東京高等裁判所 昭和59年(う)202号 判決
被告人 松下進
〔抄 録〕
被告人は原判示のような経緯で原判示川崎組事務所に赴き、開け放たれていた同事務所の玄関口から室内に向けて原判示けん銃を発射したものであるが、その直前被告人は同組組員二名が右事務所に入室したのを知り、同事務所には少なくとも二名以上の組員が在室しているのを認識していたこと、そして、被告人は右玄関口に立つまで、室内に人影が見えなくとも人の居そうな所を狙って手当り次第発砲するつもりでいたものであり、その銃弾が相手組員に命中してこれを死亡させるという結果の発生を回避しようとする意思などは毛頭なく、かえってその結果発生を容認していたものであること、このような意思のもとに、被告人は右玄関口に立ったのであるが、ただこのような危険な場面に直面するに及んで、相手組員に気付かれ逆に自分もやられるのではないかという恐怖感に襲われたため、室内を見渡す余裕もなく、従って、人影の有無を十分確認しないまま、夢中でけん銃を水平に構え、室内目がけて立て続けに三発実包を発射するに至ったこと、そして、そのうちの一発が原判示どおりの経過で被害者飯島猛の胸部に命中し、同人を失血死させるに至ったものであること、以上の諸事実が認められる。右の経過事実によれば、原判示どおり、被告人に少なくとも未必の故意の存したことは明らかであるというべきである。なお、被告人は原審公判廷においても、「もしかすると亡くなるかも知れない」という気持は多少なりともあった旨、未必の故意の存したことを自認する供述をしている。
(市川 石丸 小田部)