東京高等裁判所 昭和59年(う)1515号 判決
被告人 後藤邦博
〔抄 録〕
論旨は、要するに、(一)原判示第二のけん銃は、弾丸の発射能力を有しないから、銃砲刀剣類所持等取締法(以下「銃刀法」という。)所定の「銃砲」にあたらず、(二)仮りに銃砲にあたるものとしても、銃身を欠いているのであるから、銃刀法三一条の二第一号所定の「けん銃」にはあたらず、同法三一条の四第一号所定のけん銃等及び猟銃を除くその他の銃砲にあたるに過ぎず、(三)原判示第二の覚せい剤は、被告人以外の者の所有にかかるものであるから、これを被告人から没収することはできないと主張するのである。以下、これらの点につき、順次判断する。
一 証人大町茂の原審第五回公判廷における供述、同人外一名作成の昭和五九年五月二一日付鑑定書(記録第三冊五四丁の二一六以下に編綴のもの)、被告人の司法警察員に対する同月二四日付供述調書(同四三一以下に編綴のもの)及び押収にかかるけん銃一丁、銃身一個(当庁同年押第五〇四号の符合4、5)によれば、本件けん銃は、通称CRSけん銃と呼ばれている密造けん銃(回転弾倉式)の銃身を根元から切断し、弾倉を開閉子とともに取り外したものであること、このようにしたのは、被告人において、銃身を短かくして携帯に便利なようにし、かつ、弾倉の納まりが悪く、がたついているのを直すため、開閉子等に熔接棒で肉盛りしたうえ、やすりですり合せようと考えたことによるものであること、押収されたときは、右作業の途中の状態であったため、開閉子上部とこれと対応する銃体部分とに黄銅様の金属が付着し、弾倉と銃体とを結合できない状態であったが、その部分をやすりで削り取ったところ、容易に結合可能となったこと、これに対し、銃身を銃体に結合することは容易ではなく、旋盤等の工具を使用して銃身と銃体とにそれぞれネジ溝を刻み、ネジによって両者を固定する必要があること、銃身のないままの状態でも、弾倉内の薬室の前部がある程度銃身の機能を果たすため、弾丸の発射機能は有すること、本件けん銃に銃身を取り付けない状態で口径〇・三八インチスペシャル型実包を装填し、厚さ約一二ミリメートルの杉正目板の標的に射距離約一〇センチメートルで試射したところ、右の板三枚を貫通し、四枚目に約八ミリメートル侵徹したことがそれぞれ認められる。
以上によれば、銃身を取り付けない状態にある本件けん銃は、弾倉開閉子上部とこれに対応する銃体部分とに付着している黄銅様の金属を適度にやすりで削り取ることにより、容易に弾倉を銃体に結合することができ、これにより、金属性弾丸を発射する機能を回復させることができるものであるから、銃刀法二条一項所定の「銃砲」にあたるものと解すべきである。
所論は、右黄銅様の金属を短時間で適度に削り取ることは困難であるというが、前記大町証人(警視庁科学捜査研究所物理科主事)は、やすりを用い、約一〇分間で作業できた、削る部分を判別できれば素人でもその作業はできると述べており、また、右金属はもともと被告人が付着させたものであって、被告人自身、やすりですり合せることを予定していたうえ、原判示大正セントラルホテル七一一号室において被告人が携行していた大量の工具類の中には大小のやすり七本も含まれていたのであるから、被告人にとっても、右作業は容易なものであったものと認むべきである。
更に、本件けん銃は引金の戻りが悪く、また、弾倉の回転が円滑でないことが認められるけれども、原判決も指摘するように、これらの点は簡単に手動で調整できるから、本件けん銃の発射機能そのものに何らの支障を及ぼすものではない。本件けん銃が銃刀法にいう「銃砲」にあたるとした原判決の判断は相当である。
二 次に、所論は、本件けん銃が銃刀法にいう銃砲にあたるものとしても、銃身を欠く以上は「けん銃」ということはできないから、けん銃等及び猟銃を除くその他の銃砲に関する同法三一条の四第一号が適用されるべきであるという。
「けん銃」については、銃刀法上特段の定義規定を見ないが、それは、社会通念上、金属性弾丸を発射する機能を有する装薬銃砲であって、肩付けをせず、片手で保持して照準発射できる形態を有し(もとより、照準を良くし、あるいは発射時の反動を抑える目的で、両手で操作することを妨げない。)、人の殺傷に適するように造られた銃を指すものと観念されているのであって、銃身を有することが「けん銃」であるための不可欠の要素であるものとは考えられない(照星を欠いても、一応の照準は可能である。)。従って、これを銃刀法にいう「けん銃」にあたるものとし、同法三一条の二第一号、三条一項を適用した原判決に所論事実誤認ないしは法令解釈適用の誤りはない。
(草場 半谷 龍岡)