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東京高等裁判所 昭和58年(行ケ)260号 判決

(争いのない事実)

一 本件に関する特許庁における手続の経緯、補正前明細書及び補正明細書の特許請求の範囲の記載並びに本件決定の理由の要点が原告主張のとおりであることは、当事者間に争いがないところである。

(本件決定を取り消すべき事由の有無について)

二 本件決定は、補正前明細書には本願発明の要旨が充分に開示されており、補正明細書は、単に本願発明の特許出願当時の技術常識に基づく字句の補足を行つたにすぎないものであるにもかかわらず、補正明細書による補正をもつて本願発明の要旨を変更するものであるとの誤つた結論を導いたものであり、この点において、違法として取り消されるべきである。すなわち、

成立に争いのない甲第八号証(昭和五四年四月二〇日付手続補正書)によれば、補正明細書の発明の詳細な説明の項には、緻密焼結した透光性アルミナ製の容器と栓体との「焼結」及び「気密封着」に関して、「緻密焼結した透光性の多結晶酸化アルミニウムすなわちアルミナよりなる接着材料を同じ材料からなる放電灯容器内で焼結させると、焼結前においては、その接着材料における微粒子の密度が放電灯容器の器壁における微粒子の密度よりわずかに高かつたのに対し、焼結中においては、放電灯容器の器壁の方が接着材料よりも急速に収縮するので、かかる焼結によつて器密封着が達成されることになる。」(同号証第九頁第一二行ないし第二〇行)、願書添附の第1図の説明として、「栓体7、8を焼結により放電灯容器1に封着する。」(同号証第一四頁第二〇行ないし第一五頁第一行)、同第2図の説明として、「太い黒線20は、透光性緻密焼結アルミナよりなる栓体7が同一材料よりなる放電灯容器1に焼結されていることを示すものである。」(同号証第一五頁第一九行ないし第一六頁第二行)との記載があることが認められ、右記載と前記補正明細書の特許請求の範囲の記載を総合すれば、右特許請求の範囲にいう」透光性緻密焼結アルミナからなる栓体を前記円筒形の部分に配置して前記放電灯容器に気密に焼結させる」とは、焼結の度合いを異にする透光性緻密焼結アルミナからなる栓体を透光性緻密焼結アルミナからなる放電灯容器の円筒形の部分に配置して、再度の焼結に伴う栓体と容器の接融面の収縮差を利用して、両者を気密接着することと認められる。

そこで、補正前明細書に、右の技術的思想が開示されているか否かを検討するに、成立に争いのない甲第一号証の二(補正前明細書)によれば、補正前明細書の発明の詳細な説明の項には、「気密封着構造が種々知られている。その中で通常使用される一つの例として中空管状給電部材を使用することがある。」(同号証第三頁第七行ないし第一〇行)、「この様な管状体を直接容器に封着することは困難であるため既知構造では別にアルミナの栓体を気密に封着しこの栓体をそれと同一材質の容器に封着すると云う間接封着を採用した。」(同号証第三頁第一二行ないし第一六行)、「本発明は少くとも一個の給電部材を少くともその封着個所を円筒形としたアルミナ製放電空間容器に気密封着した放電灯に於て、アルミナ栓体を円筒形部分に配置して焼結によつて恒着し」(同号証第四頁第一四行ないし第一七行)、「アルミナ管の中に栓体を設ける構造は知られ又アルミナ管に栓体を接着硝子或いは低融点磁器材料で封着することも知られている。このような構造は、接着材料が常に同一の膨脹係数を有するとは限らないと云う点で信頼性に欠ける。このようにして封着部に内部応力を発生しそれが亀裂の原因となる。更に栓体と容器との内側の隅に接着材料より成る環状の溜りを生じこれが点灯中に高温の侵食性気体と接触する。そのために汚染を生ずるのみならず接着材料に亀裂を生じそれが栓体と容器との間にある接着材料の方まで延びて行くことが屡々起る。本発明構造では栓体が容器の中で焼結されるためこのような欠点を生じない。」(同号証第五頁第七行ないし第二〇行)との記載があるほか、願書添附の第1図の説明として、「アルミナ製栓体7及び8を夫々焼結によつて容器1の両端に恒着する」(同号証第八頁第一三行及び第一四行)、同第2図の説明として、「太い黒線20はアルミナ製栓体7を同一材質製容器1に焼結した境界線を示し」(同号証第九頁第四行及び第五行)との記載があること、一方において、透光性緻密焼結アルミナ製の容器と栓体との気密封着に際し、従来の接着硝子に代えて、他の結合材を用いる点については何らの記載もないことが認められ、右事実に前記補正前明細書の特許請求の範囲の記載及び成立に争いのない甲第一号証の三(本願発明の願書添附の図面)を総合すれば、焼結アルミナ容器放電灯において、従来、焼結により成形されたアルミナ製容器と栓体とは、接着硝子によつて気密に封着されていたが、この方法による場合、前認定のような欠点を生ずることから、本願発明は、この欠点の除去を発明の目的、課題の一つとし、接着硝子を用いずに、焼結により成形されたアルミナ製容器と栓体とを再度焼結して気密に恒着する方法により、その目的を達したものであることを認めることができる。もつとも、前掲甲第一号証の二によれば、右再度焼結によるアルミナ製容器と栓体との気密恒着が、栓体と容器の接触面の収縮差を利用する点について、補正前明細書に格別の記載はない。しかしながら、成立に争いのない甲第一三号証によれば、同号証は、本願発明の特許出願前の一九六〇年、アカデミツクプレス発行に係る「オキサイドセラミツクス」と題する書籍の第四六頁であるところ、それには、第10図として、焼結温度の関数としての酸化セラミツク体の収縮及び強度(ヤング率)を示す曲線が略図的に示されているとともに、アルミナは、一五〇〇℃に達するまでは収縮の度合は極めて小さいが、一五〇〇℃を越えると収縮の度合は急激に大きくなる旨の記載があることが認められ、右図面及び記載に徴すれば、アルミナは焼結温度の違いによりその収縮の程度を異にするものであり、このことは、本願発明の特許出願前周知の技術であつたものと認められ(この認定を覆すに足りる証拠はない。)、右認定の本願発明の特許出願時における技術水準に前段認定の補正前明細書の記載内容を総合すると、補正前明細書には、焼結の度合の違いによつて生ずる収縮の度合の違いを利用した再度の焼結によつて、透光性の緻密焼結アルミナからなる栓体を容器に「気密に恒着する」方法についての技術的思想が開示されているものと認めるのを相当とし、補正明細書の第九頁第一二行ないし第二〇行の前記記述は、原告の主張するように、新規な工程を付加したものではなく、単に、透光性の緻密焼結アルミナからなる栓体を同じ材料からなる容器の中で焼結した際に生ずる事項を説明文として付加したにすぎないものというべきである。

そうであるとすれば、本件手続補正は、実質的に、特許請求の範囲を補正前明細書において開示した技術的内容の範囲内において補正したものであつて、補正前明細書の要旨を変更するものということはできず、本件決定は、この点の認定判断を誤つたものといわざるを得ない。

(結語)

三 よつて、本件決定を違法としてその取消しを求める原告の本訴請求は、理由があるから認容することとする。

〔編註〕 本願発明の特許請求の範囲は左のとおりである。

1 補正前明細書(昭和五四年四月二〇日付手続補正書による補正前の願書に添附した明細書をいう。以下同じ。)の特許請求の範囲の記載

少くとも一個の給電部材を、少くともその封着個所を円筒形とした透光性緻密焼結アルミナより成る容器に器密封着した放電灯に於て、八〇〇℃よりも高く透光性緻密焼結アルミナ及び給電部材よりも低い融点を有する接着硝子を以て給電部材を装着し気密封着するための開孔を具えた透光性緻密焼結アルミナより成る栓体を該円筒形部分に焼結して容器に気密恒着して具え、更に給電部材を挿通する開孔を有し透光性緻密焼結アルミナより成り八〇〇℃より高く透光性緻密焼結アルミナ及び給電部材より低い融点を有する接着硝子で容器端面と容器内の栓体とに封着して容器と気密封着した蓋体とを具備せしめたことを特徴とする焼結アルミナ容器放電灯。

2 補正明細書(前記手続補正書による補正後の明細書をいう。以下同じ。)の特許請求の範囲の記載

少なくとも給電部材封着部分を円筒形にして放電空間を構成する透光性緻密焼結アルミナ製の放電灯容器に少なくとも一個の給電部材を気密に封着した放電灯において、透光性緻密焼結アルミナからなる栓体を前記円筒形の部分に配置して前記放電灯容器に気密に焼結させるとともに、前記栓体に開口を設けてその開口中に、八〇〇℃より高く、かつ、透光性緻密焼結アルミナおよび前記給電部材を構成する金属の融点より低い融点を有する接着硝子により前記給電部材を気密に封着し、さらに、前記給電部材を貫通させる開口を有するとともに前記放電灯容器の円筒形の部分およびその円筒形の部分に配置した前記栓体を支える透光性緻密焼結アルミナ製の蓋体を、八〇〇℃より高く、かつ、透光性緻密焼結アルミナおよび前記給電部材を構成する金属の融点より低い融点を有する接着硝子により前記放電灯容器、前記栓体および前記給電部材に気密に封着したことを特徴とする焼結アルミナ容器放電灯。

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