大判例

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東京高等裁判所 昭和59年(ネ)1009号 判決

(争いのない事実)

一 控訴人が本件実用新案の権利者であること、本件実用新案の登録請求の範囲の記載が控訴人主張のとおりであること、被控訴人茨城製作所が昭和四七年一二月一六日ころから控訴人主張のイ号装置の製造販売並びに販売のための展示を開始し、被控訴人第一産業株式会社が右同日ころからイ号装置を被控訴人茨城製作所から購入のうえ、販売及び販売のための展示をしていることは、本件当事者間に争いのないところである。

(損害賠償請求権の有無について)

二 イ号装置か本件実用新案の技術的範囲に属するか否かについて判断するに、イ号装置は、以下に説示するとおり本件実用新案の技術的範囲に属するものとすることはできない。すなわち、

1 成立に争いのない甲第一号証(本件公報)によると、その「考案の詳細な説明」の項に、本件実用新案の目的か、「ビニールシート敷設装置の作用幅に対応する畝成型器の作用幅の拡縮の調節が強度に影響を与えることなく行い得るようにする」(本件公報第一欄第一八行ないし第二一行)ことにあり、右目的を達成するために、本件実用新案においては、「ビニールシート敷設装置の本体の前面に横長の均平板を固着垂設するとともに該本体の左右両端部に横方向に出入自在に設けられた左右の支持部材に夫々内側に土を寄せる土寄器を装着し、それの土寄部に連続するならし部は内側に長く延長し、その内端部分を夫々前記均平板の前面に重合させてビニール敷設装置の畦成型器に構成したこと」(本件公報第一欄第二二行ないし第二九行)、及び右構成により、「寄せられた土の上面を均らす均平部は、本体1前面に垂設固着されている均平板6とその前面にラツプしている前記土寄部19aに連続させたならし部19bとにより形成されているから、最も強力に土圧を受ける先端部位が常に均平板6の前面に支持されることになり、どのように長く形成してもたわむことがなく、常に土寄部19aと共同して所望の畦を形成する。また、このことから、薄鉄板で必要とする長さに形成できる利益が併せて得られる。」(本件公報第四欄第二八行ないし第三七行)という作用効果を奏することが記載され、また、同号証中の図面には、第一図に、土寄器19のならし部19b(第三図参照)の内端部分が、均平板6に接触している状態が記載されていることが認められ(第二図には、土寄器19が均平板6に接触していない状態が図示されているが、前記「考案の詳細な説明」の項及び第一図の記載に照らし、右第二図の図示は、作図の誤りであると認める。)、右認定の各事実に前記当事者間に争いがない本件実用新案の実用新案登録請求の範囲の記載を総合すれば、本件実用新案は、控訴人主張のとおりの構成からなり、その構成要件の一つである「ならし部の内端部分を均平板の前面に重ね合わせる」構成(実用新案登録請求の範囲に記載の「ならし部は……その内端部分を夫々前記均平板の前面に重合せて」なる文言に該当)は、ならし部の内端部分が均平板の前面に接触している構成を意味するものと解するのが相当である(なお、控訴人は、本件実用新案の明細書の「考案の詳細な説明」の項に記載されている「薄鉄板で必要とする長さに形成できる利益が併せて得られる。」という副次的、付け足し的な効果を根拠として、本件実用新案の実用新案登録請求の範囲記載の「重ね合わせる」という文言を「接触するように重ね合わせる」と解釈することはできない旨主張するけれども、本件実用新案の実用新案登録請求の範囲記載の右文言の解釈は前説示のとおりであつて、控訴人主張の点のみを理由とするものではない。)

控訴人は、本件実用新案において、土寄器のならし部は、その作用幅を拡縮するために、均平板の前面で摺動移行するものであるから、ならし部と均平板との間にはその移行のための一定の間隙を必要とし、ならし部の内端部分が均平板に接触する場合には、作用幅を拡縮するための摺動移行ができない旨主張する。しかしながら、本件実用新案登録請求の範囲の記載文言によれば、前掲甲第一号証中控訴人主張の「考案の詳細な説明」の項の記載を参酌しても、本件実用新案は、土寄器が均平板の前面で拡縮する、すなわち摺動移行する構造であることを構成要件とするものと認めることはできない。のみならず、ならし部の内端部分が均平板の前面に接触する構成から、直ちに控訴人主張のように土寄器のならし部の摺動移行が妨げられるものとなしえないものであることは、論をまたないところである。したがつて、控訴人の右主張は、到底採用することができない。

2 一方、原判決添付の第一物件目録によれば、イ号装置は、本件実用新案の土寄器に対応する土寄器19´のならし部19bの内端部分が本件実用新案の均平板に対応する均平板6´と接触しない構成であることが認められるから、この点において、イ号装置は、本件実用新案の前記の構成とその構成を異にすることが明らかであり、したがつてまた、本件実用新案の有する前示の作用効果と同等の作用効果を奏しえないことも明白である。

控訴人は、イ号装置のならし部は、どのように強く土圧を受けても撓むことのない構造になつているものではなく、実際には指先で押す程度の圧力で簡単に後方に撓む構造になつているから、均平板による支持を予定しているものであり、また、作業前には、ならし部と均平板の前面との間に間隙があるものの、作業中はその先端の間から流入した土が右間隙内において一つの固まつた剛体として動く状態になるように圧縮され、この圧縮される土を介して右ならし部が均平板の支持を受けているものであるから、イ号装置においても、実質的にならし部は均平板により支持される構成をなすものである旨主張するから、検討するに、原審における検証の結果によれば、イ号装置のならし部内端部は、指で強く挟みつけることにより均平板に接触することが認められるけれども、原本の存在及び成立に争いのない甲第八七、第九〇号証、成立に争いのない乙第二三号証並びに原審証人長谷川隆一の証言及び右証言により成立の認められる乙第一五、第一七号証、第二二号証の一、二によると、イ号装置を現実に使用する場合にならし部が均平板に接触し支持されることはなく、また、使用中にならし部と均平板との間隙に土が介入することはあつても、右土を介してならし部が均平板に支持されるような形跡もなく、本件実用新案とこの点の作用効果を異にすることが認められるから(なお、原本の存在及びその成立に争いのない甲第八八号証によりイ号装置の写真と認められる甲第九号証は、叙上認定と異なるものであるが、その撮影時におけるイ号装置の使用状況等について必ずしも明確でなく、前認定に供した各証拠に照らし、控訴人に有利な証拠とすることはできず、他に叙上認定を覆すに足りる証拠はない。)、控訴人の叙上主張は採用することができない。

更に、控訴人は、イ号装置において、ならし部を厚鉄板で構成することにより、土圧を受けても均平板に接触しないように構成したことは、本件実用新案の作用効果を維持しながら、本件実用新案の権利範囲に属することを避けるための手段以外に技術的意味を有せず、イ号装置の右構成は、本件実用新案の単なる設計変更にすぎない旨主張するが、イ号装置が本件実用新案の構成要件を欠き、その作用効果を異にすること前説示のとおりである以上、両者の右相違を単なる設計変更をもつて論じえないことは多言を要しない。したがつて、控訴人の右主張も採用するに由ないものというほかはない。

3 以上説示のとおり、イ号装置は、本件実用新案の構成要件を欠き、本件実用新案の技術的範囲に属しないものというべきである(なお、成立に争いのない甲第四号証(社団法人発明協会工業所有権問題処理委員会作成に係る「技術内容調査報告書」と題する書面)及び第一八号証(特許庁の判定謄本)中の見解は、右と異なるものであるが、上来説示に照らし、いずれも当裁判所の賛同しえないところである。)。よつて、その余の点について判断するまでもなく、控訴人の被控訴人らに対する本訴損害賠償請求は、理由がないものといわざるをえない。

(結語)

三 以上の次第であるから、控訴人の本訴請求を棄却した原判決は結局相当であり、控訴人の控訴は理由がないから、これを棄却することとする。

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