東京高等裁判所 昭和58年(行ケ)234号 判決
事実及び理由
一 本件に関する特許庁における手続の経緯、本願考案の要旨及び本件審決の理由の要点についての原告主張の事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、本件審決を取り消すべき事由の有無について判断する。
(一) 原告は、本願考案はゲル状菓子用容器の底部に、底部よりも厚肉の塊体を設ける構成であるのに、引用例の考案はこの塊体が形成されていないにかかわらず、本件審決は引用例の考案においても本願考案における塊体が形成されている旨認定判断をしたのは、誤りである、と主張する。
(二) ところで、当事者間に争いのない、前記、本件審決の理由の要点及び成立に争いのない甲第一号証(審決謄本)によれば、本件審決は、引用例の考案において塊体が形成されている根拠として、引用例には、「突起(1)の根元の部分は、その周囲に形成された少なくとも二個の切込み(2)によつて、結果的に根元の部分を除く部分よりも、そして底部(5)よりも大なる寸法のもの即ち塊体に形成されていると認められる」と述べていることが認められるところ、本件審決の、右述べるところからは、直ちに、引用例の考案において塊体が形成されていると断定することはできない。そこで、本件審決の、右述べるところを、成立に争いのない甲第四号証(引用例)によつてこれをみるに、同号証(実用新案法第一三条の二、第二項所定の事項を掲載するにとどまる、いわゆる公開実用新案公報)からは、その実用新案登録請求の範囲の欄に「底部(5)に突起(1)を有し、それが接する容器底面部分に切込み(2)を、突起(1)の周辺に保護枠(3)を設けてなる筒状容器」と記載され、図面のうち第2図に容器底部の内側において突起(1)の根元位置に、また、第4図に容器底部の外側において突起(1)の根元位置に、それぞれ切込み(2)を設けた容器が図示されていることを認めうるところ、右記載及び図示から、何故に、本件審決が認定するように、「突起の根元の部分が、切込みによつて、結果的に根元の部分を除く部分よりも、そして底部よりも大なる寸法のもの即ち塊体に形成されている」ことになるのかを、直ちに首肯するに難い。
(三) 被告は、引用例には本願考案における塊体を設けるという技術思想が開示されているとし、その理由を縷々述べるが、その理由として述べるところは、引用例には記載されていないところの、その引用例にかかわる実用新案登録願書に添附された明細書の考案の詳細な説明における記載事実であり及びこれを前提とする主張であることは、本件口頭弁論の全趣旨により明らかである。してみれば、引用例に本願考案における塊体を形成する技術思想が開示されているとの被告の主張、したがつて本件審決における「引用例には塊体が形成されている」旨の認定、判断の根拠については、引用例に記載されていない事項をもつて主張し及び根拠とするものであることは明らかであるから、被告の右主張自体失当であり、本件審決の右認定、判断もまたこれを正当として是認することはできない。
これに反し、引用例が、本件のように、いわゆる公開実用新案公報であるときには、これには記載されていないが、同公報に掲載された実用新案のその登録願書に添附されているにすぎない(したがつて、本件審決において引用例とされたものではない)明細書の、考案の詳細な説明における記載を当然に引用して、その引用例の考案の技術内容を理解し、判断してよいとの論理的ないし合理的理由はない(当裁判所は、被告指定代理人に対し、その提出にかかる第三回準備書面(昭和六十年七月十七日付)につき、同書面には引用例の考案における塊体の存在の理由として答弁書及び第二回準備書面(その主張の要点は、「第三被告の答弁」の項に記載のとおり。)の記載を引用するが、それらは引用例には記載されていない事項に基づく主張である旨説明して釈明を求めたのに対し、被告指定代理人は、被告の主張は右第三回準備書面に記載するところに尽きるのであつて、他に主張すべきことはない旨答えて、同書面の記載に基づき陳述したこと、同書面中引用例の考案における塊体の存在の理由に関する事実上の主張の要点が「別紙(被告の反論)」に記載のとおりであること、答弁書及び被告指定代理人提出の第二回準備書面における主張中、引用例には本願考案における塊体を形成する技術思想が開示されているとして説明するところは引用例には記載されていない事項に基づくものであることは、いずれも本件記録に徴し明らかである。被告指定代理人及び被告の主張しようとするところは理解し難い次第である。)。
これを要するに、前記、本件審決の認定、判断の根拠とするところ及び被告の主張をもつてしては、本件審決が引用例の考案には、本願考案の構成である塊体が形成されているとした認定、判断は、結局、誤りであることに帰する。
(四) してみれば、引用例の考案には塊体が形成されているとし、これを前提に本願考案と引用例とを対比した本件審決は誤りであり、この誤りは本件審決の結論に影響を及ぼすものといわざるをえないから、本願考案をもつて引用例の考案及び周知技術から当業技術者が極めて容易に考案をすることができたものであつて、実用新案登録を受けることができないとした本件審決は違法である。
三 よつて、本件審決の取消を求める原告の本訴請求は正当として認容する。