大判例

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東京高等裁判所 昭和59年(う)924号 判決

論旨は,要するに,被告人が,原判示日時ころ,新潟県公安委員会が道路標識によって追越しのための右側部分はみ出し通行禁止の場所と指定した原判示道路において,普通貨物自動車を運転して前車を追い越すにあたり,約100メートルの間道路右側部分にはみ出して進行した事実はそのとおり間違いないが,①原判示道路付近は,見通しのよい田甫の中の直線道路であって歩道も設置されており,被告人が追越しをした当時の天候は快晴で路面は乾燥し,はるか前方にバイクらしいものが1台見える(実際は,検挙警察官の運転する白バイであった。)ほかに対向車はなく,歩行者も皆無という交通状況であったから,極端に速度の遅い前車(11トンくらいの大型保冷車)を追い越すのに何らの危険もなかったことは,検挙警察官すら認めている。②検挙警察官は,しかし,ここは公安委員会の指定したはみ出し通行禁止区間だから切符を切ると言い,原審裁判官は,現場付近の見取図や写真を取り寄せもしないで,著しく常軌を逸脱した規制でない限り,公安委員会の指定を違法ということはできないと言うが,道路建設の専門家の著書を見ても,対向二車線(片側一車線)の道路は1分間走る間に1回,やむを得ない場合でも3分間走る間に1回は追越しができるように,追越し視距を確保して設計されていることが明らかであるのに,原判示地点の前後に延々25キロメートル以上に亘ってはみ出し通行を禁止している公安委員会の規制は,事勿れ主義に基づく現実を無視したものであって,まさしく常軌を逸脱しており,到底承服できないというのであって,結局,罰条適用の根拠となる公安委員会の交通の規制の指定が違法,無効であることを理由に,原判決の法令解釈適用の誤を主張するに帰するものと解される。

よって案ずるに,原審の訴訟記録によれば,国道116号線は,原判示違反場所である新潟県三島郡出雲崎町大字沢田589番地先を含む同郡寺泊町大字敦ケ曽字柳田988番地から同郡出雲崎町大字大門567番地までの間,新潟県公安委員会の道路標識及び道路中央部分に施された黄色の実線の道路表示により,自動車及び原動機付自転車を対象として,終日,追越しのための道路右側部分にはみ出し通行禁止の交通規制の指定がなされていること,被告人は,その自認するとおり,原判示日時場所において,普通貨物自動車を運転して前車を追い越すにあたり,約100メートルの間,道路右側部分にはみ出して進行したものであることが認められる(但し,当審における事実取調べの結果によれば,原審訴訟記録中の新潟県交通規制台帳抄本の記載のうち,右交通規制区間の距離を「25,750メートル」すなわち25.75キロメートルとする部分は,15.75キロメートルの誤記であることが明らかである。)。

そこで,所論に鑑み,右公安委員会による交通規制の指定の効力について検討する。

道路交通法(以下「法」という。)によれば,都道府県公安委員会は,「道路における危険を防止し,その他交通の安全と円滑を図り,又は交通公害その他の道路の交通に起因する障害を防止するため必要があると認めるときは,(中略)車両等の通行の禁止その他の道路における交通の規制をすることができる」旨の権限を賦与されているところ(法4条1項),車両は,左側部分通行の原則(法17条4項)にもかかわらず,「当該道路の左側部分の幅員が6メートルに満たない道路において,他の車両を追い越そうとするとき」には,道路の右側部分にその全部又は一部をはみ出して通行することができるが,それは,「当該道路の右側部分を見とおすことができ,かつ,反対の方向からの交通を妨げるおそれがない場合に限るものとし,道路標識等により追越しのため右側部分にはみ出して通行することが禁止されている場合を除く」こととされているのであるから(法17条5項4号),公安委員会としては,道路及び交通の状況に鑑み,左側部分の幅員が6メートルに満たない道路における追越しのための右側部分はみ出し通行禁止の規制をなす権限を有するものということができる。

そして,当審における事実取調べの結果によれば,新潟県公安委員会が国道116号線の前記区間につき,自動車及び原動機付自転車を対象として,終日,追越しのための右側部分はみ出し通行禁止の交通規制をした理由は,当該区間は「①緩やかではあるが湾曲が多い道路である,②交通事故の多発地域である,③幅員約6メートルの国道で,歩道が設置されていない(但し,歩道設置が徐々に進められている。)うえ,歩行者と普通自転車の通行が多いので,交通事故発生の危険性が大きい」ことにあるものと認められるから,右交通規制に合理性がないものということはできない。もっとも,規制区間が15.75キロメートルに及ぶのは,いささか長大であり,交通の円滑を阻害するきらいなしとしないから,道路における危険防止,交通の安全確保に支障を来たさない限度において,規制を一部解除する区間を設け,あるいは規制の時間を限定するなどきめ細かな方策を検討する余地はあろうが,それは第一次的には公安委員会の裁量に委ねられていることであって,それをしていないからといって,直ちに右交通規制が違法,無効となるいわれはない。他に,本件交通規制を無効とするほどの重大かつ明白な瑕疵は何ら認めるに由ないところである。

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