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東京高等裁判所 昭和59年(ネ)2417号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【判旨】

一請求の原因1の事実は、当事者間に争いがない。

二<証拠>によれば、次の事実を認めることができる。

1 被控訴人は、子供用衣料品の製造、販売を業とする会社であるが、被控訴人代表者金具明法(以下「金具」という。)は、同じく衣料品の販売を業とする甲洋の代表者である遠藤宏(以下「遠藤」という。)の紹介で、昭和五六年六月ころ、控訴人の物資部繊維課係長をしていた濱田(濱田が控訴人の物資部繊維課係長であつたことは、当事者間に争いがない。)と知り合い、同人を通じて控訴人との間で、信用状(L/C)開設による取引口座を設けるなどしていた。

2 そのころ、金具は、遠藤から子供用Tシャツ等の夏物衣料品を被控訴人から甲洋に売り渡すよう取引の申込みを受けたが、甲洋の信用状態に不安を抱いたため同社との取引に難色を示していたところ、遠藤の依頼により濱田が右取引の交渉に加わり、三者で話し合つた結果、同年七月一一日ころまでに、被控訴人と甲洋との間に控訴人を介在させ、甲洋が注文する商品を一旦控訴人が被控訴人から買い受けたうえこれを控訴人が甲洋に売り渡す方法で取引をすること及び控訴人から被控訴人への代金の支払は毎月二〇日締切りで翌月末支払とすることの合意が成立した。

3 被控訴人は、右合意に基づき、甲洋の注文に応じて同年七月一一日に代金合計六七二五円の衣料品(サンプル)を、同月一三日に代金合計四一九万〇三〇五円の衣料品を、それぞれ甲洋又は甲洋の指定した第三者に直接納入し、他方濱田に対しては右納入の結果を納品書を交付して知らせていた。

4 濱田は、右納品書の交付を受けた後、被控訴人と控訴人との間及び控訴人と甲洋との間の売買について上司の決裁を得るために、同年八月二五日付けで契約日を同日とし右納品書に基づき売買の内容を具体的に記載した取引申請書を作成して上司に提出し、同年九月上旬中に右取引を承認する旨の決裁を得た。

5 その後、甲洋から控訴人に対し、右取引の代金として(なお、右取引申請書の記載によれば、控訴人と甲洋との間の売買代金額は、前記代金合計額に控訴人の利益として二〇万九八五〇円を加えた四四〇万六八八〇円とされていた。)、同年九月三日に二〇〇万円、同年一一月五日に一〇〇万円の入金があり、控訴人から被控訴人に対し、右取引の代金として同年九月八日に一八六万二二五五円(なお、この金額は甲第五号証の一ないし四の納品書記載の代金額の合計金額と等しいが、控訴人の仕入帳には同年九月三日同額の衣料品を被控訴人から仕入れた旨の記載がされている。)、同年一一月二〇日に七九万七二二〇円(この金額は甲第五号証の五及び七の納品書記載の代金額の合計金額と等しいが、控訴人の仕入帳には同年一〇月三一日同額の子供用軽衣料を被控訴人から仕入れた旨の記載がされている。)が支払われたが、甲洋から控訴人へのその余の入金はなく、控訴人の被控訴人に対する残代金一五三万七五五五円(この金額は、甲第五号証の六の納品書記載の代金額と等しい。なお、右納品書記載の商品は、甲第五号証の七記載の商品とともに大阪市平野区背戸口所在の池田クローズに納入されたものである。)も支払われていない(控訴人が被控訴人に対し本件売買代金のうち二六五万九四七五円を支払つたがその余の支払をしていないことは、当事者間に争いがない。)。

右認定に反する<証拠>は信用することができず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない(なお、被控訴人は、本件売買契約における代金支払方法について売買の翌月二〇日を期限とする合意があつた旨主張するが、これを認めるに足りる証拠はなく、<証拠>によれば、右期限は前記認定のとおりであると認められる。)。

右認定の事実によれば、被控訴人が昭和五六年七月一一日及び同月一三日に甲洋又は甲洋の指定する第三者に納入した代金合計四一九万七〇三〇円の衣料品は、金具、遠藤、濱田の三者間の前記合意に基づいて、被控訴人が濱田を代理人とする控訴人に対し売り渡したものと認めるべきである。

三そこで、次に、濱田が控訴人のため右売買契約を締結する権限を有していたかどうかについて検討する。

1 濱田が控訴人の物資部繊維課の係長であつたことは、当事者間に争いがない。右争いのない事実に<証拠>を総合すると、濱田は、控訴人の物資部繊維課の洋装担当の係長として(繊維課には他に和装担当の係長もいた。)、専ら洋装関係の繊維製品の売買取引を担当し、商品の販売先と仕入先を開拓し、仕入先と控訴人及び控訴人と販売先との間に売買を成立させることをその職務としていたこと、濱田が対外的な取引を成立させる場合には、取引の内容を記載した取引申請書を上司に提出し、次長、常務、副社長を経て社長に至るまでの決裁を得ることが要求されていたが、右決裁を得れば、濱田が単独で取引を行つていたことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない(なお、当審証人佐藤精は、取引申請書について決裁を経た段階で、取引先との間で協議をしたうえ契約書又は発注書が作成され、更にこれについて決裁を受けた後に担当者から取引先に交付される取扱いであつた旨証言するが、右証人の証言によつても、本件売買契約については前記のとおり決裁を経ているにもかかわらず契約書又は発注書は作成されていないことが認められ、必ずしもすべての取引について売買契約書又は発注書が作成されていたものとは認められず、取引申請書に対する決裁がされた段階で担当者による相手方との口頭の契約がされていた例もあつたものと認められる。)。

2  右事実によれば、濱田には、洋装関係の繊維製品の取引について対外的に控訴人を代理して売買契約を締結する権限が与えられていたものというべきであり、同人が取引を成立させるについて上司の決裁を経なければならないこととされていたのは、同人に付与された代理権を行使する際に要求される、右権限行使に対する内部的な手続的制約にすぎないものと解するのが相当である。

そして、<証拠>によれば、被控訴人代表者は濱田の代理権行使について右のような制約が付されていたことを知らなかつたものと認められる。

3 控訴人は、被控訴人代表者は本件売買契約締結に先立ち濱田に依頼して控訴人に被控訴人のため信用状(L/C)開設を前提とする取引口座の新設(与信限度枠の設定)を受けた際、濱田が控訴人内部の決裁を経たことを熟知していたのであるから、濱田が本件売買契約を締結するについても控訴人内部の決裁を受けなければならないことを当然知ることができたものであり、これを知らなかつたことについては重大な過失がある旨主張する。

しかしながら、通常商事会社において物資部繊維係長に信用状(L/C)開設を前提とする取引口座の新設(与信限度枠の設定)を決定する権限が与えられていることは殆どないものとみられるから、それにつき上司の決裁を経なければならないものとされていても当然のことであると考えられるのに対し、一定額の限度が設けられることがあるにしても商機を逸しないよう係長にも売買契約締結の権限が与えられていることは通常多く見られるところであるから、仮に被控訴人代表者が信用状(L/C)開設を前提とする取引口座の新設について濱田が控訴人内部の決裁を経た事実を知つていたとしても、本件売買契約締結について控訴人内部の決裁を経なければならないことを当然知ることができたものであり、これを知らなかつたことについて重大な過失があるものということはできない。

四そうすると、本件契約は、被控訴人と控訴人との間において有効に成立したものというべきである。

なお、仮に控訴人主張のように控訴人の内部的な決裁を得ない限り濱田に本件売買契約を締結する権限がなかつたとしても、濱田は、前記認定のとおり、本件売買契約を含む控訴人と甲洋との間の取引について取引申請書を作成し上司の決裁を得ているものであるから、本件売買契約は有効に成立したと解して妨げないものというべきである。たしかに、前記認定の事実によれば、濱田が上司に提出した右取引申請書は、既に本件売買契約が締結され商品の引渡も完了したのちに右作成日を契約日として作成されたものではあるが、<証拠>によれば、濱田は取引申請書の契約日については本件以外の取引についても実際の契約日に拘泥することなく取引申請書の作成日と同日又はそれ以前の適当な日を記載していたものであり、同人は通常事実上先行した取引に相応する内容の取引申請書を提出していたものと考えられること、本件の取引申請書も契約日は作成日と同日の記載がされているが、右取引申請書の決裁が完了したのは右契約日の一〇日後の昭和五六年九月四日以降であり、しかも右取引申請書には、繊維関係次長の段階で「甲洋より八月三一日(月)現金にて入金予定故、入金後被控訴人へ現金にて支払う。」との趣旨の記載があり、決裁途中で当該取引の納品が行われ、代金の支払が実行されることがその記載内容からみて予定されていたとみられること及び右取引申請書の本件売買契約に関する記載内容は、契約日が異なるだけで取引の相手方、商品の具体的内容、数量、単価、代金総額等のすべてが本件売買契約の内容と一致していることが認められ、これらの事実によれば、本件売買契約に関する決裁は、取引申請書の記載からしても、既に事実上取引が先行していることを前提としてされたものであるというべきであり、決裁の対象とされた取引の内容も本件売買契約と同一であるから本件売買契約に対する決裁と認めるのが相当である。

(西山俊彦 越山安久 村上敬一)

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