東京高等裁判所 昭和58年(行ケ)261号 判決
一 請求の原因一ないし三の事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、原告主張の審決取消事由について検討する。
1 請求の原因四1について
(一) 成立に争いのない甲第二ないし第四号証により認められる本願明細書及び図面の記載によれば、審決指摘箇所は、原告の主張するとおり、本願明細書の発明の詳細な説明の項の本願発明において文字認識のために用いる特性を説明している<1>の記載に引続く記載であつて、「ラインの不連続(飛越し)」との小題を付した文章の冒頭部分であり、右の文字認識のために用いる特性の一つである「ラインの不連続(飛越し)」について説明している記載であることが明らかである。
(二) 前示甲号各証により認められる本願明細書の記載によれば、右の文字認識のために用いる特性の種類、その特性の一つであるラインの不連続(飛越し)の意味については、本願明細書中、右<1>の記載及び審決指摘箇所に先立つて、本願発明の目的及び特徴を一般的に説明している部分において、すでに次のように記載されていることが認められる。
「本発明の目的は、……文字内に多数の特性が生ずるため関連グループに属する確率に基づいて割当てるようにした装置を提供することにある。この目的は、ラーニング段階と次の作業段階において部分像と二次像を処理された文字から結像し、種々の特性グループの各グループ内における文字の特性は複雑性により分類され、各特性グループの分類を部分像および二次像の各々にたいし行うこと……により達せられる。」(甲第二号証明細書四頁九行ないし五頁八行)
「部分像は完全文字と、垂直方向または水平方向に二分された文字部分の種々のアスペクトにより構成されることが好ましい。
第一の特性グループは図の平面における各アスペクトのラインの不連続部分(とびこし)に関係し、第二の特性グループは図の平面における各アスペクトのラインのスロープ形状に関係し、第三のグループは図の平面における端末点の発生に関係し、第四のグループは二次像を構成する部分領域の数と部分領域の形状とに関係があるようにすることが好ましい。」(同七頁一ないし九行)
「ここで『ラインの不連続部分(飛越し)』は第5図に例示している。左側からみてPS0には水平線の飛越しはない。PS1では一つの水平線が文字の一部分から他の部分に飛越している(左からみて…正)。PS2においては、一つの水平線が一つの部分から他の部分への飛越しをもつ(左からみて…負)。」(同七頁一〇ないし一五行、原告引用<2>の記載)
また、前示本願明細書の記載によれば、右の一般的説明に加えて、右特性の意味については、さらに、右<1>の記載及び審決指摘箇所に先立つて図面を引用して本願発明を詳細に説明している部分に、次のように、より詳細に説明されていることが認められる。
「特性は完全パターン(第2図a~d)の上下左右アスペクトにたいし決められる。つぎに各パターンを縦横に二つの等部分に分け、特性も上記のように分けたパターンの各種アスペクト(第2図e~h)にたいし決め、これらの半部分はそれぞれ左、右、下および上から見られている。第2図において、各像は左側におけるオブザーバの位置から見るように表示されており、このようにして見られた数字部分は実線で描かれている。確率マトリツクスはこれらアスペクト各々に対し描かれる。さらに二次像は認識される文字各々で形成され、特性は上下左右のアスペクトにたいし決められる。第一五図は完全パターンの例であり、第一六図はそれから引き出された二次像を示す。」(同一三頁七行ないし一四頁三行)
「部分像の特性は三つのグループに分けられ、第一グループはアスペクトにおける線の不連続(飛越し)に関し、第二グループはアスペクトにおける線の傾斜形状に関し、第三グループは端末点の存在に関する。」(同一四頁四ないし七行)
「二次像の特性はそれらが構成される部分領域(アイランド)の数および各部分領域の境界形状に関する。これら特性はまたアスペクト各々にたいし決められる。」(同一四頁八ないし一〇行)
「本発明によれば、特性はいくつかの『グループ』に分けられている。各グループ内に、それに属する特性が文字の複雑さに応じて分けられている。好ましい文字認識手続では全部で四つの特性グループを使用する。どの場合にも、使用分類の一つは部分・二次像の特性グループの各々にたいし決められるので、情報の認識をし損うことはない。
好ましい実施例において、特性グループは部分像におけるラインの不連続、スロープ形状および端末点、ならびに二次像における部分領域の数とそれらの境界の種類に関する。」(同一六頁六ないし一四行、原告引用<1>の記載)
(三) 以上の記載によれば、本願明細書において、「ラインの不連続(飛越し)」とは、本願発明において文字を認識するために用いる四つの特性のうちの部分像に関する特性の一つであり、部分像とは、完全文字と垂直方向又は水平方向に二分された文字部分を上下左右の方向からそれぞれ見た場合に直視することができる文字又は数字を構成する線分がどのような形態であるかを示すアスペクトにより構成されるものであること、したがつて、あるアスペクト又は部分像におけるラインとは、このアスペクト又は部分像において直視できる文字又は数字を構成する線分(以下、「あるアスペクト又は部分像において文字、数字を構成する線分」という。)を意味することが、当業者が理解できる程度に明瞭に記載されているものと認められる。そして、審決指摘箇所は、右引用の最後の文章(<1>の記載)に引き続き、「ラインの不連続(飛越)」と題された文章の冒頭部分であることは前示のとおりであり、この小題の「ラインの不連続(飛越し)」が<1>の記載における「部分像におけるラインの不連続」を受けていることは明らかであるから、審決指摘箇所における「ライン」が「あるアスペクト又は部分像において文字、数字を構成する線分」を意味することは一義的に明瞭であり、これを単なる「文字、数字を構成する線分」と解する余地はないといわなければならない。したがつて、審決が審決指摘箇所の「ライン」を文字、数字を構成する線分と解すると本願明細書添付図面(別紙図面)第五図と矛盾を生じる旨判示する部分は、審決指摘箇所の記載の意味が不明瞭であるとする理由にならないことが明らかである。
そして、審決指摘箇所の「ライン」が右のとおり「あるアスペクト又は部分像における文字、数字を構成する線分」を意味すると一義的に解することができる以上、審決指摘箇所全体の文意は自ずから明らかといわなければならない。
(四) 被告は、「ライン」の語は本願明細書において多義に用いられており、その意味は確定できない旨主張する。
しかし、前示甲号各証により認められる本願明細書及び図面の記載によれば、被告が指摘する本願明細書三八頁一〇・一一行の「ライン」は、装置の機能を説明している「パターン全体のOR関数は最終ライン(47)が記録されたときに形成される。中心線の位置は、ライン47において、まずOR関数の開始までの白像要素数を決め、つぎにOR関数自身(第44図)の像要素数の半数を決めることによつて得られる。」(甲第二号証明細書三八頁九ないし一三行)との記載の「最終ライン(47)」、「ライン47」であることが認められ、本願明細書添付図面(別紙図面)第四四図と右の記載を見れば、右「最終ライン(47)」、「ライン47」が第四四図に「47」と符号をつけて示されているマトリツクス最終行中の直線を意味することが一義的に明らかである。また、同様に被告の指摘する本願明細書五〇頁四ないし六行の記載中の「ライン」及び同二一頁一ないし三行の記載中の「ライン」が、それぞれ、その文章の意味するところから、「記憶セル中の行又は列」、「あるアスペクト又は部分像における文字、数字を構成する線分」と明瞭に読み取ることができることは被告の自認するとおりであり、このように読み取ることができる以上、審決指摘箇所の「ライン」の意味が不明瞭であるとする理由にならないことは明らかである。その他被告が反論として述べるところがいずれも審決指摘箇所の「ライン」を前示のとおり解することの妨げとならないことは、前示認定の本願明細書の記載から明らかといわなければならない。
2 請求の原因四2について
前示甲号各証により認められる本願明細書の記載によれば、審決指摘箇所に続いて、次の記載があることが認められる。
「分類はつぎの通りである。
PS0…アスペクトではラインは一つだけなので距離差は生じない。
PS1…+ 距離差は正一つだけ。
PS2…- 距離差は負一つだけ。
PS3…-+距離差は負と正。
PS4…+-距離差は正と負。
PS5…++距離差は連続する二つの正。
PS6…--距離差は連続する二つの負。
PS7…アスペクトにおけるラインが三以上。
第5図は左側アスペクトについての本分類例を示す。」(甲第二号証明細書一七頁五ないし一五行)
右の記載をこれに先立つ審決指摘箇所と合わせて読み、かつ、前示甲号各証により認められる本願明細書添付図面(別紙図面)第五図及び同第五図を説明している前示原告引用の<2>の記載を参酌すれば、審決指摘箇所からの右一連の文章は、あるアスペクト又は部分像において文字、数字を構成するある線分の始点が他の線分の終点に比較し、部分像のパターンを見る拠点である長方形の側部すなわちアスペクトの観察点からの距離が遠い場合、両線分の距離差を正とし、逆の場合を負とし、この距離差の数及び正負により「ラインの不連続(飛越し)」を七つに分類すること、この分類は、線分が一つで距離差がない場合をPS0とし、線分が二つで距離差が一つの場合正をPS1、負をPS2とし、線分が三つで距離差が二つの場合負正の順序のものをPS3、正負の順序のものをPS4、正正の順序のものをPS5、負負の順序のものをPS6としていることが認められる。そして、この分類方法に従えば、前示第五図にPS7として示されている場合は線分が四つで距離差が三つであることが明らかに読み取ることができる。
前示第五図にPS7と表示されている場合が右のように読み取ることができ、かつ、PS7がPS0からPS6に続く分類を示している以上、「PS7…アスペクトにおけるラインが三以上。」との記載が「PS7…アスペクトにおけるラインが四以上。」の単純な誤記であることは、当業者にとつて容易に判別できるところと認められる。
そうすると、右記載があることが、審決指摘箇所における「ライン」を前叙のとおり「あるアスペクト又は部分像における文字、数字を構成する線分」と解することの妨げとなることはないといわなければならない。
3 請求の原因四3について
前示甲号各証により認められる本願明細書及び図面の記載によれば、審決の挙示する本願明細書二六頁一〇行ないし二七頁五行の記載が原告の引用する<3>の記載のとおりであり、この<3>の記載は、「アイランド」との小題の下に、読み取るべき文字、数字の原パターンから二次像であるアイランドを抽出し、このアイランドをその数及びその境界の種類すなわち白又は黒像要素によるふちどりの種類によりPT0からPT7に分類する手段を述べた一連の文章(甲第二号証明細書二四頁七行ないし二七頁一四行)の一部であることが認められる。
右一連の文章と本願明細書添付図面(別紙図面)第一五ないし第一八図とによれば、アイランドは読み取るべき文字、数字の原パターンを上下左右から走査し見えない部分を検出した上、文字又は数字を構成する線分すなわち黒像要素を除いて得られる二次像であり、右図面(別紙図面)第一六図において06、07、08の符号によつて示されている部分であることが認められ、このようにアイランド自体は文字、数字を構成する線分を示す黒像要素を除いたものであるが、これを分類するに当たつては、各個のアイランドが文字、数字を構成する線分を示す黒像要素によつてふちどりされていたものであるかを基準に分類すべき旨説明されていることが認められる。
この理解を前提に<3>の記載を見ると、まず、<3>の記載のうちの「二つの領域が離れたただ一つの像要素であれば、これらは一つのアイランドとみなされる。」(前同二六頁一三ないし一五行)の記載が「二つの領域の間隔が一像要素幅であれば一つのアイランドとみなされる。」の意味に理解できる記載であることは当事者間に争いがない。そして、この記載を右のように理解するとすれば、これに先立つ「二つのアイランドの間において、原パターンに黒像要素のないようなアイランドは離れた少なくとも二つの像要素となるという条件が適用される。」(同二六頁一一ないし一三行)との記載は、「二つのアイランドの間に黒像要素のないようなアイランドは、少くとも二つの像要素幅以上離れていなければならないという条件が適用される。」と理解すべきことが明らかである。このように理解すれば、前記の記載に続く「一つの像要素は外乱によるものかも知れない。しかし二つの像要素が外乱である可能性はむしろ少ない。第18図の例において、領域012と013は、それら間の白ストリツプはただ一つの像要素幅であるため、一つのアイランドと考える。」(同二六頁一五行ないし二七頁四行)の記載の意味が前示図面(別紙図面)第一八図の示すところと適合して理解することができると認められる。すなわち、右第一八図は、数字6を示す黒像要素の右端が一像要素幅だけ外乱により欠けているため、本来一つのアイランドとなるべき012と013が一像要素幅の白ストリツプにより、原パターンには黒像要素がないにもかかわらず二つのアイランドに分けられている場合において、右の「二つのアイランドの間に黒像要素のないようなアイランドは、少くとも二つの像要素幅以上離れていなければならないという条件が適用される。二つの領域の間隔が一像要素幅であれば一つのアイランドとみなされる。」との条件が適用されて、「第18図の例において領域012と013は、それら間の白ストリツプはただ一つの像要素幅であるため、一つのアイランドと考える。」との結果が生じ、外乱によるパターン認識の誤りが是正されることを右の記載と共に説明していることが明らかである。一方、このように原パターンに黒像要素が割込んでいない二つのアイランドとは異なり、右第一八図において数字6を構成する線分を示す黒像要素が割込んでいるアイランド011と012とは、「領域011と012は別々のアイランドとなつている。」(同二七頁四、五行)として、右黒像要素が一像要素幅であるのに、二つのアイランドを一つのアイランドと見るという前叙の条件が適用されない旨説明されていることが認められる。そうすると、<3>の記載の冒頭の「ラインが割込むとアイランドはいくつかの部分に分割される」との記載は、読み取るべき文字、数字を構成する線分を示す黒像要素が割込んでいれば、この黒像要素が一像要素幅であると否とを問わず、アイランドは分割されるという原則を述べたものと当業者であれば容易に理解することができると認められる。したがつて、右の記載における「ライン」は「読み取るべき文字、数字を構成する線分」と理解でき、これを用語を別にする「白ストリツプ」を意味すると読み取られることはないといわなければならない。また、右の理解を前提とすれば、形状においても線状でない前示図面(別紙図面)第一五図における第四部分を「ライン」と同視することはありえないと認められる。
被告は、「読み取るべき文字、数字を構成する線分」はアイランド抽出の段階で消去されていることを理由に右のように解することはできない旨主張する。しかし、アイランド抽出の段階で右線分は除かれて考えられるが、アイランドを分類するに当たつては、各個のアイランドが右線分を示す黒像要素によつてふちどりされていたものであるかを基準に分類すべき旨説明されていることは前叙のとおりであつて、<3>の記載がこれを前提としていることは明らかであるから、被告の右主張は採用することができず、その他右認定を覆えすに足りる証拠はない。
したがつて、<3>の記載の「ライン」が前示第一五図における第四部分又は前示第一八図における白ストリツプを意味することを前提に、審決指摘箇所の意味が不明瞭であるとする審決の理由は正当ということができない。
4 以上のとおりであるから、審決指摘箇所の意味が不明瞭であることのみを理由に本願明細書及び図面の記載を不備とした審決の判断は誤りというほかないから、審決は違法として取り消しを免れない。
三 よつて、原告の本訴請求を正当として認容することとする。
〔編註その一〕 本願発明の特許請求の範囲は左のとおりである。
文字をマトリツクスに投射する装置(1)と、マトリツクス走査用カメラ管(2)と、走査結果記録用記憶装置(9)と、走査結果変換機(3)と、変換データ処理用プロセツサ(4)とをそなえる、文字認識装置において;
(A) 記憶装置(9)に記憶された文字がいくつかの異なる内側および外側の視点から見られる部分像結像用パターン・マニピユレータであつて、
(a) 該パターンの少なくとも一部のための第二のマトリツクス記憶装置、
(b) 記憶パターンをコピーする装置、
(c) 記憶パターンを九〇度の倍数で回転させる装置、
(d) 記憶パターンを水平および垂直方向に一ビツトの倍数でシフトする装置、
(e) 記憶パターンをセントリングする装置、および
(f) 記憶パターンを調整する装置、
を含んで成るパターン・マニピユレータ(5);
(B) このマニピユレータ(5)に接続してその部分像の種々の特性を検出する回路装置(6);
(C) この検出回路装置に接続して検出された特性を分類する装置;
を装備して成ることを特徴とする文字認識装置。
〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。
別紙 本願明細書図面
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