大判例

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東京高等裁判所 昭和58年(行ケ)9号 判決

一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本願発明の要旨)及び三(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。

二 そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。

1 成立に争いのない甲第二号証(本願発明の特許願書)によると、本願発明の目的は、「織物、果実、その他各種食品、下水の如き汚泥液等含水固形物」の「加圧、絞搾を無理なく確実になし得る絞り機を得る」(本願明細書第一頁末行ないし第二頁第三行)ことにあり、同明細書第八頁第一三ないし第一八行の発明の詳細な説明中に、本願発明はその要旨とする構成を採用したことにより、「含水固形物の加圧、絞搾を無理なく確実になし得て、織物、果実、その他各種食品、下水に於ける汚泥、魚類、獣類の廃棄物、紙パルプの如きを加圧、絞搾し、液体分と固形分とを確実に分離捕集するに適する効果がある。」との記載があることが認められる。

2 引用例は出願公開公報であり、引用例記載の考案の詳細な説明が記載されていないため、引用例によつては、その考案の内容を明確に理解することはできないが、成立に争いのない甲第四号証(引用例)によれば、引用例には、次のような技術内容が記載されていることが認められる。

ベース10にロータ5が軸着され、ベース10には、ケース1と一体関係にある符号9のもの(引用例にその説明の記載はない。以下名称のない符号のものは、いずれも引用例にその説明がないものである。)が移動(摺動)自在に支持され、右9に固定された14に16が固定され、この16に17(引用例の第1図((別紙図面(2)))からすると、止めナツトであると認められる。)を螺合し、この17と、ベース10に固定され16が貫通している15との間に19(審決はこれを発条19と称し、引用例の第1図からも発条と認められるので、これを、以下「発条19」という。)を介在させ、この発条19の付勢力Qによつて、ケース1は別紙図面(2)の第1図右方向に摺動する力を受けている。

ケース1の供給口2から投入された被加圧物は、ロータ5の回転によつて、右第1図表示のロータ5の回転方向Fに添つて、ケース1のロータ5に対向する部分とロータ5の外壁との間を加圧(絞搾)されながら取出口3方向に移送される。このときケース1は、被加圧物によつて前記Qと反対方向の押圧力Pを受けてベース10内を別紙図面(2)の第1図左方向に摺動しようとするが、一方、Pの力が大になればなるほどこれに応じた圧縮により大となる発条19による反対方向の力Qも受けているので、この二つの力PとQのバランスがとれた位置に保持されることになる。

そして、そのバランス位置は、止めナツトと認められる17の位置を変えることにより調整することができる。すなわち、17を別紙図面(2)の第1図の左方に移動すれば、力Qは大となり、ケース1のロータ5に対向する部分の中心が右に移動して、ロータ5と、ケース1のロータ5に対向する部分との間隔のうち取出口3の側は小となり、17を右方に移動すれば、該中心が左に移動し、該間隔は大となる。

3 原告は、本願発明の回転可能な外筒体に収容された「内筒体はその軸とともに昇降自在に形成して内筒体の軸、その他内筒体に係る適当の個所を螺杆の螺込み、油圧、空圧等押圧力を以て押圧可能にして内筒体の昇降の範囲を調節自在になし」という構成要件は、ストツパーの位置決めによつて行う内筒体3の昇降範囲の調節に関するものであり、作用、反作用の自動調節に関するものではないところ、右構成要件は発条等の押圧力自体を調節するものを含むものではなく、また、引用例には、ストツパーの位置決めによる内筒体(ロータ5)の(左右)移動範囲の調節に関する構成は開示されていないにかかわらず、審決はこれらの点を誤認し、本願発明と引用例記載のものとの間の相違点を看過、誤認したと主張する。

審決は、本願発明の「内筒体の軸、その他内筒体に係る適当の個所を螺杆の螺込み、油圧、空圧等押圧力を以て押圧可能にして内筒体の昇降の範囲を調節自在になし」という構成要件は、別紙図面(1)に示されているような、外筒体と内筒体がある距離以上に近接しないように調節するものに限らず、外筒体の内壁と内筒体の外壁とを圧接、ないし近接させる方向に働く発条等の押圧力自体を調節するものも含むと解されるとした上、「本願発明と引用例の脱水装置は、(中略)発条等の押圧力自体が調節し得る応動手段とを備え(中略)ている脱水装置である点で一致して」いると認定した。審決が右に認定したところは、本願発明の右構成要件が内筒体3を押し上げる発条17等の押圧力(強さ)を調整するという内容まで含むものであるとする趣旨と解される。

しかし、本願発明の右構成要件は、螺杆20等の位置を移動しその位置で発条17等に付勢されて上昇しようとする内筒体3を受け止めて内筒体3の上昇位置を自由に定めることができる構成、すなわち、螺杆20を内筒体3に対してストツパーとして作用させ、このことによつて内筒体3の昇降範囲を設定できるという構成、換言すると、外筒体2と内筒体3との間隔を任意なものに定めることができるという構成を記載したものと認めるのが相当であり、右構成要件が審決が認定したような内容まで含むものとは認められない。

なるほど、螺杆20を、外筒体2の内壁と内筒体3の外壁との間隔が大となる方向、すなわち、下方に移動させれば、結果的に発条17等は圧縮され、内筒体3を押し上げる力は強くなるが、この付勢力が強くなることが被加圧物の絞搾作用に格別の影響を与えるものではなく、したがつて、発条17等の内筒体3を押し上げる力が強くなることは、あくまでも、内筒体3の位置決めに伴う単なる結果にすぎず、技術的に格別の意味のないものであるというべきである。

右にみたとおり、螺杆20の移動は単に、上昇しようとする内筒体3に当接してストツパーとしての位置を変えることを目的としたもので、発条17の付勢力の強弱の調節を目的としたものでないことは明らかであるから、本願発明の前記構成要件についてした審決の前記認定は誤りである。

また、前記2で認定したところによると、引用例記載のものでは、発条19によつて押圧されているケース1の位置を、ナツトと認められる17の位置を変えることにより移動することができ、これによりロータ5の軸心とケース1の中心との間の偏位量の調節を行うことができるが、ケース1をロータ5に対しある一定距離以上に接近させないだけのケース1の移動を阻止するストツパーの機能を果たす部材又は機構は存しない。

被告は、本願発明と引用例記載のものを比較すると、相対的に回転する外筒体と内筒体を偏心自在に支持する脱水装置における偏心範囲を調節自在にする構成は、両者において同一である旨主張するが、引用例の記載をみても、本願発明の螺杆(ストツパー)に相当するものが何であるかを解明する手がかりを見いだすことは困難である。

そうすると、本願発明においては、螺杆20の移動により上昇しようとする内筒体3に対するストツパーとしての位置を調節することによつて、内筒体3の昇降範囲を調節することに関する構成が採用されているのに対し、引用例には、右調節に関する構成が開示されていない点において、本願発明と引用例記載のものとは相違するものというべきである。

以上によれば、審決は、本願発明と引用例記載のものとの間に存する相違点を看過、誤認したものといわなければならない。

4 作用効果についてみるに、本願明細書第八頁第一三ないし第一八行の発明の詳細な説明中に前記1で判示したような記載があるところ、本願発明においては、前記3で判示した引用例記載のものとの間の相違点に基づき、被加圧物の絞搾中、内筒体3と外筒体2とがある程度一定間隔に保たれ、たとえ、被加圧物の弾発により右一定間隔以上に開くことはあつても、右一定間隔よりも接近することはないので、内筒体3と外筒体2の間で被加圧物を強圧することがなく、無理のない円滑な絞り作動を行うことができ、また、被加圧物の水分含有の程度、硬軟等の材質等を考慮して右距離を適宜変えることにより、無理なく、しかも十分な絞りを行うこともできるという、引用例記載のものにはない作用効果を奏することができるというべきである。

5 以上みてきたところによると、審決は、本願発明と引用例記載のものとの間に存する相違点を看過し、ひいて誤つて本願発明の進歩性を否定したものというべきであるから、原告主張のその余の点について判断するまでもなく、違法であつて、取消しを免れない。

三 よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は正当としてこれを認容することとする。

〔編註その一〕 本願発明の要旨は左のとおりである。

本文に詳記するように、外側被覆体中に外筒体を軸架収納し、外筒体中に適宜の間隙部を存して内筒体を軸架収納し、かつ、内筒体はその軸とともに昇降自在に形成して内筒体の軸は発条、油圧、空圧等押圧力を以て押上げ外筒体の内壁と内筒体の外壁とを圧接、ないし、近接させ、内筒体の軸、その他内筒体に係る適当の個所を螺杆の螺込み、油圧、空圧等押圧力を以て押圧可能にして内筒体の昇降の範囲を調節自在になし、外筒体と内筒体間の間隙部に被加圧物を送入可能になし、上記被加圧物とその絞り液とを上記間隙部、及び、外側被覆体から排出可能にしたことを特徴とする絞り機。

(別紙図面(1)参照)

〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。

別紙図面(1)

<省略>

<省略>

<省略>

別紙図面(2)

<省略>

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