東京高等裁判所 昭和59年(く)116号 決定 1984年5月23日
少年 K・U(昭四一・七・一五生)
主文
本件抗告を棄却する。
理由
本件抗告の趣意は、少年本人名義の抗告申立書に記載されたとおりであるからこれを引用するが、所論は、要するに、原決定の処分が著しく不当である、というのである。
そこで、記録を調査して検討すると、本件非行事実は、少年が普通乗用自動車を一回無免許運転したというものであるが、少年の要保護性について、原決定が(処遇の理由)において説示するところは、すべて正当としてこれを是認することができる。
とりわけ少年が交通関係において規範意識に乏しく、前回係属の業務上過失傷害・道路交通法違反保護事件(自動二輪車を無資格運転中、左右の見通しの悪い交差点で一時停止を怠り他の自動二輸車と出合頭に衝突し、その運転者に加療約七四日間を要する傷害を負わせながら、道交法上の救護義務等をつくさなかつたという事案)において交通保護観察に付されたのに、今回は四輪の乗用車の無免許運転まで犯し、軽微でない物損事故も起していること、その以前から定職にもつかず、暴走族仲間と不良交遊し、自動二輪車を無免許運転して暴走行為に加わつていた形跡があること(この関係は警察から事件として送致がなくても、少年の処遇上参酌すべき本人の行状として調査し認定することは可能である。)、少年自身の資質に自主性に乏しく周囲の者に依存しやすい等の負因があり、家庭面でも保護者の監護能力に不足があること等に徴すると、もはや在宅処遇によつてその改善を期することは困難であり、この際施設収容による矯正処遇が必要であるといわなければならない。(なお、所論は、原裁判所が未送致の共同危険行為の事件を中心に審判をしたようにいうが、そのような事実は認められず、右未送致の事実は本件非行事実に対する処分を決定するための行状として参酌されたにとどまると認められる。)そうすると、少年を中等少年院に送致(交通短期処遇の勧告つき)した原決定の処分は相当であつて、著しく不当であるとはいえないから論旨は理由がない。
よつて、少年法三三条一項、少年審判規則五〇条により本件抗告を棄却することとし、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 海老原震一 裁判官 和田保 本吉邦夫)
抗告申立書<省略>
〔参照〕原審(東京家昭五九(少)一〇七一六八号 昭五九・五・九決定)
主文
少年を中等少年院に送致する。
理由
(罪となるべき事実)
少年は、公安委員会の運転免許を受けないで、昭和五九年四月一七日午後一〇時一五分ころ、東京都世田谷区○○×丁目××番先道路において、普通乗用自動車を運転したものである。
(法令の適用)
道路交通法六四条、一一八条一項一号
(処遇の理由)
一 少年は、昭和五八年三月一日当裁判所において、業務上過失傷害、道路交通法違反保護事件により、交通保護観察決定を受けたにもかかわらず、反省することなく、無免許で、かつ脇見をして自動車の運転を続けたために、物損事故(損害額約一七万円)を起したものであるが、未だ被害弁償をしていない。
二 少年は、昭和五八年四月ころから昭和五九年三月初めころまでの間調理師見習として稼働していたが、その後は、定職にもつかず、暴走族仲間と夜遅くまで遊び、その間、暴走行為(共同危険行為)に参加していた。(なお、少年には、余罪として、昭和五九年三月一五日夜間、暴走族仲間と無免許で自動二輪車を運転したうえ、いわゆる共同危険行為を犯した罪がある。)
三 少年の知能は、普通よりやや劣る程度で、日常生活を営む上で特に支障はないが、性格的には、情緒不安定で、些細なことでくよくよして意気地がない。また、父親のいない家庭で、一人つ子として甘やかされて育つているため、わがままなところがあり、考え方もかなり自己中心的である。
四 唯一の保護者である母親には、少年に対する愛情はあるものの、甘やかすのみで放任し、適切な助言をして、内省を深めさせるような働きかけが不足している。
五 以上の事実を合わせ考えると、この際、少年を中等少年院に送致して、基本的な生活習慣を身につけさせるとともに、内省を深め、規範意識を高めさせることが必要である。
よつて、少年法二四条一項三号、少年審判規則三七条一項を適用して、主文のとおり決定する。
なお、少年の非行性の程度等に照らし、少年に対しては、交通短期処遇が相当であると思料し、別途その旨の勧告をする。
裁判官 内園盛久