東京高等裁判所 昭和58年(行ケ)253号 判決
一 請求の原因一ないし三の事実は当事者間に争いがない。
二 そこで、原告の主張する審決の取消事由の存否について検討する。
成立に争いのない甲第二号証によれば、本願考案の出願当初の明細書の考案の詳細な説明には、「自動車の透明な前照灯カバー1を後方へ大きく傾斜させ、あたかも高速度用のいわゆるスーパーカーの前部の型状に類似させ、その上方に位置するボンネツト2及びその周辺に空気の流出口3をあけその流出口3へ通じる空気導入路6の両内壁面の上部に、たとえば逆翼型断面の逆揚力板4を回動自在に軸着したものである。前照灯カバー1は第2図、第3図に示したように、その上端がボンネツト2の空気流出口3の後端にボンネツトを閉じた時に接する。前照灯7の照射方向にある空気流入口5から走行中に流入した空気は前照灯カバー1に当りつゝ空気導入路6を通過し、逆揚力板4を反時計方向に回動させて開きうしろ上方へと流出する。」(第二頁第八行ないし第三頁第二行)との記載があり、実施例を示す別紙第1ないし第7図記載の図面が願書に添付されていることが認められる。
右記載及び図面によれば、本願考案にかかる自動車の空気抵抗減少逆揚力装置において、空気流出口3の周縁は、後端及び内側をボンネツト2の切り欠いた端縁部、外側をフロントフエンダーの上端縁部、前端を逆揚力板4(それが開いた場合には、エンジンルームを画成する車体構造物の前部上端((以下、「車体構造物前部上端」という。)))によつて画成されていること、空気導入路6は、その底面を前照灯カバー1、両側面を両内壁面、上面を逆揚力板4の下面及び車体構造物前部上端の下面によつて形成されており、右両内壁面としてはボンネツト2とは別体の壁板が設けられ、その上部に逆揚力板4が回動自在に軸着されていること、空気流出口3の後端及び内側を形成するボンネツト2の切り欠いた端縁部は、前照灯カバー1の上端及び空気導入路6の内壁面の上部に接するが、空気導入路6の両内壁面とボンネツト2とは互いに固着していないことが認められ、出願当初の明細書または図面に、逆揚力板4を空気導入路6の両内壁面以外の位置に軸着する構成も存することを示唆する記載はない。
原告は、空気流出口3は空気導入路6の一部であつて、ボンネツト2にあけられており、したがつて、空気導入路6の両内壁面は、空気流出口3を形成するボンネツト部分を含むものであるから、「逆揚力板4を空気導入路6の両内壁面の上部に軸着する」構成は、「逆揚力板4をボンネツト2に軸着する」構成を含むものである旨主張する。
空気流出口3は空気導入路6の一部である旨の原告の主張の趣旨は必ずしも明確ではないが、前記認定事実によれば、空気流出口3は、空気流入口5から空気導入路6に導入された空気を流出させる出口であつて、空気導入路6に連通しており、その終端部であるということはできるけれども、空気流出口3の周縁を画成する部材は、ボンネツト2の切り欠いた端縁部、フロントフエンダーの上端縁部及び逆揚力板4(それが開いた場合には、車体構造物前部上端)であり、一方空気導入路6は、前照灯カバー1、壁板よりなる両内壁面、逆揚力板4の下面及び車体構造物前部上端の下面によつて形成されていて、空気流出口3の周縁と空気導入路6は、その部材構成を異にし、空気導入路6の両内壁面は空気流出口3の周縁を画成する部材とはなつておらず、部材構成上は、空気流出口3が空気導入路6の一部であるということはできず、さらに、空気流出口3は、前記認定の部材構成をもつて、「ボンネツト2及びその周辺」に位置決められて、あけられているが、前記認定のとおり、ボンネツト2の切り欠いた端縁部は、前照灯カバー1の上端及び空気導入路6の内壁面の上部に接しているにすぎず、これに固着されてはいないのである。
したがつて、空気導入路6の両内壁面はボンネツト2の空気流出口3を形成する部分を含むものであるということはできず、逆揚力板4を空気導入路6の両内壁面の上部に軸着する構成が、逆揚力板4をボンネツト2に軸着する構成を含むものとはいえない。これに反する原告の主張は理由がない。
以上によれば、逆揚力板4をボンネツト2に軸着する構成は出願当初の明細書又は図面に全く記載のなかつた事項であり、また、それを示唆する記載もないのであるから、本件補正は明細書の要旨を変更するものであるとした審決の判断に誤りはない。
三 よつて、審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を失当として棄却することとする。
〔編註その一〕 本件における願書に最初に添付した明細書に記載した実用新案登録請求の範囲と手続補正書の内容は左のとおりである。
1 願書に最初に添付した明細書(以下「出願当初の明細書」という。)に記載した実用新案登録請求の範囲は次のとおりである。
透明な自動車前照灯カバー1を大きく後方へ傾斜せしめ、その上方に位置するボンネツト2の周辺に空気流出口3をあけ、その空気流出口3の大部分を停車中は閉じ走行中は後方が開く逆揚力板4を、前照灯カバー1を底面とし空気流入口5より空気流出口3へと通じる空気導入路6の両内壁面へ回動可能に軸着して構成した、自動車の空気抵抗減少逆揚力装置。
(別紙第4図ないし第7図参照)
2 原告が、前記手続補正書をもつてした手続補正(以下「本件補正」という。)は、右1の実用新案登録請求の範囲を次のように補正し、あわせて、第8ないし第10図(別紙第8ないし第10図参照)を付加し、かつ、出願当初の明細書の発明の詳細な説明に右補正に関連する説明を付加しようとするものである。
透明な自動車前照灯カバー1を大きく後方へ傾斜せしめ、その上方に位置するボンネツト2またはその周辺に空気流出口3をあけ、その空気流出口3の大部分を停車中は閉じ、走行中は後方が開く逆揚力板4を、前照灯カバー1を底面とし空気流入口5より空気流出口3へと通じる空気導入路6の両内壁面またはボンネツト2へ回動可能に軸着して構成した、自動車の空気抵抗減少逆揚力装置(傍線部分は補正箇所を示す。)。
〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。
別紙
<省略>
<省略>
<省略>
<省略>