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東京高等裁判所 昭和58年(行コ)54号 判決 1985年12月26日

神奈川県川崎市川崎区京町二丁目一五番一〇号

控訴人

株式会社八商

右代表者代表取締役

梅山信太郎

右訴訟代理人弁護士

島田種次

下関忠義

同市同区榎町三番一八号

被控訴人

川崎南税務署長

北村大

右指定代理人

榎本恒男

郷間弘司

有賀義雄

村山文彦

右当事者間の法人税更正処分等取消請求控訴事件について、当裁判所は次のとおり判決する(昭和六(年一〇月三日口頭弁論終結)。

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

〔申立〕

(一)  控訴人

「原判決を取り消す。被控訴人が控訴人の納付すべき法人税につき昭和五一年六月三〇日付でした、(1)昭和四八年四月一日から昭和四九年一月三一日までの事業年度についての更正処分のうち三億八一一二万二七四六円を超えて所得金額を増額した部分及び過少申告加算税賦課決定処分、(2)昭和四九年二月一日から同年七月三一日までの事業年度についての更正処分のうち欠損金額を五六五五万八六六一円減額した部分及び過少申告加算税賦課決定処分、(3)昭和四九年八月一日から昭和五〇年一月三一日までの事業年度についての更正処分のうち欠損金額を二一〇〇万〇三〇一円減額した部分、(4)昭和五〇年二月一日から同年七月三一日までの事業年度についての更正処分のうち二一三八万〇九二四円を超えて所得金額を増額した部分及び過少申告加算税賦課決定処分、(5)昭和五〇年八月一日から昭和五一年一月三一日までの事業年度についての更正処分のうち九七七万六五六四円を超えて所得金額を増額した部分及び過少申告加算税賦課決定処分のうち三三万三二〇〇円を超える部分をそれぞれ取り消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求める。

(二)  被控訴人

主文第一項同旨の判決を求める。

〔主張〕

当事者双方の主張は、次のとおり付加又は訂正するほか原判決事実摘示中「第二 当事者の主張」の項記載のとおりであるからこれを引用する。

(一)  原判決一八枚目表四、五行目の「本件手形の買受資金は」を「控訴人は、本件各手形を取得するにあたって、その買受資金」と改める。

(二)  同二〇枚目裏七行目、九行目の各「本件手形」を「本件各手形」とそれぞれ改め、九行目の「融資先である」を削除する。

(三)  同二一枚目表二行目、三行目及び八、九行目の各「融資先」を「手形売渡先」と改める。

(四)  同二二枚目表六行目の「本件手形」を「本件各手形」と、八、九行目の「(ただし、手形金額)」から二四枚目表一行目までを「を各月末ごとに計算すると別紙六のとおりであり、その詳細は別紙一ないし五の「手形買入資金調」(甲第一ないし第五号証に基づいて作成したもの。その中の「左の手形買入のために必要とする各月末の資金量」欄の金額は、本来なら割引料を控除した額を記載すべきであるが、数額を簡略化する便宜上手形の額面金額によっている。)のとおりである。」と、二四枚目表二行目の「右表」を「右別紙六の一覧表」とそれぞれ改める。

(五)  同二四枚目裏三行目の「に支払われている」を「から手形割引代金として供給されている」と、八行目の「ものである。」を「ものであり、控訴人に手持資金が乏しく、他から融資を受けなければ手形割引をする能力がなかったことは明らかであるから、控訴人は自らのする手形割引の資金を入手するために他で手形割引を受け、割引利息を支払っているものと推定されてしかるべきである。なお、被控訴人は、本件各手形のうちには書き替えられたものがあり、これについては手形買入資金を要しない旨主張するが、元来手形の書替えは手形の支払期日の延期としての実質を有するものであるから、新たな手形買入資金を必要としない反面、旧手形買入れに要した資金は回収されないこととなり、書替手形があることによって必要な資金量が減少するものではない。」と改める。

(六)  同二六枚目表二、三行目の「事実が記載されているのである」を削除する。

(七)  同二七枚目表一、二行目の「被告の主張は事実の判断(支払事実の有無)である。したがって」を「本訴訟において被控訴人人が更正の理由として主張するのは支払事実の有無という事実判断である。しかし」と改め、七行目の次に行を改めて次のとおり付加する。

「(三) 仮に本件更正理由附記の趣旨を支払事実を否定する趣旨に解する余地があるとしても、本件更正通知書にはそのような認定を根拠づける資料はなんら摘示されていない。しかし、法が更正通知書に更正の理由を附記すべきものとしているのは、青色申告制度の趣旨にかんがみ、青色申告にかかる所得の計算については法定の帳簿組織における記載を尊重し、更正処分庁の恣意を抑制するとともに更正の理由を相手方に知らせて不服申立の便宜を与える趣旨に出たものであるから、右附記理由は、その記載自体において、更正をした根拠を帳簿記載以上に信憑力のある資料を摘示して具体的に明示するものであることを要するものと解すべきであり、本件の更正理由の附記は不適法である。」

(八)  同三三枚目表三行目の次に、行を改めて次のとおり付加する。

「同2(三)については、元来、更正処分は個別具体的な行政処分であって、同処分には税務調査が先行し、調査を行う側と調査を受ける側との間に問題点が明確化するのであり、両者の立場がそのまま更正処分を行う側と受ける側に移行するものであるから、右問題点が更正の理由の中核をなすことは当然であるところ、本件においても、本件各更正処分に先行した税務調査の段階で、本件各手形につき支払利息の支払先が控訴人の総勘定元帳に記載されていない事実、控訴人が税務調査の段階で提出した「手形売渡差額一覧表」に記載された本件各手形の売渡先が架空のものであること、本件各手形が控訴人名儀の預金口座で取り立てられていること等が判明し、これによって本件支払利息の存否が問題点として明確化していたのであり、これが本件各更正の理由となったことは明らかなのであるから、本件各更正通知書の更正の理由欄に「貴社備え付けの帳簿書類」と資料を摘示したうえで、各支払利息につき支払先が不明なので損金と認められない旨記載した更正の理由の附記は適法である。」

(九)  原判決別紙三の「(三)昭和五〇年一月期分」の表中「手形割引利息金額」の欄に「一一、八五五、六〇〇」とあるのを「一、一八五、六〇〇」と改める。

〔証拠〕

証拠に関する事項は、記録中の原審及び当審の証拠目録記載のとおりである。

理由

一  当裁判所も、控訴人の本訴請求は理由がないものと判断する。その理由は、次のとおり付加、訂正するほか、原判決の理由として説示するところと同一であるから、これを引用する。

(一)  原判決三四枚目裏六行目の「元帳においては」の次に「一般に」を加え、八行目の「ついてのみ」を「ついては」と改める。

(二)  同三五枚目表一、二行目の「売却取引についての」から三行目の「除いては」までを「売却取引については、経理処理のための振替伝票は別として、領収証、手形割引計算書等の帳簿書類は」と改める。

(三)  同三五枚目裏三行目の「東洋製鋼株式会社」を「宮入パルプ製作所」と、八行目の「右各関連会社」は」を「右各関連会社中には」とそれぞれ改める。

(四)  同三八枚目表五行目の次に、行を改めて次のとおり付加する。

「更に、当審証人外園文洋は、控訴人には資金が乏しく、本件各手形を控訴人が取得するについては予め割引先を見つけ、割引先から得た割引代金を手形の対価の支払に充てていたものである旨供述しているが、同人の証言によれば控訴人は実質上大山梅雄が単独で経営を支配している会社であって、同証人は、経理担当者であったとはいえ、本件各手形の取引に関与しなかったのみならず右取引につき手形その他の基礎資料も見ておらず、単に大山の命ずるままに右取引について経理上の処理を行ったにすぎないことが認められるから、右証言も前記特段の事情を認めるに足りるようなものではない。」

(五)  同三八枚目裏九行目の「一応認められる。」を「あったものと認めるのが相当であり、他にこの認定を覆すに足りる証拠はない。」と改める。

(六)  同三九枚目表二行目の「前記認定のとおり」から五行目の「ではないから」までを「右資金の出所まで明らかにされなければ控訴人が本件各手形をその満期まで所持していた事実を肯認しえないものとはいい難く、右資金の出所が証拠上明らかでないことをもって直ちに前記特段の事情に当たるものということはできないから」と改め、六行目の冒頭から同裏一行目の終りまでを削除し、同裏二行目冒頭の「7」を「6」に改める。

(七)  同四〇枚目表二行目の冒頭から同裏二行目の「解される限り、」までを次のとおり改める。

「控訴人は、右附記文言は支払事実そのものを否定する趣旨ではなく、支払先不明の支払は損金と認めないとの趣旨である旨主張するが、右は字句の枝葉末節に拘泥した議論であって、右附記文言が支払事実を否定する趣旨であることは容易に看取することができる(のみならず、原審証人安泰治(第一回)、同大山梅雄、同佐藤文治、同慶田穣、同小林正、同戸田健の証言によれば、本件更正、再更正に先立つ調査段階において本件各利息支払の有無が問題とされ、控訴人側関係者もこのことを十分認識していたものと認められるから、この点からいっても、控訴人側が前記附記文言の趣旨を誤解するおそれはなかったものというべきである。)。したがってまた、」

(八)  同四〇枚目裏四行目の次に、行を改めて次のとおり付加する。

「なお、控訴人は、青色申告を行っている場合における更正の理由附記は資料を摘示して更正をした根拠を具体的に明示するものであることを要し、本件の更正理由の附記は不摘法である旨主張する。しかし、成立に争いのない甲第二一ないし第二五号証によれば、本件各更正通知書には、控訴人備え付けの帳簿書類を調査した結果所得金額等の計算に誤りがあると認められるので更正をする旨及び具体的な支払年月日と支払金額を掲げて右支払は支払先が明らかでないので損金とは認められない旨が更正の理由として記載されていることが明らかであるところ、前記のように、本件においては、帳簿に記載された支払の存否が問題とされているのであるが、この点に関する帳簿の記載そのものが具体性を欠いていて支払先が明らかでなく、しかも右支払に関する積極的な資料としては振替伝票しか存しないのであって、このような事実関係の下においては右の程度の記載で更正理由の附記として欠けるところはないものというべきである。」

二  よって、本訴請求を棄却した原判決は相当であるから、本件控訴を棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 鈴木重信 裁判官 加茂紀久男 裁判官 片桐春一)

別紙一 手形買入資金調(48.4.1から49.1.31事業年度分)

<省略>

別紙二 手形買入資金調(49.2.1から49.7.31事業年度分)

<省略>

別表三 手形買入資金調(49.8.1から50.1.31事業年度分)

<省略>

別紙四 手形買入資金調(50.2.1から50.7.31事業年度分)

<省略>

別紙五 手形買入資金(50.8.1から51.1.31事業年度分)

<省略>

別紙六 本件手形買入のため必要とした資金の各月末現在額一覧表

<省略>

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