東京高等裁判所 昭和58年(行ケ)65号 判決
一 請求の原因記載の事実はすべて当事者間に争いがない。
右争いのない請求の原因三1の事実によれば、本件特許発明には、沈子素材の破断時芯索を分離沈子部片の間隔だけ余分に引出し又は繰り出す構成が存しないとの審決の認定は誤りであることに帰し、したがつて右認定を前提として、本件特許発明は特許法第二九条の規定に違反して特許されたことになるから、本件特許は無効とすべきものであるとした審決は、違法として取消しを免れない。
二 よつて、審決の取消しを求める原告の本訴請求は理由があるからこれを認容する。
〔編註〕 本件における審決の理由の要点は左のとおりである。
本件特許発明は、明細書の特許請求の範囲に記載された「棒線状沈子素材とほゞ同半径の半円形周溝を外周面に有し、該半円形周溝内に、先端中央に半円形窪みを有する多数の植刃を適宜間隔を置いて放射状に植設した二本の対設する整形破断ロールを沈子素材繰出し速度より適宜速い回転速度で回転させ、繰出し過程で順次穿たれた切込溝に芯索を挿入して適宜の速度で繰出される棒線状沈子素材を上記二本の整形破断ロール間を通過させて、切込溝の閉鎖締付け整形及び包蔵芯索を切断することのない沈子素材の破断分離を同時に行つて繰出すことを特徴とする沈子の連続製造方法。」にあるものと認める。
そこで、本件特許発明の特許請求の範囲に記載される構成要件によつて構成される沈子の製造方法で、本件特許発明の所期の目的が達成されるものであるのか否か審究する。
先ず、本件特許発明の目的についてみると、本件特許発明の目的は、明細書の記載からみて請求人(被告)が主張し被請求人(原告)が認めるごとく、芯索に適宜間隔を置いて沈材(分離沈子部片)が数珠繋ぎ状に付着された沈子を連続的に製造すること及び沈子製造過程中二本の整形破断ロール間の回転速度を必要に応じて変えることにより、各分離沈子部片の間隔の巾を自由に調節しうるようにすることにあるものと認められる。そして、本件特許発明が、多数の植刃を適宜間隔を置いて放射状に植設した二本の対接する整形破断ロールを沈子素材繰出し速度より適宜速い回転速度で回転させ、そのロール間に、繰り出し過程で穿たれた切込溝に芯索が挿入された沈子素材を通過させ、沈子素材の破断と同時に切込溝の閉鎖締付けを行ない繰出すことのみをその構成として採用することもその明細書及び図面の記載からみて明らかである。
しかしながら、本件特許発明で採用するような多数の植刃を適宜間隔を置いて放射状に植設した二本の対接した整形破断ロール機構とその切込溝に芯索が挿入された沈子素材の繰り出し機構を持つ装置を使用し、沈子を製造する場合、その機構からみて上記本件特許発明の特許請求の範囲に記載されるような構成のみを採ると沈子素材が植刃によつて押圧分離されるだけであつて、上記本件特許発明が目的とするような結果を得ることができない。即ちそのためには、少なくとも芯索が沈子素材に対して摺動可能に挿通されていて分離時に芯索を分離沈子部片の一定間隔だけ沈子素材より余分に速く引出し又は繰り出した後分離沈子部片を芯索に固定しなければならないことが機構上明白である。
してみると、前述のごとく本件特許発明には、沈子素材の破断時芯索を分離沈子部片の間隔だけ余分に引出すまたは繰り出す構成が存しないので、被請求人(原告)の主張にかかわらず、本件特許発明は、その明細書記載の所期の目的を達成することができないものである。
以上のとおりであるから、本件特許発明は発明とはいえず、それゆえ、特許法第二九条の規定に違反して特許されたことになるから、本件特許は、特許法第一二三条第一項第一号の規定に該当し、無効とすべきものである。