大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和59年(ネ)1379号 判決

控訴人は、本件処分は控訴人の県教委に対する昭和五三年八月一七日付本件降任願に基づいてされたところ、本件降任願は県教育委員らの強迫的勧告等により控訴人の真意に反して作成されたので、結局本件処分は控訴人の意に反してされたものであり、かつ、控訴人にその結果を甘受させることが著しく不当と認められる特段の事情があるから、無効である旨主張するので、判断する。

≪証拠≫を総合すれば、本件処分は、控訴人の本件降任願に基づいてされたことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。そして、地方公務員法二七条二項の文言によれば、本人の意思に基づく地方公務員の降任処分は、これを適法になしうるものと解される。

ところで、本件降任願が無効であるかどうかの問題であるが、仮に本件降任願が控訴人主張のような経過で作成されたとしても直ちに無効であるといえず、また、右作成に際し、控訴人が県教育委員らの言辞により全く意思の自由を喪失した状態にあったものとは到底認められない。よって、本件降任願が無効であるということはできない。

なお、地方公務員が一たん降任願を提出しても、降任処分がされるまで右降任願を取消し又は撤回することができ、取消又は撤回のあったのちは右降任願に基づく降任処分をすることは許されないものと解されるが、本件において、仮に本件降任願(前掲≪証拠≫によれば、昭和五三年八月一七日に提出されたものと認められる。)が控訴人主張のように教育委員らの強迫により控訴人の真意に反して作成されたものであるとすれば、控訴人は、昭和五三年八月二三日本件処分がされるまでは本件降任願を取消し又は撤回することができたにもかかわらず、控訴人がそれまでに本件降任願を取消し又は撤回したことを認めるに足りる証拠はない。

およそ行政処分は、たとえ違法であっても、重大かつ明白な瑕疵がない限り適法の推定を受け、相手方を拘束する力を有するものと解すべきである。控訴人がその主張するような経過の下で本件降任願を作成したとしても、本件降任願が当然に無効であるとはいえないことは前述のとおりであり、前掲≪証拠≫を総合すれば、県教委は、教育行政の適正な運営を確保するために控訴人の降任願に基づいて本件処分をしたものであることが認められるのであって、本件処分に重大かつ明白な瑕疵があるものとは認められない。

また、以上の事実によれば、本件において控訴人に対し本件処分の結果を甘受させることが著しく不当と認められる特段の事情があるものとはいえない。

よって、本件処分が無効である旨の控訴人の主張は理由がなく、採用することができない。

(川添 佐藤 石井)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!