判断に審決を違法とするに足りる誤りがあると認められないことは前叙のとおりであるから、原告の右主張も失当といわざるを得ない。
その他原告が別添準備書面において主張するところに基づき、本件各証拠を検討しても、審決にこれを取り消すに足りる違法な点があるとは認められない。
四 よつて、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとする。