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東京高等裁判所 昭和59年(う)1269号 判決 1984年10月31日

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役一年四月に処する。

原審における未決勾留日数中三〇日を右刑に算入する。

この裁判の確定した日から三年間右刑の執行を猶予する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人小島衛が提出した控訴趣意書に、これに対する答弁は、検察官提出の答弁書にそれぞれ記載されたとおりであるから、これらをここに引用する。

一控訴趣意第一点(法令適用の誤りの主張)について

所論は、要するに、被告人の本件犯行は、その犯行の態様等に照らし包括的に考察し詐欺罪の包括一罪として処断すべきであるのに、これを併合罪として構成したうえ刑を加重して処断した原判決には法令の適用を誤つた違法がある、というのである。

しかしながら、本件詐欺の被害者は、売買名下に商品を交付したテイトムセン株式会社(原判示第一の各事実)及び株式会社カメラのきむら(同第二の各事実)であり、商品代金の立替支払を受託した信販会社ではないというべきであるから、原判示第一、第二の各犯行は被害者を異にし両者が包括一罪たり得ないことは明らかである。また、被害者を同一にする原判示第一の各犯行及び同第二の各犯行についても、同種犯行を繰り返しているものの、時間的に同一機会に接続しているとはいえず、被告人及び共犯者須田昌代において金銭がなくなる都度犯行を共謀し、犯意を新たにしてそれぞれ商品の購入を申し込み、各別の購入契約を締結し、かつその都度各別の欺罔手段を講じ、欺罔の相手方も、応待に出た店員が同一人である場合もあつたが、必ずしも一定の人物に限られていたわけではないことなどの事実関係に照らすと、本件各犯行は、単一かつ継続した犯意のもとに同一機会に相接続して行われた事案と態様を異にし、各別の行為がそれぞれ詐欺罪を構成するものと解せられる。してみると、本件犯行を併合罪として刑を加重したうえ処断した原判決には法令適用の誤りは存しない。論旨は理由がない。

二控訴趣意第二点(量刑不当の主張)について

所論は、要するに、原判決の量刑は重過ぎて不当である、というのである。

そこで記録を調査して検討するに、本件は、代金支払の意思及び能力がなく入手後直ちに入質換金するつもりであるのにこれを秘し、クレジットカードによる商品の購入名下に一七回にわたり時価合計一一一万八、五〇〇円相当のステレオ、ビデオデッキ、カメラなど一七点を騙取した事案であるところ、被告人は、勤労意欲がなく、放しな生活を送り、遊興費に窮してこれを捻出するため右犯行を敢行したもので、その動機は悪質であり、金銭に窮すれば安易に犯行にはしり短期間に多数の犯行を反覆累行したその行為の常習性にかんがみると、被告人の規範意識の欠如は著しいというべきで、被害額も多額におよび示談が成立しているとはいえその回復には相当長期間を要することをも併せ考えると、その刑事責任を軽くみるのは相当ではなく、被害の増大につき一部被害者側にも落度があると認められること、信販会社に対する他の債務を含め被害弁償につき関係者間で示談が成立し被告人の家族において弁償しつつあること、被告人は若年で、これまで業務上過失傷害罪で罰金刑に処せられたことがあるほかは前科がなく公判請求を受けたのは今回がはじめてであること、及び現在では反省悔悟していることなどの被告人に有利な諸般の事情を斟酌しても、被告人を懲役一年四月の実刑に処した原判決の量刑は、その言い渡しの時点においては相当であり、これが重過ぎて不当であるとは考えられない。

しかしながら、当審における事実取調べの結果によると、被告人の父は被害弁償として原判決言い渡しの時までに合計金三二万六、〇三一円を支払つていたが、その後も、示談による約定の金額を超える合計金一〇〇万円を支払つたこと及び今後被告人の叔父が被告人を雇傭し更生に助力する旨誓約し、被告人もこれまでの生活を反省しこれからは真面目に働く旨誓つていることが認められ、前記の情状にこれら一審判決後の情状を加えて考察すると、今回に限り刑の執行を猶予し自力更生の機会を与えるのが相当と認められ、現時点においては、原判決の量刑を維持するのは失当と考えられる。

よつて、刑訴法三九七条二項により原判決を破棄し、同法四〇〇条但書に従い当裁判所においてさらに自ら判決する。

原判決が認定した事実に、原判決が適用したのと同一の法令を適用し(併合罪加重を含む)、その処断刑期の範囲内で被告人を懲役一年四月に処し、刑法二一条を適用して原審における未決勾留日数中三〇日を右刑に算入し、前記情状により、同法二五条一項を適用してこの裁判の確定した日から三年間右刑の執行を猶予し、原審及び当審における訴訟費用は、刑訴法一八一条一項但書を適用して被告人に負担させないこととし、主文のとおり判決する。

(内藤丈夫 前田一昭 本吉邦夫)

《参考・第一審判決理由》

(罪となるべき事実)

被告人は、クレジットカードを使用して購入名下に商品を騙取しようと企て、須田昌代と共謀の上、

第一 別紙一覧表(一)記載のとおり、昭和五九年一月一一日ころから同年二月二六日ころまでの間、前後八回にわたり、横浜市西区南幸一丁目三番一号横浜岡田屋モアーズ七階所在のテイトムセン株式会社横浜西口支店において、同店店長神田高弘ほか一名に対し、信用販売契約による代金支払いの意思及び能力がないのにあるように装い、かつ入手後直ちに入質等の処分をする意図であるのにその情を秘して同表騙取品欄記載のステレオ等の購入申込みをし、その都度、同人らをしてその旨誤信させ、よつて、いずれも即時同所において、同人らから購入名下にステレオ等合計八点(時価合計七〇万五、三〇〇円相当)の交付を受けてこれを騙取し、

第二 別紙一覧表(二)記載のとおり、同年一月一四日ころから同年二月二八日ころまでの間、前後九回にわたり、前記横浜岡田屋モアーズ七階所在の株式会社カメラのきむら横浜店において、同店従業員加越孝ほか四名に対し、信用販売契約による代金支払いの意思及び能力がないのにあるように装い、かつ入手後直ちに入質等の処分をする意図であるのにその情を秘して同表騙取品欄記載のカメラの購入申込みをし、その都度、同人らをしてその旨誤信させ、よつて、いずれも即時同所において、同人らから購入名下にカメラ合計九台(時価合計四一万三、二〇〇円相当)の交付を受けてこれを騙取したものである。

(証拠の標目)

判示事実全部につき

一 被告人の当公判廷における供述

一 野口正一の検察官に対する供述調書(謄本)

一 橋川年光、福本宏一(二通)の司法警察員に対する各供述調書(いずれも謄本)

一 司法巡査作成の「クレジットカード売上票の謄本作成について」と題する報告書

判示第一の別紙一覧表(以下「別表」と略称する。)(一)の1ないし8の各事実につき

一 被告人の検察官(昭和五九年五月七日付、同月一五日付)及び司法警察員(同年四月二八日付、同年五月四日付)に対する各供述調書

一 須田昌代の検察官(二通)及び司法警察員(同年四月二四日付、同年五月四日付)に対する各供述調書(いずれも謄本)

一 神田高弘作成の被害届並びに同人の検察官及び司法警察員(同年四月五日付)に対する各供述調書(いずれも謄本)

一 同人の司法警察員に対する同年五月三日付供述調書(別表(一)の1、8関係)

一 白井久雄の検察官及び司法警察員(同年四月五日付)に対する各供述調書(いずれも謄本)

一 同人の司法警察員に対する同年五月三日付供述調書(別表(一)の2ないし7関係)

判示第一の別表(一)の1の事実につき

別紙 一覧表(一)

番号

欺罔・

騙取年月日(ころ)

被欺罔・

交付者

騙取品

品名・数量

時価相当額(円)

1

昭和五九年

一月一一日

神田高弘

ステレオ一台

九万九、八〇〇

2

同月一二日

白井久雄

ビデオデッキ一台

九万二、七〇〇

3

同月二五日

右同

右同一台

八万六、八〇〇

4

同年二月一〇日

右同

右同一台

八万六、八〇〇

5

同月一二日

右同

右同一台

八万九、八〇〇

6

同月一七日

右同

右同一台

八万九、八〇〇

7

同月二五日

右同

右同一台

七万九、八〇〇

8

同月二六日

神田高弘

右同一台

七万九、八〇〇

物品合計八点

時価合計七〇万五、三〇〇円相当

別紙  一覧表(二)

番号

欺罔・

騙取年月日(ころ)

被欺罔・

交付者

騙取品

品名・数量

時価相当額(円)

1

昭和五九年一月一四日

加越孝

カメラ一台

四万九、〇〇〇

2

同月二五日

秋山圭一

右同一台

四万一、八〇〇

3

同年二月一〇日

右同

右同一台

四万九、二〇〇

4

同月一二日

竹内泰男

右同一台

四万八、八〇〇

5

同月一七日

後藤幸雄

右同一台

四万九、八〇〇

6

同月一八日

加越孝

右同一台

四万九、二〇〇

7

同月二五日

秋山圭一

右同一台

四万一、八〇〇

8

同月二六日

服都隆

右同一台

四万一、八〇〇

9

同月二八日

秋山圭一

右同一台

四万一、八〇〇

物品合計九点

時価合計四一万三、二〇〇円相当

一 滝本勝博作成の質取てん末書

判示第一の別表(一)の3の事実につき

一 同人作成の買取てん末書(買取金額五万円のもの)

判示第一の別表(一)の5及び第二の別表(二)の4の各事実につき

一 同人作成の買取てん末書(買取金額六万六、〇〇〇円のもの)

判示第一の別表(一)の6及び第二の別表(二)の5の各事実につき

一 同人作成の買取てん末書(買取金額七万七、〇〇〇円のもの)

判示第一の別表(一)の8及び第二の別表(二)の8の各事実につき

一 同人作成の買取てん末書(買取金額六万五、〇〇〇円のもの)

判示第一の別表(一)の2の事実につき

一 古川隆祥作成の買取てん末書(買取金額四万五、〇〇〇円のもの)判示第一の別表(一)の4の事実につき

一 同人作成の買取てん末書(買取金額五万円のもの)

判示第一の別表(一)の7の事実につき

一 杉本哲也作成の買取てん末書(謄本)

判示第二の別表(二)の1ないし9の各事実につき

一 被告人の検察官(同年六月一八日付)及び司法警察員(同年五月一七日付)に対する各供述調書

一 須田昌代の司法警察員に対する同月一八日付供述調書

一 最上進作成の被害届

一 最上進の司法警察員に対する供述調書(謄本)

一 加越孝(別表(二)の1、6関係)、秋山圭一(同2、3、7、9関係)、後藤幸雄(同5関係)、服部隆(同8関係)の司法警察員に対する各供述調書

一 竹内泰男の司法巡査に対する供述調書(同4関係)

判示第二の別表(二)の1の事実につき

一 古川隆祥作成の買取てん末書(買取金額三万八、〇〇〇円のもの)

判示第二の別表(二)の3の事実につき

一 同人作成の買取てん末書(買取金額二万七、〇〇〇円のもの)

判示第二の別表(二)の6の事実につき

一 同人作成の買取てん末書

判示第二の別表(二)の2の事実につき

一 滝本勝博作成の買取てん末書(買取金額二万六、〇〇〇円のもの)判示第二の別表(二)の9の事実につき

一 新田忠治作成の買取てん末書

(法令の適用)

判示第一の別表(一)の1ないし8及び第二の別表(二)の1ないし9の各所為につき

いずれも刑法二四六条一項、六〇条併合罪加重 同法四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情の最も重い判示第一の別表(一)の1の罪の刑に法定の加重)

未決勾留日数の算入 同法二一条

訴訟費用の不負担 刑訴法一八一条一項但書

よつて主文のとおり判決する。

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