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東京高等裁判所 昭和58年(行ケ)52号 判決

事実及び理由

一  請求の原因一ないし三の事実、第一引用例に審決認定のとおりの記載があること、本願考案と第一引用例の考案の一致点及び相違点が審決認定のとおりであることは、当事者間に争いがない。

二  そこで、原告主張の審決取消事由について検討する。

1  取消事由(1)(請求の原因四2)について

本願考案が避難用緩降機取付装置に関するものであるのに対し、第二引用例が扇風機に関するものであることは当事者間に争いがない。

ところで当事者間に争いのない審決の理由の要点によれば、審決が第二引用例を判断資料としたのは、本願考案と同じ避難用緩降機取付装置をその対象とする第一引用例と本願考案との相違点<1>に関してであり、この相違点<1>が複数の管を順次摺動自在に嵌挿して伸縮自在とした支柱をばねの力によつて自動的に伸長可能とし、支柱をばねの力に抗して収縮させて収納状態とするとき管相互を係合する手段を設ける構成に関するものであることが認められる。そして、この構成が避難用緩降機取付装置にのみ限られたこれに特有の構成ではなく、他の各種装置にも存する構成であることは明らかであるから、この構成についての技術内容を検討して右相違点<1>についての判断をするために、審決が扇風機の支杆昇降装置に関する第二引用例を取り上げたことは相当であり、この点に原告主張の違法はないというべきである。

2  取消事由(2)(請求の原因四3)について

第二引用例に「支柱を自動的に伸長する」との記載がないことは当事者間に争いがないところ、成立に争いのない甲第四号証によると、第二引用例の考案の明細書中実用新案登録請求の範囲には、「扇風機本体を支持する支杆3をスタンド支柱1内に昇降自在に嵌挿し、この支杆の下端部に水平に回転自在にリール7を支持させ、このリールに巻き付くように定荷重うず巻きばね8を施し、さらにこのばねの外端部を上記支柱の上部に固定するとともに、上記支杆が上記支柱内における摺動面の摩擦で希望の高さに保持されるように、上記ばねの上記リールに巻き付く力を上記本体と上記支杆との重量につり合わせた扇風機の支杆昇降装置。」と記載され、その図面には、右の定荷重うず巻きばねとして板状のばね材をリールに巻回したものが図示されていること、また、その考案の詳細な説明の項には、第二引用例の考案の構造を図面について説明した後に、「なお、上記構造において定荷重うず巻きばね8のばね圧力、すなわちリール7に巻き付こうとする力はリール7に巻き付いている部分の長さにかかわらず一定であるから、このばね圧力をあらかじめ扇風機本体を取り付けた支杆3の重量とつり合うよう設定しておけば任意の高さにおいて常につり合いがとれることになり、支杆3を任意の高さに保持することが出来る。」との記載があることが認められる。これらの記載によれば、第二引用例の考案におけるばね機構は、ばねがリールに巻き付こうとする力を支杆を上方に押し上げる力として作用させ、この力を扇風機本体が取り付けられた支杆の重量とつり合うよう設定しておくことによつて、支杆を外力により伸長もしくは収縮させて任意の高さに保持することができるようにしたものであることが認められる。

一方、成立に争いのない甲第二号証によれば、本願明細書の考案の詳細な説明の項には、本願考案は、従来周知の伸縮管方式であつて可動突起とこの突起が係外れする係合孔とを備えた緩降機取付装置の欠点すなわちこの装置は内管、中管等を伸長させるばねを備えていないため、かなりの重量を有する内管、中管等を迅速に伸長させることが困難であつて、迅速な避難準備動作の点で満足できなかつた欠点を解消し、「火災や地震等の非常時に該装置を瞬間的に柱状に伸長させて階上からでも迅速に避難できる様に……した事を目的とする」(甲第二号証本願公報一欄二九ないし三三行)もので、このため、「強力な弾発力が得られ、重い中管や内管を瞬時にして柱状に伸長せしめえる効果」(同四欄一九、二〇行)を奏する板ばねを採用し、前記当事者間に争いのない実用新案登録請求の範囲に記載された構成としたことが説明されていると認められる。右事実によれば、本願考案におけるばね機構は、ばねがリールに巻き付こうとする力を管を上方に押し上げる力として作用させ、この力を管の重量より大にすることによつて、可動突起を上部係合孔から外した場合、管が自動的に上方へ伸長することができるようにしたことが認められる。

そこで、右認定の事実に基づいて本願考案と第二引用例の考案を対比すると、両者とも板状のばねを用いたばねがリールに巻き付こうとする力を管等を上方に押し上げる力として作用させるばね機構を有する点で一致していると認められる。

もつとも、本願考案におけるばねの力はこれが支えようとする上方荷重より大であるのに対し、第二引用例の考案におけるばねの力はこれが支えようとする上方荷重とつり合うよう設定されたものである点で相違することは前叙のとおりであり、また、両者においてそれぞれのばねによつて支えようとする上方荷重がはなはだしく異なることは原告主張のとおりと認められる。しかし、上方荷重に対応してこれを支えるばねの力を決定し、これに用いるべき適当なばねを選定する程度のことは、前記第二引用例中考案の詳細な説明の項の記載及び成立に争いのない乙第一、二号証によつて認められる本願出願前におけるばね利用に関する技術水準に照らし、当業者が任意に決定できる設計事項の範囲を出ないものであるといわねばならない(乙第一、二号証に関する原告の主張は、右各号証記載の技術をそのまま避難用緩降機取付装置に適用することを前提とするものであるから、採用できない。)。

そうすると、第二引用例に記載された前示のばね機構を第一引用例に記載された避難用緩降機取付装置における管の摺動に適用し、ばねがリールに巻き付こうとする力を上方荷重より大に設定することは、当業者にとつて格別の考案力を必要とするものではないことが明らかであり、結局、本願考案は第一、第二引用例から当業者がきわめて容易に考案をすることができたものと認められる。

したがつて、第二引用例に「支柱が自動的に伸長する」との記載があるとした審決の認定が当を得ないことは原告主張のとおりであるが、当裁判所の前示判断と同旨に出た審決の結論は相当であつて、これを取り消す必要はないというべきである。

三  よつて、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとする。

〔編註〕本願考案の実用新案登録請求の範囲は左のとおりである。

伸縮自在なる継管を床面に設置する緩降機の取付装置に於いて、外管に嵌挿する内管下方に板バネを巻回したリールを備え、そのバネの一端を外管上方に固着し、上記内管に嵌挿する中管下方に前記と同様のリールを備え、このバネの一端を内管上方に固着すると共に、外管及び内管に可動突起を設け、この突起が係外れる係合孔を内管及び中管の上下両方に夫々開穿してなる避難用緩降機取付装置。

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