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東京高等裁判所 昭和58年(行ケ)62号 判決

事実及び理由

一  請求の原因一ないし三の事実は当事者間に争いがない。

二  そこで、審決取消事由について検討する。

1  取消事由(1)について

第一引用例に審決の理由の要点2において審決の認定した構成の植付用わらむしろが開示されていること、この植付用わらむしろと本件考案を比較すると、第一引用例のわらむしろは本件考案の「わら、綿、人絹などを並列に並べて任意の糸条でもつて疎く織成してなる板状体」に相当し、したがつて、両者はこの板状体の一面に種子を取付けた植生板であることで一致し、この板状体に種子を取付ける構成において相違することは、原告も認めて争わないところである。

そこで、本件考案における種子の取付構成について検討する。成立に争いのない甲第二号証によれば、本件明細書の考案の詳細な説明の項には、従来公知の緑化具の一つとして、わら、綿、人絹などの糸条を並列に並べ、任意で所要の間隔をおいて織成した布ないし板体の上に水溶性接着剤を塗布して芝生などの種子を播いた芝生苗床用布があつたが、これには、<1>織成したわらなどの糸条の間から種子が落ちる割合が高い、<2>種子を一定密度で一定した均一さでわらに付着させることができない、<3>種子に水溶性接着剤と接触させ乾燥させることにより種子に自然の保存状態と異なる処理を加えるから、種子の発芽性、発芽成長性を弱める、<4>あらかじめ糸条に種子を接着しこの糸条を織成するから手間を要する、<5>種子が外部に露出しているから鳥害を受け易く降雨による種子の流出を避けえないなどの多くの欠点があつたことを指摘し、本件考案は、これらの欠点を除去するためにその実用新案登録請求の範囲に記載した構成を採用した旨説明されていることが認められる。この説明によれば、右公知の芝生苗床用布における布ないし板体と本件考案における板状体は同一の構成のものと認められるから、両者の相違点はこの板状体への種子の取付構成に差異があり、右従来公知のものの欠点は板状体に直接種子を水溶性接着剤で付着させることから生じるのに対し、本件考案においては、この種子の取付構成として、「少なくとも一方に熱接着性不織布を用いた広巾の二枚の不織布間に種子を要すれば肥料、土壌改良剤などと共にほぼ均一に挟持しかつ所要間隔をおいて熱接着し」た合板体を右の板状体に接着するという構成を採用し、これによつて、右従来公知の芝生苗床用布における欠点を解消したものであることが明らかである。

一方第二引用例に審決の理由の要点2で審決の認定した植生袋体が開示されていることは原告の認めるところである。この植生袋体と本件考案の合板体を対比すると、両者とも種子を二枚の不織布間に挟持し、所要間隔をおいて熱接着したものである点で一致する。原告は、第二引用例の植生袋体は種子等を各別に設けた室に収納することを目的とするのに対し、本件考案の合板体は種子の固着方法として均一に散布した種子の移動偏在防止のための押えであり両者は異なる旨主張する。しかし、成立に争いのない甲第四号証によれば、第二引用例の考案の目的とするところも、種子相互又は種子と肥料との位置を一定に保つことにあり、これによりこの植生袋体を栽培地面上に位置させた場合発芽間隔を一定状態にし生育を良好に行わしめる効果を生じるとともに、この植生袋体の構成によれば前記公知の芝生苗床用布における欠点も解消できることが認められるから、両者は種子を二枚の不織布間にほぼ均一に挟持して保持するとの目的、構成において一致するものであり、これを原告主張のように別異のものであると認めることはできない。したがつて、審決が第二引用例の植生袋体の構成が本件考案の合板体と格別の差異はないと認定したことに原告主張の誤認はないといわなければならない。

以上の事実によれば、本件考案において従来公知の芝生苗床用布における欠点を解消するために採用した合板体の構成は、すでに第二引用例によつて本件考案の出願前公知の技術であつたといわなければならない。したがつて、第一引用例に示された板状体に直接糊剤により種子を付着させ、これに和紙を張着する種子の取付構成に代え、第二引用例に開示された種子を内在させた合板体を板状体に固着させることにより本件考案の種子の取付構成を得ることは、当業者であれば格別の考案力を要せず、きわめて容易に想到できたものと認めるのが相当である。

2  取消事由(2)について

原告は、第三引用例は同一材質の部材の接着にかかるものであると主張する。しかし、成立に争いのない甲第五号証によれば、昭和一〇年一一月二五日に公告された第三引用例には「『セルロイド』ノ素面カ一様ニ二粘着状態ニ至ル迄加熱シテ放冷シ以テ各接触セル『セルロイド』(4)を粘着結合セシメルト共ニ『セルロイド』ニ接触セル植物培養板材料(5)ヲモ同時ニ網状板(1)及糸状繊維(2)ニ粘着セシメテ」との記載(同号証一三二頁五ないし七行)があり、この網状板及糸条繊維がセルロイド製又はセルロイドを溶着被覆したものであると説明されており、これによれば、同質の熱接着性素材のみならず、熱接着性素材と異質の素材を熱接着することは、本件考案の出願前周知の技術であつたことが認められる。したがつて、本件考案における二枚の不織布の熱接着及び合板体と板状体の熱接着はいずれもこの周知慣用の技術の適用にすぎないことが明らかであるから、熱接着による合板体と板状体の固着手段を採用することは、当業者がきわめて容易になし得るところといわなければならない。これに反する原告の主張は採用できない。

3  以上のとおり、原告主張の審決取消事由はいずれも理由がなく、審決の認定判断にこれを取り消すべき違法の点は見当らない。

三  よつて、原告の本訴請求を棄却することとする。

〔編註〕本件における実用新案登録請求の範囲は左のとおりである。

少くとも一方に熱接着性不織布を用いた広巾の二枚の不織布間に種子を要すれば肥料、土壌改良剤などと共にほぼ均一に挟持しかつ所要間隔をおいて熱接着し、この合板体の少なくとも一面にわら、綿、人絹などを並列に並べて任意の糸条でもつて疎く織成してなる板状体を熱接着したことを特徴とする植生板。

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