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東京高等裁判所 昭和58年(行ケ)32号 判決

一 請求の原因一ないし三の事実は当事者間に争いがない。

二 排土板の上側半分が薄板であることを除き第一及び第二引用例の記載内容が審決摘示のとおりであること、両引用例と本願考案の各部材につき、前者の前側板2a(第一引用例)又は重板2(第二引用例)が後者の厚板で形成された接地掘削部3に、前者の前側板2a又は重板2の裏面に固着された排土板支持ビーム1(第一引用例)、19(第二引用例)は後者の接地掘削部3の裏面に直接固着連結した取付フレーム1に、前者の排土板両端に固着した端板6(第一引用例)又は側板7(第二引用例)は後者の側板7にそれぞれ相当することも当事者間に争いがない。

そこで、以下に原告主張の取消事由について、順次検討する。

三 取消事由(1)について

1 本願考案と第一及び第二引用例の排土板がその下側半分を厚板にて形成し、掘削しない上側半分を適宜湾曲させて下側半分に一体的に溶着した点において一致することは原告の明らかに争わないところである。そして、成立に争いのない甲第一〇号証(第一引用例)中の第一図(別紙図面(二)の第一図)、乙第一〇号証(上記図面の拡大図)、甲第一一号証(第二引用例)中の第三、第四図によれば、両引用例とも排土板の上側半分(第一引用例の排土保持板4、第二引用例の排土偏向板5)が本願考案同様下側半分(第一引用例の前側板2a、第二引用例の重板2)より薄板で形成されていることがうかがわれる。

2 ところで、成立に争いのない甲第二、第三、第六号証(本願の出願当初明細書、実用新案公報、昭和五六年七月一三日付補正書)によれば、土工機は、排土板の下側半分で土を掘削してかき上げ、上側半分を反転させながら保持することによつて排土作業を行うのであるが、右作業では下側半分により多くの掘削負荷がかかるから、下側半分はこれに耐え得る程度の強度を得るため板厚を厚くする必要があること、これに対し上側半分は下側半分ほどの強度を必要とせず、むしろ掘削土を反転させる関係上湾曲状であることが求められるから、薄板により形成すれば足り、それによつて湾曲加工が容易となり、諸作業の効率化をはかることができることが認められる。

原告は、第一及び第二引用例とも上側半分を薄板とすることによつて右のような効果を得ることを意図していない旨主張する。しかし、右に認定したような土工機の排土作業における排土板の上側及び下側半分の機能、上側半分を薄板にしたことにより得られる効果は、土工機の排土作業の性質に照らし、当業者であれば当然認識している程度のものということができるから、このことと、前記各図面からうかがわれるところを勘案すれば両引用例においても、右に認定した効果を意図したうえで、上側半分を下側半分に比し薄板をもつて形成したものと認めるのが相当である。

四 取消事由(2)について

掘削する排土板の下側半分が本願考案にあつては単体の厚板により形成されているのに対し、第一及び第二引用例においては、同部分を板体を組合せた断面三角形状の中空横桁とし、第二引用例においては、更にブロツク構造を付加していることは当事者間に争いない。

しかし、前記のとおり、本願考案の排土板の下側半分である接地掘削部3に相当するものが第一引用例においては前側板2a、第二引用例においては重板2であつて、前掲甲第一〇、第一一号証によれば、両引用例にあつて前記断面三角形状の中空横桁中の右前側板2a又は重板2を除く他の二辺、即ちこれらを後方から支えている後側板及び底板(第二引用例ではこれを第三の板4、水平板3と表示している。)は前側板2a又は重板2の補強部材であること、第二引用例の中空横桁内のブロツク構造は排土板の取付角度を変更させるためのものであるが、取付角度を第一引用例の排土板と同じにして固定した場合支持ビーム19はラグ22、ブロツク24と一体となつて中空横桁内において重板2に直接固着連結する第一引用例と同様の構造となることが認められる。そして、前掲甲第六号証によれば、本願考案の登録請求の範囲には、これら補強部材及び取付角度変更部材に関する記載はないから、これら部材はいずれも本願考案においては要旨とされておらず、いわば排土板の下側半分への付加的構成にすぎない。両引用例の下側半分にかかる構成が付加されたからといつて、本願考案の排土板下側半分の構成を両引用例が備えていることにおいては変りないから、両者が構成上相違するものということはできない。

五 取消事由(3)について

第一及び第二引用例記載のものにおいては、排土板の上側半分(第一引用例の排土保持板4、第二引用例の排土偏向板5)の上端に小中空横桁5(第一引用例)、6(第二引用例)を固着し、右中空横桁と排土板下側半分の裏面に直接連結された支持ビーム1(第一引用例)、19(第二引用例)との間に支柱7(第一引用例)、26(第二引用例)が取付けられているのに対し、本願考案では排土板下側半分の接地掘削部3に取付ビーム1が直接連結されているのみで、右のような小中空横桁や支柱を備えていないことは当事者間に争いがない。

前掲甲第一〇、第一一号証によれば、第一及び第二引用例記載のものにおいて右のように小中空横桁及び支持ビームを設けたのは、排土板の上側半分が排土の反力により後方に変形するものを防止することにあるものと認められるが、前掲甲第六号証によれば、本願考案の登録請求の範囲にはこれらの部材に関する記載はないから、これら部材の有無、構造はいずれも本願考案においては要旨とされておらず、いわば排土板の上側半分及び取付フレームへの付加的構成にすぎない。両引用例にかかる構成が付加されたからといつて、本願考案の排土板の上側半分及び取付フレームの構成を両引用例が備えていることにおいては変りないから、両者が構成上相違するものということはできない。

原告は両者の構成が異なることを前提として両者の効果の相違を主張するが、登録請求の範囲に何らの記載もない以上、両者の構成が相違するとはいえないことは前認定のとおりであるから、原告の右主張は採用の限りではない。

六 取消事由(4)について

1 前記当事者間に争いのない事実によれば、本願考案は排土板の下側半分である接地掘削部3の「厚板自体を掘削刃」とすることを要旨としているところ、第一及び第二引用例記載のものは排土板の下側半分である前側板2a又は重板2と別体のものとして掘削刃3(第一引用例)、1(第二引用例)を取付け、第二引用例ではこれを取付け自在としている点で本願考案と相違していることは当事者間に争いがない。

しかし、成立に争いのない乙第七号証(加藤三重次著「建設機械」昭和四六年一〇月一五日発行)によれば、土工機において排土板の下端に掘削刃を別体として取付けて使用することが本願出願前より周知であることが認められる。そして、右のように別体に取付けられた掘削刃を取外し自在のものと構成すれば、過度の又は長期にわたる使用により掘削刃が損傷又は磨耗した場合これを交換することが可能であり、かかる効果をもたらす構成は、土工機による排土作業の性質上及び成立に争いのない乙第八号証(実開昭四七―一二〇〇三号)に照らし、当業者として随時採択し得る慣用手段ということができるから、かような構成もまた、本願出願前周知であつたものと認めることができる。

他方、本願考案のように排土板の下端部自体を掘削刃として形成する構成も成立に争いのない乙第四号証(米国特許第二、八七四、四九二号明細書、特許庁資料館受入日昭和三四年七月三一日)、第五号証(米国特許第二、三五六、〇〇〇号、同受入日昭和三一年一二月四日)、第六号証(特公昭四五―三二五八六号)によれば、本願出願前周知であつたものと認めることができる。

2 原告は、本願の構成による作用効果として、強度、耐磨耗性の保持を主張するものの、前掲甲第二、第三、第六号証によるも、右の構成によりどのようにして右のような効果を得るのか明らかではなく、その登録請求の範囲において厚板の材質を構成要件として限定していない以上、右のような本願考案の掘削刃の構成に格別の技術的意義を見出すことはできない。また、原告は、本願考案の構成では土の付着度が少なく作業性が良好である旨主張するが、これらの効果は前記周知の下端部自体を掘削刃とする排土板により通常得られるものであつて、本願考案においてこれらの効果を超えた特別のものが得られるか否かは、前掲甲第二、第三、第六号証からは明らかとはいえない。更に、原告は、本願考案の構成によると、掘削刃を特に取付ける必要がないから構造上簡素となり、刃の取付強度の心配がない旨主張するが、右の効果は前記周知の排土板と同様下側半分の下端を掘削刃としたことに当然付随する結果であり、そのことによつて排土作業能率が前記周知の排土板に比べ格段に向上したなど排土板として有すべき本来の機能を著しく高めたことを認めるに足りる証拠はない。また、本願考案に構造上の簡素化、取付強度の点に利点を認めるとしても、掘削刃部の破損、磨耗の際には下側半分全部を取替えなければならず、この点においては刃部が別体に構成されている両引用例に劣ることは明らかである。

そうであれば、この点における本願考案と両引用例記載のものとはともに周知の構成であり、それぞれ一長一短あるものの排土板の作業性そのものについては差を認めることはできないから、排土板の下半分の厚板自体を掘削刃とするかその下に別体の掘削刃を取付けるかは当業者が適宜選択すべき単なる設計事項にとどまるといわなければならない。したがつて、両者はこの点において実質的に構成を同じくするものというべきである。

なお、前掲乙号各証は、審決が判断の前提としたと認められる本願出願前における周知技術の立証に関するものであるから、これを審決取消訴訟において証拠として採用することになんら違法はない。

七 以上述べたところによれば、原告主張の取消事由はすべて理由がなく、本願考案は第一及び第二引用例記載の発明のいずれとも実質上同一であると認めるのが相当である。

八 よつて、原告の本訴請求を理由なきものとして棄却する。

〔編註その一〕 本願考案の要旨は左のとおりである。

「前後方向に走行自在の機体の一側に横方向に設けた排土板において、該排土板の下側半分の接地掘削部を厚板にて形成し、同厚板自体を掘削刃とし、掘削しない上側を薄板として適宜湾曲させて一体的に溶着し、厚板で形成された接地掘削部としての掘削刃の裏面には土工機に連結する取付フレームを直接固着連結し、かつ、排土板の左右両側端には各々側板を固着したことを特徴とする土工機における排土板。」(別紙図面(一)参照)

〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。

別紙図面 (一)

<省略>

別紙図面 (二)

<省略>

<省略>

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