東京高等裁判所 昭和58年(行ケ)50号 判決
(争いのない事実)
一 本件に関する特許庁における手続の経緯、本願発明の要旨及び本件審決理由の要点が原告主張のとおりであることは、当事者間に争いのないところである。
(本件審決を取り消すべき事由の有無について)
二 本件審決の認定判断は正当であつて、原告がその取消事由として主張するところは、いずれも、次に説示するとおり、理由がないものというべきである。
前示本願発明の要旨に成立に争いのない甲第三号証(本件公報)を総合すると、本願発明は、「充填剤による強化されたオレフイン重合体組成物の製造方法に関する。さらに詳しくは充填剤とオレフイン重合体との間に化学的結合又は親和性を生ぜしめ、物理的性質を良好にしたオレフイン重合体組成物の製造方法に関する。」(本件公報第一欄発明の詳細な説明の項の第一行ないし第六行)ものであり、本願発明のオレフイン重合体組成物の製造方法の特徴は、「変性オレフイン重合体を製造する際用いるオレフイン重合体としてMFR(メルトフローレート:荷重二・一六kg、ポリエチレンの場合一九〇℃、ポリプロピレンの場合二三〇℃の値)の非常に大きい重合体を使用することにある」(本件公報第二頁第三欄第三行ないし第八行)ところ、これは、「充填材強化オレフイン重合体はその物理的性質の改良のために採用されるものであるから、本来あまりにもMFRの大きい重合体を使用すると物理的性質の低下をまねくので避けなければならないとするのが一般的な考え方であつたが、本発明者は種々研究の結果、充填材入りオレフイン重合体の素材としては使用出来ないと考えられていたMFRの大きい、云いかえれば分子量の小さい重合体を素材として変性オレフイン重合体を製造し、これを用いて充填剤強化オレフイン重合体を製造すると物理的性質の極めて優れた重合体組成物を製造することができる」(本件公報第二頁第三欄第八行ないし第二〇行)との知見に基づくもので、本願発明の要旨のとおり(特許請求の範囲記載に同じ。)の構成を採用したことにより引張強度、熱変形温度等物理的性質の良好な重合体組成物をつくり得たものであること、そして、本願発明において用いられる「変性オレフイン重合体」について、「変性オレフイン重合体とは前記MFRの大きいオレフイン重合体をビニルシラン類等ビニル基を有するシラン化合物のグラフト重合、酸性基、塩基性基、エポキシ基などの官能基を有するビニル及び又はビニリデン化合物のグラフト重合、又はスルホン化、ホスホリス化などの化学反応を行なわしめて得られたオレフイン重合体組成物を云う。」(本件公報第二頁第四欄第一八行ないし第二四行)、「官能基を有するビニル化合物の例としては、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸……等がある。」(本件公報第二頁第四欄第二九行ないし第三五行)及び「グラフト重合を行う方法は特に制限を受けるものではないが、例えばラジカル開始剤の使用、放射線照射、紫外線照射、オゾン又は酸素による酸化又は機械的混練による方法等がある。また化学的反応による変性にはホスホリル化、濃硫酸によるスルホン化などが採用できる。」(本件公報第二頁第四欄下から第三行ないし第三頁第五欄第三行)との記載のあることが認められ、右記載によれば、本願発明における「変性オレフイン重合体」とは、例えば無水マレイン酸とメルトフローレート15以上のオレフイン重合体とをグラフト重合させて得られる重合体で代表されるように、グラフト重合、スルホン化、ホスホリル化等の反応によつてオレフイン重合体に右反応に用いられた化合物が化学的に結合されている状態のものを称しているものと解される。また、前掲甲第二号証によると、明細書の発明の詳細な説明の項には、本願発明の実施態様として、「充填剤をあらかじめカツプリング剤で処理し、次いで変性オレフイン重合体で処理した後、未変性のオレフイン重合体と混合する方法」(本件公報第三頁第五欄記載の(ロ)の方法)があるところ、未変性ポリオレフインを用いる方法に関し、「充填剤と変性オレフイン重合体の組合せに必要に応じて未変性オレフイン重合体が加えられるが、この場合用いられる未変性オレフイン重合体は変性オレフイン重合体製造に用いた重合体と同種のものであることが望ましい。」(本件公報第二頁第三欄第三四行ないし第三九行)との記載のほか、「特に射出成形や押し出し成形用に通常使用される程度のMFRをもつた重合体の使用が推奨される。これは使用される未変性オレフイン重合体にMFRのあまりにも高いものを使用すると衝撃強度が低下するからである。」(本件公報第二頁第三欄下から第二行ないし第四欄第三行)との記載があり、実施例1ないし4には、MFRが6.5の、実施例5においてはMFRが6.8の、更に実施例7においてはMFRが3.0のいずれも未変性オレフイン重合体が用いられていることを認めることができ、右認定の事実によると、本願発明は、メルトフローレート15以上のオレフイン重合体を変性して得た変性オレフイン重合体と充填剤とを結合又は組み合わせたものを使用して充填剤とオレフイン重合体との間に化学的結合又は親和性を生ぜしめて、物理的性質を良好にしたオレフイン重合体組成物の製造方法であるが、更に、変性オレフイン重合体と充填剤とを結合又は組み合わせたものに未変性のオレフイン重合体を加えることによつて、オレフイン重合体と充填剤との親和力ないし凝集力を向上せしめたオレフイン重合体組成物を製造する方法を含むものと理解することができる。そうすると、本件審決が、本願発明と引用例記載の発明とを対比するに当たり、本願発明について、未変性ポリオレフインに混合する配合剤として変性ポリオレフインと充填剤とを結合又は組み合わせたものを使用するものとした点には何ら誤りはなく、この点の原告の主張は失当である。
他方、成立に争いのない甲第二号証(引用例)によると、引用例記載の発明は、「水酸基含有充填剤と異なるメルトインデツクスを有するポリオレフインの混和性付与」についての発明であるが、引用例には、「一九七〇年一二月二二日に発行されたカナダ特許第八五九、二二一号は、さもなければ混和性のない水酸基含有材料と熱可塑性高分子との混和性付与方法を開示している。このことは、それら材料をエチレン性不飽和カルボン酸又は置換カルボン酸又は酸無水物とフリーラジカルプレカーサー又はフリーラジカル発生剤の共存下に一緒にすることによつて達成された。カナダ特許第八五九、二二一号に記述された一実施態様によれば、重合体中に充填剤又は強化剤を加えるための改良方法が提供されている。その実施態様によれば、クレー、シリカ、ガラス、アスベストのような水酸基を含有する充填剤又は強化剤は、フリーラジカル触媒の存在下における無水マレイン酸との反応によつて熱可塑性ポリマーをカツプリングさせるという方法によつて、熱可塑性ポリマーで予備被覆され、その結果、それらの表面に水酸基を含有する物質が化学的に結合されている状態の粒子からなる粉末状の製造が得られる。このように予備被覆された充填剤は、次いで熱可塑性ポリマーといろいろな割合で混合され相互混和されて充填剤又は強化剤を含むポリマー組成物をつくることができる。それゆえ、この実施態様は、充填剤とマトリツクスポリマーに混和性を付与するための二段階法である。今や、充填剤をマトリツクスポリマーに混和性を付与するための二段階法において、混和性付与ポリマーがポリオレフインであり、マトリツクスポリマーを同じ化学種(例えば、ともにポリエチレンである。)であるが、異なる物性を有するときに改良された結果が得られることが分かつた。かくして、組成物の物性の最適な改良を得るために、好ましくはマトリツクスポリマーは外被用ポリマーよりも低いメルトインデツクスと高い分子量をもつ。また、衝撃強度及び他の物性について外被用ポリマーより優れていることが望ましい。」(第一頁第一行ないし第二頁第五行)との記載のあることが認められ、右認定の記載内容に前掲甲第二号証中の特許請求の範囲1の記載を総合すると、引用例記載の発明は、カナダ特許第八五九、二二一号の発明(甲第六号証)を前提発明とし、その改良を目的にしたものであることが明らかであるところ、前提発明であるカナダ特許第八五九、二二一号発明の特徴は、そのままの状態では混和性のないもの同士であるクレー、シリカ、ガラス、アスベストのような水酸基含有材料と熱可塑性ポリマーとに混和性を付与することを課題とし、その解決のために水酸基含有材料と熱可塑性ポリマーとをエチレン性不飽和カルボン酸又は置換カルボン酸又は酸無水物とフリーラジカルプレカーサー又はフリーラジカル発生剤の共存下に反応させて水酸基含有材料の表面を熱可塑性ポリマーで化学的に予備被覆した充填剤若しくは強化剤を製造し、この化学的に予備被覆された充填剤等を、その物理的ないし機械的性質の改良を目指す熱可塑性ポリマー(マトリツクスポリマー)に対して種々の割合で混合するところにあり、その改良発明である引用例記載の発明においては、予備被覆用(外被用)の熱可塑性ポリマーとマトリツクスポリマーとの関係を「そのマトリツクスポリオレフイン及びその外被されたポリオレフインは同一化学種であり、かつ、そのマトリツクスオレフインのメルトインデツクスは、その外被されたポリオレフインのそれよりも低いこと」(特許請求の範囲1中の記載)にすることによつて物性の改良(なお、熱変形温度については試験結果が示されていない。)を実現したものであると認められる。また、前掲甲第二号証(引用例)によれば、引用例記載の発明において用いられる被覆用ポリマー及びマトリツクスポリマーについては、「(被覆用ポリオレフインとして)充填剤上のポリオレフインの被覆の均等性を確保するために、良好なぬれ及び流動性を有するポリオレフインが使用されなければならない。したがつて、被覆用ポリオレフインとして、五ないし五〇のメルトインデツクスを有するポリオレフインを使用することが好ましい。」(第五頁第四行ないし第八行)との記載及び「次の実施例は、高メルトインデツクスポリオレフインを被覆材若しくは外被材として充填剤の結合反応中で使用し、次いで低メルトインデツクスのポリオレフインと配合した結果生じる改良された物性について説明している。」(第五頁第二七行ないし第三一行)との記載のあること、並びに実施例においては、被覆用ポリオレフインとして、メルトインデツクスの高いものが用いられ、マトリツクスポリオレフインとしては低いメルトインデツクスのものが用いられていて、効果として、衝撃強度、破断強度、伸張率、可撓率等の物理的特性及び機械的特性を改善した例が記載されており、そして、好ましい被覆用ポリオレフインとして実施例2、実施例6ないし11では、メルトフローレート15のものが、実施例3、5及び13では、メルトフローレート22のものが用いられ、マトリツクスポリエチレンとしてはメルトフローレートが0.5、0.7及び4.0のものが用いられていることが認められる。右認定の引用例の記載内容に徴すると、引用例には、被覆用ポリマーとしては、充填剤上のポリマーの被覆の均等性を確保するために、良好なぬれ及び流動性を有するものであつて、5ないし50のメルトインデツクスを有するポリオレフインを使用することが好ましいが、就中、実施例にみられるようなメルトインデツクス15以上のものが好ましく、他方、マトリツクスポリマーとしては衝撃強度や他の物性を考慮して、被覆用ポリマーよりははるかに低いメルトインデツクスのものを用いることが好ましいとする技術的思想が開示されているものというべきである。更に、前掲甲第二号証によれば、引用例には、被覆用ポリマーと水酸基含有材料とを無水マレイン酸等の存在下で反応させる方法について、「ポリオレフイン、水酸基含有充填剤及びエチレン性不飽和カルボン酸若しくは酸無水物は、反応が酸と他の二つの材料間で実質的に同時に起こるように接触させることが不可欠である。もしも、例えばクレーが最初に無水マレイン酸とクレー・マレイン酸半エステルを生成するよう反応せしめられると、その半エステルはポリエチレンとはたといフリーラジカル触媒の存在下でも引き続き容易に反応しないであろう。」(第五頁第一八行ないし第二七行)との記載があることが認められ、この記載によると、引用例記載の発明においては、無水マレイン酸等とシリカ等の水酸基とが優先的に反応するような反応の仕方を明確に排除しているものと認められるから、引用例記載の発明における予備被覆された充填剤は、無水マレイン酸等とポリオレフインとが反応し、それと同時若しくはその反応に連続してシリカ等の水酸基と無水マレイン酸とが反応して、結果的に無水マレイン酸を介してシリカ等とポリオレフインと結合した形の化学的に予備被覆された充填剤、つまり、無水マレイン酸は、一方ではシリカのヒドロキシル基と結合した形のものであるが、他方ではポリオレフインと重合していることから、充填剤を被覆しているポリオレフインについてみると無水マレイン酸との反応によつて無水マレイン酸分子が結合された状態となつているという意味において、引用例記載の発明におけるものの外被は、「変性オレフイン」といい得るものであり、右の被覆充填剤が未変性ポリオレフインに混合される前に調整されるという意味において変性ポリオレフインで予備処理された「充填剤」であると認めることができる。このことは、成立に争のない甲第六号証によると、引用例記載の発明の前提発明である前掲カナダ特許第八五九、二二一号の明細書に、引用例記載の発明のものと実質的に同一の製造方法(使用されるポリオレフインのメルトフローレートについて限定がない点を除く。)で製造されるポリオレフイン外被充填剤の生成について引用例記載の発明と同様の反応態様が記載されている(甲第六号証の第六頁第二三行ないし第三〇行、第七頁第一三行ないし第二一行並びに第七頁の反応式)ことが認められることからも肯認することができる。そうすると、本件審決が、「引用例の実施例には、メルトフローレート15又は22のオレフイン重合体と変性剤とを用いて充填剤を予備処理し、その後未変性ポリオレフインに混合する複合材の製法が示されている。」と認定したうえ、本願発明と引用例記載の発明とが、共に「メルトフローレート15以上のオレフイン重合体を変性した変性ポリオレフインを利用し、未変性ポリオレフインと充填剤との結合又は親和性を高めることにより未変性ポリオレフインの物理的性質の向上を図るという点で技術的課題とその解決手段を共通にしている」と認定判断したのは正当であり、本件審決の相違点の認定にも何ら誤りはなく、したがつて、この点の原告の主張は、いずれも理由がない。
以上認定説示したところによると、本願発明と引用例記載の発明との構成上の相違点は、引用例記載の発明においては、充填剤、変性用ポリオレフイン、変性剤を併存させて反応させることにより、変性用オレフインの変性と、充填剤―変性ポリオレフイン間の結合とを同時に行つているのに対し、本願発明においては、あらかじめ変性ポリオレフインをつくり、次いでこれを充填剤と結合又は組み合わせるという段階的方法を採つている点にあることは明らかである。しかしながら、本願発明の採用する段階的方法が、本願発明の特許出願前に当業者に広く知られていた手段であることは、引用例においてその先行技術であるとして示されている前記カナダ特許第八五九、二二一号明細書(前掲甲第六号証)における「熱可塑性重合体及びヒドロキシル基含有物質の間の結合反応は、全成分類が一緒に存在している場合、最も好都合に進行する。したがつて、該反応は、本質的な一段融和方法をもたらす。この点に関しては、それは二段階方法と異なつており、二段階方法では、ヒドロキシル基含有物質を、“例えばエチレン―アクリル酸のごとき不飽和カルボン酸から製造された共重合体又はアクリル酸をポリエチレンの存在下でオゾン若しくは照射の影響下で重合することにより得られたもののごときグラフト共重合体又は無水マレイン酸を高分子量ポリエチレンの熱分解又は熱変性により得られ一個以上のオレフイン系結合を含有している低分子量ポリエチレンワツクスと反応させることにより得られたもののごとき付加重合体”と混合する。」(第八頁第六行ないし第一九行)との記載、つまり、低分子量のポリエチレン等を変性し、充填剤と混合したものを、未変性ポリエチレン等に加えるという、いわゆる二段階融和法が、引用例記載の発明において採用されているような一段階融和法と同じように本願発明の特許出願前に既に当業者に広く知られていたことを前提とした記載から明らかである。また、成立に争いがなく、かつ、本願発明の特許出願前既に公知の刊行物となつていたことの明らかな乙第一号証(特公昭四五―三六四二一号特許公報)によると、それには、「本発明によつて、補強無機繊維を含有する結晶性ポリプロピレン組成物または積層物の特徴とするところは次の通りである。すなわち、一つの置換基が無機繊維物質と反応することができ、また一つの置換基が酸と反応することができかつ有機である置換されたシラン(1)と、アルフア、ベータ―エチレン状不飽和酸または無水物を加えることによつて変性された結晶性ポリプロピレン(2)との反応生成物によつて上記繊維が被覆されているということである。本発明によつて、補強したポリプロピレンは、低い費用で繊維とポリマーとの間に確実な結合を与えることができる」(第一頁第二欄第一六行ないし第二八行)との記載があるほか、本願発明において採用されている変性方法と同じ方法で変性された変性ポリオレフインが、特定のシラン化合物を介して補強無機繊維と結合され、このように補強されたポリプロピレンが繊維とポリマーとの間の確実な結合に役立つことが開示され(第二頁第三欄第一五行ないし第三〇行)、更に、右の補強用繊維含有結晶性ポリプロピレンの製造方法に関し、「シランが、例えばガラス繊維の製造に際してサイジングとして最初に繊維に施されているならば、不活性有機溶剤中の変性ポリマーの加熱溶液中において、処理された繊維をポリマーと簡単に接触せしめることによつて、シランは変性ポリプロピレンと容易に反応せしめることができる。」(第三頁第六欄第二三行ないし第二八行)との記載及び「また別法では、変性ポリプロピレンを変性されていないポリプロピレンと溶融配合することができる。特殊なシランで処理したガラスを、その後、混合物中に配合し、シランと酸変性ポリプロピレンとの間の反応がその場で進行する。」(第四頁第七欄第三三行ないし第三七行)との記載があること、並びにその実施例に用いられているシランが、本願発明のオレフイン重合体組成物の製造方法(前掲甲第三号証第三頁第五欄第二二行ないし第三一行記載の(イ)ないし(ハ)の方法)において用いられるとして列挙されたものと共通していることが認められ、右事実から乙第一号証によつても、オレフイン重合体の一種である結晶性ポリプロピレンを変性して変性ポリプロピレンを製造し、次いで、この変性ポリプロピレンをシラン処理されたガラス繊維等の充填剤と反応させて変性ポリプロピレン被覆充填剤を製造するという二段階方法は本願発明の特許出願前に当業者に広く知られていたものと認めることができる。そうすると、マトリツクスポリオレフインに配合される変性ポリオレフインで被覆された充填剤の改良法として、被覆用の変性ポリオレフインとしてメルトフローレート15以上の高いものを用いて予備被覆された充填剤をつくり、それをメルトフローレートの低いマトリツクスポリオレフインの充填剤として使用することによつて成型品等の物性改善に役立たしめるという技術的思想が引用例に開示されていれば、引用例記載の発明のように変性と結合とを同時にする方法に代えて、マトリツクスポリオレフインのための充填剤の製法として本願発明の特許出願前に既に広く知られていた本願発明のような二段階方法を採択することは、当業者にとつて容易なこととみざるを得ず、したがつて、本件審決が、本願発明に係るものを用いるのと、引用例に係るものを用いるのとでは配合剤としては相違するとみても、後者を前者に置き換えることは当業者の適宜なし得る程度のことであるとした点には何らの誤りも存しない。また、原告は、本願発明の効果(熱変形温度を含む。)の顕著性について主張するが、本願発明の明細書(前掲甲第二号証)を子細に検討しても、前認定説示したところに照らし、本願発明の効果は、引用例及び前記の周知の技術事項から予想し得る域を出ないものであり、格別顕著なものとは到底認めることができない。この点に関し原告は、本願発明が顕著な効果を奏するものとして、実験報告書(成立に争いのない甲第五号証及び第七号証)を挙示するが、甲第五号証の実験報告書の実験例1においては変性用結晶ポリプロピレン、変性剤、充填剤及び重合開始剤を混合したものをそのまま試験片としており、未変性ポリプロピレンは使用していないのに対し、実験例2においては変性ポリプロピレンにチヨツプドストランドグラスフアイバーと未変性結晶性ポリプロピレンとを混合したものを試験片としており、しかも変性ポリプロピレン二〇〇gに一四〇〇gという量で添加されている未変性ポリプロピレンのメルトフローレートが不明であり、この未変性結晶性ポリプロピレンが測定される物性値にどのように影響するのか不明確であるから、両者は、比較対照すべきものとしては極めて不適切であり、かつ、同実験報告書を通してみても本願発明の奏する効果の顕著性を裏付ける記載は見いだせない。更に、甲第七号証の実験報告書を検討するに、同実験報告書には、本願発明の方法による実験例1と引用例記載の方法による実験例2とそれに一つの対照例が記載されているにすぎず、これをもつて、極めて広範に及ぶ本願発明の全体が奏する効果を裏付けるのは不十分というほかない。
右に検討したところから明らかなとおり、本願発明は、引用例記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものというべきであるから、本件審決の判断は正当であり、違法の点はない。
(結語)
三 以上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法があることを理由に本件審決の取消しを求める原告の本訴請求は、理由がないものというほかない。よつて、これを棄却することとする。
〔編註〕 本願発明の要旨は左のとおりである。
メルトフローレート15以上のオレフイン重合体を変性して得た変性オレフイン重合体と充填剤とを結合又は組合せたものを使用することを特徴とするオレフイン重合体組成物の製造方法。