東京高等裁判所 昭和58年(行ケ)31号 判決 1986年7月17日
原告
オリエントキヤタリスト株式会社
日本鉱業株式会社
被告
特許庁長官
右当時者間の昭和58年(行ケ)第31号審決(特許出願拒絶査定不服審判の審決)取消請求事件について、当裁判所は、次のとおり判決する。
主文
特許庁が、昭和57年11月19日、同庁昭和55年審判第4889号事件についてした審決を取り消す。
訴訟費用は、被告の負担とする。
事実
第1当事者の求めた裁判
原告ら訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、被告指定代理人は、「原告らの請求を棄却する。訴訟費用は、原告らの負担とする。」との判決を求めた。
第2請求の原因
原告ら訴訟代理人は、本訴請求の原因として、次のとおり述べた。
1 特許庁における手続の経緯
原告らは、昭和50年12月5日、発明の名称を「炭化水素類の接触反応処理に用いた触媒の容器詰運搬に際しての前処理方法」とする発明(以下「本願発明」という。)について特許出願をし(昭和50年特許願第145308号)、昭和52年8月26日及び昭和54年7月27日にそれぞれ手続補正をしたが、昭和55年1月23日拒絶査定を受けたので、これに対する不服の審判を請求する(昭和55年審判第4889号事件)とともに、同年5月2日に手続補正をしたけれども、昭和57年11月19日、「本件審判の請求は、成り立たない。」旨の審決(以下「本件審決」という。)があり、その謄本は、昭和58年1月25日原告らに送達された。
2 本願発明の要旨
炭化水素類の接触反応に用いた触媒を反応系から抜き出して容器詰運搬するに際し、上記抜き出した触媒を容器詰する段階において該触媒に被膜形成能および粒子架橋能を有する非ゴム物質の水溶液もしくは水性エマルジヨンを散布して浸潤させることを特徴とする上記容器詰運搬に際しての前処理方法。
3 本件審決理由の要点
本願発明の要旨は、前項記載のとおりであるところ、本願発明の特許出願の日前の特許出願であつて、本願発明の特許出願後に特開昭51―139570号公開特許公報をもつて出願公開された特願昭50―63081号の願書に最初に添附した明細書(以下「引用例」という。)には、アスフアルトが可溶の溶媒にアスフアルトを溶解して得られた溶液で炭化水素類の接触反応に用いた廃触媒を処理し、アスフアルトを廃触媒上に附着させ、表面附近に多く析出、沈積している極微粒の炭素や重金属の硫化物をアスフアルトで被覆し、廃触媒の表面に固着させて、極微粒の炭素や硫化物と空気の接触を絶つて酸化を抑制すると同時に、取扱い時にこれらの微粒子が粉じんとなつて飛散するのを防止する発明が記載されている。この引用例の記載を検討すると、アスフアルトをどのような形態で適用するかについては、「アスフアルトに可溶の溶媒にアスフアルトを溶解して得られた溶液」であると限定して記載しているが、このように限定した必然性については記載されていないし、また、アスフアルトを水性媒体中に乳化分散させた液体を廃除する記載も見当たらない。しかも、引用例記載の発明においては、アスフアルトを溶解して得られた溶液が最終的に効果を発揮するのではなく、溶媒を揮発させた後のアスフアルトそのものが効果を発揮するものと認められる。してみれば、引用例記載の発明では、アスフアルトを有機溶媒に溶解して適用するか、水性媒体中に乳化分散させて適用するかは、アスフアルト含有液の危険性、使いやすさ等を考慮して、当業者が任意に選択し得たことと認められる。そして、当然のこととして、廃触媒上に折出、沈積した微粒子の酸化防止や飛散防止の効果については、両者とも均等の作用を有するものと認められる。すなわち、引用例には、アスフアルトを溶媒に溶解させて適用するか、水性媒体中に乳化分散させて適用するかにかかわりなく、単に、アスフアルト含有液を廃触媒に適用すれば、引用例に記載されているような作用効果が達せられることが開示されていたものと認められる。
そこで、本願発明と引用例に開示されている発明とを比較すると、両者は、アスフアルト含有液で炭化水素類の接触反応に用いた廃触媒を処理し、廃触媒の酸化防止をすることで一致しており、(1)廃触媒を処理する時期が、本願発明では、「炭化水素類の接触反応に用いた触媒を反応系から抜き出して容器詰運搬するに際し、上記抜き出した触媒を容器詰する段階において」と規定されている点及び(2)発明の効果として、廃触媒の酸化防止のほかに、本願発明では、積荷の移動防止の効果があるのに対して、引用例記載の発明では、廃触媒の取扱い時に、廃触媒上に析出、沈積している微粒子が粉じんとなつて飛散することを防止する効果がある点で一応相違している。
これらの相違点について、次に検討するに、相違点(1)についてみると、本願発明の特許請求の範囲の項の「抜き出した触媒を容器詰する段階」という記載は、実施例等にみられるような抜き出した触媒を容器詰した後の意味に限定されるものではなく、触媒を抜き出す寸前をも意味するものと解され、また、抜き出した触媒を容器詰することは普通のことであるから、単に、廃触媒の取扱い時という意味と格別に相違するものとは認められない。次に、相違点(2)についてみると、引用例記載の発明において、廃触媒上に析出、沈積している微粒子が粉じんとなつて飛散することが防止されるのは、アスフアルトの粘着性に起因するものと認められるので、このような飛散防止の効果があれば、当然に廃触媒間の結合も起こるものと認められる。してみれば、本願発明の積荷の移動防止という効果は、単に、引用例記載の発明の前記効果を別の見地からみたにすぎず、両者間に格別の差異は認められない。
以上のとおりであるから、本願発明は、引用例記載の発明と実質的に同一と認められる。そして、本願発明の発明者が引用例記載の発明者と同一であるとも、また、本願発明の特許出願の時にその出願人が引用例記載の発明の特許出願の出願人と同一であるとも認められない。
したがつて、本願発明は、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない。
4 本件審決を取り消すべき事由
本件審決は、本願発明と引用例記載の発明との構成及び作用効果上の差異を看過した結果、本願発明をもつて引用例記載の発明と同一であるとの誤つた結論を導いたものであるから、違法として取り消されるべきである。すなわち、
本願発明の要旨は、前記のとおりであるところ、引用例には、アスフアルトを、それが可溶な溶媒、例えば、軽油又は灯油に溶解して得られる溶液と石油系炭化水素油の水素化処理に用いた廃触媒とを接触させ、アスフアルト分を該廃触媒100重量部に対して1重量部以上附着させることを特徴とする上記廃触媒の酸化抑制方法に係る発明が記載されている。そこで、両発明を比較すると、(1)本願発明では、被膜形成能及び粒子架橋能を有する非ゴム物質を水溶液若しくは水性エマルジヨンの形態にしたものを用いるのに対し、引用例記載の発明では、アスフアルトをそれが可溶の溶媒に溶解して得られる溶液の形態で用いるものである点及び(2)本願発明では、反応系から抜き出した廃触媒を容器詰する段階で、廃触媒に水溶液若しくは水性エマルジヨンを散布して浸潤させるのに対し、引用例には、このような態様の開示がない点において、両発明は、構成を異にするものであり、しかも(3)本願発明は、引用例記載の発明によつては期待し得ない効果を奏するものである。右の相違点について詳述するに、右の(1)の相違点についていえば、引用例記載の発明は、アスフアルトをそれが可溶の溶媒に溶解して得られる溶液として廃触媒と接触させることを構成上の特徴的事項とするものであつて、引用例には、アスフアルトを右の溶液以外の形態でも使用し得ることを意味するような記載は見出せないところ、それは、引用例記載の発明では、廃触媒自体が水に濡れ難い性質のものであり、水を散布しても空気との接触を避け得ないとの認識のもとに(甲第6号証の第2頁右上欄第9行ないし第13行)、溶媒の溶液の形態を採用したからである。この点に関し、本件審決は、引用例には、アスフアルトの適用形態を溶媒に溶解した溶液に限定した必然性について記載されていないとか、アスフアルトを水性媒体中に乳化分散させた液体を排除する旨の記載もされていないということを、引用例記載の発明の技術内容の認定の根拠としているが、引用例にアスフアルトを溶媒溶液として使用することの必然性について記載されていないということは、引用例にはアスフアルトを溶媒溶液として使用すること以外のことは開示されていないということを意味し、また、アスフアルトを水性媒体中に乳化分散させた液体を排除する旨の記載がないということは、引用例記載の発明においては、アスフアルトを水性媒体中に乳化分散させた液体を使用することについて未だ認識されていなかつたことを意味するものである。ちなみに、アスフアルトを水性エマルジヨンの形態にしたものとアスフアルトを溶媒溶液の形態にしたものとの機能上の差異について言及すると、前者は、アスフアルトの微粒子が帯電して水中に乳化分散している形態であつて、これを廃触媒に散布すると、廃触媒表面における電荷との中和により容易にエマルジヨンの破壊が生じて被膜及び架橋が形成されるのに対し、後者は、溶媒を揮発させることにより被膜を形成するものであつて、引用例記載の実施例1ないし3に明らかなように、400度C以上に達する高温度で、しかも、窒素ガス雰囲気下で軽油のような溶媒を揮発させることが必要となる。このようなアスフアルトの形態による機能上の差異からみて、引用例記載の発明では、アスフアルトを水性エマルジヨンの形態で使用することを認識していたものとは認められないのに対し、本願発明では、アスフアルトを水性エマルジヨンの形態で廃触媒に散布する場合、高温下で、しかも、窒素ガスなどの雰囲気中で処理することを全く必要とせず、また、廃触媒が自然発火したときでも、水性エマルジヨンが消火機能を有するという利点がある。したがつて、引用例記載の発明では、アスフアルトを有機溶媒に溶解して適用するか、水性媒体中に乳化分散させて適用するかは、当業者が任意に選択し得たことであるとする本件審決の認定判断は、失当である。被告は、一般に処理剤の液状使用に当たつて、処理剤を溶媒溶液の形態のものにすることも、また、水溶液若しくは水性エマルジヨンの形態にすることも、ともに本願発明の特許出願前周知の事項であるから、引用例に処理剤として溶媒溶液の形態で使用するものが記載されている以上、引用例には処理剤を水溶液若しくは水性エマルジヨンの形態で使用することが示唆されているのと同然である旨主張するが、被告のいう処理剤とは、何を対象とし、何の目的で使用するものであるか不明であり、また、処理剤を液状で使用する際に用いる溶媒は、処理対象物及び処理目的に応じて選定されるものであるところ、その選定行為自体も、処理対象物及び処理目的との関係において、当業者に自明でない場合には、発明に値する工夫を要することを考慮すれば、単に溶媒として用いることが周知であるとの理由から、処理剤を水溶液若しくは水性エマルジヨンの形態で使用することが示唆されているのと同然であるとはいえない。また、被告は、日刊工業新聞社発行の「接着技術便覧」第67頁及び第68頁(乙第1号証)を提出して、処理剤として接着剤を挙げることができる旨主張するが、右の刊行物は、溶媒溶液形態にした接着剤と水性エマルジヨン形態にした接着剤とが機能上代替可能な均等物であることを教示するものではなく、かえつて、右の両形態の接着剤は、それぞれ機能及び使用上相違するものであつて(甲第8号証)、本願発明がその使用目的のために水性エマルジヨン形態の処理剤を選択して使用することには技術上格別の意義がある。更に、被告は、アスフアルトを水溶液の形態にした場合には、水性エマルジヨンの形態の場合のような被膜及び架橋を形成しない旨主張するが、アスフアアルトは、本来、水に水溶であり、水性エマルジヨンの形態でのみ使用可能なものである。更にまた、被告は、引用例記載の発明の実施例3を根拠として、引用例記載の発明は必ずしも溶媒を揮発させることを意図したものではない旨主張するが、右の実施例は、単に廃触媒の酸化防止の効果を評価するための試験及びその結果を示したものにすぎず、また、仮に引用例記載の発明のアスフアルトの溶媒溶液を用いて本願発明が目的とする積荷の移動防止を行うとすれば、触媒の表面に被膜の形成及び粒子の架橋を生じさせる必要があるため、溶媒を実質上完全に蒸発させることが必須となり、しかも、右の実施例は、被告が主張するように完全蒸発をするものではないとしても、軽油や灯油等の溶媒の少なくとも一部を蒸発させるものと解すべきであるから、右の実施例の態様は、アスフアルトの水性エマルジヨンによつて廃触媒を浸潤することに相当するとはいえない。なお、被告は、本願発明に消火機能があるとの原告の主張は根拠がない旨主張するが、本願発明で用いるアスフアルトの水性エマルジヨンは、その濃度が1リツトル当たり1グラムないし10グラム程度であつて、ほとんどが水であるから、水性エマルジヨンを廃触媒に多量散布した場合に消火機能を有することは、科学常識上肯認し得ることである。次に、前記の(2)の相違点についていえば、本件審決は、本願発明にいう「抜き出した触媒を容器詰する段階」とは、抜き出した触媒を容器詰した後の意味に限定されるものではなく、触媒を抜き出す寸前をも意味するものと解される旨認定している。しかし、抜き出す寸前の触媒にアスフアルトの水性エマルジヨンを散布して浸潤させると、触媒粒子が架橋状態に接着して流動しなくなり、その結果、触媒の容器詰に当たつては、触媒粒子間の接着を壊さなければ、容器詰が実際上不可能となり、また、この触媒粒子間の接着を壊したものを容器詰しても、積荷の移動防止の効果を達成されなくなるのであるから、本願発明においては、触媒を抜き出す寸前で処理することは考えられていない。したがつて、本願発明にいう「抜き出した触媒を容器詰する段階」とは、単に廃触媒の取扱い時という意味と格別に相違するものとは認められないとする本件審決の認定は、誤つている。また、本件審決は、抜き出した廃触媒を容器詰することは普通のことである旨認定しているが、廃触媒の容器詰に際して、その運搬時の自然発火防止及び荷崩れ防止の対策が、本願発明の特許出願時の技術的課題であつた(甲第7号証)ところ、本願発明は、引用例には記載されていない右の技術的課題を解決したものである。これに対し、引用例記載の発明は、反応塔から廃触媒を安全な状態で抜き出すことを技術的課題とし、その解決手段として、反応塔内で抜き出す寸前の廃触媒を窒素雰囲気内でアスフアルトの溶媒溶液で処理することにより、触媒粒子の酸化防止及び飛散防止を行うものである。被告は、引用例記載の発明においても、反応塔から取り出した触媒を処理する場合には、窒素ガス雰囲気下で行つているということを根拠の一つとして、廃触媒の取扱い時といえば、抜き出した触媒を容器詰する段階ということと普通には同じことを意味する旨主張するが、引用例記載の発明において廃触媒の処理を窒素ガス雰囲気下で行うのは、廃触媒を反応器から抜き出す際の急速な酸化による発熱及び発火の危険性を防止するための処理と解される(甲第6号証の第2頁左上欄第18行ないし左下欄第9行)から、本願発明における積荷の移動防止を目的とした「抜き出した触媒を容器詰する段階」での処理とは全く異なるものである。ちなみに、引用例には、水素化処理反応塔内で、実施例に示したような処理を廃触媒に施せば、発熱ないし発火の危険性をほとんどなくし、安全な状態で取り出すことができる旨の記載がある(甲第6号証の第4頁右上欄第3行ないし第6行)ところ、右記載内容によると、引用例記載の発明は、反応塔から抜き出した廃触媒の容器詰段階での処理を意図しているとはいえない。なお、引用例記載の発明の実施例1ないし3は、反応塔から抜き出した触媒をアスフアルトの溶媒溶液と接触させるものとしているが、これは、廃触媒の発火防止の効果を確認するための試験操作を示したものと解すべきであり、このことは、実施例1において、処理した廃触媒を窒素ガス中で平型皿に採取して密閉空気槽中に入れて槽内の酸素の廃触媒による消費状態を測定していることからも肯認し得る。更に、本願発明の効果についていえば、本件審決は、本願発明の積荷の移動防止の効果は、引用例記載の発明の廃触媒上に析出、沈積している微粒子が粉じんとなつて飛散するのを防止する効果を別の見地からみたものにすぎず、両者には格別の差異は認められない旨認定しているが、引用例記載の発明の右の効果は、右の微粒子がアスフアルトで被覆されるからである(甲第6号証の第4頁左上欄第15行ないし第18行)のに対し、本願発明の効果は、抜き出した廃触媒を容器に詰めながらアスフアルトの水性エマルジヨンを廃触媒に散布することによつて、エマルジヨンの廃触媒への浸潤が効果的に行われて廃触媒粒子間が架橋状態に接着して各粒子の流動が抑制されるからである。なお、引用例には、反応塔内で廃触媒を処理することの利点が記載されているところ、アスフアルト溶液を反応塔内で触媒に接触させた場合に、仮に触媒粒子間が架橋状態に接着されるとしても、触媒を抜き出す際に架橋状態が破壊されるので、このような処理をした廃触媒を容器詰しても、積荷の移動防止の効果は得られないのである。
第3被告の答弁
被告指定代理人は、請求の原因に対する答弁として、次のとおり述べた。
1 請求の原因1ないし3の事実は、認める。
2 同4の主張は争う。本件審決の認定判断は、正当であり、原告ら主張のような違法の点はない。
(1) 原告らの相違点(1)の主張について
仮に、引用例記載の発明では、原告らの主張のように、廃触媒自体が水に漏れ難い性質のものであるとの認識のもとに、溶媒の溶液の形態のものを選択したものであるとしても一般に処理剤の液状使用に当たつて、処理剤を溶媒溶液の形態のものにすることも、また、水溶液若しくは水性エマルジヨンの形態のものにすることも、ともに本願発明の特許出願前周知の事項であるから、引用例に処理剤として溶媒溶液の形態で使用するものが記載されている以上、引用例には、処理剤を液状、すなわち、水溶液若しくは水性エマルジヨンで使用することが示唆されているのと同然である。原告らは、被告のいう処理剤とは、何を対象とし、何の目的で使用するものか不明であり、また、単に処理剤を溶媒として用いることが周知であるとの理由から、処理剤を水溶液若しくは水性エマルジョンの形態で使用することが示唆されているのと同然であるとはいえない旨主張するが、処理剤として接着剤を挙げることができる(乙第1号証)ところ、本願発明の明細書には、「本発明による処理法が適用される触媒には、ガソリン、灯油の脱硫、軽油の脱硫ならびに分解、重油の脱硫ならびに分解のような炭化水素類の接触反応に用いられる広範囲な触媒が包含される。」(甲第2号証の2の第5頁第14行ないし第17行)と記載されているところであつて、廃触媒は、特に処理剤の適用において、共通のある性質を持つているものとも認められないから、乙第1号証記載の被着材に比して格別の物質であるとも認められず、また、本願発明の廃触媒の処理は、本願発明の目的からみて、処理剤の接着性、附着性を利用するものと認められ(甲第2号証の2の第6頁第10行及び第11行並びに第7頁第13行ないし第15行)、本願発明の処理剤の使用目的は、乙第1号証の接着剤の使用目的とかけ離れたものではない。また、原告らは、水性エマルジヨンを用いる場合について、その機能上エマルジヨンの破壊が生じ、被膜及び架橋が形成される旨主張するところ、水性エマルジヨンを用いる場合にはそのようにいえるとしても、水溶液を用いる場合には、このようなことはいえないから、原告らの右主張は、本願発明の全体についての主張とはいえない。更に、原告らは、引用例記載の発明は、アスフアルトを水性エマルジョンの形態で使用することを排除している旨主張するが、引用例には、特定の廃触媒は、これに水を散布しても水に濡れ難い旨記載されているにすぎず、右の記載は、処理剤を水溶液の形態で使用する場合には該当するとしても、界面活性剤を含有する水性エマルジヨンの形態で使用することまで排除するものではない。更にまた、原告らは、引用例記載の発明の、アスフアルトを溶媒溶液の形態にしたものは、溶媒を揮発させることが必要である旨主張するが、引用例記載の発明の実施例3には、軽油、灯油等の溶媒を完全に蒸発させずに、これによつて廃触媒を湿つた状態にしておく例が記載されているところ、灯油の沸点が150度Cないし200度C、軽油の沸点が250度Cないし400度Cであることを考慮すると、右の実施例3は、右の沸点よりも低温で処理しているものであつて、必ずしも溶媒を完全に揮発させることを意図したものではなく、本願発明において、水の沸点以下である50度Cないし100度Cでアスフアルトの水溶液若しくは水性エマルジヨンに浸潤することに相当するものである。この点について、更に、原告らは、引用例記載の発明では、廃触媒をアスフアルトの溶媒溶液と接触させた後に溶媒を揮発させるものであるから、引用例記載の発明において廃触媒をアスフアルトの溶媒溶液と接触させることは、本館発明においてアスフアルトの水性エマルジヨンによつて廃触媒を浸潤することに相当しない旨主張するが、本願発明は、アスフアルトの水性エマルジヨンを散布して浸潤した後のことについては触れるところがないから、本願発明においてアスフアルトの水性エマルジヨンによつて廃触媒を浸潤させることは、アスフアルトの水性エマルジヨンを廃触媒と接触させることを意味しているにすぎない。なお、原告らは、水性エマルジヨンは消火機能を有する旨主張するが、そのようなことは、本願発明の明細書には何ら記載されておらず、かつ、根拠のないことである。もつとも、本願発明の水性エマルジヨンが大量の水からなるものであれば、それを散布して消火の役に立たせることができるであろうが、それは、水の有する当然の作用であつて、本願発明の格別の作用効果とは認められない。
(2) 原告らの相違点(2)の主張について
原告らが主張するように、本願発明にいう「抜き出した触媒を容器詰する段階」が、触媒を抜き出す寸前を意味するものと解する根拠となるような記載は、本願発明の明細書には見当たらないが、反応器から抜き出した触媒をドラム缶やコンテナー等に容器詰することは、本願発明の明細書の記載からもうかがい知ることができるように、従来から普通に行われており、引用例記載の発明においても、反応塔から取り出した触媒を処理する場合には、窒素ガス雰囲気下で行つているのであるから、何らかの容器に容器詰の段階で処理しているのが普通の態様であつて、廃触媒の取扱い時といえば、抜き出した触媒を容器詰する段階ということと普通には同じことを意味しているものと認められる。この点に関し、引用例の記載をみると、引用例には、「廃触媒に析出、沈積した極微粒の炭素や重金属類の硫化物は、非常に活性が高く、廃触媒を水素化処理反応塔から取出す際、さらには取出した後も空気に接触すると、空気中の酸素で酸化されて発熱し、酸化が激しい場合には、発火するに至る程の危険性を持つものである。この急激な酸化を防止するためには、水を散布して廃触媒を冷却すると共に空気との接触を避けるか……。また廃触媒に沈積した重金属類の硫化物は、酸化されると重金属類の水溶性硫酸塩に変化するが廃触媒に水を散布した場合には、この水に、生成した硫酸塩が溶解するために、廃触媒の貯蔵容器その他の材質に対して腐蝕性を持つことになり、さらには貯蔵容器内で廃触媒の固化が起り廃触媒から有価金属を回収するための後処理を極めて困難なものにする。……。本発明は取扱いを安全に行なえるように上記のような廃触媒の急速な酸化を抑制する方法を提供するものである。」(甲第6号証の第2頁左上欄第18行ないし左下欄第9行)、「本発明の方法によつてアスフアルトを廃触媒に付着せしめると、表面附近に多く析出、沈積している極微粒の炭素や重金属類の硫化物がアスフアルトで被覆され、廃触媒の表面に固着するため極微粒の炭素や重金属類の硫化物と空気との接触が絶たれて酸化が抑制されると同時に取扱い時に、これら微粒子が粉塵となつて飛散することを防止できる。」(同第4頁左上欄第15行ないし右上欄第2行)旨記載されており、これらの記載によれば、引用例記載の発明は、廃触媒の取扱いを安全に行えるように、廃触媒を水素化処理反応塔から貯蔵容器に取り出す際、更には、取り出した後に、アスフアルトの有機溶媒溶液で処理するものであるから、引用例における廃触媒の取扱い時は、廃触媒を水素化処理反応塔から貯蔵容器に取り出す際、更には、取り出した後のことを意味しており、したがつて、本願発明における「抜き出した触媒を容器詰する段階」は、引用例記載の発明における廃触媒の「取扱い時」と実質的に同じことである。なお、原告らの挙示する甲第7号証は、本願発明の特許出願後に公知になつたものであり、また、本願発明の容器が同号証記載のコンテナーに限定されるとする根拠もない。
(3) 本願発明の効果について
本願発明と引用例記載の発明との廃触媒の処理剤としての構成上の差異は、前記(1)で述べるように、単なる周知技術の転用の範囲内の差異にすぎず、また、前記(2)に述べるように、廃触媒に処理剤を適用する時期についても差異は認められない以上、引用例記載の発明においても、当然に積荷の移動防止の効果も生じているものと認められるから、本件審決の認定のとおり、本願発明の積荷の移動防止の効果は、引用例記載の発明の効果を別の見地からみたものにすぎない。
第4証拠関係
本件記録中の書証目録記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
(争いのない事実)
1 本件に関する特許庁における手続の経緯、本願発明の要旨及び本件審決理由の要点が原告ら主張のとおりであることは本件当事者間に争いのないところである。
(本件審決を取り消すべき事由の有無について)
2 本件審決は、以下に説示するとおり、本願発明と引用例記載の発明との構成及び作用効果上の差異を看過した結果、本願発明をもつて引用例記載の発明と同一であるとの誤つた結論を導いたものであるから、違法として取消しを免れない。
前記本願発明の要旨に成立に争いのない甲第2号証の1及び2(本願発明の特許出願の願書及び明細書)、第3号証(昭和52年8月26日付手続補正書)、第4号証(昭和54年7月27日付手続補正書)並びに第5号証(昭和55年5月2日付手続補正書)を総合すれば、本願発明は、炭化水素類の接触反応に用いた触媒を容器、特にコンテナーのような大型容器に詰めて運搬するに際しての該触媒の前処理方法に関するものであるところ、炭化水素類を接触反応によつて分解又は脱硫する処理を行うに当たつて、接触反応に供した触媒が不活性化したり、汚染した場合、その触媒を反応系から抜き出し、それに含有されている有価金属を回収するために、抜き出した触媒(廃触媒)を処理工場へ運搬することが必要となり、従来、この廃触媒の運搬には、通常200l入りのドラムが用いられてきたが、廃触媒には空気中の酸素により酸化され自然発火する物質が附着しているので、廃触媒のドラムへの充填に際しては、廃触媒が長時間空気にさらされないようにして作業しなければならず、また、ドラムへ充填した後も、廃触媒を空気と極力接触させないために、ドラムに予めポリエチレン袋のような気密性の袋を入れ、これに廃触媒を詰めて封入したうえでドラムを封缶する方法が行われているが、反応系に供される触媒の量は通常数十トンないし数百トンに達するので、このような大量の廃触媒のドラム詰に際して上記袋を用いることには、充填作業が非常に煩雑になるという欠点があり、更に、廃触媒を充填したドラムを運搬する際、ドラムの積み重ねにより運搬用車輌あるいは船舶に無駄な空間が生じ、そのため荷崩れが起こつたり、また、積み降しに手数が掛かるという難点がみられ、このような状況から、近年、ドラム詰運搬に代えて大型容器であるコンテナーを用いることが提案されたが、コンテナーを用いる場合には、上記のポリエチレン袋などを用いると、密封性の困難さから空気の含有量がかえつて多くなるため、充填した廃触媒の附着物が空気中の酸素によつて発熱反応を起こすので、運搬上問題であり、また、大型の袋を用意しなければならず、更に、袋への充填や封入作業が一層煩雑となるという欠点があつて、未だ実用化されておらず、更にまた、廃触媒上には炭素分及び硫黄分からなる附着物が附いていて、これが酸化されると、反応熱を生じて、遂には附着物自体が自然発火現象を起こして燃焼したり、硫黄分が酸化により亜流酸ガスを発生して作業環境を著しく悪くしたりするので、廃触媒の酸化による悪現象の発生を防止する処理を施すことなく、これをドラム又はコンテナーなどの容器にそのまま充填して運搬することには問題があり、また、大型容器による輸送の場合には、輸送体(貨車、トラツク及び船等)の動揺に対する積荷の移動防止を図る必要があり、その対策が要望されていたところ、本願発明の発明者らは、廃触媒の容器詰に際しての酸化防止及び積荷の移動防止について検討した結果、廃触媒に、その容器詰段階において、被膜形成能及び粒子架橋能を有する非ゴム物質(処理剤)の水溶液又は水性エマルジヨンを散布すると、廃触媒の酸化反応及び積荷の移動が防止され、その結果、上記の充填作業及び運搬上の欠点が解消することができるとの知見に基づき、前記本願発明の要旨(特許請求の範囲の項の記載に同じ。)のとおりの構成を採用したものであつて、本願発明による処理法が適用される触媒には炭化水素類の接触反応に用いられる広範囲な触媒が包含され、この触媒を接触反応に用いた後、交換などのために反応系から抜き出し、この抜き出した廃触媒を迅速にコンテナーなどの容器に充填する段階で、廃触媒に処理剤、すなわち、物理的に強固な被膜及び粒子架橋を形成し得る性能を有する非ゴム物質、例えば、ポリアクリル酸ソーダ、ポリアクリルアミド、ポリ酢酸ビニル、ポリスチレン、アスフアルトなどの高分子物質又は水ガラスなどの無機物質を水溶液の形態若しくは乳剤の形態(水性エマルジヨン)として散布し、浸潤させるのであるが、処理剤の水溶液又は水性エマルジヨンを廃触媒へ散布し、浸潤させるには、反応系から抜き出した触媒をそのままコンテナーに充填し、その上から上記水溶液又は水性エマルジヨンを均一に散布してもよく、また、触媒をコンテナーにその3分の1容量ないし2分の1容量充填し、その上から水溶液又は水性エマルジヨンを均一に散布した後、残りの触媒を充填し、その上から更に散布を繰り返して行つてもよく、更に、反応系から抜き出した触媒が固結した状態にあつて、その容器詰に先立つて破砕することが必要な場合には、破砕時に粉じんを発生して作業環境を著しく損ねるので、これを防止する目的で触媒を容器詰するための上記処理の前に浸潤することも可能であり、右の構成により、所期の効果を奏するものであることが認められる。
他方、成立に争いのない甲第6号証(昭和51年12月1日公開の特開昭51―139570号公開特許公報)によれば、引用例記載の発明は、本願発明の特許出願とは出願人及び発明者を異にして、本願発明の特許出願の日前に特許出願され、本願発明の特許出願の後に出願公開された特願昭50―63081号の願書に最初に添附した明細書記載の発明であつて(この点は、原告らの明らかに争わないところである。)、石油系炭化水素油の水素化処理に用いた廃触媒の酸化抑制方法に関するものであるところ、従来、精油所では、石油系炭化水素油のうち、軽質油中に含まれている硫黄分、窒素分及び酸素分などを除去するために、高温及び高圧下で軽質油を触媒を使用して水素化処理していたが、最近では、窒素酸化物や硫黄酸化物による大気汚染を更に緩和するために、軽質油のみならず、原油や重油その他の重質油中に含まれている硫黄分、窒素分及び酸素分なども除去するために、右の重質油も高温及び高圧下で触媒を使用して水素化処理を行うようになり、この水素化処理は、水素化処理反応塔内の水素化触媒層に水素ガスと石油系炭化水素油を送入して、高温及び高圧下で、石油系炭化水素油中に含まれている硫黄分、窒素分及び酸素分などを硫化水素、アンモニア及び水などにして除去するものであるが、石油系炭化水素油の水素化処理では、水素化処理反応の進行とともに、炭化水素油の分解によつて生成する炭素粒子が次第に触媒上に析出し、炭素の析出とともに、炭化水素油中に含まれているバナジウム、ニツケル及び鉄などの重金属類も触媒上へ沈積し、触媒の触媒能力が失われ、この触媒能力を失つた触媒(廃触媒)は、附着している油分を除去し、冷却した後、水素化処理反応塔から取り出されるが、廃触媒に析出、沈積した極微粒の炭素や重金属類の酸化物は、非常に活性が高く、廃触媒を水素化処理反応塔から取り出す際、更には、取り出した後も空気に接触すると、空気中の酸素で酸化されて発熱し、酸化が激しい場合には発火するに至るほどの危険性を持つものであるところ、この急激な酸化を防止するためには、水を散布して廃触媒を冷却するとともに、空気との接触を避けるか、あるいは水蒸気雰囲気や窒素ガスその他の不活性ガス雰囲気の中へ廃触媒を取り出して、空気との接触を避ける方法が考えられるが、廃触媒に析出、沈積した極微粒の炭素や重金属類の硫化物は、水に濡れ難い性質があり、水を散布しても実際には空気との接触を避け得ず、廃触媒の発熱ないし発火を抑制することができず、また、廃触媒に沈積した重金属類の硫化物は、酸化されると、重金属類の水溶性硫酸塩に変化するが、廃触媒に水を散布した場合には、この水に生成した硫酸塩が溶解するために、廃触媒の貯蔵容器その他の材質に対して腐蝕性を持つことになり、更には、貯蔵容器内で廃触媒の固化が起こり、廃触媒から有価金属を回収するための後処理を極めて困難なものにするのであつて、廃触媒に水を散布しても、あるいは廃触媒を不活性ガス中に取り出しても、廃触媒の酸素消費能力はそのまま残つているので、廃触媒を空気と接触させれば、空気中の酸素を消費して酸化し、発熱又は発火の危険性を常に残しているところから、引用例記載の発明は、取扱いを安全に行えるように廃触媒の急激な酸化を抑制する方法を提供することを目的ないし課題として、アスフアルトが可溶の溶媒にアスフアルトを溶解して得られる溶液と廃触媒とを接触させて、アスフアルトを廃触媒100重量部に対して1重量部以上附着させることを特徴とするものであり、右の構成により、アスフアルトを廃触媒に附着せしめると、表面附近に多く析出、沈積している極微粒の炭素や重金属類の硫化物がアスフアルトで被覆され、廃触媒の表面に固着する極微粒の炭素や重金属類の硫化物と空気との接触が絶たれて廃触媒の酸化を抑制し、廃触媒を取扱う際の発熱ないし発火の危険性をなくし、かつ、廃触媒取扱いの際附着した炭素粒子、重金属硫化物粒子、微細化した触媒担体により発生する粉じん等が飛散するのを防止し、また、水素化処理反応塔内部で処理を施せば、発熱ないし発火の危険性をほとんどなくし、安全な状態で取り出すことができるという効果を奏するものであることが認められる。
以上認定の事実に基づき、本願発明と引用例記載の発明とを対比考察すると、両者は、炭化水素類の接触反応に用いた廃触媒にアスフアルトを接触させて廃触媒の酸化を防止する方法である点においてその技術的思想を共通にするものであるが、本願発明は、廃触媒の酸化防止のほかに、廃触媒を処理工場へ運搬するために容器詰した廃触媒の積荷の移動防止をも目的として、反応系から抜き出した廃触媒を容器詰する段階において廃触媒にアスフアルト等の非ゴム物質の水溶液若しくは水性エマルジヨンを散布して浸潤させるのに対し、引用例記載の発明は、廃触媒の酸化防止を目的として、水素化処理反応塔内部の廃触媒又は反応塔から取り出した後の廃触媒にアスフアルトを溶解して得られる溶液を接触させることによりアスフアルト分を廃触媒に附着させることを特徴とする廃触媒の酸化抑制方法であるから、廃触媒の処理剤として、本願発明がアスフアルト等の非ゴム物質の水溶液若しくは水性エマルジヨンを用いるのに対し、引用例記載の発明はアスフアルトの溶媒溶液を用いる点において、両者は、処理剤についての構成を異にし、右構成の相違により作用効果をも異にするものであることは明らかである。この点に関し、被告は一般に処理剤の液状使用に当たり、溶媒溶液の形態で用いることも、水溶液又は水性エマルジヨンの形態で用いることも本願発明の特許出願前周知の事項であるから、引用例に処理剤を溶媒溶液の形態で使用することが記載されている以上、引用例に処理剤を水溶液又は水性エマルジヨンで使用することが示唆されている等縷々主張する。しかし、前掲甲第6号証によれば、その特許請求の範囲の項には廃触媒の処理剤として、アスフアルトの溶媒溶液を使用する旨明記されており、これに前認定の引用例記載の発明の目的ないし課題に示された事項(すなわち、「廃触媒に析出、沈積した極微粒の炭素や重金属類の硫化物は、水に濡れ難い性質があり、水を散布しても実際には空気との接触を避け得ず、廃触媒の発熱ないし発火を抑制することができず、また、廃触媒に沈積した重金属類の酸化物は、酸化されると、重金属類の水溶性硫酸塩に変化するが、廃触媒に水を散布した場合には、この水に生成した硫酸塩が溶解するために、廃触媒の貯蔵容器その他の材質に対して腐蝕性を持つことになり、更には、貯蔵容器内で廃触媒の固化が起こり廃触媒から有価金属を回収するための後処理を極めて困難なものにする。」)を総合すれば、引用例記載の発明は、廃触媒に接触させる処理剤をアスフアルトの溶媒溶液に限定したものであり、アスフアルトの水溶液又は水性エマルジヨンを使用することを不適当とし、これを排除する技術的思想を開示するものと認めるべきである。被告主張の周知事項の存在及びその挙示する乙第1号証の記載は、叙上認定を覆すに足りず、その他右認定を覆し、被告主張事実を認めしめるに足りる証拠はない。したがつて、被告の叙上主張は採用することができない。
そうであるとすれば、本願発明をもつて引用例記載の発明と同一であるとした本件審決は、その余の点について判断を加えるまでもなく、その認定判断を誤つたものというべきである。
(結語)
3 よつて、本件審決を違法としてその取消しを求める原告らの本訴請求は、理由があるから、これを認容することとし、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法第7条及び民事訴訟法第89条の規定を適用して、主文のとおり判決する。
(武居二郎 清永利亮 川島貴志郎)