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東京高等裁判所 昭和58年(行ケ)42号 判決

事実及び理由

(争いのない事実)

一  本件に関する特許庁における手続の経緯、本件考案の要旨及び本件審決理由の要点が原告主張のとおりであることは、本件当事者間に争いのないところである。

(本件審決を取り消すべき事由の有無について)

二 原告は、本件審決は、本件考案並びに第一引用例及び第二引用例記載の技術内容の認定を誤つた結果、本件考案と第一引用例及び第二引用例記載の技術事項との対比において両者の構成及び作用効果上の差異を看過し、ひいて、本件考案をもつて第一引用例及び第二引用例記載の技術事項に基づいて極めて容易に考案をすることができたものであるとの誤つた結論を導いたものである旨主張するが、次に説示するとおり、本件審決の認定判断は正当であり、原告の主張は、理由がないものというべきである。

前記本件考案の要旨及び成立に争いのない甲第二号証(本件公報)によれば、本件考案は、折り畳み自在な足場装置に関するものであるところ、一般に、ビルデイング、船舶の建造、解体及び修理又はトンネル、道路等の土木工事では地表より相当高い位置で作業する場合、被建造物の側部に足場を固定若しくは吊下げ、この足場上で作業者が歩行したり、作業機械を走行させているが、従来、足場を組み立てる場合には、単管と称するパイプを縦横に組み合わせ、又は長い足場板を取付金具で固定して行つているため、その取付け又は取外し作業が極めて面倒であり、また、部品点数も多くコスト的に不利であり、更に、従来の足場は、格納する場合にも部品点数が多く、各部品がばらばらであるから、格納容積を必要とし、持運びも不便であつたので、右の従来の欠点を除去すべく、一つの足場装置でどこにでも移動が可能であり、コンパクトに折り畳むことができ、取付け及び取外し作業が極めて容易な折り畳み自在な足場装置の提供を目的として、本件考案の要旨(実用新案登録請求の範囲の項の記載に同じ。)のとおりの構成を採用し、これにより、所期の目的を達成したものであることが認められる。

他方、成立に争いのない甲第四号証(第一引用例)によれば、第一引用例は、本件考案の実用新案登録出願の日の前に日本国内において頒布された刊行物である米国特許第一、二九五、四五三号明細書であるところ、右明細書に開示された技術は、窓洗浄者用床の改良に関するものであつて、窓の土台に安全に固定し、窓の外側に人を支持し、人が窓を洗浄又は清掃することのできる床を提供し、更に、簡単な構造で、安価に製造することができ、かつ、窓の土台への固定及び取外しが容易であるこの種の型式の床を提供することを目的として、土台1の四隅に二本の側方棒9aと棒5とが回動自在に起立し、相対向する側方棒9aと棒5間には連結棒7が回動自在に軸支され、前方棒3と横棒6間にはチエーン12が架設され、横棒6には帯環13と鉤14とからなる取付け部材が連結された折り畳み自在な窓洗浄者用床の構成を採用し、これにより、その目的を達成したものであることが認められる。

そこで、右認定したところにより、本件考案と第一引用例記載の技術とを対比考察すると、第一引用例記載の技術における「窓洗浄者用床」が本件考案における「足場装置」に、「土台1」が「足場板」に、「側方棒9」が「前側支柱」に、「棒5」が「後側支柱」に、「連結棒7」が「横板」に、「チエーン12」が「吊り材」に、「帯環13と鉤14とからなる取付け部材」が「取付け部材」にそれぞれ相当するものと認められるから、本件考案と第一引用例記載のものとは、(1)本件考案では、後側支柱を前側支柱より長くしているのに対し、第一引用例記載のものでは、前側支柱と後側支柱のそれぞれの長さを等しくしている点、(2)本件考案では、前側支柱と後側支柱の頂部間に吊り材が架設されているのに対し、第一引用例記載のものでは、前側支柱の下端に位置する前方棒3と後側支柱の上端に位置する横棒6間に吊り材が架設されている点、(3)本件考案では、補強フレーム上には周囲に巾木を起立させた足場板が置かれ、巾木の四隅はそれぞれ前側支柱と後側支柱の内壁に支持されているのに対し、第一引用例記載のものでは、このような構成を設けていない点で相違するが、その余の構成は一致しているものと認められるので、右相違点について検討するに、(1)成立に争いのない甲第三号証(第二引用例)によれば、第二引用例は、本件考案の実用新案登録出願の日の前に日本国内において頒布された刊行物である実開昭四七―二二七二六号公開実用新案公報であつて、それには、後側支柱を前側支柱より長くした足場枠の吊架装置(本件考案の足場装置に相当)の構成が記載されていることが認められ、右事実によると、右の構成は、本件考案の実用新案登録出願当時既に知られていたものというべきところ、第一引用例にみられるように、折り畳み式の足場装置も既に知られていたのであるから、たとい、第二引用例記載のものが固定式であつたとしても、第二引用例記載の、後側支柱を前側支柱より長くするという構成を第一引用例記載の折り畳み式の足場装置に転用することは、当業者であれば極めて容易に想到し得るものというべきであり、(2)本件考案及び第一引用例記載のものの前認定の構成に照らすと、両者の吊り材の機能は、いずれも折り畳み自在な足場装置を開いた状態で足場板を水平にして、安全な作業状態を保障するとともに、足場装置を簡単に折り畳めるようにすることにあるものと認められ、右認定の吊り材の機能を果たすためには、吊り材は、足場装置が開いた状態において、水平にした足場板に対して前側支柱及び後側支柱が直立するように、前側支柱側の適宜の位置と後側支柱側の高い位置に架設する必要があるのであるから、吊り材の取付位置を、第一引用例記載のものに代えて、本件考案のように前側支柱と後側支柱の頂部間に架設することは、極めて容易に想到し得ることであるというべきであり、(3)本件考案では、補強フレーム上には周囲に巾木を起立させた足場板が置かれ、巾木の四隅はそれぞれ前側支柱と後側支柱の内壁に支持されている構成であるのに対し、前掲甲第四号証(第一引用例)によれば、第一引用例記載のものでは、前側支柱と後側支柱の下部を連結した、二本の側方棒2と前方及び後方の棒3とからなる杆体と、右杆体に支持された網の目状の細い杆体(縦横棒)とで土台1が構成されていることが認められ、右の両構成を対比すると、本件考案では、第一引用例記載の前側支柱と後側支柱の下部を連結した杆体に相当する補強フレームと第一引用例記載の網の目状の細い杆体に相当する足場板とを別体に構成したうえで、補強フレーム上に足場板を配置するものであるのに対し、第一引用例記載のものでは、右の本件考案の補強フレームに相当する部分と足場板に相当する部分とを当初から一体に構成したものということができるところ、本件考案のように別体に構成したうえで結合して配置するか、第一引用例記載のもののように一体に設けるかは、足場装置の製作に当たり、その難易、材料等に応じ適宜選定し得る事項であり、また、いずれを選定するかにより作用効果に別段の差異も存しないものと認められるから、本件考案の右の構成は、当業者が極めて容易になし得るものというべきである。以上によれば、第一引用例記載の窓洗浄者用床に、前記相違点(1)ないし(3)のような改変を加えることは、当業者であれば必要に応じ適宜なし得ることであり、かつ、前認定の本件考案の有する作用効果にしても、前認定の第一引用例記載のものの有する作用効果に比して格別顕著なものとは認められず、したがつて、本件考案は、第一引用例及び第二引用例記載の事項に基づいて当業者が極めて容易に考案をすることができたものというべきである。原告は、本件考案はその主張の(1)ないし(4)の構成を特徴とし、右の構成により、その主張の(イ)ないし(ハ)の顕著な効果を奏するものであるところ、第一引用例及び第二引用例には右構成を示す技術の開示はないのに、本件審決は、第一引用例及び第二引用例を根拠として、本件考案は極めて容易に推考し得るものであるとし、しかも、本件考案の作用効果の顕著さを看過したものであつて、その判断は誤つている旨主張し、更に、右主張を敷えんしてその理由を詳論するので、審案するに、(一)原告は、第二引用例には、何ゆえに後側支柱を前側支柱より長くするかについての技術的思想の表明はなく、ましてや、これを折り畳んでコンパクトにするという技術的思想の開示はない旨主張するが、第二引用例に右の技術的思想の開示はなくとも、第二引用例に後側支柱を前側支柱より長くした足場装置の開示がある以上、右の構成を第一引用例記載の折り畳み式の足場装置に転用することは、当業者であれば極めて容易に想到し得るものというべきことは、前説示のとおりであるから、原告の右主張は、採用することができず、(二)原告は、第二引用例記載のものは吊架装置であり、また、第一引用例記載のものは窓洗浄者用床であつて、両者は技術的対象及び技術原理を全く異にするものであるにもかかわらず、本件審決は、両者を結び付ける具体的な理由付けを説示していないから、本件考案は第一引用例記載のもののみから極めて容易に考案をすることができた旨判断するにすぎないものというべきところ、他方、右判断のようにいえないことは、本件審決自身認めているところであるから、第二引用例記載の吊架装置を第一引用例記載の足場装置に適用することは極めて容易に想到し得る程度のことであるとした本件審決の判断は誤つている旨主張するが、前掲甲第三号証(第二引用例)によれば、第二引用例には、考案の名称を「足場枠の吊架装置」とする考案が開示されていることが認められるところ、そこに開示されている技術内容に徴すると、右の足場枠の吊架装置というのは、本件考案にいう足場装置に相当するものであり、また、前認定の第一引用例記載のものの構成によれば、第一引用例にいう窓洗浄者用床というのも、その技術内容において、本件考案にいう足場装置にほかならず、第一引用例及び第二引用例記載のものは、いずれも同じ足場装置であるから、原告の右主張は、その前提を欠き失当というべきであり、(三)原告は、本件考案は、短い前側支柱と長い後側支柱とが副うように回動自在に軸支され、畳まれたときに前側支柱と足場板との合計の長さが後側支柱の長さの範囲に収まるように組み合わされていることに特徴があり、右の構成により、軽量化し、格納容積も小さくし、コンパクトに折り畳むことができるというような顕著な作用効果を奏するものであるところ、このような技術的思想は第一引用例及び第二引用例には開示がない旨主張するが、前記本件考案の要旨によると、畳まれたときに前側支柱と足場板との合計の長さが後側支柱の長さの範囲に収まるということは、本件考案の構成とする事項ではなく、これをもつて本件考案の特徴ということはできず、したがつてまた、原告主張の本件考案の右効果が右構成によるものということもできず、かえつて、本件考案の技術内容に関する前認定の事実によると、本件考案の原告主張の右効果は、本件考案の要旨のとおりの構成により奏せられる効果であつて、原告主張の構成による効果ではないことが認められるところ、前認定の第一引用例記載のものも、その構成に照らし、本件考案の右効果と同様の効果を奏するものと認められるから、本件考案の右効果は、第一引用例記載のものが有する効果に比して格別顕著なものではなく、当業者であれば第一引用例記載のものの構成から極めて容易に予測し得るものということができ、したがつて、原告の右主張も、採用するに由ないものというほかはなく、(四)原告は、本件考案は、本件審決が相違点(2)に関して認定した吊り材の機能(イ)ないし(ハ)を有し、また、吊り材の構成により、足場装置をコンパクトに保持し、かつ、軽便に折り畳むという顕著な作用効果を奏するのに対し、第一引用例記載のものは、本件審決認定の(イ)及び(ハ)の機能を有せず、また、本件考案の右効果を奏しない旨主張するが、第一引用例記載のものも、本件審決認定のとおりの機能を有し、かつ、本件考案の右効果と同様の効果を奏するものであることは、前説示のとおりであるから、原告の右主張も、採用に値しないものであり、更に、原告は、本件考案は、吊り材を前側支柱と後側支柱の頂部間に架設したことにより、足場装置を横方向に連結若しくは隔設して使用する際に、足場板と横板の中間にある横板(構成要件でない横板)を取り外すことによつて、作業員が一つの足場装置から他の足場装置に自由に移動することができるものであるのに対し、第一引用例記載のものは、右のような作用効果を奏しないから、本件考案と第一引用例記載のものとの相違点を設計上の微差にすぎないということはできない旨主張するが、前記本件考案の要旨によると、本件考案は、相対向する前側支柱と後側支柱間には手摺と補強を兼ねた横板が設けられることを必須の構成とするものと認められるから、吊り材を前側支柱と後側支柱の頂部間に架設した構成を採つたからといつて原告の右主張のような効果を奏するものではなく、また、足場板と横板の中間にある横板を取り外せば、取り外していないものに比べて、作業員が一つの足場装置から他の足場装置に移動し易いとしても、なお横板が存在する以上は、これをもつて格別の効果とみることはできないから、原告の右主張は、失当といわざるを得ず、(五)原告は、本件考案について分割出願をした理由は、足場装置の本体と足場板とを別個の部品として、足場板を独自に使用するという利点を生かし、また、足場板の周囲に巾木を起立させることにより、作業中の工具の落下を防止するようにしたことにあり、たとい、周知技術を用いるものであつても、他の構成との組合せにより右のような顕著な作用効果を奏するものであるから、そこに進歩性が認められるのが当然のことである旨主張するが、前掲甲第二号証(本件公報)によると、本件考案の明細書には、足場板を独自に使用するという利点についての記載はなく、これをもつて本件考案の顕著な作用効果であると認めることはできず、また、作業中の工具の落下を防止するという効果は、右の足場板を設けたことによる効果であるということができるが、足場装置にこのような足場板を設けることは常套手段であつて、右の効果は、常套手段が備えている当然の効果にすぎず、そのことは、前掲甲第二号証(本件公報)によつて認められる、本件考案の明細書にも、右の効果が本件考案の効果として特に記載されていないことからも窺うことができ、したがつて、原告の右主張も、失当というほかはなく、(六)原告は、本件考案には、前側支柱の頂部間の横板及び後側支柱の頂部間の横板、すなわち、第一引用例の上端棒9及び横棒6に相当するものがなく、また、そのことにより、その場所での作業に便利であるなどの作用効果を奏するものであるのに、本件審決は、この点を看過している旨主張するところ、前掲甲第二号証(本件公報)によると、本件考案の実用新案登録請求の範囲には、「各支柱間には手摺兼用の梁もしくは横板が一対的に回動自在に軸支され」との記載があり(なお、考案の詳細な説明の項にも同趣旨の記載が認められる。)、右記載によれば、本件考案において、前側支柱間及び後側支柱間にも手摺兼用の梁もしくは横板が存することを要件としていることは明らかであるから、原告の右主張はその前提において失当であり、理由がないものといわざるを得ない。

(結論)

三 以上のとおりであるから、その主張の点に違法のあることを理由に本件審決の取消しを求める原告の本訴請求は、理由がないものというほかはない。よつて、これを棄却することとする。

〔編註その一〕本件考案の要旨は左のとおりである。

補強フレームの端部に少なくとも二本の短い前側支柱と二本の長い後側支柱の下部が回転自在に軸支され、補強フレーム上には周囲に巾木を起立させた足場板が置かれ、巾木の四隅は夫々各前側と後側支柱の内壁に支持され、各支柱間には手摺兼用の梁もしくは横板が一対的に回動自在に軸支され、前側支柱と後側支柱の頂部間には折り畳みもしくは伸縮可能な吊り材が梁設された折り畳み自在な足場装置。

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