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東京高等裁判所 昭和58年(行ケ)99号 判決

(争いのない事実)

一 本件に関する特許庁における手続の経緯、本願発明の要旨及び本件審決理由の要点が原告主張のとおりであることは、当事者間に争いがない。

(本件審決を取り消すべき事由の有無について)

二 原告は、本件審決は、本願発明の構成及び効果並びに第一引用例及び第二引用例の記載についての認定判断を誤り、ひいて、本願発明をもつて第一引用例及び第二引用例に基づき容易に発明し得たものとの誤つた結論を導いたものであり、この点において違法として取り消されるべき旨主張するが、以下に説示するとおり、原告の右主張はいずれも理由がなく、本件審決の認定判断は正当というべきである。

1 前示争いのない本願発明の要旨に原告自認に係る本願発明の要旨中に白金を金に代えたものが先行技術として存する事実、本願発明の目的及び効果としてその明細書に本件審決認定のとおりの記載のあること、並びに成立に争いのない甲第二号証(本件公報)を総合すれば、従来、高周波領域で使用され高速動作が要求される半導体装置では、半導体素子における逆回復(リカバリ)時間を短縮するため、ドナーやアクセプタとなる不純物を拡散して必要なpn接合を形成した後に半導体素子にライフタイムキラーとして金を拡散することが広く行れているところ、これにより逆回復時間は短くなるけれども、金を拡散していない半導体素子に比べて逆電圧が印加されたときの漏洩電流が増加したり、順方向電圧降下FVDが増加するなどの弊害を生じ、漏洩電流が増加すると、熱損失が増加し、半導体は高温となり、この高温化は更に漏洩電流の増加を引き起こし、漏洩電流の著しい増加によつて、半導体素子は逆電圧を阻止し得なくなつて導通し、機能を喪失するに至るので、逆電圧阻止状態を保持するには漏洩電流の増加を抑え、半導体素子の動作温度を低く制限する必要があること、ところで、テレビジヨン受像機の高圧電源回路などに使用される約一六KHz高周波領域で、約一〇~二〇KVの高電圧、数mAの小電流を整流するために使用される高圧半導体装置として、従来から多数枚の半導体素子(半導体ペレツト)を一対の電極間に鑞材により棒状に積層接着し、その周囲を絶縁部材で被覆したものがあるが、このような高圧半導体装置では各半導体ペレツトでの漏洩電流を低く抑え、熱損失を少なくすることが重要であるところ、金をライフタイムキラーとして拡散した高圧半導体装置では前記のとおり漏洩電流を小さくするには限界があることから、本願発明は、漏洩電流が小さく、熱損失が小さく、小型の高圧半導体装置を提供することを目的ないし課題とし、本願発明の要旨(明細書の特許請求の範囲の項の記載に同じ。)のとおりの構成を採つたもので、その特徴とするところは、一対の電極間に鑞材で棒状に積層接着された各半導体ペレツトに白金がライフタイムキラーとして拡散されていることにあり、右の構成により、所期の目的を達し、従来の金を各半導体素子に拡散した高圧半導体に比べて、(1)漏洩電流及び熱損失が小さい、(2)漏洩電流及び熱損失が小さいためその分だけ各半導体ペレツトの断面積を小さくすることができ、あるいは冷却装置が不要となり、高圧半導体装置を小型化することができる、(3)各半導体ペレツトを小さくすることができ、あるいは冷却装置が不要となるので、原価を下げることができる、(4)漏洩電流が小さいので、一枚の半導体ペレツトに加わる逆方向電圧を増加することができ、その分だけ半導体ペレツトの直列接続枚数を低減することができ、高圧半導体装置を小型化できる、(5)漏洩電流及び熱損失(なお、熱損失については、本願発明の願書添付の図面第4f図及び明細書の発明の詳細な説明の項中同図面の説明によると、熱損失には漏洩電流による熱損失、逆方向回復時の熱損失及び順方向導通時の熱損失があり、全熱損失はその総和であるところ、高圧半導体装置における順方向電流は極めて小さいため、順方向導通時の熱損失は他の熱損失に比べると極めて小さい。)が小さいので、逆方向電圧をかけた場合に、高温になつても機能喪失を起こさず、使用限界温度(機能喪失)は金を拡散したものより高くなるという作用効果が得られることを認めることができる。叙上認定の事実によれば、本願発明の目的ないし課題は、結局、逆回復時間を短縮することは当然のこととし、同時に漏洩電流を減じ、更に熱損失の小さい小型の高圧半導体装置を得ることにあるが、全熱損失のうち、順方向導通時の熱損失は他の熱損失に比し無視し得る程度に小さいため、漏洩電流による熱損失と逆方向回復時の熱損失が問題となるところ、漏洩電流による熱損失は漏洩電流を小さくすることにより、また、逆方向回復時の熱損失は逆方向回復時間の短縮により減少するから、結局、熱損失を小さくすることは、漏洩電流を小さくし、かつ、逆方向時間を短縮することにより達成されるものということができる。そして、前示本願発明の要旨によると、本願発明の要旨には、白金の拡散温度、半導体ペレツト内での濃度及び装置の使用温度については何ら規定するところはなく、また、右要旨にいう「高圧半導体装置」が、「多数枚の半導体ペレツトを直列接続される」との限定条件にかんがみ、「高圧ダイオード」を意味することは明らかである。原告は、本願発明の要旨にいう「小電流」は「一〇mA/mm2以下の電流密度」のものをいう旨主張する(請求の原因四4)から、検討するに、前掲甲第二号証によれば、本願発明の明細書の発明の詳細な説明の項には、<1>第4e図の説明として、「順方向電流密度が10-2(A/mm2)(一〇mA/mm2に同じ。)を越えると、順方向電圧降下は白金を拡散した高圧半導体装置の方が金を拡散したものに較べて大きくなり、10-2(A/mm2)以下の領域では、金を拡散したものとほとんど一致していることが分る。」(本件公報第四頁第七欄第六行ないし第一一行)旨の記載に続いて、検討結果として、「白金はライフタイムキラーとして有効であり、金が拡散された従来の高圧半導体装置に較べて、逆方向回復時間を短縮することが可能であり、金よりも高温で拡散を行ない、多量に白金を拡散し、濃度NTを高くしても漏洩電流は金よりも少なく、小順方向電流領域では、順方向電圧降下は増加しないことが確認された。」(同第一二行ないし第一八行)旨の記載及び<2>順方向電圧降下と逆方向回復時間の関係を示す第4d図には、順方向電流五mAと一〇〇mAの場合を示し、その説明として「順方向電流IFが大きい場合には、順方向電圧降下FVDは金を拡散したものに較べて白金を拡散したものの方が大きくなるが、順方向電流が小さい領域では、順方向電圧降下FVDはあまり差がないことが分る。」(同第三頁第六欄第三九行ないし第四三行)旨の記載があることを認めることができ、右<1>及び<2>の記載を総合すると、本願発明の要旨にいう「小電流」を、殊更、原告主張のように10mA/mm2の電流密度を意味するものと解する理由はなく、右に「小電流」とは文言どおり電流の値自体が小さいことを意味し、その値は前認定の本願発明の目的ないし課題に照らすと、本願発明が発明の適用領域とする高周波用の高圧半導体装置において、使用される数mA程度の小電流をいうものと認めるべきである。なお、原告の挙示する成立に争いのない甲第七号証によれば、同号証はテレビ受像機用のシリコン整流素子に関する論文であるが、それには、「シリコン整流素子の順方向特性は、微小電流領域(〇・四V以下)、中電流領域(〇・四V以上、102A/cm2以下(1A/mm2に相当。Acm3とあるのは明白な誤記と認められる。)、大電流領域(102A/cm3以上)によつてそれぞれ導通メカニズムの要素の比率を変えて考えなければならない。一般にテレビ回路に適用されるダイオードでは特殊な場合を除いては中電流領域で使用され」(第三八頁左欄第五行ないし第九行)との記載があるけれども、他方、同頁第2図に順方向特性と温度依存性との関係が図示されているところ、同図面では電流を順電流二・〇A、一・五A、一・〇A、〇・五Aと電流密度ではなく、電流の大きさで表し、それぞれについて周囲温度と順電圧降下との関係を示していることを認めることができるから、甲第七号証の記載をもつて単に「電流」というだけで「電流密度」を表すことが慣例化し、又は両者の混用が一般化しているものと認めることもできず、他にこの点を認めしめるに足りる証拠はないから、原告の叙上主張は採用することができない。

2 第一引用例(成立に争いのない甲第三号証によると、第一引用例は昭和四五年一二月発行に係るものであり、本件審決に「昭和四五年一〇月」とあるのは誤記と認められる。)に本件審決認定のとおりの記載(「高圧シリコンダイオードではリカバリ時間の短縮が要求されるのみならず、漏洩電流も小さくしなければならない」との記載を除く。)があること、並びに第一引用例に本願発明の特許請求の範囲のプレアンプルに相当する「一対の電極間にpn接合を有する多数枚の半導体ペレツトを直列接続されるように鑞材により棒状に積層接着しその周囲を絶縁部材で被覆して構成され小電流で使用される高周波用の高圧半導体装置」について記載されていることは原告の認めるところ、前掲甲第三号証によれば、第一引用例の第8図には、ダイオードの熱的安定性の良否を問わず、ダイオードの漏洩電流は常温においては小さく、使用温度の上昇につれて増大することが示され、「ダイオードの最高使用温度は、順方向の抵抗損、リカバリ損、漏洩電流損などの総和とダイオードの熱放散係数の比によつて決定される。検討したダイオードは、最高使用温度の近くでは順方向の抵抗損、リカバリ損に比べ、逆方向漏れ電流損が大きく、当然のことながら温度による影響が大きかつた。」(第七八一頁右欄第一行ないし第六行)旨の記載があることを認めることができ、右記載によれば、第一引用例は、ダイオードの最高使用温度は、熱放散係数に関係するとともに、熱損失の点では、主として漏洩電流(逆方向漏れ電流と同義)損により決定され、したがつて、漏洩電流損の原因である漏洩電流により最高使用温度が制約されるものであつて、この制約はダイオードの特性上やむを得ないものであることを示しているものというべきところ、ダイオードを含む半導体装置においていかなる損失もできるだけ少ないことが望ましいことは自明のことであるから、第一引用例の記載は、高圧シリコンダイオードにおいて、右のような制約をやむを得ないものとしながらも、漏洩電流損、したがつて、最高使用温度の面からは、漏洩電流の増大しないもの又は増大の少ないものを好ましいものとする要求があることを示唆しているというべきである。そして、前示のとおり第一引用例には、本件審決認定のように、高圧シリコンダイオードでは、「リカバリ時間を短縮することが要求される。」との記載もあつて、以上の二つの要求は、いずれも、高圧シリコンダイオードの電気的特性に関連のあるものであるから、これら要求は併せ達成されるべきものであることを第一引用例は開示しているものというべきである。なお、第一引用例には、その記載のダイオードが少数キヤリアのライフタイムキラーとして金を拡散したものであるか否かについて特に記載するところがないけれども、前認定の第一引用例の記載並びに成立に争いのない甲第五号証、第七号証及び乙第一号証によると、テレビ用の高速かつ高圧用シリコンダイオードにおいては、逆回復時間を短縮するために、少数キヤリアのライフタイムキラーとして金を拡散することは周知のことと認められるから、第一引用例の高圧シリコンダイオードにおいても逆回復時間を短縮するために当然に金を拡散しているものと認められ、このことは原告が第一引用例の記載内容に関し、上記各証拠を挙示していることからも窺知することができる。原告は、第一引用例は、漏洩電流が増加しても、この漏洩電流の増加が熱放散との関係で熱的に安定であればよいことを開示しているにすぎない旨るる主張するところ(請求の原因四1)、前認定のとおり、第一引用例では、高圧シリコンダイオードの最高使用温度が漏洩電流損を含む損失の総和と熱放散係数により決定されるとしているから、損失が問題となるのは常温でなく高温度範囲であるということができるところ(しかも、常温における漏洩電流は小さいもので、それによる熱損失も小さいから、常温における漏洩電流の大小は損失面からはもともと論ずる必要がないものといえる。)、前掲甲第三号証の第8図によれば、熱的安定性の良いダイオードは悪いダイオードに比べ高温度範囲における漏洩電流は小さいことが認められるから、高圧ダイオードにとつて漏洩電流は小さいことが好ましいことを示していることは明らかであり、したがつて、第一引用例は、高温度範囲における漏洩電流の増加を少なくすることを対処すべき課題としているものということができ、単に、原告主張の事項を開示しているにすぎないものとみることはできない。原告は、この点に関し、甲第五号証ないし第七号証を挙示し、更に乙第一号証を援用する。しかし、前認定のとおり高圧シリコンダイオードでは、逆回復時間の短縮のため金などのライフタイムキラーを拡散させることは周知の技術であるところ、前掲甲第五号証及び乙第一号証によると、右各号証には、この場合、金濃度、つまり金の拡散温度を高めるほど逆回復時間は短縮できるが、逆に、逆方向漏れ電流(漏洩電流)を増大することになり、逆回復時間の短縮は漏洩電流の減少と相反関係にあることから、目標品質に合つた特性を得るためには十分な拡散温度の検討を必要とすることを指摘する記載があることが認められ、右の指摘は、シリコンダイオードの逆方向漏れ電流(漏洩電流)が金の拡散そのものによつて増大することが好ましくないことを前提にした立論と認められ、また、前掲甲第七号証によれば、一般に用いられる金を拡散した高速ダイオードでは温度による依存性が大きく、その第4図には逆方向電流と温度との関係について、金を拡散することによつて得られる高速ダイオードは金を拡散しないダイオードに比較して逆方向電流(漏洩電流)の温度依存性については同じ傾向にあるものの、逆方向電流そのものの値は、常温以外の温度範囲においては相当に大きくなる(例えば一〇〇℃では七、八倍になる。)ことが示されていることが認められるから、逆方向漏れ電流損の増大は金を拡散した高速ダイオードにおいてより一層問題となることは当然の事理というべきところ、叙上の技術的背景を考慮すれば、第一引用例の高圧ダイオードは前認定のとおり金を拡散したものであるから、第一引用例における前認定の逆方向漏れ電流損(漏洩電流損)についての記載には、逆方向漏れ電流そのものが金を拡散したことにより増大したものであることを前提として、金を拡散した高圧ダイオードにおいて前説示のとおり逆方向漏れ電流(漏洩電流)の温度上昇による増大の少ないものが好ましいとする要求が示されているものとみるを相当とするから、右甲第五号証、第七号証及び乙第一号証はいずれも原告に有利な証拠とはいい難く、また、甲第六号証も、叙上認定を覆し、原告主張事実を認めるに足りず、したがつて、原告の叙上主張は採用するに由ない。そうすると、第一引用例には、「高圧シリコンダイオードではリカバリ時間の短縮が要求されるのみならず、漏洩電流も小さくしなければならない」ことが記載されている旨の本件審決の認定は、その表現の適否はさておき、リカバリ時間の短縮の要求とともに漏洩電流も小さくすることが好ましい旨を表現したものとみるべきであつて、その認定に誤りはない。

3 第二引用例に、本件審決認定のとおりの記載及び本願発明の特許請求の範囲の特徴的事項(各半導体ペレツトには白金が拡散されていること)に相当する記載のあることは、原告の認めるところ、右事実に成立に争いのない甲第四号証(第二引用例)を総合すれば、第二引用例は、昭和四六年五月二八日公開のフランス特許出願公開明細書であるが、これには、前記記載のほか、「更に、金を使用すればトランジスタの逆方向電気的特性が悪くなる。すなわち、逆方向漏洩電流が増加する。本発明の推奨のように白金を使用すれば未解決の問題が解決される。したがつて、本発明の目的は、電気的特性の対応する劣化を伴うことなく、少数キヤリアの寿命が減少されるよう不純物を注入したpn接合を設けることによつて、スイツチング速度を改善した半導体装置を製作することにある。」(第二頁第二八行ないし第三九行)、「上記の方法によつて、有利な電気的特性を失うことなく、高いスイツチング速度を有する半導体装置(特に高電流利得のトランジスタ又は逆方向回復時間が小さく、順、逆方向電気的特性に対応して改善されたダイオード)を製作できる。本発明の主要な目的は、他の電気的特性の大きな劣化を伴うことなく、スイツチング速度を改善した半導体装置を製作することにある。」(第三頁第七行ないし第一七行)旨の記載があることを認めることができ、右認定の事実によれば、第二引用例は、半導体装置(ダイオード及びトランジスタ)において、少数キヤリアの寿命を減少し、逆方向回復時間を減少させるための金の拡散が、逆方向電気特性を悪くする、すなわち、逆方向漏洩電流を増加させることの問題があることから、金に代えて白金を用いることにより、スイツチング速度の改善(逆方向回復時間の短縮)と電気的特性(逆方向電気的特性として漏洩電流、また、順方向電気的特性として、前掲甲第五号証及び第七号証によれば、順方向電圧降下がある。)の改善を意図したものと認められるから、前示の「白金を拡散させたシリコンダイオードは、金を拡散させたものに比べて、漏洩電流がより少なく、スイツチング速度がより速く、降伏電圧がより大である。」(第四頁第一行ないし第四行)旨の記載は、「漏洩電流がより少なく」「スイツチング速度がより速く」の点についてこれらが同時に満たされ、また、「降伏電圧がより大」の点も、右二点と同時に満たされることを意味するものとみるのが相当である。そうすると、第二引用例は、その白金を拡散した半導体装置が、金を拡散したものに比して、逆方向回復時間の短縮とともに漏洩電流の減少、降伏電圧の増大及び順方向電圧降下の減少などの順方向電気的特性の改善、更に、漏洩電流の減少の結果として漏洩電流損の減少、ひいて、総熱損失の減少の各効果を挙げ得るものであることを開示しており、これを前認定の本願発明の目的及び効果に照らすと、第二引用例の「白金を拡散せしめたシリコンダイオードは、金を拡散させたものに比べて、漏洩電流がより少なく、スイツチング速度がより速く、降伏電圧がより大である。」旨の記載をもつて本願発明の目的及び効果と同一の記述であるとし、また、第二引用例のダイオードが本願発明におけると同様に順方向電圧降下が増大しないようにすることを意図したものとした本件審決の認定判断はいずれも誤りがないものというべきである。原告は、第二引用例は、その第3図及び第4図からリカバリ時間と漏洩電流との関係を読みとることができず、第3図ないし第6図には白金と金の拡散温度が示されていないが、その優先権主張の基礎となつた米国特許明細書には、その拡散温度が示され、リカバリ時間に関する第3図では白金の拡散温度の高いもの、漏洩電流に関する第4図では白金の拡散温度の低いものをとつており、リカバリ時間の短縮と漏洩電流の減少を同時に可能とするものを開示したものとはいえない旨主張するが(請求の原因四2)、前掲甲第四号証によれば、第二引用例の第3図及び第4図については、金、白金の拡散温度、装置の使用温度などの条件の記載はないが、確率分布により白金拡散のものと金拡散のものとの特性の比較をなし、これに基づいて白金拡散のものが逆回復時間が短く、逆方向電流(漏洩電流)も少ないことを示し、これらにより第二引用例記載の発明の構成の白金拡散のダイオードが得られたことが認められるところ、本願発明においても、ペレツトに拡散される白金の濃度ないし拡散温度、半導体装置の使用温度の限定はないから、原告のこの点の主張は採用することができない。なお、この点に関し、原告は、第二引用例記載の第3図ないし第6図には金と白金の拡散温度が示されていないが、第二引用例記載の発明の優先権主張の基礎をなす米国特許明細書(甲第一一号証)に拡散温度が示されているとして、同号証を挙示するが、成立に争いのない甲第一一号証中原告指摘の図面に示すところを考慮しても、前段認定を覆すに足りない。原告は、第二引用例には漏洩電流による熱損失を少なくすることについての開示がない旨るる主張するが、1に認定のとおり熱損失を小さくすることは漏洩電流を小さくすることから必然的に導かれることであつて、独立して目的及び効果として記載されなければならないものではなく(なお、前認定のとおり本願発明は、原告主張のようにその装置が高温で使用されるものに限定されるものではない。)、第二引用例に前説示のとおり漏洩電流を少なくすることが示されている以上、熱損失を少なくすることについて言及するところがないからといつて、このことは、何ら本件審決の前記認定判断を妨げるものではない。更に、原告は、第二引用例は高圧半導体装置に関するものでないから、その記載が本願発明の目的及び効果と同一の記述といい得ない旨主張するところ、第二引用例が高圧半導体装置に関するものでないことは当事者間に争いのないところであるが、前説示のとおり第二引用例記載のものに、半導体装置に従来の金に代えて白金を拡散することにより、リカバリ時間の短縮、漏洩電流の減少等を同時に可能にし、本願発明と同一の目的及び効果を奏することが教示されている以上、第二引用例に本願発明の目的及び効果と同一の記述があるものとして引用することに何ら妨げはないというべきである。更にまた、原告は、本願発明の小電流が原告主張の電流密度以下のものであることを前提として、第二引用例のダイオードが本願発明の小電流で使用されるものでなく、本願発明の一効果である順方向電圧降下が増大しないよう意図されているといい得ない旨主張するが、原告主張の右前提をとることができないことは、1に説示したとおりであるから、原告の右主張も採用する限りでない。

4 2及び3に説示したように、第一引用例には、高圧半導体装置における技術的課題として<1>リカバリ時間の短縮が要求され、かつ、<2>漏洩電流も小さくすることが好ましい旨の記載があり、第二引用例には、半導体ペレツトに白金を拡散することにより、右<1>及び<2>の技術的課題を解決し得ることが具体的に開示されており、しかも、原告の認めるように、本願発明における白金を金に代えたものが先行技術であることを参酌すれば、第一引用例の高圧半導体装置に、第二引用例の白金を拡散する方法を採用することにより、右<1>及び<2>の技術的課題を解決することは、当業者の容易に想到し得るところというべきである。原告は、第一引用例の装置が白金拡散ダイオードでないこと、第二引用例に熱損失に関する記載がないこと、また、第一引用例及び第二引用例に本願発明の目的及び作用効果についての記載がないことを前提として、第一引用例と第二引用例との組合せの困難性を主張するが、前認定説示の第一引用例及び第二引用例に開示された技術的思想並びに第二引用例に開示された本願発明と同一の目的及び効果に関する記述を参酌すると、第一引用例及び第二引用例を組み合わせて本願発明に想到することを格別困難とする理由はなく、原告の右主張は到底採用することができない。

(結語)

三 以上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法のあることを理由に本件審決の取消しを求める原告の本訴請求は、理由がないものというほかない。よつて、これを棄却することとする。

〔編註〕 本願発明の要旨は左のとおりである。

一対の電極間にpn接合を有する多数枚の半導体ペレツトを直列接続されるように鑞材により棒状に積層接着しその周囲を絶縁部材で被覆して構成され小電流で使用される高周波用の高圧半導体装置において、上記各半導体ペレツトには白金が拡散されていることを特徴とする高圧半導体装置。

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