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東京高等裁判所 昭和59年(ネ)1889号 判決 1985年11月20日

控訴人

政平商店こと

政平晋治

右訴訟代理人弁護士

埴渕可雄

被控訴人

三井農林株式会社

右代表者代表取締役

篠原寛

右訴訟代理人弁護士

本島信

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一  控訴代理人は「原判決を取り消す。主位的請求として、被控訴人は控訴人に対し金一三八三万九五一三円及びこれに対する昭和五六年七月七日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。予備的請求として、被控訴人は控訴人に対し金八五三万七五六〇円及びこれに対する昭和五六年七月七日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決並びに仮執行宣言を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

二  当事者双方の事実上、法律上の主張は、次に付加訂正するほか原判決事実摘示(原判決二枚目表六行目から九枚目表八行目まで)と同一であり、証拠の提出、援用、認否は本件記録中の原審及び当審における書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これらの記載をここに引用する。

1  原判決二枚目裏一行目「被告」を「株式会社三井木材建材センター(以下、単に「三井センター」という。)」に、二枚目裏五行目以降の「被告」及び「被告会社」を全て「三井センター」に、四枚目表一行目「以つて」を「もつて」に改め、二枚目裏九行目、三枚目表四行目、同一〇行目及び三枚目裏八行目の「別紙」の前にそれぞれ「原判決添付」を、六枚目表五行目「総務部長」の前に「三井センターの」を加える。

2  請求の原因1(二)(3)の次に(4)として「東木材は控訴人から保管を依頼された原判決添付別紙物件目録(1)ないし(3)記載の木材を東京都江東区新砂二丁目五番一四号所在の三井センターの営業所の一区画内に保管していた。」を加える。

3  被控訴人の陳述

被控訴人は、昭和五九年一二月一日三井センターを吸収合併し、その権利義務を承継した。

理由

一主位的請求について

1  請求の原因1(一)(2)の事実は当事者間に争いがなく、原審における控訴人本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、控訴人は政平商店と称して個人で木材の製材販売を業とする者であることが認められ、なお、被控訴人が昭和五九年一二月一日三井センターを吸収合併し、その権利義務を承継したことは控訴人において明らかに争わないところである。

2  <証拠>によれば、三井センターは東京都江東区新砂二丁目五番一四号に市場営業所(以下、単に「市場」という。)を有し、同所において毎月一と六のつく日に市を開催し、三井センターとの間で市売問屋取引契約を締結している市売問屋による競り売りを主宰していたこと、市場構内に搬入される木材については、三井センターの各市売問屋に対する市売問屋取引、金銭消費貸借取引、手形小切手取引等の商取引に基づいて生ずる一切の債権等を担保するため、搬入木材全部を集合物として右搬入時点において各市売問屋から三井センターに所有権を移転する旨の包括的な譲渡担保契約が三井センターと各市売問屋との間に例外なく締結され、三井センターが取得した木材の所有権は、競り売りによる買方との売買契約の成立によつて三井センターから買方に移転することとなつていたこと、東木材は三井センターとの間に市売問屋取引契約を締結し、三井センター販売規約、市場規則などに基づき市場構内で市売取引をする市売問屋であつたことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

3  控訴人の主位的請求は、要するに、三井センターの市場構内に東木材が保管していたという本件木材が控訴人の所有であることを前提に、三井センターによる本件木材の処分行為を不法行為として被控訴人に対し損害賠償を求めるものである。そこで控訴人の東木材への本件木材の保管依頼の有無、三井センターの市場構内に本件木材が保管されていたか否かの判断に先立ち、三井センターの市場構内に搬入された木材の所有権の帰属について判断する。

(一) 三井センターと市売問屋取引契約関係にある市売問屋によつて三井センターの市場構内に搬入される木材については、三井センターの同市売問屋に対する債権を担保するため、その木材全部を集合物として搬入時点で各市売問屋から三井センターに所有権を移転する旨の包括的な譲渡担保契約が三井センターと各市売問屋との間で例外なく締結されていたことは前記一2で認定したとおりであり、<証拠>によれば、三井センターと東木材との間においても昭和五二年二月一五日付けで同旨の譲渡担保契約が締結されていたことが認められる。

(二)  <証拠>によれば、三井センターの市場は、一方が岸壁に面し、他の三方を金網の柵によつて仕切られた区域に所在し、市場の構内と構外は明確に区分され、構内には事務所、市売林場、倉庫等が設置されていること、各市売問屋は、市売問屋取引契約に基づいて三井センターから市場構内の一定区画の林場(「浜」と呼ばれている。)を割り当てられ、木材の収納のためその使用を許されていたが、「浜」の市売以外の目的での使用や、第三者への譲渡・転貸は一切禁止されており、三箇月に一度「浜」の割り当ての見直しが行われてきたこと、市売問屋が木材を「浜」に搬入する際には、市場の出入口の受付において、三井センターの職員から市売用の木材であることの確認を受けたうえ各市売問屋の「浜」に搬入収納し、売買契約成立後買方が市場から木材を搬出する場合には、出入口の受付において三井センターの職員によつて買付伝票と搬出木材とが一致することの確認を受けたうえで搬出することとされていたこと、三井センター設立以来、「浜」が市売用以外の木材の集荷場として使用された前例はなかつたことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

(三)  以上の(一)、(二)の諸事実に照らすと、本件木材が市場内の東木材の「浜」に存在していたものとすれば、それは東木材によつて前記(二)の如く市売用の木材として搬入されたものと推定され、三井センターは本件木材搬入の時点において、東木材との包括的な譲渡担保契約に基づき本件木材の所有権を取得したものとしてその占有を開始したものと推認される。したがつて、三井センターは、本件木材を平穏、公然に占有を開始し、その占有の当初において善意、無過失であつたものと推定されるから、仮に、控訴人主張のように本件木材が控訴人の所有であつたとしても、三井センターは譲渡担保権者として本件木材の所有権を即時取得により取得したものというべきである。

4  <証拠>によれば、東木材が二回目の不渡手形を出して事実上倒産した昭和五二年一二月三〇日当時、三井センターは東木材に対して総額一億六六九三万三四八〇円の債権を有していたこと、そこで、三井センターは、東木材に対する債権を担保するために譲渡担保により所有権を取得していた本件木材を含む東木材が市場に搬入済みの木材を昭和五三年五月二四日から昭和五四年五月八日までの間に売却処分して合計二三九四万九二四六円の売得金を取得し、これを前記東木材に対する債権に充当したことが認められ、右認定に反する証拠はない。

5  以上の認定判断によれば、仮に本件木材が控訴人の所有に属するものであつたとしても、本件木材が三井センターの市場に搬入され、三井センターが即時取得によつて東木材に対する債権の譲渡担保として本件木材の所有権を取得し、これに基づいて本件木材を処分したのであるから、三井センターによる本件木材に対する譲渡担保権の放棄等により本件木材が譲渡担保の対象から離脱した事実が認められない限り、三井センターが実行した本件木材の処分行為は何ら控訴人の権利を侵害するものではない。

控訴人は、昭和五三年一月控訴人が三井センターに対して本件木材が控訴人の所有に属することを理由にその引渡を求めたのに対し、三井センターの総務部長宇野恰五及び営業部長水澄正友は、三井センターにおいて本件木材を責任をもつて保管する、引渡時期については上司と相談のうえ連絡する旨控訴人に言明した旨、あたかも三井センターが本件木材に対する譲渡担保権を放棄し、控訴人に対して本件木材の引渡義務を承認したかのような主張をし、証人石橋政夫(原審・当審)の証言及び控訴人本人尋問の結果(原審)中には右主張に副う供述が存在するが、右各供述は、原審証人水澄正友、当審証人宇野恰五の各証言と対比し、かつ、原審証人長江昭太郎の証言により認められる東木材の倒産に際して東木材の債権者によつて結成された債権者委員会に対して三井センターは東木材が市場に搬入した木材について譲渡担保権を主張していた事実に照らせば、直ちに措信することができず、他に控訴人の右主張事実を認めるに足りる証拠はない。

したがつて、その余の点について判断するまでもなく、控訴人の主位的請求は理由がない。

二予備的請求について

前段説示のとおり、三井センターは譲渡担保によつて本件木材の所有権を取得し、これに基づいて本件木材を売却してその代金を取得し東木材に対する債権に充当したのであるから、これが不当利得に該らないことはいうまでもない。したがつて、その余の点について判断するまでもなく、控訴人の予備的請求も理由がない。

三よつて、控訴人の本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却すべきところ、これと同旨の原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないから、民訴法三八四条によりこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき同法九五条、八九条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官近藤浩武 裁判官三宅純一 裁判官林 醇)

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