東京高等裁判所 昭和59年(う)611号 判決
被告人 柴山進男
〔抄 録〕
論旨は、要するに、原判決は、被告人の所為に対し、武器等製造法三一条二項、四条を適用処断したが、同法三一条にいう「銃砲」(以下単に「銃砲」という。)とは、同法の制定経過、規定の体裁、字句等から考えて武器として社会に通用するような正規の銃砲をいい、これに類する機械器具の製造は、同法三一条の二により規制されるべきものであるところ、被告人らの製造にかかる本件二丁の銃器は、照準器、ライフル、排きょう装置、安全装置等を欠き、リーマ加工もされていないもので、破壊力もきわめて乏しく、一発の発射で撃針に故障を生じるなどその構造、性能等から考えて正規のけん銃として通用しないものであり、特に、右各銃器には適合する市販の実包が存在しないという致命的欠陥があり、実用にも供しえないものであるから、到底これを銃砲ということはできないのに、右各銃器を「銃砲」と認めて被告人に対し前記条項を適用した原判決は、事実を誤認し、ひいては法令の適用を誤ったもので、これが判決に影響を及ぼすことは明らかであるから、原判決は破棄を免れない、というのである。<中略>
前掲関係証拠なかんずく原審公判調書中証人大町茂の供述記載、同人作成の鑑定書二通によれば、本件二丁の銃器は<1>全長約一七・二センチメートル、銃身部の長さ約七・〇センチメートルの回転弾倉式けん銃ようのもの及び<2>全長約二〇・一センチメートル、銃身部の長さ約九・九センチメートルの回転弾倉式けん銃ようのもので、<1>、<2>とも金属性弾丸を発射する構造及び機能を有する装薬銃砲であって、けん銃としての形態を備え、試射実験をしたところ、<1>については、警視庁科学捜査研究所保管の弾丸、薬きょう及びスタート用紙雷管三粒、雷管として紙雷管一粒を使用した実包を作り、射程距離約一〇センチメートルで試射した結果、弾丸は杉柾目板(厚さ約一二ミリメートル)を貫通し、次にスタート用紙雷管を四粒に変えて射程距離約三〇センチメートルで試射した結果、弾丸は前記板を貫通したこと、<2>については、スタート用紙雷管三粒で前記同様の実包を作り、射程距離約一〇センチメートルで試射した結果、弾丸は前記板一枚目に深さ約六ミリメートルの打痕を与え、次にスタート用紙雷管を四粒に変えて射程距離約一〇センチメートルで試射した結果、弾丸は前記板一枚を貫通し、二枚目に深さ約一ミリメートルの打痕を与えたこと(なお、<1>について特に射程距離約三〇センチメートルでの試射実験をしたのは弾速測定のため)、右<1><2>の標的の板に対する浸徹量は正規の空気銃と同程度であるが、銃口内径の大きさが<1>は約七・五ミリメートル、<2>は約七・一ミリメートルでこれに使用される弾丸の直径は銃口内径に相応した大きさのものとなるため空気銃の弾丸の直径(四・五ないし五・五ミリメートル)よりも大きくなり、したがって右<1>、<2>の銃器の殺傷能力は空気銃のそれを上回ることが認められる。
そして、前掲証拠によれば、所論のとおり、本件各銃器には照準器、排きょう装置、安全装置がなくライフルやリーマ加工がなされていないことが認められるものの、原判決も説示するように、これによって弾丸の発射機能それ自体が左右されるわけでなく、また前記<2>の銃器については試射実験の結果撃針バネに変形を生じたが、容易に修理ができたことが認められ、以上要するに、本件各銃器は、適法に製造された正規のけん銃にくらべれば性能が劣るとはいえ、その構造、機能、殺傷能力等に照らし、これを武器製造法にいう「銃砲」と認めるにいささかも妨げないというべきである。
所論は、前記のとおり、本件各銃器に適合する市販の実包が存在しないと主張するが、これに適合する手製の実包を製造しさえすれば銃砲としての使用ができるのであるから、右所論は問題にならない。
(鬼塚 阿蘇 中野)
<編注>
○武器等製造法(抄)
第二条<1> この法律において「武器」とは、左に掲げる物をいう。
一 銃砲(産業、娯楽、スポーツ又は救命の用に供するものを除く。以下同じ。)
第四条 武器の製造は、前条の許可を受けた者(以下「武器製造事業者」という。)でなければ、行ってはならない。但し、試験的に製造をする場合その他通商産業省令で定める場合において、通商産業大臣の許可を受けたときは、この限りでない。
第三一条<1> 第四条の規定に違反して銃砲を製造した者は、一年以上十年以下の懲役に処する。
<2> 営利の目的で前項の違反行為をした者は、一年以上の有期懲役又は一年以上の有期懲役及び三百万円以下の罰金に処する。
<3> 前二項の未遂罪は、罰する。
第三一条の二 左の各号の一に該当する者は、三年以下の懲役若しくは三十万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。この場合において、第四号の規定に該当する者が猟銃の製造をした者であるときは、五年以下の懲役若しくは五十万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
一 第四条の規定に違反して武器(銃砲を除く。)を製造した者