東京高等裁判所 昭和59年(ネ)1616号 判決 1984年11月29日
控訴人 堀内拓三
右訴訟代理人弁護士 白井忠一
被控訴人 共栄土木株式会社
右代表者代表取締役 堀内幸則
主文
原判決を取り消す。
本件を甲府地方裁判所に差し戻す。
事実及び理由
一 控訴人は、主文同旨の判決を求め、被控訴人は、公示送達による呼出を受けたが、本件口頭弁論期日に出頭しない。
二 控訴人の本訴請求は、原判決添付の手形目録(ただし、同目録初行の「原告」とあるのを「被告」に、「被告」とあるのを「原告」に改める。)記載の各約束手形について被控訴人に対し振出人として各手形金の支払いを求めるものであるところ、原判決は、被控訴人が控訴人を被告として甲府地方裁判所都留支部に提起し現に同支部に係属中の請負代金請求訴訟事件(昭和五七年(ワ)第九三号事件)において、控訴人が昭和五八年六月一八日に本訴請求にかかる手形金債権を自働債権として被控訴人の請求にかかる請負代金債権と相殺する旨の仮定抗弁を主張しているとし、このように訴訟係属中の事件において相殺の抗弁を主張している場合にその自働債権を別訴をもって訴求することは許されないものとして、民事訴訟法二三一条の規定を類推適用して本件訴を却下したものである。
しかしながら、当審における控訴人訴訟代理人の陳述及び弁論の全趣旨によれば、控訴人は右請負代金請求訴訟事件の昭和五九年九月一四日の口頭弁論期日において右相殺の抗弁を既に撤回したことが認められるばかりか、民事訴訟法二三一条にいわゆる訴訟繋属とは同一請求権について訴又は反訴をもって審判の申立がなされている場合を意味するものであり、当該権利関係が単なる攻撃防禦方法として主張されているにすぎず、それについての裁判所による判断がされるかどうかさえ未確定な場合を含むものではないと解するのが相当であって、相殺の抗弁についての裁判所の判断が既判力を有するという一事をもってそれを訴又は反訴の提起・係属と同一視することはできないものといわなければならない。
三 したがって、本件訴を不適法として却下した原判決は失当であり、本件控訴は理由があるから、原判決を取り消し、民事訴訟法三八八条の規定を適用して本件を原審に差し戻すこととし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 西山俊彦 裁判官 越山安久 村上敬一)