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東京高等裁判所 昭和58年(行ケ)251号 判決

事実及び理由

一  請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、同二(本件考案の要旨)、同三(審決の理由の要点)は、当事者間に争いがない。

二  そこで、原告ら主張の審決の取消事由の存否について判断する。

1  原告らは、審判手続において、本件考案は第一引用例記載の考案と第三引用例記載の考案を組み合わせることによりきわめて容易に推考できると主張したのにかかわらず、審決は、第三引用例記載の考案の技術内容についての判断のみを示し、両考案の組み合わせによる本件考案の容易推考性についての主張に対する判断を遺脱した旨主張する。

成立に争いのない甲第九号証、第一〇号証によれば、原告らは、本件審判手続において、本件考案の登録無効審判請求の理由の一つに、本件考案は第一引用例記載の考案と第三引用例記載の考案とを組み合わせることによりきわめて容易に推考できる旨主張していたことが認められる。

しかしながら、成立に争いのない甲第一号証によれば、審決は、原告らが甲第一ないし第四号証、第五号証の一、二、第七ないし第二二号証、第二三号証の一ないし六、第二四号証の一ないし七、第二五号証及び検甲第一、第二号証(いずれも審判手続における書証番号)を提出するなどして、本件考案は、その出願前に日本国内において公然実施され、又は公然知られた考案であり、また、それらの考案及びその出願前に頒布された刊行物に記載された考案からきわめて容易に考案をすることができたものであると主張して本件考案の登録無効審判を請求した旨摘示した上、「審判の請求の理由について検討する。」として、まず、「1 甲第一号証および甲第二号証(本訴の第一引用例及び第二引用例)」について、本件考案は第一引用例及び第二引用例にそれぞれ記載された考案の各効果の和の範囲外の格別の効果を奏するから、これらの考案に基づいてきわめて容易に考案をすることができたものとすることはできないと判断し、次いで、「2 甲第三号証(本訴の第三引用例)本号証に記載された考案は、甲第二号証の考案と同じく、本件考案の水平板部に相当する部分がなく、樋4の取付孔5を穿つた一辺が、樋主体の一端に上向きに直接連成されているから、甲第二号証のもの以上に本件考案の構成を示すものではない。」(第三丁表第一八行ないし第三丁裏第四行)との判断を示し、更に「10 甲第一号証、甲第二号証、甲第三号証、甲第六号証の一、甲第二六号証、甲第二七号証および検甲第二号証にそれぞれ示される樋受金具(但し、甲第三号証のものは樋とその取付部分)の構造の結合について」として、「上記甲号各号証に示される考案のどの組み合わせによつても、それらから本件考案をきわめて容易に推考できたものとはいえない。」(第七丁表第五行ないし第七行)との判断を示していることが認められるから、審決のこれらの記載事項を総合すれば、審決は、第三引用例は第二引用例記載の考案以上の構成を示すものではないから、本件考案は、第三引用例記載の考案を第二引用例記載の考案に代えて第一引用例記載の考案と組み合わせても、きわめて容易に考案をすることができたものといえないとの判断を示していることが明らかであつて、審決には、原告らの主張する判断を遺脱した違法はない。

2  本件考案の構成は、(イ) 樋受主体1と下向きの垂直杆5を屈曲連成した取付枠部2を、扁平帯鉄を折曲した別体に形成し、(ロ) 樋受主体1の一端に形成した水平板部9に更に上向きに屈曲連成した折曲縁3を設け、(ハ) 折曲縁3を垂直杆5に摺動自在に添接し、垂直杆5の長溝孔6に挿通したボルトナツト4・7で締着してなる(ニ) 樋受金具であること、本件考案は、右構成により、(a) 一々注文して特定各種の形状のものを製作する煩雑さが解消されるとともに、所定の勾配を形成させるように、樋受主体1の位置を容易に上下に移動変更して所要位置に固定することができる、(b) 樋受主体1の一端に水平板部9を介して更に上向きに屈曲連成した折曲縁3と垂直杆5を挿通するボルト4(実施例では折曲縁3にボルト4を固定する。)が樋受主体1より上方となるので、ボルトナツト4・7を緩めても樋受主体1が転倒することはない、(c) 樋受主体1の水平板部9と折曲縁3の接続部である屈曲角部10がテコの支点の役を果たし、樋受主体1の重量をこの屈曲角部10が受け、該屈曲角部10が垂直杆5に噛み込むことになるので、ボルトナツト4・7を緩めても樋受主体1が不用意に摺動下降しない、という作用効果を奏するものであること、第一引用例記載の考案の構成は、(イ) 受腕5と挿込片10を屈曲連成した取着部12と別体に形成し、(ロ) 受腕5の一端に形成した水平板部に更に屈曲連成した突出片3を設け、(ハ) 突出片3には外向きの爪部6を、挿込片10にはラツク状切込歯9を各々設けて、筒状体8内に突出片3と挿込片10とを添接状に挿し込み、爪部6とラツク状切込歯9を噛み合わせて三者8・3・10を一体状に定着させてなる(ニ) 雨樋その他の樋受類金具であり、この構成(イ)、(ロ)及び(ニ)は本件考案の前記構成(イ)、(ロ)及び(ニ)と同一であること、並びに第三引用例記載の考案の構成が、(イ) 合成樹脂その他の材料をもつて形成した波板1の縦方向の一端部を平板とし、これを垂下状に折曲げて樋取付部2を形成し、(ロ) 樋取付部2に樋取付用の長孔3を数個穿ち、(ハ) 別に樋4の一辺を少し長く形成し、この部に長孔3の相当位置に取付孔5を穿つて、(ニ) 長孔3から樋4の孔5にボルト6を貫挿し、樋4に勾配をつけて後、ナツト7を締付け取付けてなる (ホ) 樋取付波板であることは、当事者間に争いがない。

そこで、第三引用例記載の考案が本件考案の前記構成(ハ)を有し、第一引用例記載の考案の前記構成(ハ)と置換することができるかについて検討すると、第三引用例記載の考案は、前記のとおり、樋4の一辺を少し長く形成し、この部に(波板1と一体を成し、その縦方向の一端から下垂した平板の樋取付部2に穿つた)長孔3の相当位置に取付孔5を穿つて、この長孔3から樋4の取付孔5にボルト6を貫挿し、ナツト7を締付けたものであつて、樋そのものの締着手段にボルトナツトを用いるものであり、本件考案のように樋受主体を締着対象物とするものではないから、本件考案の構成(ハ)を備えたものとはいえない。

したがつて、樋受主体(受腕5)を締着対象物とする第一引用例記載の考案において、その樋受主体の締着手段に関する構成(ハ)を第三引用例記載の考案の樋の締着手段で置換することはできないというべきである。

原告らは、本件考案と第三引用例記載の考案とは締着対象物を異にするが、その差違は樋を屋根材に取付ける際、第三引用例記載のように直接取付けるか、本件考案のように樋受金具に取付けるかの違いにすぎず、第三引用例記載の考案における取付手段を第一引用例記載の考案における取付手段と置換することは容易であり、また、本件考案の奏する作用効果は第一、第三引用例記載の各考案の作用効果の和の範囲内のものであるか、又は第一引用例記載の考案に第三引用例記載の考案を組み合わせることによつて当業者が当然に予期できる作用効果にすぎないから、本件考案は、第一引用例記載の考案と第三引用例記載の考案とを組み合わせることによつて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものである旨主張する。

そこで、本件考案の構成と本件考案の奏する作用効果との関連についてみると、本件考案は、樋受主体1の一端に水平板部9を介して更に上向きの折曲縁3を形成した構成(ロ)と、該折曲縁3を垂直杆5に摺動自在に添接し、垂直杆5の長溝孔6に挿通したボルトナツト4・7をもつて締着した構成(ハ)を有し、この構成(ロ)と(ハ)とが一体に結合することにより、ボルトナツト4・7は樋受主体1より上方となり、ボルトナツト4・7を緩めても樋受主体1は転倒しないという作用効果(b)を奏し、かつ、ボルトナツト4・7を緩めても水平板部9と折曲縁3の接続部である屈曲角部10がテコの支点の役を果たし、垂直杆5に噛み込むことになるので、樋受主体1は不用意に摺動下降しないという作用効果(c)を奏するものというべきである。

これに対し、成立に争いない甲第三号証によれば、第一引用例記載の考案は、緊束用金属線を使用しないで樋を保持できる樋受器において、従来品では受腕と取付部とが一体となつているため受腕の上下位置を定めるために取付部の相違するものを複数使用しなければならない不便があり、また、スレート屋根用と瓦屋根用とでは全然取付部の方向の異なるものを使用しなければならない欠点があつたとの知見に基づき、スレート屋根用と瓦屋根用との受腕を二つ具えることによつて、取着部で、受腕の高さも、スレート屋根や瓦屋根の端部との隔たり等も簡単に調節できる樋受器を得ることを技術的課題としたもの(第一頁左欄第二八行ないし右欄第一行)であることが認められ、また、成立に争いのない甲第五号証によれば、第三引用例記載の考案は、従来の樋は、波板の先端位置の軒先板又は垂木等に樋受支持金具を適当な勾配に取付け、この上に樋を取付けたものであつて、別個の樋受支持金具を必要としたため、取付けに相当の手数と時間を要し、小面積の庇等の施工には甚だ不便であつたという欠点を改良し、本件考案のような樋受支持金具を必要としない取付が簡単で安価な樋取付波板を提供することを技術的課題としたもの(第一頁右欄第三行ないし第二二行)であることが認められるから、いずれの考案も樋受金具に用いる場合における樋受主体の転倒防止や樋受主体の下降防止を意図し、これを解決するための技術的手段を提供することを技術的課題としたものではない。また、第一引用例記載の考案は、本件考案の構成(ロ)を有しても構成(ハ)を欠き、第三引用例記載の考案は、本件考案の構成(ロ)を欠き、構成(ハ)については、ボルトナツトを使用する締着手段において共通するものの締着対象物を異にすることは前記認定のとおりであつて、いずれも本件考案の構成(ロ)と(ハ)とを一体に結合した構成を有するものではないから、本件考案の前記作用効果(b)及び(c)と同様の作用効果を奏することができないことが明らかである(なお、第一引用例記載の考案は、その構成(ハ)によつて樋受主体(受腕5)を段階的ではあるが所定位置に固定することができるから、本件考案の前記作用効果(a)と同様の作用効果、すなわち一々注文して特定各種の形状のものを製作する煩雑さが解消されるとともに、受腕5の位置を容易に上下に移動変更して所要位置に固定することができるという作用効果を奏することができるものと認められる。)。

原告らは、第三引用例記載の考案は、締着対象物は樋そのものであるが、締着手段としてボルトナツト6・7を使用し、かつ、ボルトナツト6・7の位置が樋4よりも上方にあるためボルトナツト6・7を緩めても樋4が転倒することがなく、本件考案の作用効果(b)と同様な作用効果を奏することができる旨主張する。

しかしながら、第三引用例記載の考案は、樋受主体の転倒防止を技術的課題とするものではなく、むしろ本件考案のような樋受金具を省略して樋を屋根材に直結して締着することを技術的課題とし、これを解決するための構成を採択したものであることは前記認定のとおりであり、ボルトナツトを緩めても樋受主体が転倒することがないという作用効果を奏するものではない。

また、原告らは、第一引用例記載の考案においては爪部6を有する突出片3がラツク状切込歯9を刻設した挿込片10に対して上下動した際、少なくとも右爪部6がラツク状切込歯9に対して出没自在となる間隙が設けられていなければならないから、この間隙によつて水平板部と突出片3との角部が本件考案と同様にテコの支点の役を果たし、これにより本件考案の作用効果(c)と同様な作用効果を奏し得るものである旨主張する。

しかしながら、第一引用例記載の考案は、樋受主体の締着を緩めた時の樋受主体の下降防止を技術的課題としたものではなく、ボルトナツトを締着手段としたものでもないことは前記認定のとおりであり、しかも、第一引用例記載の考案の前記構成によれば、爪部6を有する突出片3と、ラツク状切込歯9を刻設した挿込片10とは、爪部6とラツク状切込歯9とを噛み合わせ、これを筒状体8内に挿嵌し一体状に定着させるものである以上、突出片3と挿込片10とが完全な固定状態になつているものとみるべきであるから、これによつて受腕5の水平板部と突出片3との角部とがテコの支点の役を果たし得るものとは認め難い。

この点に関し、原告らは、突出片3と挿込片10とが完全な固定状態にあるとしても、この取付けが緩んだ時にその折曲角部がテコの支点となるから、右作用効果(c)を潜在的に有する旨主張するが、締着手段としてボルトナツトを用いる場合には、これが緩む場合のあることは技術常識であり、それ故に本件考案は、ボルトナツト4・7が緩んでも屈曲角部10がテコの支点の役を果たして樋受主体1が不用意に下降することの防止を意図して前記構成を採択したものであることが明らかであるのに対し、第一引用例記載の考案における前記取付手段により突出片3と挿込片10とが固定状態になつたものについては、当然にこれが緩むことが予期されるとはいえず、また、前掲甲第三号証によれば、第一引用例には、そのような場合があることについては何ら開示されていないことが認められるから、第一引用例の記載事項からその取付けが緩んでテコの支点の作用を果たすことまで読みとることはできない。したがつて、第一引用例記載の考案も、第三引用例記載の考案も、本件考案の作用効果(b)及び(c)と同様の作用効果を奏することを解決すべき技術的課題とするものではなく、またこのような作用効果を奏し得るものでもないから、本件考案は、第一引用例及び第三引用例記載の各考案からは予測し得ない格別の作用効果を奏するものであつて、第三引用例に記載された樋そのものの締着手段を第一引用例記載の考案における樋受主体の締着手段に関する前記構成(ハ)に置換して本件考案を得ることは、当業者がきわめて容易に想到し得たものとすることはできない。

3  以上のとおりであつて、審決には原告ら主張の判断を遺脱した違法はなく、また、本件考案は第一引用例及び第三引用例記載の考案を組み合わせることによつて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものではないとした審決の判断は正当というべきである。

三  よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告らの本訴請求は失当としてこれを棄却する。

〔編註その位置〕本件考案の要旨は左のとおりである。

樋受主体1と下向きの垂直杆5を屈曲連成した取付枠部2を扁平帯鉄を折曲した別体に形成して、樋受主体1の一端に形成した水平板部9に更に上向き屈曲連成した折曲縁3を垂直杆5に摺動自在に添接し垂直杆5の長溝孔6に挿通したボルトナツトで締着してなる樋受金具。

(別紙図面(一)参照)

〔編註その二〕本件に関する図面は左のとおりである。

別紙図面(一)

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別紙図面(二)

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別紙図面(三)

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